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第一部1・仕事が早いやつは次の仕事も早く回ってきて結局損をする。【全4節】

03完全敗北である。

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「とりあえず降伏は前提とはなりますが、ギルド長として町の人々の扱いについて交渉を行いたいです」

 僕はギルド職員としての職務を全うする。

 こちらから提示した要求は。

 一つ、住民への略奪および暴力行為の禁止。
 二つ、住民への労働の強要、理不尽な押収などの禁止。
 三つ、町の建造物の破壊の禁止。
 四つ、産業への介入並びに妨害の禁止。
 五つ、増税や不平等な税収を行わないこと。

 まあつまり、全然あんたらの領地になるのは受け入れるから干渉するなって話だ。

 これはかなりふっかけている。

 最悪住民全員捕虜にして、酒や米や魚を提供し続けるように労働を強いられることも考えられる。

 その最悪からどれだけずらして住民の生活を守れるか。

 ここからが僕の防衛だ。

「……ふざけんなよ馬鹿か貴様は! 我々に何の利がある! この町はリーライが管理するし住民は捕虜とするに決まっているだろうが!」

 隊長の横に居た男が馬から飛び降りて僕の胸ぐらを掴んで怒鳴り散らす。

「やめろ! ジャンポール!」

 隊長がジャンポールとやらを諌める。

「何がですか隊長、こいつ舐めすぎですよ。一人だけで町の防衛? ありえない与太話並べて、こちらはその気になれば我々はこの町を容易く落とせるのですよ? 力関係をはっきりさせなくては」

 そう言ってジャンポールとやらは剣を抜く。

 まあ確かにそうだよなぁ、ごもっともだ。
 僕なんかと話さなくても最大の利益を得ることが出来るだろう。

 仕方ない、こうなったら、こうするしかない。

「…………じゃあ僕が皆さんより力を見せれば、交渉を続けて貰えますか?」

「下がれジャンポ――」

 僕の問いに、隊長さんは被せるようにジャンポール君へ呼びかけるが遅い。

 

 僕のスキルは『超加速』だ。

 元々は『加速』というちょっと走るのが速くなる程度のスキルだったが、使い方を覚えて色々と加速させるのに使いまくり、超ブラック環境下での激務で覚醒に至った。

 そりゃそうだ、だって『勇者』が出るほどに忙しかったんだから。

 忙しすぎてあらゆる行動に応用し続けた。
 書類仕事にも経理にも討伐にも解体にも採集にも掃除にも依頼受付にも報告業務にも、何でも急いだ。

 やがて『加速』は僕のあらゆるものを速くした。

 思考、筆記、回復、体術、魔法発生、詠唱、完了までの時間、とにかく全部。

 それでも足りない激務の中で、さらに一段階『加速』というスキルそのものを加速させた結果『超加速』が生まれた。

 まあ効果は読んで字のごとく、速くなる。

 たったそれだけ、でもたったそれだけのことがこの町を魔物や野盗からの脅威から一人で守ることを可能とした。

 ジャンポール君の利き手と片脚と顎を砕いて意識を飛ばす。

 剣を振れなくして、移動を封じ、魔法の詠唱を出来なくする。

 対野盗でのセオリーだ、それなりに研修も受けているし実戦も経験済みなのだ。

 この程度の骨折なら僕の回復魔法でもなんとかなる、部位欠損だと繋がりはするが元に戻るにはかなりのリハビリを要するのですぐには治せないが。

 ジャンポール君が崩れ落ちるまでの間に、山岳攻略部隊の皆さんをの腕と足と顎を砕いて回った。

 格闘戦はギルド長をやるに当たって冒険者等級審査の為に、ある程度は学んでいる。

 そのある程度が『超加速』で常軌を逸した速度になっている。

 速度は単純に、威力に変わる。
 激務のおかげでそこそこの近接武器職と変わらない程度は出せる身体操作を身につけてしまっているのだ。

 この程度の動きなら疲れるより速く回復してしまう。

 便利だけど……、まあいいや。使えるものは使うのが僕のポリシーだ。

 なんて考えている間に、ジャンポール君が崩れ落ちて、一拍も空けずにガクラ隊長以外の山岳攻略部隊の皆さんが馬から落ちた。

「――ルッ! 貴様では…………遅かった……、ここまで……」

 隊長さんは一瞬で状況を理解して頭を抱える。

「……私のスキルは『観察』だ。君のスキルも、たった一人で山脈から近いこの町から魔物被害を抑えるに足る力量ということも、把握していた……」

 馬から降りながら隊長さんはそう述べて。

「我々の完全敗北である。完全に手を引く、隊員の命だけは助けて欲しい」

 片膝をついて、目を伏せて隊長さんは丁寧に敗北を認めた。
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