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第一部14・世界は透明なひび割れに気づけない。【全12節】
02男の子。
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私はかつて、セブン公国のとある施設で育った。
生まれはわからない、生みの親の顔も私は知らない。
世の中とも切り離されて育った。
毎日殴られ蹴られ焼かれ、言葉や魔法の詠唱を発せられないように舌を短く切られ、指も何本か切り落とされた。
死なないように最低限の食事と、回復を施されて、絶対に逆らわないように逆らえないように徹底的に調整されていた。
理由は私のスキルが『無効化』だったからだ。
『無効化』は文字通りあらゆるスキルの効果を無効化するものだ。
どんな超人的な効果や補正を持っていたとしても、ただの人にしてしまう。
例え『勇者』であろうと『魔王』であろうと、何だって本来の状態、人としての素の状態にしてしまう。
対人戦においては最強とされるスキルだが。
スキル絶対主義のセブン公国においては忌み嫌われ、恐怖の対象だった。
だから公国における『無効化』持ちは国家による徹底的な管理の元で、対人用兵器として強制され矯正されることになる。
まあ当時の私はそんなこともわからないくらい、世の中から隔絶されていたし。
指示を聞く為に最低限の言葉は理解出来ていたけど、舌が切られて喋れなかったし、文字の読み書きも出来なかったし、ただ叩かれたくなくてご飯を食べたいから言うことを必死に聞くことしか出来なかった。
まだ人じゃなかったから。
私は私が、私というか人間とか動物とか命とかそういうアイデンティティが曖昧なまま何も知らない、ただ生存にするだけの兵器でした。
自分が苦しいとか、何が嫌とか、辛いとか、そういうのすらわからなかった。
比較対象もない、共感もない、全て私の中で完結していたから何もわからなかったのです。
そんな、日々というにはあまりにも中身のない時間の中。
私は外へと連れ出された。
話を聞いていたところ、クローバー侯爵という人が集めた討伐隊で逃亡犯を倒すというものでした。
鎖に繋がれ、引きずられるように荷台へ載せられ、知らない町へとたどり着いた。
まあ正直この辺りの記憶はもう、町で汲んで飲んだ水が綺麗で冷たくて美味しかったということしかない。
そこから更に山に移動し、その山の中で逃亡犯を見つけた。
子供だった。
私よりは大きいけど、囲まれた大人たちよりは頭一つくらいは小さな男の子。
今となっては、こんな子供相手に大人が寄ってたかって追い詰めるということが異常なことだと思うけれど。この時の私に、そんなまともな感性があるわけもない。
男の子は強かった。
まあこれも今思うとって話なんだけど。
多彩な魔法を無詠唱で使っていて武器も使わず、大人たちを圧倒していた。
凄い速さで大人たちを叩いたり、魔法で吹き飛ばしたり、時には両手を挙げて謝って近づいてきた大人を捕まえて盾にしたり、大声で罵詈雑言を吐き捨てて怒らせたり、気絶した大人の耳をかじって食べる様子を見せたり、山に火を放って消火に回った大人を後ろから火に突き飛ばしたり。
無茶苦茶だった。
これは今思うとではなくて、その時も思った。
思った以上の苦戦に業を煮やした討伐隊は、私を使うことにした。
多分、私は保険だったんだと思う。
基本的には戯れがてら男の子を追い詰めて殺すつもりだったのだろう。
ただ、失敗も許されない為に私を用意した。
いやもしかしたら私の性能を試す意図もあったのかもしれない。
要するに討伐隊は男の子を侮っていたのです。
私は鎖を乱暴に引かれて、視界が通る位置まで移動され。
男の子を目標に『無効化』を使う。
生まれはわからない、生みの親の顔も私は知らない。
世の中とも切り離されて育った。
毎日殴られ蹴られ焼かれ、言葉や魔法の詠唱を発せられないように舌を短く切られ、指も何本か切り落とされた。
死なないように最低限の食事と、回復を施されて、絶対に逆らわないように逆らえないように徹底的に調整されていた。
理由は私のスキルが『無効化』だったからだ。
『無効化』は文字通りあらゆるスキルの効果を無効化するものだ。
どんな超人的な効果や補正を持っていたとしても、ただの人にしてしまう。
例え『勇者』であろうと『魔王』であろうと、何だって本来の状態、人としての素の状態にしてしまう。
対人戦においては最強とされるスキルだが。
スキル絶対主義のセブン公国においては忌み嫌われ、恐怖の対象だった。
だから公国における『無効化』持ちは国家による徹底的な管理の元で、対人用兵器として強制され矯正されることになる。
まあ当時の私はそんなこともわからないくらい、世の中から隔絶されていたし。
指示を聞く為に最低限の言葉は理解出来ていたけど、舌が切られて喋れなかったし、文字の読み書きも出来なかったし、ただ叩かれたくなくてご飯を食べたいから言うことを必死に聞くことしか出来なかった。
まだ人じゃなかったから。
私は私が、私というか人間とか動物とか命とかそういうアイデンティティが曖昧なまま何も知らない、ただ生存にするだけの兵器でした。
自分が苦しいとか、何が嫌とか、辛いとか、そういうのすらわからなかった。
比較対象もない、共感もない、全て私の中で完結していたから何もわからなかったのです。
そんな、日々というにはあまりにも中身のない時間の中。
私は外へと連れ出された。
話を聞いていたところ、クローバー侯爵という人が集めた討伐隊で逃亡犯を倒すというものでした。
鎖に繋がれ、引きずられるように荷台へ載せられ、知らない町へとたどり着いた。
まあ正直この辺りの記憶はもう、町で汲んで飲んだ水が綺麗で冷たくて美味しかったということしかない。
そこから更に山に移動し、その山の中で逃亡犯を見つけた。
子供だった。
私よりは大きいけど、囲まれた大人たちよりは頭一つくらいは小さな男の子。
今となっては、こんな子供相手に大人が寄ってたかって追い詰めるということが異常なことだと思うけれど。この時の私に、そんなまともな感性があるわけもない。
男の子は強かった。
まあこれも今思うとって話なんだけど。
多彩な魔法を無詠唱で使っていて武器も使わず、大人たちを圧倒していた。
凄い速さで大人たちを叩いたり、魔法で吹き飛ばしたり、時には両手を挙げて謝って近づいてきた大人を捕まえて盾にしたり、大声で罵詈雑言を吐き捨てて怒らせたり、気絶した大人の耳をかじって食べる様子を見せたり、山に火を放って消火に回った大人を後ろから火に突き飛ばしたり。
無茶苦茶だった。
これは今思うとではなくて、その時も思った。
思った以上の苦戦に業を煮やした討伐隊は、私を使うことにした。
多分、私は保険だったんだと思う。
基本的には戯れがてら男の子を追い詰めて殺すつもりだったのだろう。
ただ、失敗も許されない為に私を用意した。
いやもしかしたら私の性能を試す意図もあったのかもしれない。
要するに討伐隊は男の子を侮っていたのです。
私は鎖を乱暴に引かれて、視界が通る位置まで移動され。
男の子を目標に『無効化』を使う。
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