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第7章・ただひとつの仕事をしただけの原作者。
19私だけの重い思いだ。
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「……? 何言って――」
「ユキ先輩はこういう時、ハルちゃんに頼らない。絶対にハルちゃんならどうにか出来ることでも、ハルちゃんを使おうとはしない」
渋谷は私の言葉に被せるように、語り出す。
「姉として妹に迷惑かけたくないとか、便利に使うみたいなことを避けるとか、それはわかる。しかもご丁寧に物書く時に話を聞いてアイデアを貰ったような風にして頼ってる感まで出して、私は妹を頼りにしてますって形まで整えている」
やや熱を纏いながら、渋谷は私を言語化していく。
「でも肝心なところでユキ先輩はハルちゃんの力を使わない、高崎先輩がノンプリⅡから外された時点でハルちゃんに相談しとけば良かった。そもそもハルちゃんが持ってきた話と違ったんだから文句垂れりゃあ良かっただけなんだ。それだけでノンプリⅡは私たちが作ることができた」
力を込めて、渋谷は続けてそれを語った。
これは……、まあその考えが頭を過ぎらなかったといえば嘘になる。
トランスとノンプリと高崎をくっつけるというベストなハルちゃんらしい解決策だったけど、トランス側の需要はノンプリのみだったというハルちゃんらしからぬくっつけ失敗だった。
多分それをハルちゃんに伝えたら、世界の果てからでも何とかしただろう。私たちの為と自分の納得をいっぺんに解決しただろう――。
「――でも、そうしなかった。単なるコンプレックスだろ、それ。意地っつーか……、優秀過ぎる妹に泣きつくのが嫌なだけだ」
私の思考に重ねるように、渋谷は私の真ん中にある黒くて苦い部分を開く。
その通り……なんて、簡単に認めたくはないけれど。
私も四十手前になって、自分ってものを嫌になるくらいわからされている。
だから、もう認めざるを得ない。その通りでしかない。
私はずっとハルちゃんがコンプレックスだった。
頭が良くて気建てが良くて可愛くて行動力があって自由で強くてイカれていて。
完璧だった。
常に私の人生の中心だった。
ハルちゃんはずっとハルちゃんで、一瞬もブレることなくハルちゃんだった。
私は何者でもなかった。
だから作家を目指した、そして作家になった。
片やハルちゃんは世界を股に掛けて、くっつけて繋げて、世界の形を変え続ける国際犯罪者。
善にも悪にも囚われずに縛られない、世界で一番自由で最強で最凶で最愛の妹だ。
煩わしいとさえ思えないほどに凄すぎる妹へのたった一つの対抗手段が、自立することだった。
作家として、ハルちゃんに必要のないアドバイスを貰ってスペシャルサンクスに意味の無い感謝を伝えることでしか私は私をたらしめることが出来なかった。
何でも出来て完璧で最強で天才の妹に、心から頼ったり任せたり甘えたりなんて死んでも嫌なだけ。
これは私にしかわからない、私だけの重い思いだ。
「だけど今回はそれをやめろよ。無様にハルちゃんへ泣きつけ、絶対に勝たなきゃなんねぇんだから全力全開手段を選ばずかっこよさとかプライドとか全部捨てて……一番強い方法を使う戦い方をしろ。自分の思いと戦え馬鹿」
身体から、背景が歪みほどの熱量を発して渋谷は私の心を握りつぶすように言って。
「勝ちてえんだよ、私は。腸煮えくり返ってんだ」
燃える瞳を真っ直ぐ私に向けて、そう締め括った。
そうか、そうかよ。
私は私の中の一番黒くて苦い部分を、私自身で触れる。
これを飲み込むのか……、秋刀魚の苦いとこも嫌いなのに……。
でも、これは戦いだ。私の戦いなんだ。
「………………ふぅ――――――――――っ」
私は大きく息を吐いて。
スマホを開いて、個人用のアカウントでSNSに一言つぶやく。
ごめんハルちゃん、助けて。
二日後。
「……セッちゃん大丈夫っ⁉ 何があったの⁉」
私が家で原稿作業をしているところに、ハルちゃんは滝のような汗をかきながら珍しく焦った顔で声を荒げながら現れた。
本当に飛んできたんだ……、私はその姿を見て喉元まで出かけた「やっぱ大丈夫、ごめん」を飲み込んで冷たい麦茶とタオルを渡して。
事情を語った。
「……なるほどね。そっか高崎さんが独立して、ノンプリ版権を取り戻すと。そしてノンプリ完全版と三人のノンプリⅡを作り直す……協力しないわけがない」
麦茶を飲んで、汗を脱ぐって話を聞き終えたハルちゃんは落ち着いた様子で言ってから続けて。
「そもそも私がミスったことだからね、トランスの馬鹿共を愚かさを舐めてたよ。忙しかったし変に干渉すると高崎さんに迷惑かけちゃうかもだったけど……こうなったら、ちょっと形を整えてやらないと」
歪んだ笑みを浮かべて、接着少女は嘯いた。
「ユキ先輩はこういう時、ハルちゃんに頼らない。絶対にハルちゃんならどうにか出来ることでも、ハルちゃんを使おうとはしない」
渋谷は私の言葉に被せるように、語り出す。
「姉として妹に迷惑かけたくないとか、便利に使うみたいなことを避けるとか、それはわかる。しかもご丁寧に物書く時に話を聞いてアイデアを貰ったような風にして頼ってる感まで出して、私は妹を頼りにしてますって形まで整えている」
やや熱を纏いながら、渋谷は私を言語化していく。
「でも肝心なところでユキ先輩はハルちゃんの力を使わない、高崎先輩がノンプリⅡから外された時点でハルちゃんに相談しとけば良かった。そもそもハルちゃんが持ってきた話と違ったんだから文句垂れりゃあ良かっただけなんだ。それだけでノンプリⅡは私たちが作ることができた」
力を込めて、渋谷は続けてそれを語った。
これは……、まあその考えが頭を過ぎらなかったといえば嘘になる。
トランスとノンプリと高崎をくっつけるというベストなハルちゃんらしい解決策だったけど、トランス側の需要はノンプリのみだったというハルちゃんらしからぬくっつけ失敗だった。
多分それをハルちゃんに伝えたら、世界の果てからでも何とかしただろう。私たちの為と自分の納得をいっぺんに解決しただろう――。
「――でも、そうしなかった。単なるコンプレックスだろ、それ。意地っつーか……、優秀過ぎる妹に泣きつくのが嫌なだけだ」
私の思考に重ねるように、渋谷は私の真ん中にある黒くて苦い部分を開く。
その通り……なんて、簡単に認めたくはないけれど。
私も四十手前になって、自分ってものを嫌になるくらいわからされている。
だから、もう認めざるを得ない。その通りでしかない。
私はずっとハルちゃんがコンプレックスだった。
頭が良くて気建てが良くて可愛くて行動力があって自由で強くてイカれていて。
完璧だった。
常に私の人生の中心だった。
ハルちゃんはずっとハルちゃんで、一瞬もブレることなくハルちゃんだった。
私は何者でもなかった。
だから作家を目指した、そして作家になった。
片やハルちゃんは世界を股に掛けて、くっつけて繋げて、世界の形を変え続ける国際犯罪者。
善にも悪にも囚われずに縛られない、世界で一番自由で最強で最凶で最愛の妹だ。
煩わしいとさえ思えないほどに凄すぎる妹へのたった一つの対抗手段が、自立することだった。
作家として、ハルちゃんに必要のないアドバイスを貰ってスペシャルサンクスに意味の無い感謝を伝えることでしか私は私をたらしめることが出来なかった。
何でも出来て完璧で最強で天才の妹に、心から頼ったり任せたり甘えたりなんて死んでも嫌なだけ。
これは私にしかわからない、私だけの重い思いだ。
「だけど今回はそれをやめろよ。無様にハルちゃんへ泣きつけ、絶対に勝たなきゃなんねぇんだから全力全開手段を選ばずかっこよさとかプライドとか全部捨てて……一番強い方法を使う戦い方をしろ。自分の思いと戦え馬鹿」
身体から、背景が歪みほどの熱量を発して渋谷は私の心を握りつぶすように言って。
「勝ちてえんだよ、私は。腸煮えくり返ってんだ」
燃える瞳を真っ直ぐ私に向けて、そう締め括った。
そうか、そうかよ。
私は私の中の一番黒くて苦い部分を、私自身で触れる。
これを飲み込むのか……、秋刀魚の苦いとこも嫌いなのに……。
でも、これは戦いだ。私の戦いなんだ。
「………………ふぅ――――――――――っ」
私は大きく息を吐いて。
スマホを開いて、個人用のアカウントでSNSに一言つぶやく。
ごめんハルちゃん、助けて。
二日後。
「……セッちゃん大丈夫っ⁉ 何があったの⁉」
私が家で原稿作業をしているところに、ハルちゃんは滝のような汗をかきながら珍しく焦った顔で声を荒げながら現れた。
本当に飛んできたんだ……、私はその姿を見て喉元まで出かけた「やっぱ大丈夫、ごめん」を飲み込んで冷たい麦茶とタオルを渡して。
事情を語った。
「……なるほどね。そっか高崎さんが独立して、ノンプリ版権を取り戻すと。そしてノンプリ完全版と三人のノンプリⅡを作り直す……協力しないわけがない」
麦茶を飲んで、汗を脱ぐって話を聞き終えたハルちゃんは落ち着いた様子で言ってから続けて。
「そもそも私がミスったことだからね、トランスの馬鹿共を愚かさを舐めてたよ。忙しかったし変に干渉すると高崎さんに迷惑かけちゃうかもだったけど……こうなったら、ちょっと形を整えてやらないと」
歪んだ笑みを浮かべて、接着少女は嘯いた。
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