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第一部21・勇者とは勇敢な者であり強いかどうかは関係がない。【全10節】

07これで同速。

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 まずい……。
 正直話の正誤はわからないし、どうだっていいんだけど。

 想像以上に、クロウさんは大義を持って大きいものを背負ってこの場に居る。

 実の姉を殺してでも、進もうとしている。

 まあ何かあるとは思ってたというか、誰だって何かはある。
 でも、思ってたより何かあったな……。

「いや話がなげえよ、おっさん。テメーの垂れ目見てたら眠くなっちまっただろ馬鹿。……言ったれメリッサ、俺たちが何をしに来たかよお!」

 少したじろぐ私に、ダイルが茶化すように私へと振る。

 

 別に大義だろうと何だろうと関係なかった。

「クロウさん……、私は馬鹿だからクロウさんがやろうとしてるのが正義なのか悪なのかもわからない……、つーか…………、知らねえ!」

 私はぐつぐつと心の熱が身体の中を焼いて燃えていくのを感じながら、クロウさんに返し。

‼」

 そう言って目から炎が溢れ出す。

 そして、言い終わりと同時。

 私は練り上げた魔力で、を発動させる。

 これは擬似加速の改良型である、擬似加速改をパーティメンバー全員に掛ける、対クロウさん用に造り出した新魔法だ。

 当初の擬似加速は身体強化や反射神経や思考速度を上げることだけにフォーカスした魔法だったが、自由落下時などの自分の力だけではどうしようもない部分での加速に対応していなかった。

 そこを空間や重力、そして時間など、概念にも干渉を及ぼすように改修したのが擬似加速改だ。

 その擬似加速改を、他者にも影響を及ぼすように有効範囲を拡大させたのがこの、集団擬似加速改である。

 かなりの魔力を消費し、練り込まなくちゃならないが。

 

 クロウさんも同時に『超加速』を発動し、音すらも歪む超高速の世界で驚きの表情を見せる。

 この集団擬似加速改は多少慣れが必要だし発動中は音より速く動いてしまう為に発声ができなかったり使えなくなる魔法も存在はするが、基本的な動作や体感的な部分に差異はない。

 いくら『勇者』で飛躍的に底上げされた魔力量とはいえ、効果時間は時間にすると長くても四十秒ほどだが、それはあくまでも現実の時間であり加速するこの世界での体感は何十倍も長い。

 つまり、この数ヶ月間鍛えた成果をたっぷりまるっとそのままぶつけることが出来る。

 先陣を切ってダイルが双剣を握って突っ込む。
 ブライに影響を受けた結果、ダイルは双剣を好んで使うようになった。

 ダイルの厳しい連撃を躱しながら、空間魔法から『棒ヤスリ』を取り出してポピーに投げる。

 ダイルはしっかりと反応して剣で弾き、ポピーも返しで光線魔法を放つ。

 クロウさんは光線魔法をバリィのように魔力導線で捻じ曲げて私に向けて牽制し、真っ直ぐにクライスへ迫る。

 想定通り、クロウさんはセオリー通りに回復役から狙いに行った。

 だがクライスは棍を使って器用にクロウさんをいなす。
 バリィの影響を受けた結果、クライスは合気杖術ベースに棍を使うようになった。

 落とされないことだけに注力するクライスを落とすのは、ブライですら手こずる。

 即断即決で早々にクライスには見切りをつけて、クロウさんはぬるりと流れをそのままにポピーを狙う。

 慌てず引かず動じずポピーはどっしりと構えて光線を的確に乱射する。
 ブラキスに影響を受けた結果、ポピーは仲間の援護を信じる胆力を手に入れた。

 私がすぐにカバーに入って光線魔法を避けるクロウさんに厳しくナイフを振り、ダイルも攻めを切れさせないように双剣を振る。

 クロウさんは鋭いステップでダイルを使って魔法の斜線を切りながら距離を取り。

 空間魔法から直接『棒ヤスリ』を大量に超高速で射出する。

 弾幕。
 あんな使いづらい馬鹿な武器をこんなに大量に造ってたのか……っ。

 私がナイフで弾こうと構えるより速く、ダイルが前に出る。

 とてつもない反応速度で『棒ヤスリ』を双剣で弾いていく。

 完璧な迎撃、いやマジにダイルは強くなった。
 惚れるかどうかは置いといて、頼りになる前衛だ。
 『超高速』を用いて加速した世界の中でも尚速く迫る『棒ヤスリ』を一切後ろに通さないように弾き続けた。
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