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かける君編
1.仮想空間メイクラブ 前編
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「意外と普通の部屋だね~」
恋人の孝晃とホテルにやって来た俺は、部屋の中を見回して感想を漏らした。
「そうだな。部屋自体は⋯、あ、ほら翔、アレ」
そう言って孝晃が示した先を見ると、ダブルベッドの隣に置かれた大きなソファに、ヘルメットのようなものが設置されていた。それには、太い管がついていて天井に繋がっている。
これは、とある会社が開発した、カップル専用の仮想空間内でエッチが出来る機械、らしい。俺は機械とかは苦手だからあんまり詳しくないけど、仮想空間内でも現実と同じように五感の感覚を得ることが出来て、それを体験出来るのがこのホテルの売りだ。
一緒にいるカップルがなぜわざわざ仮想空間でエッチするのか。普通にリアルですればいいのではと思うのかもしれないが、例えば、テクニックがないと怪我をする恐れがあるような危険を伴うプレイだとか、そういったものを怪我の心配がない仮想空間内で安全にプレイ出来る、というのが売りらしい。
俺は孝晃と、黒いソファに設置されたヘルメットを手にとって見てみた。
「もっとこう、SF映画とかに出てくる管がいっぱい付いてるやつを想像してたけど、割と普通だな」
「そうだね~」
太い管が1本付いているだけで、あまり仰々しい感じではない。チラッと壁の棚を見ると、ヘルメットはあと2つ用意されていた。最大4Pまで出来るってことだろうか。
一緒に置かれている説明書を見ながら、機械の電源を入れて設定をしていく。
「得られる感覚もある程度設定出来るんだな。標準にした方がリアルに感じられるらしいから、俺はそれでいいや。翔は?」
「俺も同じでいいよ~」
「⋯痛覚だけ減らさないか?」
孝晃が心配するような顔を向けてくる。
「別に、ほんとに怪我したりするわけじゃないから、そのままでいいよ」
「翔に痛い思いはして欲しくない。減らそう」
真面目な顔で勝手に設定を変更していく。俺はくすくす笑いながら孝晃に背中から抱きついた。
「じゃあ80%にしといて」
「わかった」
頷いて確定ボタンを押す。
痛いより気持ちいい方が辛い時もあるんだけど、それは黙っておこう。100%以上にも設定出来るようなので、悪戯心で増やされたらたまらない。
ヘルメットを被ってソファに座った。孝晃も隣に座る。
「ねえ、服脱いで」
「なんで? 服関係ないだろ」
「くっつきたいんだもん。上着くらい脱いでよ」
「わかったわかった」
袖を引っ張りながらそう言うと、孝晃は苦笑しながらジャケットを脱ぐ。改めて座り直した孝晃に抱きつくと、背中にそっと腕が回ってきた。大きなヘルメットのせいでキス出来ないのがちょっと寂しいけど仕方ない。
「じゃあ、行くぞ」
「うん」
孝晃がスタートボタンを押すと、間もなく仮想空間に入りますという声が、脳内に直接響くようにして聞こえてくる。目を閉じると、目の前が真っ暗になっていき、意識が遠のいていった。
✦✦✦
意識が遠くなったのはほんの一瞬で、ぱっと目を開けると、そこはさっきよりも数段豪華になった、ホテルのスイートルームのような部屋だった。
俺は仮想空間に入る前と同じ体勢で、孝晃に抱きついてベッドに座っていた。そっと腕を外して部屋の中を見回す。
「ここが仮想空間か⋯」
「うん。ずいぶん豪華な部屋になったね~」
「部屋はいくつか種類があったから、翔が好きそうなのを選んだ」
「そうなんだ?」
確かに、非日常が感じられるような広い部屋はテンションが上がる。ベッドから立ち上がって、少し部屋の中を歩いてみた。
すごいな。部屋もそうだけど、自分の身体も普通に動くし、リアルな感触だ。これが現実世界じゃないなんて、ちょっと信じられない。
「大丈夫か? なんか違和感あったり、気分悪かったりしないか?」
「大丈夫。普通に現実みたい」
ここでの感覚は、脳に直接信号を送って得られているらしく、違和感がある場合はすぐにリセットボタンを押して終了するように、説明書に注意書きが書かれていた。
俺はベッドに戻ると、孝晃の隣に座って寄りかかった。腰に手が回ってくる。その感覚も、現実と変わらなかった。
「そうだな。すごいリアルだ」
「うん。――あっ、ちょっと⋯、っひゃ!」
腰に回された手が服の中に入ってきて、脇腹をくすぐってくる。俺はくすくす笑いながら身を捩った。
「あははは! なっ、にするの、もう!」
「んー? だってほら、入ってすぐにエッチしないで、感覚に慣れるまでは軽いスキンシップにしましょうって、説明書にも書いてあったし」
「だからって、くすぐるのはナシ!」
「はいはい」
孝晃は笑って手を離すと、今度は背中を撫でてきた。もう片方の手は髪を撫で、俺が溜息を吐いて目を閉じると、額や瞼にそっとキスをされる。
こういうスキンシップは久しぶりな気がする。いつも早く早くとせがんで、すぐに行為になだれ込んでしまうから。俺が孝晃を好き過ぎるせいだけど、たまにはこういうのも悪くない。
頰に触れる唇に、顔をずらして自分のそれと触れ合わせる。首にしがみつくように抱きついて、そのままベッドに倒れ込んだ。
離れようとするのを追いかけてペロッと孝晃の唇を舐めると、眉を寄せて見つめてくる。
「⋯翔」
「もういいよ。現実と変わらないし、もう慣れた」
吐息混じりの声で囁いてじっと見つめ返すと、孝晃の瞳の奥に一瞬ギラつく光が見えた気がした。
恋人の孝晃とホテルにやって来た俺は、部屋の中を見回して感想を漏らした。
「そうだな。部屋自体は⋯、あ、ほら翔、アレ」
そう言って孝晃が示した先を見ると、ダブルベッドの隣に置かれた大きなソファに、ヘルメットのようなものが設置されていた。それには、太い管がついていて天井に繋がっている。
これは、とある会社が開発した、カップル専用の仮想空間内でエッチが出来る機械、らしい。俺は機械とかは苦手だからあんまり詳しくないけど、仮想空間内でも現実と同じように五感の感覚を得ることが出来て、それを体験出来るのがこのホテルの売りだ。
一緒にいるカップルがなぜわざわざ仮想空間でエッチするのか。普通にリアルですればいいのではと思うのかもしれないが、例えば、テクニックがないと怪我をする恐れがあるような危険を伴うプレイだとか、そういったものを怪我の心配がない仮想空間内で安全にプレイ出来る、というのが売りらしい。
俺は孝晃と、黒いソファに設置されたヘルメットを手にとって見てみた。
「もっとこう、SF映画とかに出てくる管がいっぱい付いてるやつを想像してたけど、割と普通だな」
「そうだね~」
太い管が1本付いているだけで、あまり仰々しい感じではない。チラッと壁の棚を見ると、ヘルメットはあと2つ用意されていた。最大4Pまで出来るってことだろうか。
一緒に置かれている説明書を見ながら、機械の電源を入れて設定をしていく。
「得られる感覚もある程度設定出来るんだな。標準にした方がリアルに感じられるらしいから、俺はそれでいいや。翔は?」
「俺も同じでいいよ~」
「⋯痛覚だけ減らさないか?」
孝晃が心配するような顔を向けてくる。
「別に、ほんとに怪我したりするわけじゃないから、そのままでいいよ」
「翔に痛い思いはして欲しくない。減らそう」
真面目な顔で勝手に設定を変更していく。俺はくすくす笑いながら孝晃に背中から抱きついた。
「じゃあ80%にしといて」
「わかった」
頷いて確定ボタンを押す。
痛いより気持ちいい方が辛い時もあるんだけど、それは黙っておこう。100%以上にも設定出来るようなので、悪戯心で増やされたらたまらない。
ヘルメットを被ってソファに座った。孝晃も隣に座る。
「ねえ、服脱いで」
「なんで? 服関係ないだろ」
「くっつきたいんだもん。上着くらい脱いでよ」
「わかったわかった」
袖を引っ張りながらそう言うと、孝晃は苦笑しながらジャケットを脱ぐ。改めて座り直した孝晃に抱きつくと、背中にそっと腕が回ってきた。大きなヘルメットのせいでキス出来ないのがちょっと寂しいけど仕方ない。
「じゃあ、行くぞ」
「うん」
孝晃がスタートボタンを押すと、間もなく仮想空間に入りますという声が、脳内に直接響くようにして聞こえてくる。目を閉じると、目の前が真っ暗になっていき、意識が遠のいていった。
✦✦✦
意識が遠くなったのはほんの一瞬で、ぱっと目を開けると、そこはさっきよりも数段豪華になった、ホテルのスイートルームのような部屋だった。
俺は仮想空間に入る前と同じ体勢で、孝晃に抱きついてベッドに座っていた。そっと腕を外して部屋の中を見回す。
「ここが仮想空間か⋯」
「うん。ずいぶん豪華な部屋になったね~」
「部屋はいくつか種類があったから、翔が好きそうなのを選んだ」
「そうなんだ?」
確かに、非日常が感じられるような広い部屋はテンションが上がる。ベッドから立ち上がって、少し部屋の中を歩いてみた。
すごいな。部屋もそうだけど、自分の身体も普通に動くし、リアルな感触だ。これが現実世界じゃないなんて、ちょっと信じられない。
「大丈夫か? なんか違和感あったり、気分悪かったりしないか?」
「大丈夫。普通に現実みたい」
ここでの感覚は、脳に直接信号を送って得られているらしく、違和感がある場合はすぐにリセットボタンを押して終了するように、説明書に注意書きが書かれていた。
俺はベッドに戻ると、孝晃の隣に座って寄りかかった。腰に手が回ってくる。その感覚も、現実と変わらなかった。
「そうだな。すごいリアルだ」
「うん。――あっ、ちょっと⋯、っひゃ!」
腰に回された手が服の中に入ってきて、脇腹をくすぐってくる。俺はくすくす笑いながら身を捩った。
「あははは! なっ、にするの、もう!」
「んー? だってほら、入ってすぐにエッチしないで、感覚に慣れるまでは軽いスキンシップにしましょうって、説明書にも書いてあったし」
「だからって、くすぐるのはナシ!」
「はいはい」
孝晃は笑って手を離すと、今度は背中を撫でてきた。もう片方の手は髪を撫で、俺が溜息を吐いて目を閉じると、額や瞼にそっとキスをされる。
こういうスキンシップは久しぶりな気がする。いつも早く早くとせがんで、すぐに行為になだれ込んでしまうから。俺が孝晃を好き過ぎるせいだけど、たまにはこういうのも悪くない。
頰に触れる唇に、顔をずらして自分のそれと触れ合わせる。首にしがみつくように抱きついて、そのままベッドに倒れ込んだ。
離れようとするのを追いかけてペロッと孝晃の唇を舐めると、眉を寄せて見つめてくる。
「⋯翔」
「もういいよ。現実と変わらないし、もう慣れた」
吐息混じりの声で囁いてじっと見つめ返すと、孝晃の瞳の奥に一瞬ギラつく光が見えた気がした。
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