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第二部9・自覚のない狂気は稀に奇跡を起こすこともある。【全6節】

06聞き覚えのない声と共に。

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 私は『赤』に魔力操糸を通じて、攻撃指示を出す。

 すると『赤』は戦闘経験値に基づいて自律的に攻撃を行う。

 空間魔法から棒手裏剣を取り出して投げつけて、躱す為に行った目視転移の先を短刀で狙う。

 近接で張り付いて、的確に急所を狙って短刀や徒手空拳で攻め立てる。

 あれだけ接近されると物理障壁でも上手く守りきれない……『赤』の残留思念の持ち主は魔法戦は得意としなかったようです。

 でも【大変革】より前の人であれば魔法を自在に使うのは難しいと考えて、人口声帯で詠唱などの発声も行えるように作っているのですが……。

 何故か空間魔法や身体強化は無詠唱で使用します。
 まあしかし魔法は基本的にその二種と、攻撃には足りえない火系統の魔法を少ししか使えないようです。

 その代わり、卓越した近接技量を持つ。
 昔の人って強かったんだなぁってしみじみ思ってしまいます。

 近接攻撃に致命傷はないにしろ少しずつ削られることに業を煮やしたチャコール氏は目視転移で上空に跳んで浮遊魔法でビタリと止まり、空中から私に向けて光線魔法を放つ。

「――――っ!」

 私は咄嗟に的を絞らせないように駆け出して、武具召喚で人形を喚び出す。

 これは普通の完全操作型の人形。
 とはいえ、対魔法用のコーティングは最低限されています。

 冷静に……、人形は身代わりとして使う。

 空中という安全領域からの本体である私への遠距離攻撃、私は浮遊や飛行の魔法は使えないし『赤』も飛べないのでかなり的確です。

 

 私を出した人形が、光線魔法に破壊されている隙に。

 『赤』

 これはセブン地域予選にもいたレイト流の戦い方に非常に似ています。もしかするとレイト流に縁のある人物の残留思念なのかもしれません。

「――――ッ⁉」

 チャコール氏は咄嗟に空中で身をよじって短刀を躱すも、肩口から背中を思いっきり斬り裂かれる。

 注意が『赤』に向いたところで、私は五連光線魔法をチャコール氏に向けて放つ。

 魔力操糸はかなり光線魔法に近いので、私も使えます。

 チャコール氏やファイブ選手ほどの威力はないし、魔力量的にも乱射は出来ないけど魔力操糸で鍛えた操作力で当てることは出来ます。

 私の光線魔法は魔力導線で弾かれるが、チャコール氏の注意が私へと向く。

 いいの? 私を見ても、私は弱いのに。

 私を見た隙を狙って『赤』が空間魔法の出入口を通って、腋窩動脈へ短刀を滑らせる。

 当たるか当たらないかの瞬間。

 チャコール氏は私の目の前に、転移で跳んできた。

 あ、

 全ては『赤』と私の距離を離す為の動きだったんだ。

 ダメだ『赤』には攻撃指示を出したままです。本体防御のための動きはしません。

 それに、この斧の一振りを耐えるような防御魔法を私は使えません。

 詰みってやつですね。

 私は迫り来る大斧を受け入れ――――――。

「………‼」

 そんな聞き覚えのない声と共に。

 とてつもない速さで私とチャコール氏の間に割って入り、地面に倒れ込むような蹴りでチャコール氏の斧を弾く。

「……⁉」

 チャコール氏は驚いて、即座に距離を取る。

「……ブラキス、てめえイカレてんのか? に向けて斧振り回して…………、誰に手え出してんだ馬鹿筋肉ダルマが」

 そのまま割り込んだ人影……いや。

「てめえは畳んで、ギルドに吊るす。その後バリィとリコーも連帯責任で、畳む!」

 『赤』は目からゆらりと赤い炎を漏らしながら流暢に、まるで人のように、そう言った。
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