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第7章・ただひとつの仕事をしただけの原作者。
18戦い方。
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これは……、多分本当だ。
まあそもそも嘘をつく理由もないし、私みたいな公にリアクションを発する機会のない作家にこんなイタズラをしたところでなんの意味もない。
この震えて尖る大きな文字と文字を大きくしたから文章量は少ないのに便箋を二枚使っているところとか。一枚目と二枚目の便箋の色が違うのが何度も書き直して別のレターセットを使うことになったとか。凄く時間を使って書いたんだろうとか。
文章以上の情報が、熱が、この手紙には込められている。
時に物語というのは、人の人生に大きく影響を与える。
誰かの頭の中で思いついただけの嘘に騙されて、人生を変えられてしまうことがある。
私の場合は確実に、あの小説書きの女の子とバイオリン作りの男の子と猫のアニメ映画だった。今でも夏海と一緒にDVDで観たりするくらいに好きだし、私の人生に大きくくい込んで離さない。
まさか私の……いや、ノンプリは私たちか。
私たちの作った物語が、こんなにも誰かの人生にくい込んでいるなんて。
私は何かお返事を出そうとしたけれど、住所と名前がどうしても読みとれなくて返事は出せなかった。
その夜、私は高崎に手紙を読ませた。
「………………そうか……」
高崎は手紙を熟読して、呟く。
声は小さいが、その背中からは大きな決意が滲んでいた。
数日後。
「セッちゃん、俺トランス辞めるわ。自分で会社を立ち上げる、独立する」
会社から帰ってきた高崎は、テーブルを挟んで私に向かって真摯に宣う。
「まあ良いと思うよ、そろそろ勝負癖が爆発する頃だと思ってたし」
私はそれほど驚くこともなく肯定を示す。
正直、この間の手紙で火が点いたのはわかっていた。
あれには仕事に対してドライな私ですら、熱に当てられた。
ちなみに渋谷にはまだ手紙は見せていない、あいつは火が点きやすすぎる。ガソリンスタンドで喫煙するより容易に大爆発を起こす。
「……うん、それとノンプリの権利主張をしようと思う。多分バチバチに裁判になると思うけど…………俺やっぱノンプリ完全版とあんなクソゲーじゃなくてちゃんとセッちゃんのシナリオで渋谷が描いたノンプリⅡを出してえ…………正直結構お金を使いますし収入も怪しくなります……」
申し訳なさそうに、これからの喧嘩について高崎は語る。
「いいわよ別に。アニメ化作家舐めないで、まだ私の方が全然年収あるからね。夏海を大学行かすくらいの貯えは全然あるし、結婚する時決めたからね。どっちがどうなってもなんとかするって」
私は呆れるように笑いながら、当然の答えを返す。
「すげぇな、セッちゃん。まだ好きになる」
「次はあんたがかっこいいとこ見せてよね」
高崎は少し柔らかい顔で言って、私は照れながら返した。
翌日、渋谷を呼び出して。
「そうか……、よし、全部わかった! 私は誰を蹴っぱぐりゃあいい?」
「わかってねえ――っ! 蹴るな馬鹿! 今暴行障害事件なんて起こしたらおしまいだ馬鹿! ブス! バツイチ……ゴパァッ!」
渋谷に手紙を読ませて経緯を説明したところで、案の定渋谷が爆発しそうになったところに高崎が捲し立てて返したら鳩尾に渋谷の三日月蹴りを刺さる。
「しーぶーや……、今のは高崎が悪いけどあんたも暫くは暴れんの禁止。変なことするとそこにつけ込まれるかもしれないからね、ノンプリの権利主張が出来るのは現状私たち三人だけなんだから。我慢するってのがあんたの戦い方よ」
うずくまる高崎をよそに、私は呆れながら渋谷に言う。
「だったらユキ先輩も、さっさと強い手札は使うべきだ。それがあんたの戦い方だろ」
椅子に胡座をかいてふんぞり返りながら、渋谷は私に返す。
まあそもそも嘘をつく理由もないし、私みたいな公にリアクションを発する機会のない作家にこんなイタズラをしたところでなんの意味もない。
この震えて尖る大きな文字と文字を大きくしたから文章量は少ないのに便箋を二枚使っているところとか。一枚目と二枚目の便箋の色が違うのが何度も書き直して別のレターセットを使うことになったとか。凄く時間を使って書いたんだろうとか。
文章以上の情報が、熱が、この手紙には込められている。
時に物語というのは、人の人生に大きく影響を与える。
誰かの頭の中で思いついただけの嘘に騙されて、人生を変えられてしまうことがある。
私の場合は確実に、あの小説書きの女の子とバイオリン作りの男の子と猫のアニメ映画だった。今でも夏海と一緒にDVDで観たりするくらいに好きだし、私の人生に大きくくい込んで離さない。
まさか私の……いや、ノンプリは私たちか。
私たちの作った物語が、こんなにも誰かの人生にくい込んでいるなんて。
私は何かお返事を出そうとしたけれど、住所と名前がどうしても読みとれなくて返事は出せなかった。
その夜、私は高崎に手紙を読ませた。
「………………そうか……」
高崎は手紙を熟読して、呟く。
声は小さいが、その背中からは大きな決意が滲んでいた。
数日後。
「セッちゃん、俺トランス辞めるわ。自分で会社を立ち上げる、独立する」
会社から帰ってきた高崎は、テーブルを挟んで私に向かって真摯に宣う。
「まあ良いと思うよ、そろそろ勝負癖が爆発する頃だと思ってたし」
私はそれほど驚くこともなく肯定を示す。
正直、この間の手紙で火が点いたのはわかっていた。
あれには仕事に対してドライな私ですら、熱に当てられた。
ちなみに渋谷にはまだ手紙は見せていない、あいつは火が点きやすすぎる。ガソリンスタンドで喫煙するより容易に大爆発を起こす。
「……うん、それとノンプリの権利主張をしようと思う。多分バチバチに裁判になると思うけど…………俺やっぱノンプリ完全版とあんなクソゲーじゃなくてちゃんとセッちゃんのシナリオで渋谷が描いたノンプリⅡを出してえ…………正直結構お金を使いますし収入も怪しくなります……」
申し訳なさそうに、これからの喧嘩について高崎は語る。
「いいわよ別に。アニメ化作家舐めないで、まだ私の方が全然年収あるからね。夏海を大学行かすくらいの貯えは全然あるし、結婚する時決めたからね。どっちがどうなってもなんとかするって」
私は呆れるように笑いながら、当然の答えを返す。
「すげぇな、セッちゃん。まだ好きになる」
「次はあんたがかっこいいとこ見せてよね」
高崎は少し柔らかい顔で言って、私は照れながら返した。
翌日、渋谷を呼び出して。
「そうか……、よし、全部わかった! 私は誰を蹴っぱぐりゃあいい?」
「わかってねえ――っ! 蹴るな馬鹿! 今暴行障害事件なんて起こしたらおしまいだ馬鹿! ブス! バツイチ……ゴパァッ!」
渋谷に手紙を読ませて経緯を説明したところで、案の定渋谷が爆発しそうになったところに高崎が捲し立てて返したら鳩尾に渋谷の三日月蹴りを刺さる。
「しーぶーや……、今のは高崎が悪いけどあんたも暫くは暴れんの禁止。変なことするとそこにつけ込まれるかもしれないからね、ノンプリの権利主張が出来るのは現状私たち三人だけなんだから。我慢するってのがあんたの戦い方よ」
うずくまる高崎をよそに、私は呆れながら渋谷に言う。
「だったらユキ先輩も、さっさと強い手札は使うべきだ。それがあんたの戦い方だろ」
椅子に胡座をかいてふんぞり返りながら、渋谷は私に返す。
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