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第一部番外・だから東に昇って西に沈んだ。【全45節】
27その方が楽だから。
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「というか、スキルの優劣とかってどう決めてんの? どう考えても私の『復元』よりクロウの『加速』の方が便利で強力だと思うけど」
キャミィは俺のマフラーを捻って三つ編みにしながら問う。いやいいけど後で解けよ……、ダマがあると背中に当たって痛いんだから。
「クロウは例に出すなよ。アレは規格外だ。そもそも『加速』ってスキルは、あんな現象を起こすようなものじゃあねえ。どの文献でもちょっと速さに関わるステ値にだけ補正が入る程度だとされている。実際にクロウ以外の『加速』持ちに会ったこともあるが、少なくともアカカゲの『忍者』やメリッサの『盗賊』より利便性は劣る。アレはスキルに対する理解度と、スキル以外の身体操作や魔力や魔法に対する……深度というか……そういうのが決定的に違う、アレは世界からズレ過ぎていて世界に見つかってないだけの怪物だ」
ジスタは馬車の先頭で馬を操りながら、振り返ってつらつらと語る。いや前を見ろ馬鹿。
まあ確かに。
今はもう『超加速』へと覚醒しているが、覚醒する前からとんでもなかった。
アレは『加速』が云々で片付く強さじゃあない。
人の形をしているだけの怪物だ。
「クロウは抜きにしても、スキルの評価は主に対魔物戦での有用性で決められている。そもそも魔物への対抗策として神がスキルを人に与えたとされているしね。単純に武器や魔法での火力だったり、魔物に襲われた際の生存率向上……まあ回復能力とか、それらを支える食料や武器などの生産性とか、まあそんなところかな」
シードッグはおにぎり片手にそう語る。つーかまだ食うのか、さっき昼飯食ったろ。
「本当に馬鹿。だからこの国の信仰は嫌いなのよ。別に火力も回復役も生産性も、そこそこの適正があれば後は努力と根性じゃない。なんでスキルなんてよくわかんないもんで色々決めてんのよ……」
キャミィは言葉にやや力を込める。
「その方が楽だからだ……。この国は全てを魔物のせいにしてスキルやステータスという分かりやすい評価基準に依存する。そもそも優秀なスキルとやらが対魔物を基準にしているのなら、ご自慢の優秀なスキルで貴族共が前線にて大討伐を行うべきなはずだが楽をする為に信仰を曲解し、スキル至上主義へとすり替えた結果、こんな馬鹿がまかり通る国家になった」
テラは本を閉じて淡々とキャミィに答える。
「まあここまで徹底したスキル至上主義はこの国くらいだよ。ライト帝国も基本的には同じような信仰だけど、信仰心が薄いというか曲解はしていない。対魔物用に神がスキルを与えた……はいはいまあそうなんだろうね~くらいの認識だ。帝国は古くからスキルやステータスはあくまでも生きる上で単なる要素の一つとして考えられている。帝国史はあまり詳しくないけど、多分スキルに頼らずとも魔物討伐で成果を上げた者や帝国の発展に大きく貢献した者が居たんだろう」
シードッグはおにぎりを平らげてお茶を飲みながら、つらつらと語る。
「まあつまりこの国は馬鹿が小賢しい保身を覚えて、信仰やら魔物被害を上手く使って自分たちはなるべく安全に富を貪るって感じなのに、なんだかんだ上手く回っちまってる国なんだ。だからあんま気にし過ぎんな、別に俺たちは正義の味方でもこの国の未来を担ってるわけでもねえ。田舎で日銭を稼いで美味い飯食って美味い酒飲んでりゃあ良いんだよ」
ミラルドンは狭い馬車の中で器用に納刀しながら、軽口を叩くように語る。
そんな話をしつつ、野営や途中の町での宿泊を挟みつつ。
九日後。
セブン公国は西、シャーストの街へと辿り着いた。
街は住民の避難が進んでいるようで閑散としていた。
人気のない街を進み、軍の拠点で合流を報告し。
軍が用意した宿へと腰を下ろした。
「あー疲れた……、馬車は飽きたな。とりあえず今日は軽く飲んでサクッと寝る。アカカゲ、酒だ」
宿併設の食堂で丸テーブルを囲んだところで、ジスタが背もたれに身体を預けながら気だるそうにそう言う。
「空間魔法」
俺は空間領域からトーンの酒のボトルを適当に何本か放り投げる。
「こりゃ帰りも公都に着いたらクロウを呼ぼう。まーじで馬車旅はダルすぎる」
グラスに空中でキャッチした酒を注ぎながらミラルドンは言う。
「いやどっかで『通信結晶』借りて、転移先さえ指示すればここに迎えに来るんじゃないか?」
ミラルドンにグラスを向けながらシードッグが言う。
「馬はどうする? 公都に返しに行かなくてはならんぞ」
ジスタから酒瓶を受け取りながらテラが返す。
「なんか適当に公都へ帰るヤツらに馬を押し付けちまえばいいんじゃねえか?」
注いだ酒を煽りながらジスタは言う。
「それ規約とか大丈夫なの? だったら軍を上手く使って、徴収って感じで持ってって貰えば文句ないんじゃない?」
キャミィはテラに酒を注がれながら提案をする。
みんなそんなに馬車旅が嫌だったのか……。
俺はちょっと楽しかったが……、まあ閉鎖環境訓練やどんなところでも寝れるような訓練をしていないと少しキツイか。
なんて考えながらシードッグから回ってきた酒をグラスに注いでいたところに。
「お! すっげえいい女連れてんじゃねえか! こっち来て俺たちにも酒注げよっ!」
小汚い野郎共が、乱暴にそう言いながら近寄ってきた。
キャミィは俺のマフラーを捻って三つ編みにしながら問う。いやいいけど後で解けよ……、ダマがあると背中に当たって痛いんだから。
「クロウは例に出すなよ。アレは規格外だ。そもそも『加速』ってスキルは、あんな現象を起こすようなものじゃあねえ。どの文献でもちょっと速さに関わるステ値にだけ補正が入る程度だとされている。実際にクロウ以外の『加速』持ちに会ったこともあるが、少なくともアカカゲの『忍者』やメリッサの『盗賊』より利便性は劣る。アレはスキルに対する理解度と、スキル以外の身体操作や魔力や魔法に対する……深度というか……そういうのが決定的に違う、アレは世界からズレ過ぎていて世界に見つかってないだけの怪物だ」
ジスタは馬車の先頭で馬を操りながら、振り返ってつらつらと語る。いや前を見ろ馬鹿。
まあ確かに。
今はもう『超加速』へと覚醒しているが、覚醒する前からとんでもなかった。
アレは『加速』が云々で片付く強さじゃあない。
人の形をしているだけの怪物だ。
「クロウは抜きにしても、スキルの評価は主に対魔物戦での有用性で決められている。そもそも魔物への対抗策として神がスキルを人に与えたとされているしね。単純に武器や魔法での火力だったり、魔物に襲われた際の生存率向上……まあ回復能力とか、それらを支える食料や武器などの生産性とか、まあそんなところかな」
シードッグはおにぎり片手にそう語る。つーかまだ食うのか、さっき昼飯食ったろ。
「本当に馬鹿。だからこの国の信仰は嫌いなのよ。別に火力も回復役も生産性も、そこそこの適正があれば後は努力と根性じゃない。なんでスキルなんてよくわかんないもんで色々決めてんのよ……」
キャミィは言葉にやや力を込める。
「その方が楽だからだ……。この国は全てを魔物のせいにしてスキルやステータスという分かりやすい評価基準に依存する。そもそも優秀なスキルとやらが対魔物を基準にしているのなら、ご自慢の優秀なスキルで貴族共が前線にて大討伐を行うべきなはずだが楽をする為に信仰を曲解し、スキル至上主義へとすり替えた結果、こんな馬鹿がまかり通る国家になった」
テラは本を閉じて淡々とキャミィに答える。
「まあここまで徹底したスキル至上主義はこの国くらいだよ。ライト帝国も基本的には同じような信仰だけど、信仰心が薄いというか曲解はしていない。対魔物用に神がスキルを与えた……はいはいまあそうなんだろうね~くらいの認識だ。帝国は古くからスキルやステータスはあくまでも生きる上で単なる要素の一つとして考えられている。帝国史はあまり詳しくないけど、多分スキルに頼らずとも魔物討伐で成果を上げた者や帝国の発展に大きく貢献した者が居たんだろう」
シードッグはおにぎりを平らげてお茶を飲みながら、つらつらと語る。
「まあつまりこの国は馬鹿が小賢しい保身を覚えて、信仰やら魔物被害を上手く使って自分たちはなるべく安全に富を貪るって感じなのに、なんだかんだ上手く回っちまってる国なんだ。だからあんま気にし過ぎんな、別に俺たちは正義の味方でもこの国の未来を担ってるわけでもねえ。田舎で日銭を稼いで美味い飯食って美味い酒飲んでりゃあ良いんだよ」
ミラルドンは狭い馬車の中で器用に納刀しながら、軽口を叩くように語る。
そんな話をしつつ、野営や途中の町での宿泊を挟みつつ。
九日後。
セブン公国は西、シャーストの街へと辿り着いた。
街は住民の避難が進んでいるようで閑散としていた。
人気のない街を進み、軍の拠点で合流を報告し。
軍が用意した宿へと腰を下ろした。
「あー疲れた……、馬車は飽きたな。とりあえず今日は軽く飲んでサクッと寝る。アカカゲ、酒だ」
宿併設の食堂で丸テーブルを囲んだところで、ジスタが背もたれに身体を預けながら気だるそうにそう言う。
「空間魔法」
俺は空間領域からトーンの酒のボトルを適当に何本か放り投げる。
「こりゃ帰りも公都に着いたらクロウを呼ぼう。まーじで馬車旅はダルすぎる」
グラスに空中でキャッチした酒を注ぎながらミラルドンは言う。
「いやどっかで『通信結晶』借りて、転移先さえ指示すればここに迎えに来るんじゃないか?」
ミラルドンにグラスを向けながらシードッグが言う。
「馬はどうする? 公都に返しに行かなくてはならんぞ」
ジスタから酒瓶を受け取りながらテラが返す。
「なんか適当に公都へ帰るヤツらに馬を押し付けちまえばいいんじゃねえか?」
注いだ酒を煽りながらジスタは言う。
「それ規約とか大丈夫なの? だったら軍を上手く使って、徴収って感じで持ってって貰えば文句ないんじゃない?」
キャミィはテラに酒を注がれながら提案をする。
みんなそんなに馬車旅が嫌だったのか……。
俺はちょっと楽しかったが……、まあ閉鎖環境訓練やどんなところでも寝れるような訓練をしていないと少しキツイか。
なんて考えながらシードッグから回ってきた酒をグラスに注いでいたところに。
「お! すっげえいい女連れてんじゃねえか! こっち来て俺たちにも酒注げよっ!」
小汚い野郎共が、乱暴にそう言いながら近寄ってきた。
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