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第一部14・世界は透明なひび割れに気づけない。【全12節】

03私はそういう兵器だから。

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 かなり感覚的な話になるので説明が難しいが『無効化』の効果範囲は数とか距離とかより認識によるものだと思う。

 姿が見えなくても、相手の存在自体が認識に出来ていれば『無効化』は効果を発揮する。

 ただし例えば、隣の部屋に居ると思っていたら居なかったとか、十人だと思ったら十一人いたとか私の認識と現実がずれていると効果から外れることもあるけど。

 基本的に対面さえ出来ていれば絶対に発動する。

 まあ私がこの感覚を誰かに語れたことはない。というかこの時点での私は舌を短く切られているので話すことが出来なかった。

 とにかく私の『無効化』は発揮された。

 男の子は突然動きが悪くなり、驚きの表情を見せた。

 私は自分の役割を果たせて安堵した。これで叩かれたり、殺されたりすることはないんだと。そう思った。そうとしか思えなかったのです。

 ここから男の子は一気に劣勢となった。
 今まで掠りもしなかった攻撃魔法や剣撃が当たり始めたのです。
 やはりスキルの補正や効果を失うというのはかなり影響が大きいようです。

 男の子は突然のことに少し混乱していたけど、すぐに迎撃から逃走へと切り替えて逃げ出した。

 それでも必死な大人たちを撒くことは出来ずに、木々が途切れて岩肌が多く見られる山の中腹辺りの崖下で。

 男の子は完全に追い詰められた。

 追い詰められつつも男の子は、懸命に戦いました。

 様々な魔法を駆使して、騙し討ちを騙し討ちに使ったり。
 よくありそうな女性の名前を羅列して、それらの女性は殺す、と脅しの言葉を吐き反応して前に出てきた大人を殴って気絶させたり。
 口では別の系統の詠唱をしながら無詠唱で別の魔法を放ったり。
 大人の剣を奪って壊したり。

 ボロボロで血だらけになりながら、耐え凌いでいました。

 でも、なかなか倒れず汚い手も厭わず何でも仕掛けてくる男の子に苛立った大人が大人気なく投げたこぶし大の石が頭に当たって倒れてしまった。

 凄まじかった。
 スキルがない状態でここまで動いて戦い続けた人を初めて見た。

 今まで何度かの処刑決闘で犯罪者のスキルを無効化してきたけれど、ほぼ何も出来ずに首を跳ねられるかスキルが使えないことに気づいた時点で諦めるかのどちらかだったから。

 今ならこの男の子がどれだけ人を超えていたのかということがわかるし、もっと驚いて良いのかもしれないけど。

 この時は、ちゃんと役割を果たせて良かったという安心感しかなかった。

 崩れるように倒れた男の子に、大人たちは剣を振り上げてとどめを刺す。

 これでおしまい。

 

「そろそろ畳むか」

 突然、大人の剣を掴んで砕きながらそう言って男の人が現れた。

「何者だ――っ⁉」

 討伐隊の大人が現れた男に反応した途端にいっぱい叩かれて伏せられる。

 同時に男は消えて、別の大人を思いっきり叩いて伏せる。

 私は慌てて『無効化』を使って男のスキルを使えないようにする。

 驚いて遅れてしまった。
 何処から現れたのか、何者なのか、全然わからないけれど。
 男の子を助けに来た仲間ではあることは確かだった。

 でも私の『無効化』が発動した以上、何者であろうともスキルは使えない。

 私はそういう兵器だから。
 自我も曖昧で、叩かれたくないから状況に合わせて『無効化』を使うだけ。
 討伐隊の大人たちの思いとか、この男の子が追われる理由とか、男の子を助けようとする男の理由とか。
 今なら多少色々と想像できるけど、この時の私は何もわからない。

 だから私は役割通りに『無効化』を使えて、痛い思いをせずに済みそうだと安堵していた。

 
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