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第一部14・世界は透明なひび割れに気づけない。【全12節】
11心がざらつく。
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「あの後……、クロス先生に君が帝国へ跳ばされた後。僕はトーンの町へ跳ばされてね、何が起こったのかわからなかったけど目覚めた僕が最初に覚えたのは、脳を焦がして目から炎が溢れ出るほどの…………、怒り」
私でも感じられる殺意の残り香を纏いながら、クロウさんは語る。
「僕は未熟ながらに索敵魔法と気配隠匿の魔法を使って『加速』をぶん回して、討伐隊の面子を探して回り。見つけ次第、消滅魔法でぶっ殺した」
淡々と、表情も変えずに犯行を語り続ける。
というか索敵魔法に気配隠匿……、そんな魔法があるの? それに消滅魔法って攻撃魔法の到達点のようなものなはずなのに、何を持って未熟なんだ……?
「会話中、睡眠中、食事中、移動中、無警戒なところを頭だけ消し飛ばして殺した。死んだことにすら気づいていない、死ぬとも思ってなかっただろうね。家族と一緒に外食をしている奴も居たよ。基本は暗殺。この頃の僕は『無効化』対策が出来ていなかったからね、また『無効化』を出されても困るから戦闘は避ける必要があった」
陳腐な推理小説で探偵に追い詰められた犯人のように、犯行手口をつらつらと語る。
「んで、粗方討伐隊参加者たちをぶっ殺して、やっとこさちょっと冷静になってね。あの日、何で僕が助かったのかを知りたくなったんだけどまだ殺してなかったのがもう父親くらいしか居なくてね。会ってもあの人とは会話にはならないし、その頃はまだ記憶読取の魔法は習得してなかったからまだ殺してないだけ」
あっけらかんと異常な家族観を語る。
そうか、あの討伐隊に参加していた面々は殆ど皆殺しにされているのか……。
何の情もないけど、ショック……いや何か変な感情だ。嬉しくも悲しくもないのに、心がざらつく。
「やっと暇が出来て、公都に父親をぶっ殺しに行ったんだけど姉に腹が立ってぶっ飛ばしてたら会えなかった。ちなみに、君も公国に居たらもちろん殺していた。今なら『無効化』対策も出来ているし」
崩壊した家族観と死生観に続いて、私への殺意についても語る。
そうか、何の情もないけれど他人事ではなかったんだ。それは心がざらつく。
「あのね。僕は正義の味方でも善人でもヒーローでもない。そもそもが激情で人を殺す凶悪犯なんだ。だから僕はこんなことが出来るんだよ」
凶悪犯は自身をそう語ることで、私に対する回答を終える。
「あ、これ、あんまり言ってないことだから内緒にしてね。正直君くらいしか共感も理解も出来ない話だと思うからさ」
あからさまな作り笑顔で、私に向けてそう付け加えた。
ああ、私には理解出来てしまう。
この人は、一人のヒーローにしか出会えなかった私なんだ。
私も彼も、ジョージ・クロス氏によって人生が一変した。救われた子供だった。
でも彼の人生には、ガクラ・クラックとエバー・クラックが現れなかったんだ。
スキル主義に振り回され、大人たちから虐げられ、心に恐怖で出来た傷から怒りが噴き出して。
壊れてしまったんだ。
私は奇跡的に、家族が出来た。
だから傷はゆっくりだけど塞がって、怒りは次第に収まって鎮火した。
でも彼には家族は居なかった。
燃え上がる怒りをかたちに出来る力もあった。
もし私が父や母と出会えず、『無効化』だけでなく様々な魔法や色々な武術を使えたら。
…………間違いなく、私も医師を志すようなことにはならなかっただろう。
だから私は引かざるを得ない。
家族に出会えて、幸せを手にした私は引っ込んでいるべきなんだ。
悲しいほどに、彼という存在が理解出来てしまった。
私は納得して、少し頭を下げてその場を後にする。
少し残念だが仕方ない思いつつ、軍の訓練所から帰路に着こうとしたところで。
「クリアちゃん、ちょっといい?」
私はクロウさんの恋人で凄腕魔道具技師のセツナさんに声をかけられる。
「盗み聞きするつもりはなかったんだけど、公都落としに参加したいならこれ使って」
そう言ってセツナさんは私に魔道具を渡す。
「これって……」
「『小型長距離転移結晶・改』転移先を任意で決められて転移から二分間、物理障壁と魔法障壁を展開するので転移先の障害を気にしなくて良い。わりとこのサイズに収めるの大変だったのよ」
戸惑う私にニコニコしながらセツナさんは説明する。
「…………でも先程、クロウさんには完膚なきまでに止められてしまっているので……ありがたいのですがこれは――」
「クロウ君は止めただけでしょう? 行くか行かないかは貴女が決めることよ。クリアちゃん」
私が魔道具を返そうとしたところで、セツナさんは受け取らずに、当たり前のようにそう言った。
私でも感じられる殺意の残り香を纏いながら、クロウさんは語る。
「僕は未熟ながらに索敵魔法と気配隠匿の魔法を使って『加速』をぶん回して、討伐隊の面子を探して回り。見つけ次第、消滅魔法でぶっ殺した」
淡々と、表情も変えずに犯行を語り続ける。
というか索敵魔法に気配隠匿……、そんな魔法があるの? それに消滅魔法って攻撃魔法の到達点のようなものなはずなのに、何を持って未熟なんだ……?
「会話中、睡眠中、食事中、移動中、無警戒なところを頭だけ消し飛ばして殺した。死んだことにすら気づいていない、死ぬとも思ってなかっただろうね。家族と一緒に外食をしている奴も居たよ。基本は暗殺。この頃の僕は『無効化』対策が出来ていなかったからね、また『無効化』を出されても困るから戦闘は避ける必要があった」
陳腐な推理小説で探偵に追い詰められた犯人のように、犯行手口をつらつらと語る。
「んで、粗方討伐隊参加者たちをぶっ殺して、やっとこさちょっと冷静になってね。あの日、何で僕が助かったのかを知りたくなったんだけどまだ殺してなかったのがもう父親くらいしか居なくてね。会ってもあの人とは会話にはならないし、その頃はまだ記憶読取の魔法は習得してなかったからまだ殺してないだけ」
あっけらかんと異常な家族観を語る。
そうか、あの討伐隊に参加していた面々は殆ど皆殺しにされているのか……。
何の情もないけど、ショック……いや何か変な感情だ。嬉しくも悲しくもないのに、心がざらつく。
「やっと暇が出来て、公都に父親をぶっ殺しに行ったんだけど姉に腹が立ってぶっ飛ばしてたら会えなかった。ちなみに、君も公国に居たらもちろん殺していた。今なら『無効化』対策も出来ているし」
崩壊した家族観と死生観に続いて、私への殺意についても語る。
そうか、何の情もないけれど他人事ではなかったんだ。それは心がざらつく。
「あのね。僕は正義の味方でも善人でもヒーローでもない。そもそもが激情で人を殺す凶悪犯なんだ。だから僕はこんなことが出来るんだよ」
凶悪犯は自身をそう語ることで、私に対する回答を終える。
「あ、これ、あんまり言ってないことだから内緒にしてね。正直君くらいしか共感も理解も出来ない話だと思うからさ」
あからさまな作り笑顔で、私に向けてそう付け加えた。
ああ、私には理解出来てしまう。
この人は、一人のヒーローにしか出会えなかった私なんだ。
私も彼も、ジョージ・クロス氏によって人生が一変した。救われた子供だった。
でも彼の人生には、ガクラ・クラックとエバー・クラックが現れなかったんだ。
スキル主義に振り回され、大人たちから虐げられ、心に恐怖で出来た傷から怒りが噴き出して。
壊れてしまったんだ。
私は奇跡的に、家族が出来た。
だから傷はゆっくりだけど塞がって、怒りは次第に収まって鎮火した。
でも彼には家族は居なかった。
燃え上がる怒りをかたちに出来る力もあった。
もし私が父や母と出会えず、『無効化』だけでなく様々な魔法や色々な武術を使えたら。
…………間違いなく、私も医師を志すようなことにはならなかっただろう。
だから私は引かざるを得ない。
家族に出会えて、幸せを手にした私は引っ込んでいるべきなんだ。
悲しいほどに、彼という存在が理解出来てしまった。
私は納得して、少し頭を下げてその場を後にする。
少し残念だが仕方ない思いつつ、軍の訓練所から帰路に着こうとしたところで。
「クリアちゃん、ちょっといい?」
私はクロウさんの恋人で凄腕魔道具技師のセツナさんに声をかけられる。
「盗み聞きするつもりはなかったんだけど、公都落としに参加したいならこれ使って」
そう言ってセツナさんは私に魔道具を渡す。
「これって……」
「『小型長距離転移結晶・改』転移先を任意で決められて転移から二分間、物理障壁と魔法障壁を展開するので転移先の障害を気にしなくて良い。わりとこのサイズに収めるの大変だったのよ」
戸惑う私にニコニコしながらセツナさんは説明する。
「…………でも先程、クロウさんには完膚なきまでに止められてしまっているので……ありがたいのですがこれは――」
「クロウ君は止めただけでしょう? 行くか行かないかは貴女が決めることよ。クリアちゃん」
私が魔道具を返そうとしたところで、セツナさんは受け取らずに、当たり前のようにそう言った。
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