見えない心の向こう側

さくら優

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3.メリット

3-2

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「んっ…はぁ、あっ…」

 浴室に連れて行かれ、全身泡まみれにされた那智は、立ったまま肌を撫で回されていた。

 自分で洗うと言ったのに、東藤はそれを許してくれなくて、泡立てたスポンジで全身を擦られる。

 大方泡が付くと、東藤はスポンジを放り投げ、手の平で素肌を撫で回してきた。半分は洗う目的だったスポンジで擦られた時と違い、完全に愛撫目的で触れてくる手から必死に身体を捩って逃げようとする。しかし、抱き締められ弱い部分を刺激されると次第に力が抜けていき、立っているだけで精一杯になってしまった。

 東藤の指が胸元を滑る。

「あ…ふぁ…」
「ほら、見てごらん。泡付けると、乳首が薄ピンクに見える」
「やっ、んあぁっ」

 可愛い、と言いながら、東藤は泡の先に透けて見える乳首を何度も指で摘んで引っ張った。ぬるぬると滑るそこは、すぐに指からこぼれてちゃんと刺激してもらえない。中途半端な愛撫がもどかしさを募らせていく。

 助けを求めるように顔を見上げると、口付けが降りてきた。軽く舌を吸われるだけで背筋がぞくぞくと震える。

「脚開いて」
「っ…!」

 唇を離して至近距離で命じられ、那智は恥ずかしさにふるふると首を振る。すると、言うことを聞かなかった罰のように、乳首に爪を立てられた。

「ああっ! やっ」
「那智」

 いつでも口調だけは優しい東藤の声音は、逆に有無を言わせない響きがある。那智は涙を堪えながら少しだけ脚を開いた。

 ほかの所同様、股間のものもスポンジで擦られ泡まみれにされていた。それが、先走りで泡が流れ先端だけ顕になっている。ひどくいやらしい光景に映った。

 東藤は褒めるように那智の頭を撫でてから脚の間に手を伸ばしてくる。泡の落ちた先端に触れ、指の腹でくるくると撫で回された。

「ひぅ! あ、や…んぁっ」

 強い刺激を逃そうと首を振ると、髪の先から水滴が飛び散った。東藤は背中に回した手で、さらに後孔にも触れてくる。ゆるゆると入り口を撫でられるだけで、泡でぬめった指がすぐに入ってきそうになり、抵抗するように入り口がきゅっと締まる。

「あっ、ま、まって…う、んっ」

 しかし、那智の必死の抵抗などものともせず、そのまま後ろに指が入ってくる。久しぶりの感覚に力の抜き方を忘れてしまい、東藤の指をきゅうきゅうに締め付けた。粘膜に泡がしみる気がしたけれど、それすらすぐに快感に変換されてしまう。

「はあっ、あ、だ、め…っ」

 性器に触れる指も蜜口とその周りをくるくると撫で回してくる。先端だけでは達けない。後ろだけでも達けない。そんな場所を両方同時に愛撫され、那智の悲鳴のような声が浴室に大きく響いた。

「あ、あっ、やぁ、だ…もっ…」

 中の指で前立腺を強く押され、前の方も手の中に包み込まれる。那智は限界まで背を反らせて東藤の手に白濁を叩き付けた。

「う、んん…くっ、あっ」

 蜜を搾り出すように、ゆっくりと放ったばかりの股間のものを扱かれ、呼吸を喘がせてそれに耐えながら必死で東藤の背にしがみつく。

 脚が震えて力が入らない。しゃがみこんでしまいたいのに、後ろにまだ指を入れられたままなので、それは出来なかった。

 視界の端に東藤がシャワーのノズルを手にとるのが映る。ぼんやりと顔を上げると、膝で脚を大きく開かせられた。

「や、なに…っ?」
「泡流すから、しっかり脚開いてろよ」
「んっ、あっ」

 達して敏感になった肌は、シャワーの飛沫が当たるだけでぞくぞくとした快感を得る。腰だけ突き出したような不安定な体勢を強いられた那智は、東藤がシャワーを退いてくれるのと同時にその場にしゃがみこんでしまった。


   ✦✦✦

 浴室の床から抱き上げられ、ろくに身体も拭かないうちにベッドに寝かされる。うつ伏せにされ、腰を掲げるような体勢を取らされた。

「…っあ、」

 双丘を掴まれ左右に押し開かれる感覚に、那智は真っ赤になって顔を伏せた。拡げられた後孔に熱い塊が押し付けられ息を呑む。

「那智、力抜いて」
「あ、はぁっ! ん…ふぁ」

 まだ濡れているそこに、東藤のものがゆっくり入り込んできた。抵抗を示すように内壁が中の異物をぎゅうぎゅうに締め付け、東藤もほんの少し苦痛の声を漏らす。それでも、那智が身体を逃がそうとすると腰を掴んできて、深く埋め込んでくるのだ。

「う、んっ、あ、深…っ」

 体勢のせいか、以前より奥まで埋め込まれている気がした。根本まで収めてしまうと、東藤は宥めるように那智の肌を撫でてくる。
 ふいにその手が、先ほど中途半端に愛撫された乳首に触れた。

「っ! んっ」
「ここ、どうやって触られるのが好き?」

 そんなことを言いながら、東藤は乳首をそっと撫でたり、軽く爪を立てたりしてくる。抵抗する力も抜け落ちてしまっている那智は、ただただ弱々しい声を上げてかぶりを振る。ゆるい刺激にもどかしささえ覚えていると、ふいに両方の突起を摘まれ軽く引っ張られた。

「ふぁあ! あっ、やあん!」

 思い切り声を上げ、ただ締め付けるだけだった腰の奥が、絡みつくような動きに変わる。あからさまな変化に、那智は激しい羞恥に苛まれた。

「へえ、これがいいのか」
「あっ、ちが…んあ、」

 指先で揉むように何度も摘まれ、その度に電気みたいな快感が全身を駆け巡る。けれど、やはり達することは出来ない。

 中をかき回され奥を突かれる度に、強い愉悦がそこから生まれてくるけれど、那智はまだ後ろだけで達けるほど慣れてはいない。

(もう、やだ…)

 脚の間で痛いくらい熱く硬くなっているものに触れて欲しい。強く扱いて、先端を撫で回して──。

 気付けば那智は、無意識のうちにそこに手を伸ばしていた。
 けれど、指先が触れる寸前に大きく体勢を変えられ、胡坐をかいた東藤の上に座る格好にさせられる。

「ああぁっ、は、っ!」

 自分で触ろうとしていたところをしっかり見られてしまい、慌ててそこから手を離した。
 くすりと笑う声が、耳許でやけに大きく響く。

「いいんだよ。自分で触って」
「やだ…や、ぁんっ」

 イきたいだろ、と耳許で囁かれながら、促すように乳首を摘まれる。那智の瞳から涙が溢れた。東藤が見ている前で、自ら慰めるなんてこと出来るわけがない。

「…ねが…も、ゆるして…」

 とうとう啜り泣きが漏れ始める。
 東藤はようやく満足したように微笑むと、片手で那智の性器をそっと握った。

「ひぅ、ぁああっ、や──っ」

 あっという間に達してしまい、中を思い切り締め上げる。道連れにされた東藤も、那智の身体の奥に白濁を叩き付けた。


   ✦✦✦

 ぐったりとベッドの上に倒れ込んで目を伏せると、そっと頭を撫でられた。
 指一本動かすのも億劫で好きにさせていると、髪を梳くようにして何度も撫でてくる。

(ずるい)

 行為の間は容赦がなくて、どんなに那智が泣き喚いても許してくれないくせに、こういう時だけ優しいなんてずるいと思う。

 つい恨みがましい目を向けると、そっと唇をキスで覆われる。

 あの後、当然のことながら一度きりで離して貰えるわけもなく、今度は正面から抱かれた。もう無理、出来ないと駄々をこねるような態度を示した那智に対し、東藤は、それなら、と那智にだけ射精を我慢させた状態で挑んできた。紐で性器の根本を括られ、達することの出来ない苦しさに、何かとんでもないことを口走ったような気もするが、正直よく覚えていない。二度ほど中に出されて、三度目でようやく一緒に達することを許され、今に至る。

 唇を離すと、東藤はベッドを下りて隣の部屋に消えていく。
 那智は溜息を吐いて、寝返りを打った。

 だるい。眠い。身体がべたついて気持ち悪いけれど、シャワーを浴びる気力もなかった。もうこのまま寝てしまおうか。

 そんなことを考えながらぼんやりしていると、ふいに頬に暖かいものが触れた。顔を上げると東藤が湯で濡らしたタオルを手に戻ってきていた。
 顔を拭ったタオルは次に胸元に降りてくる。

「あ、自分でやる」
「いいから。疲れただろ。寝てていいよ」

 そうして、伸ばした手はやんわりとベッドに押し付けられる。
 那智は大人しく身体の力を抜いた。タオルで拭われた後の、水分が蒸発していく時の冷やりとした感覚が、火照った肌に心地いい。

「那智、なにかあった?」
「…え?」
「最近、調子悪いみたいだから」

 那智は息を呑んだ。
 彼は今日まで、那智が調子を崩していることについて何も言ってこなかった。東藤にしてみれば、おそらくその方が都合がいいのだ。だから何も言うつもりはないのだと思っていたのに。

「最初は、一回負けて慎重になり過ぎてるのかと思ってたんだけど、なんだか違うみたいだから。むしろ、焦ってるって感じだ」

 ずばり言い当てられて、那智は何も言えずに顔を背ける。

(ま、当然だよな)

 いつも一緒に打っていて、東藤が気付かないわけがない。けれど那智は、その理由を言うつもりはなかった。

「どうせ東藤さんには、俺が失敗した方が都合いいんでしょ」

 嫌みったらしく言うと、東藤は肩を竦めながら、ははっと小さく笑った。否定すらしない。

 那智はなんだか惨めになってきて、身体ごと彼に背を向けようとした。しかし、ふいに強い力で肩を掴まれ、正面から顔を見据えられる。咄嗟のことに、まさに蛇に睨まれた蛙のように、那智は動くことが出来なくなった。

「那智の取り分、増やしてやろうか」
「…え?」
「半々じゃなくて、そうだな、勝った分全額、那智の分にしてもいいよ」
「なっ…!」

 ありえない提案に大きく目を見開く。全額なんて、東藤はいったい何を考えているのだ。
 けれど、彼の目的はすぐに理解することになる。

「そのかわり…」
「え? あっ、ちょっ」

 タオル越しに性器を握られ息を呑んだ。そのまま、さらに奥まで指が伸ばされ焦る。

「や、やだっ、もう…っ!」

 これ以上は本当に無理だと、那智は一瞬にして涙目になった。
 けれど東藤は、口許に笑みを浮かべたまま、力の入らない両脚を開いてくる。

「中、出しとかないとお腹こわすかもしれないからな」

 指先で後孔を拡げられると、中に注がれたものがとろりと溢れてきた。それをタオルで拭って指を入り口に押し付けてくる。

 逃げるように身体をずり上げ、必死で首を振って拒むけれど、彼は完全無視だった。人さし指を根本まで押し込まれ、掻き出すように内壁を刺激される。

「やっ、やあぁっ」

 さんざん中出しされたせいで、次から次へと残滓が溢れてくる。必死に感じまいとしても、奥を突かれたり入れたまま指を曲げられたりすれば嫌でも感じてしまう。せっかく拭いてもらっても、再び顔は涙でぐちゃぐちゃになった。

 東藤は、ほとんど出尽くしてしまっても指を出し入れするのをやめてくれない。

「や、ぁ、もう…」
「どうしてほしい?」

 額に張り付いた髪を掻き上げられる。もう取り繕う余裕はなかった。

「…イ、かせて…」

 次の瞬間、熱く濡れた粘膜が屹立を包み込む。その日、口淫されたのはその時が初めてだった。

 ちゅく、と音を立てて吸われて、頭の中が白く霞む。そのまま意識を手放しそうになった時、東藤が耳許で囁く声が耳に入った。

 勝ち負けに関係なく抱かせてくれるなら、全額那智の取り分にしてあげるよ、と。

 やっぱりと思ったけれど、それに対して何かを言う力はもう残っておらず、そのまま白い闇の中に意識を投げ出した。
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