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第二部10・思いもよらぬ奇跡は感動よりも動揺が先にやってくる。【全6節】
01聞き覚えのある声と共に。
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俺、バリィ・バルーンは…………まあそんなことはどうでもいい。
「……あ、アカカゲじゃねえか…………っ」
俺は旧友の名前を口にする。
今日は全帝国総合戦闘競技選手権大会の、第二回戦が行われる日。
愛娘に弟分の子と親友の子が出るということで、流石に見に来た。
弟分の夫婦も親友の夫婦も理由は違うがあんまり自由には動けない事情があるので、何のしがらみもないただの夫婦である俺たちは仕事を休んで観客席から大して興味のない模擬戦モドキを眺めていた。
んで、チャコの試合ということで喫煙所には行かずに一応ちゃんと見ていたんだが……。
最初は談合でもしてるんじゃないかと思うような無駄な三十秒ほどの膠着状態が気になりはしたが、対戦相手のソフィアが出した人形に驚いてどうでもよくなった。
赤髪に赤いマフラー、短刀や棒手裏剣に空間魔法。
旧友のアカカゲ・ブラッドムーンにそっくりな人形を使って戦い始めた。
顔とかは無機質でアカカゲみたいなマネキン人形が器用に動いている気味の悪さはあったが、面白い戦い方だと思った。
まあ、恐らくアカカゲをモデルに作ったというよりアカカゲが暮らしていたという隠れ里の暗殺者たちの情報をどこかから見つけ出してモデルにしたのだろう。
それなら格好とか武器とか戦い方がアカカゲに似るのはわかる。
そんな話をリコーとしながら試合を眺めていた。
いやしかし……見れば見るほどアカカゲに見えた。気味が悪いほどにアカカゲっぽかった。
そしてアカカゲ人形とソフィア嬢のなかなかな連携でまあまあチャコが無様にやられていたところで。
アカカゲ人形とソフィア嬢の引き離しに成功し、筋肉転移によるチャコの一撃必殺が決まろうとした。
その瞬間。
「………なぁぁぁにやってんだブラキィィィイスッ‼」
そんな聞き覚えのある声と共に。
とてつもない速さでソフィア嬢とチャコの間に割って入り、躰道の卍蹴りのかたちでチャコーの大斧を蹴り弾いて。
「……ブラキス、てめえイカレてんのか? キャミィに向けて斧振り回して…………、誰に手え出してんだ馬鹿筋肉ダルマが」
そんな、二十年以上前にさんざっぱら聞いたようなことを言って。
「てめえは畳んで、ギルドに吊るす。その後バリィとリコーも連帯責任で、畳む!」
顔も声も口調も何もかもアカカゲになった人形は、アカカゲみたいな啖呵を切ったのだった。
そりゃあ驚くだろ。
アカカゲは二十年前の【西の大討伐】で死んだ。
それが……。
「……ねえ、あれってアカカゲ……よね? 私たちの名前も出して……どういうこと?」
妻のリコーが震えた声で俺に尋ねる。
……考えるか、分析は俺の役割だ。思考を加速させる。
とりあえず、ありゃあ間違いなくアカカゲだ。
無機質な顔から、血色の良い人肌になっているし目玉もしっかり赤眼で赤く燃えてやがる。
他人でも死人でもなく、アカカゲだ……しかも二十年の、あの頃のままのアカカゲでしかない。
実は生きていて人形の中に入ってたとか、実は隠し子がいて人形の中に入ってたとかじゃあねえ。
生きていたのならアカカゲは四十過ぎだし、隠し子を産むとしたらキャミィしかない。あいつが他所に女を作るような甲斐性はなかったし、基本的にいつもキャミィと一緒だった。
アカカゲは死んだ。
じゃあありゃあなんだ?
いや、他ならぬソフィア嬢が言っていたか……。
残留思念魔力変換機構搭載型半自律行動戦闘用『自動人形』通称『赤』。
試合中の発言は格技場に取り付けられている『集音魔動装置』で観客席に聴こえるようになっている。今はだいぶ減ったが詠唱ありの魔法を使った時に詠唱も聞こえるようにされている。
要は、ありゃあ魔動兵器の類い。
しかも最新鋭の、自律行動を行うまさに『自動人形』だ。
「……あ、アカカゲじゃねえか…………っ」
俺は旧友の名前を口にする。
今日は全帝国総合戦闘競技選手権大会の、第二回戦が行われる日。
愛娘に弟分の子と親友の子が出るということで、流石に見に来た。
弟分の夫婦も親友の夫婦も理由は違うがあんまり自由には動けない事情があるので、何のしがらみもないただの夫婦である俺たちは仕事を休んで観客席から大して興味のない模擬戦モドキを眺めていた。
んで、チャコの試合ということで喫煙所には行かずに一応ちゃんと見ていたんだが……。
最初は談合でもしてるんじゃないかと思うような無駄な三十秒ほどの膠着状態が気になりはしたが、対戦相手のソフィアが出した人形に驚いてどうでもよくなった。
赤髪に赤いマフラー、短刀や棒手裏剣に空間魔法。
旧友のアカカゲ・ブラッドムーンにそっくりな人形を使って戦い始めた。
顔とかは無機質でアカカゲみたいなマネキン人形が器用に動いている気味の悪さはあったが、面白い戦い方だと思った。
まあ、恐らくアカカゲをモデルに作ったというよりアカカゲが暮らしていたという隠れ里の暗殺者たちの情報をどこかから見つけ出してモデルにしたのだろう。
それなら格好とか武器とか戦い方がアカカゲに似るのはわかる。
そんな話をリコーとしながら試合を眺めていた。
いやしかし……見れば見るほどアカカゲに見えた。気味が悪いほどにアカカゲっぽかった。
そしてアカカゲ人形とソフィア嬢のなかなかな連携でまあまあチャコが無様にやられていたところで。
アカカゲ人形とソフィア嬢の引き離しに成功し、筋肉転移によるチャコの一撃必殺が決まろうとした。
その瞬間。
「………なぁぁぁにやってんだブラキィィィイスッ‼」
そんな聞き覚えのある声と共に。
とてつもない速さでソフィア嬢とチャコの間に割って入り、躰道の卍蹴りのかたちでチャコーの大斧を蹴り弾いて。
「……ブラキス、てめえイカレてんのか? キャミィに向けて斧振り回して…………、誰に手え出してんだ馬鹿筋肉ダルマが」
そんな、二十年以上前にさんざっぱら聞いたようなことを言って。
「てめえは畳んで、ギルドに吊るす。その後バリィとリコーも連帯責任で、畳む!」
顔も声も口調も何もかもアカカゲになった人形は、アカカゲみたいな啖呵を切ったのだった。
そりゃあ驚くだろ。
アカカゲは二十年前の【西の大討伐】で死んだ。
それが……。
「……ねえ、あれってアカカゲ……よね? 私たちの名前も出して……どういうこと?」
妻のリコーが震えた声で俺に尋ねる。
……考えるか、分析は俺の役割だ。思考を加速させる。
とりあえず、ありゃあ間違いなくアカカゲだ。
無機質な顔から、血色の良い人肌になっているし目玉もしっかり赤眼で赤く燃えてやがる。
他人でも死人でもなく、アカカゲだ……しかも二十年の、あの頃のままのアカカゲでしかない。
実は生きていて人形の中に入ってたとか、実は隠し子がいて人形の中に入ってたとかじゃあねえ。
生きていたのならアカカゲは四十過ぎだし、隠し子を産むとしたらキャミィしかない。あいつが他所に女を作るような甲斐性はなかったし、基本的にいつもキャミィと一緒だった。
アカカゲは死んだ。
じゃあありゃあなんだ?
いや、他ならぬソフィア嬢が言っていたか……。
残留思念魔力変換機構搭載型半自律行動戦闘用『自動人形』通称『赤』。
試合中の発言は格技場に取り付けられている『集音魔動装置』で観客席に聴こえるようになっている。今はだいぶ減ったが詠唱ありの魔法を使った時に詠唱も聞こえるようにされている。
要は、ありゃあ魔動兵器の類い。
しかも最新鋭の、自律行動を行うまさに『自動人形』だ。
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