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第一部14・世界は透明なひび割れに気づけない。【全12節】

10衝撃的な告白。

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「ですが……私は『無効化』です。それも『無効化』を使う為の訓練を受けた――」

「君は単なる研修医だ。『無効化』のスキルを持っていて幼少期に対人兵器であることを強制されたことのあるだけのね。まあ…………、気持ちはわかるよ。僕は君の記憶を読んでいるし、公国のスキル主義には僕も振り回された幼少期を過ごした。でも君はもう対人兵器でもなければ兵士や冒険者でもない」

 私の食い下がりに被せるようにクロウさんは語る。

「君が前線に出て『無効化』を発揮すれば、まず相手は何も出来ずに死ぬだろう。

 真摯に、私の目を見ながら語りは続く。

「自我を持たず、受動的に命じられたまま人殺しに加担するのとは違って、能動的に人を殺すことになる。人の命を救う医師を志す人間がやることじゃあない」

 淡々と、しかし力強く語る。

「確かに先んじて相手の脅威を排除することによって、結果的に人々の命を救うという考え方もある。でも、そんなことをしなくても医者は多くの命を救えるだろう」

 少し優しく諭すように言い。

「それに前提としてこれは侵攻だ。帝国民の君にこんなことを言うのはあれだけど、曲がりなりにも正常に動いているセブン公国というコミュニティを土足で踏み荒らしに行くのは帝国だということも忘れないでほしい」

 続けて、今度は大局から見た話をする。

「現状において、悪は帝国だよ。まあこの後に起こる、スキルや魔物の消失による混乱を統治出来るのは帝国にしか出来ないから後の世では最適解だと言われてほしいけどね」

 大局観における帝国の立ち位置と、希望を語り。

「まあそれと、あんまりガクラたちを舐めるな。彼らは優秀で世界最強の軍隊だ。自分の娘を危険に晒さなくちゃならないほどに、彼らは弱くはないよ」

 今度は私にしか響かない言葉で諭した。

 まあ正直、ぐうの音も出ないほどの回答だ。

 私は『無効化』を持つけど、もう対人兵器ではない医師を志すただの小娘だ。
 人の命の重さや尊さを知り、愛や道徳や倫理に迷う私に、確かにそんな覚悟はない。
 私からしたら公国の邪悪なスキル主義を終わらせることは大義あることだと思えるけど、結局それも簡単に善悪や正誤を測れないことだ。
 それに父の話、これもその通りだ。私如きの手助けが必要になるようなやわな鍛え方をしていない。

 これ以上ない回答だ。

 でも、それ故にとてつもなく気になる点が出てきてしまった。

「…………仰りたいことは十二分にわかりました。でも、…………?」

 私は、浮かんだ疑問を投げかける。

「貴方が行っていることは、帝国の勝利に大きく加担する行為です。公国の人々を少なからず死に至らすことをしています。軍人でも、冒険者でもない、一介のギルド職員だった貴方はどうしてそんなことができるのですか……?」

 浮かんだ疑問をなるべく言語化して伝える。

 だって、私が戦線に参加出来ない納得の理由はそのままクロウさん自身にも当てはまることだから。

 クロウさんもジョージ・クロス氏から様々なことを学んだとはいえ、クロウさんは幼少期に父親に殺されかけるというとんでもない過去を持つだけのギルド職員でしかない。

 人を殺めたり、人の死に加担したり。
 普通に生きていたら直面しないような出来事への覚悟が出来る理由。
 どういう精神構造なのか、それを聞きたくなった。

「あー……、少し違うかな。ギルド職員が外患誘致罪なんてとんでもない凶悪犯罪を犯したんじゃなくて、

 少し困ったように、クロウさんはそんな衝撃的な告白を洩らす。
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