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第一部番外・だから東に昇って西に沈んだ。【全45節】
35わかった。
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「ぶっ殺しちまうか? 騎士団いなくなりゃあ、そんな馬鹿言うやついなくなるだろ。騎士の一人や二人、俺らのパーティでぶっ殺してきてやるよ」
と、他パーティのリーダーであるドラムが馬鹿な提案をする。
「やめとけ馬鹿。おめーらじゃ騎士相手は無理だ。あいつらは糞馬鹿ゴミ虫だが、スキルの効果や補正は相当なもんだからな」
ジスタはすぐにドラムへと言う。
ちなみにドラムのパーティは俺らの中じゃ一番血の気が多く喧嘩っ早いが一番喧嘩が弱い。キャミィ一人でもパーティ全員を畳めてしまうレベルだ。
しかも馬鹿だ。
ここにいる騎士を殺したところで、公都から代わりの騎士が来るだけ……いや?
流石に何回か殺したら、比較的マシな騎士が総指揮を取りにくることもあるんじゃないか?
とりあえず今いる騎士を暗殺して、ごたついているところで進捗の話だとかを有耶無耶にして休養や補給を行い安全に大討伐作戦を進行できる。
…………アリか? 俺なら完全な事故死に見せかけた暗殺も出来る。疲れてはいるが、正直魔物と戦うより全然殺人の方が容易い。
俺は相手が人間であれば誰でも殺せる。
殺人と戦闘は違う、全くの別物だ。
確かに俺の対人戦闘能力は過不足ない自己評価でも、低くはない。一応ギリギリだがブライともやり合える程度には戦える。
だが決して最強でもないし無敵でもない。魔法使いだったり単純に俺より技量の高い奴だったり相性が悪ければ簡単に負けるし、勝てる見込みもない。
でも、殺すだけでいいなら魔法使いだろうが俺より強かろうが相性が悪かろうが殺せる。
シンプルに寝首を掻たり食事に毒を入れたり会話中に脳幹を撃ち抜いたり崖に突き落としたり、まあ殺すだけならいくらでもやりようがある。人間はそれだけで死ぬ。
まあクロウのようにそもそも人間の域を超えていたり、暗殺者としてナンセンスな好意を覚えたことによってトーンの仲間たちは殺せないが。
騎士か……、とりあえず何人か適当に殺してみる――――。
「やめろアカカゲ! つーかコソコソしてねえで降りてこい馬鹿野郎ッ‼」
俺の思考を遮るようにジスタが怒鳴る。
バレてたのかよ……。
確かに殺気は滲んだが……まあ後ろを見ないで前衛から気配だけで連携を把握して指示を出すジスタなら俺の気配を感知するなんてのは造作もないか。
俺は偽無詠唱の多重空間魔法で、天井をすり抜けるように入室する。
突然現れた俺に、ジスタとシードッグ以外は驚きの表情を見せる。
「…………俺がしくじるとでも……?」
俺はジスタに返す。
「いや、おまえはしくじらねえとは思う。だが騎士団というか貴族ってのは思った以上に馬鹿なくせに性格が悪い方向には半端に賢しくて有能なんだ。『追跡者』や『探偵』持ちを使って残留魔力などの僅かな痕跡から探し出して来るし、家族や故郷などの外堀に圧力をかけてくる」
ジスタはつらつらと俺に答える。
「アカカゲ、極端な話おまえや俺たちには家族もいないし故郷もないしトーンが狙われたとしてもクロウが居る限りトーンがどうこうなること絶対にない。だが……、キャミィは違う」
シードッグの語りに、俺はハッとさせられる。
そうだ、故郷も家族もない俺と違ってキャミィには故郷に家族がいる。
貴族に手を出しても無事に生き延びる為には、故郷も家族も名前も捨てて東の果てで暮らしていて、恋人という弱点が最速の怪物で心配の必要がないセツナみたいな奴くらいだ。
そもそも俺も、キャミィを狙われたらどうしようもない。
そんなことをされたら、この国から人がいなくなるまで人を殺すことになる。現実的には無理だが、多分俺は死ぬまでその為だけに動き続ける殺人用自動人形となるだろう。
それは……、嫌だな。
「……もう一度、今からこちらで各戦力から導き出した討伐計画を纏めて上告することは出来ないのか?」
シードッグはナントカに提案をするも。
「…………既に我々が纏めた報告書は……っ、目の前で燃やされている。会話は……成立しない、これは決定事項だ」
ナントカは下唇を噛んで震えながら返す。
怒りと殺意を封じきれずに漏れ出している。
相当食い下がったんだ。
馬鹿との会話は、マジでしんどい。
知能指数の低さに自覚的で、馬鹿だとわかっている馬鹿との会話も疲れるが。
自覚すら出来ない、自身の足りない知能で捉えた世界を常識としてしまう本物の馬鹿とは会話が成立しない。
暖簾に腕押しというか、馬の耳に念仏というか、ぬか床に釘というか、虚無だ。
基本的にはそんな馬鹿は、死ぬまで治らないと無視して生きていけばいい。
自覚的でない本物の馬鹿は、そんな風に扱われていることにすら気づけないのだから切り捨ててしまえばいい。
だが、時に社会ってのにはそんな馬鹿と向き合わなきゃならない場面が必ず存在する。
それが今ここにぶち当たるか……、スキル至上主義の生んだ愚かさのしわ寄せがこんなところに影響してくるとは……。
「…………わかった。とりあえず明日は何とか乗り切るぞ」
眉をひそめて考えていたジスタが口を開く。
と、他パーティのリーダーであるドラムが馬鹿な提案をする。
「やめとけ馬鹿。おめーらじゃ騎士相手は無理だ。あいつらは糞馬鹿ゴミ虫だが、スキルの効果や補正は相当なもんだからな」
ジスタはすぐにドラムへと言う。
ちなみにドラムのパーティは俺らの中じゃ一番血の気が多く喧嘩っ早いが一番喧嘩が弱い。キャミィ一人でもパーティ全員を畳めてしまうレベルだ。
しかも馬鹿だ。
ここにいる騎士を殺したところで、公都から代わりの騎士が来るだけ……いや?
流石に何回か殺したら、比較的マシな騎士が総指揮を取りにくることもあるんじゃないか?
とりあえず今いる騎士を暗殺して、ごたついているところで進捗の話だとかを有耶無耶にして休養や補給を行い安全に大討伐作戦を進行できる。
…………アリか? 俺なら完全な事故死に見せかけた暗殺も出来る。疲れてはいるが、正直魔物と戦うより全然殺人の方が容易い。
俺は相手が人間であれば誰でも殺せる。
殺人と戦闘は違う、全くの別物だ。
確かに俺の対人戦闘能力は過不足ない自己評価でも、低くはない。一応ギリギリだがブライともやり合える程度には戦える。
だが決して最強でもないし無敵でもない。魔法使いだったり単純に俺より技量の高い奴だったり相性が悪ければ簡単に負けるし、勝てる見込みもない。
でも、殺すだけでいいなら魔法使いだろうが俺より強かろうが相性が悪かろうが殺せる。
シンプルに寝首を掻たり食事に毒を入れたり会話中に脳幹を撃ち抜いたり崖に突き落としたり、まあ殺すだけならいくらでもやりようがある。人間はそれだけで死ぬ。
まあクロウのようにそもそも人間の域を超えていたり、暗殺者としてナンセンスな好意を覚えたことによってトーンの仲間たちは殺せないが。
騎士か……、とりあえず何人か適当に殺してみる――――。
「やめろアカカゲ! つーかコソコソしてねえで降りてこい馬鹿野郎ッ‼」
俺の思考を遮るようにジスタが怒鳴る。
バレてたのかよ……。
確かに殺気は滲んだが……まあ後ろを見ないで前衛から気配だけで連携を把握して指示を出すジスタなら俺の気配を感知するなんてのは造作もないか。
俺は偽無詠唱の多重空間魔法で、天井をすり抜けるように入室する。
突然現れた俺に、ジスタとシードッグ以外は驚きの表情を見せる。
「…………俺がしくじるとでも……?」
俺はジスタに返す。
「いや、おまえはしくじらねえとは思う。だが騎士団というか貴族ってのは思った以上に馬鹿なくせに性格が悪い方向には半端に賢しくて有能なんだ。『追跡者』や『探偵』持ちを使って残留魔力などの僅かな痕跡から探し出して来るし、家族や故郷などの外堀に圧力をかけてくる」
ジスタはつらつらと俺に答える。
「アカカゲ、極端な話おまえや俺たちには家族もいないし故郷もないしトーンが狙われたとしてもクロウが居る限りトーンがどうこうなること絶対にない。だが……、キャミィは違う」
シードッグの語りに、俺はハッとさせられる。
そうだ、故郷も家族もない俺と違ってキャミィには故郷に家族がいる。
貴族に手を出しても無事に生き延びる為には、故郷も家族も名前も捨てて東の果てで暮らしていて、恋人という弱点が最速の怪物で心配の必要がないセツナみたいな奴くらいだ。
そもそも俺も、キャミィを狙われたらどうしようもない。
そんなことをされたら、この国から人がいなくなるまで人を殺すことになる。現実的には無理だが、多分俺は死ぬまでその為だけに動き続ける殺人用自動人形となるだろう。
それは……、嫌だな。
「……もう一度、今からこちらで各戦力から導き出した討伐計画を纏めて上告することは出来ないのか?」
シードッグはナントカに提案をするも。
「…………既に我々が纏めた報告書は……っ、目の前で燃やされている。会話は……成立しない、これは決定事項だ」
ナントカは下唇を噛んで震えながら返す。
怒りと殺意を封じきれずに漏れ出している。
相当食い下がったんだ。
馬鹿との会話は、マジでしんどい。
知能指数の低さに自覚的で、馬鹿だとわかっている馬鹿との会話も疲れるが。
自覚すら出来ない、自身の足りない知能で捉えた世界を常識としてしまう本物の馬鹿とは会話が成立しない。
暖簾に腕押しというか、馬の耳に念仏というか、ぬか床に釘というか、虚無だ。
基本的にはそんな馬鹿は、死ぬまで治らないと無視して生きていけばいい。
自覚的でない本物の馬鹿は、そんな風に扱われていることにすら気づけないのだから切り捨ててしまえばいい。
だが、時に社会ってのにはそんな馬鹿と向き合わなきゃならない場面が必ず存在する。
それが今ここにぶち当たるか……、スキル至上主義の生んだ愚かさのしわ寄せがこんなところに影響してくるとは……。
「…………わかった。とりあえず明日は何とか乗り切るぞ」
眉をひそめて考えていたジスタが口を開く。
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