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第一部21・勇者とは勇敢な者であり強いかどうかは関係がない。【全10節】

06世界を正しい姿に戻す。

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「ああメリッサか、なんか前も似たようなタイミングだったね。前回は姉弟喧嘩だったけど今回は……、憂さ晴らしだ。

 私の声に反応してゆっくり振り返り、真っ黒な瞳を真っ黒な炎で焦がしながら、昔と同じような穏やかな口調で返す。

 空気が乾くほどの殺意が滲み出ている。

 クロウさんは本気で言っている。

「……ポピーッ!」
「オッケェイ!」

 私はポピーに鬼神スノウを転移するように促すと、ほぼ同時にポピーは転移魔法を使って応える。

 鬼神スノウが消えた瞬間、その場所に『棒ヤスリ』が突き刺さった。

「あらら、まあ仕方ないか……。確かにこの状況を見たらそう動くのが自然だよ。でも多分クローバー家の姉さんは鮮やかに死ぬことを美学にしていたからスキルという価値観がまだ存在しているうちに死ねた方が良かったとは思うけど、メリッサは間違ってないよ。正義感のある行動だったね、偉いよ」

 柔らかい笑顔で『棒ヤスリ』を地面から引き抜いて空間魔法に仕舞いながら私に向けて言う。

「……何が目的なんだ? この公都襲撃がクロウさんが仕組んだってどういうことなんだ? 自分の姉を殺そうとしたり……、あんたは何がしたいんだよ‼」

 私はクロウさんに声を荒らげながら尋ねる。

 だが、別に私はそれほどクロウさんの動機に興味があるわけでもない。
 クロウさんは私を舐め腐っている。いつでも畳めるし私がクロウさんに挑むなんてことがないと思っている。
 だからこんな会話にも乗ってくる。

 この時間を使って私は魔力を練り上げて準備をする。

「そうかガクラからの伝言を聞いたのか、ってことは第一強襲制圧部隊を退けてきたんだね。本当に凄いな強くなった……、ああごめんごめん、目的だったね」

 クロウさんはしみじみと私たちを見て納得するようにそういって優しく語り出す。

「僕の目的はこの世界からスキルとステータスウインドウと魔物などのシステムを消し去ること。大昔に異世界転生者がスキルやら魔物やらを生み出す装置をこの地の地下二万メートルに作った。それを掘って壊すために軍や騎士団を抑えておく必要があったんだ」

 淡々と荒唐無稽な話を始めた。

 は? 何だこの話……、馬鹿にしているの?

「…………び、ビリーバーが造ったものが、この国の地下に…………?」

 クライスが驚愕しながらそう洩らす。

「……へえ、なるほど君は教会関係の人か。そうか、信仰の方からでも歴史を辿れば情報があったのか……。その通り、デイドリームというかサプライズモア時代のビリーバーたちが元々ここらへんの土地は魔力が濃かったから土地の魔力を使うために地下に造った。そしたら魔力が吸われすぎて逆に魔物が湧かなくなったから人が住み始めて旧セブン王国が出来た、みたいな感じ……まあそれは置いといて」

 クライスの言葉に嬉々としてクロウさんは返すが、話を戻そうとする。

 え、なに? マジなの……?
 異世界転生者……?
 スキルや魔物を消す……って、そんなこと……。

「スキルを無くした場合、このセブン公国は混乱に陥る。それを帝国であればしっかりと統治することができる、他の国に落とされるよりは絶対に帝国が良いと思う。メリッサもトーンの町を見たんだろう? 彼らは変に隷属させたり虐げたりはしない」

 私の疑問をよそに、淡々と話を続ける。

 確かに……、トーンの町は安定していた。
 なんならしっかりと帝国軍が魔物から守ってくれる分、前より安定しているまであった。

 大陸一の大国を上手く統治する政治は、全然よくわからないけど確かに優秀だ。

「それに……、強力なスキルを持って生まれた君たちも公国のスキル至上主義に人生を振り回されたこともあっただろう。良いこともあったかもしれない、でもそうじゃあないこともあったはずだ。その最たる例として『無効化』を持つ人々の非人道的管理体制が挙げられる」

 語りは続く。

 これも各々が色々と思い当たることがある。
 まあ、私は元々『盗賊』だったから少しみんなとは違うけど、三人は私より思うところがあるだろう。

 それに『箱』の話を聞いた私は『無効化』に対する非人道的管理体制についても思うところは出てきている。

「でも苛烈な魔物との生存競争にはスキルやステータスウインドウが必要……ということは同時に魔物が消えれば不要だ。人が人として人の世界で生きていくのにこんなもは必要ない、そもそもこの世界にはなかったもので異世界転生者……ビリーバーすらも不本意に造ったシステムなんだ」

 やや眉をひそめて続き。

姿

 力強くそう言ってクロウさんは語り終える。
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