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2章 鏡よ鏡
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隆平は浮かれていた。明らかに。
ちょっと強引だったかもしれないが、由起也が一緒に住み始めた。
もしかしてこれって同棲? ちょっと早くないか、我ながら。いや、家族と一緒だから同居? それもいいな。うん、いい。
まったくもって、浮かれすぎである。
由起也の万里子への接し方は素晴らしく、毎日できるだけ話し相手になろうとしてくれている。それを万里子もとても喜んでいて、ここしばらく顔色も良くなっている気がする。
料理だって加奈子が手放しで褒めるくらいだ。本人曰く、難しい料理はできない、とのことだが、十分美味い。父親の寛治は週の半分くらいしか一緒に食卓を囲めないから、週の半分は二人で夕食を食べている。新婚みたい。と考えるだけで顔面が崩れる。
今朝だって、エプロン姿がかわいかったので、正直に本人にそう伝えた。なんだこの人、というような冷たい目で見られたのも新鮮でいい。多分「オレは男らしいって言われたいんだ」と思ってるんだろうな。そういうところがかわいいんだよなー。
***
「隆平、ちょっといいかい?」
父親である寛治に、リビングで声をかけられたのは、由起也が花城家に通い始めて十日ほど経った時だった。朝の仕事を終えた由起也が、大学へと出かけたのを見計ったようなタイミングだった。
「実は、由起也くんのことを調べさせたんだよ。念の為」
そう切り出した寛治が手にしていたのは、興信所の名前が書かれた大きな封筒だった。
隆平はムッとした。由起也は真面目で、あんなに一生懸命に家政夫と勉強を頑張っている。怪しいところなんてあるはずがない。
「そんなに怒るな。特に後ろ暗いところはない。変な借金もなし。むしろ、とても苦労しているようだね」
「どういうこと?」
「お前ねぇ。自分の通ってる大学が私学で、学費が高額だってこと、わかってるか?」
「それは、父さんに感謝してるよ」
「その学費、彼は自分できちんと払ってるんだよ。これがどれだけ大変なことか」
新しい恋に浮かれていた隆平は、水をかけられたような気持ちになった。
「おそらくだが、学費はお母さんの保険金と奨学金、というところだろうね。それでも人一人の生活を学生がアルバイトだけで賄うのは厳しいご時世だ」
ああ、その通りだ。ひょんなきっかけだったけど、由起也をこの家に住むよう言いくるめたのも、悪いことじゃなかった。
「しかし、なぜ彼は、そんな無理をしてまで、あの大学に進学したんだろうね。学力的には国公立も狙えただろうに」
ありきたりの茶封筒を眺めながら寛治がつぶやく。
わざわざうちの大学を選んだのには、何か理由があるのだろうか? いつかそれを聞かせてもらえるだろうか。隆平は、頑張り屋の由起也の笑顔を思い出しながら、彼を支えてやりたいとますます思った。
***
午後のゼミの後は、由起也のアパートへ行って、引越し準備を手伝う約束をしていた。ゼミが終わって、待ち合わせ場所である二人で最初に話した自動販売機のある方へ向かう。
自動販売機の近くまで行くと、由起也がベンチに座って待っているのが見えた。声をかけようとしたその時、視界の端にひらひらしたものが映った。こちらに向かって女の子が手を振っていた。
「っ! まずい」
そう思った時には、その女の子はこちらに向かって走り出していた。
「リュウ!」
「隆平先輩」
女の子と、隆平に気づいた由起也の声が重なる。
由起也が首をかしげているのが見える。
隆平が由起也の方へ近づこうと足を踏み出したその瞬間、脇腹に女の子が突撃してきた。
「やっと捕まえた! ひどいよ、リュウ。なんでいっつも優芽花のメッセ、無視するのぉ!?」
「うん、それは君がしつこいからだよね」
「だってユメ、リュウと会いたかったんだもん」
「俺は会いたくないし、付き合えないって、何度も言ってるよね」
「だってぇ」
甘ったるい匂いと、甘ったるい喋り方に、隆平はうんざりする。うんざりを通り越して、もう声も態度も冷たくなっていることに、なぜこの子は気づかないんだろう。気づいても無視、ってところか。
そこで隆平は、ハッとして由起也の方を見た。
由起也は呆然として、立ち尽くしていた。
隆平は、舌打ちをしそうに顔を歪め、優芽花を引き剥がした。そして、冷たい声で言った。
「悪いけど、君とは付き合いたいと思わないし、この先そう思うことは絶対に、ない。だからもう、メッセアプリもブロックしていい?」
優芽花は、隆平の発言が理解できないという顔をして言い放った。
「もしかして、リュウがゲイだっていう話、本当なの?」
「そうだよ」
ちょっと強引だったかもしれないが、由起也が一緒に住み始めた。
もしかしてこれって同棲? ちょっと早くないか、我ながら。いや、家族と一緒だから同居? それもいいな。うん、いい。
まったくもって、浮かれすぎである。
由起也の万里子への接し方は素晴らしく、毎日できるだけ話し相手になろうとしてくれている。それを万里子もとても喜んでいて、ここしばらく顔色も良くなっている気がする。
料理だって加奈子が手放しで褒めるくらいだ。本人曰く、難しい料理はできない、とのことだが、十分美味い。父親の寛治は週の半分くらいしか一緒に食卓を囲めないから、週の半分は二人で夕食を食べている。新婚みたい。と考えるだけで顔面が崩れる。
今朝だって、エプロン姿がかわいかったので、正直に本人にそう伝えた。なんだこの人、というような冷たい目で見られたのも新鮮でいい。多分「オレは男らしいって言われたいんだ」と思ってるんだろうな。そういうところがかわいいんだよなー。
***
「隆平、ちょっといいかい?」
父親である寛治に、リビングで声をかけられたのは、由起也が花城家に通い始めて十日ほど経った時だった。朝の仕事を終えた由起也が、大学へと出かけたのを見計ったようなタイミングだった。
「実は、由起也くんのことを調べさせたんだよ。念の為」
そう切り出した寛治が手にしていたのは、興信所の名前が書かれた大きな封筒だった。
隆平はムッとした。由起也は真面目で、あんなに一生懸命に家政夫と勉強を頑張っている。怪しいところなんてあるはずがない。
「そんなに怒るな。特に後ろ暗いところはない。変な借金もなし。むしろ、とても苦労しているようだね」
「どういうこと?」
「お前ねぇ。自分の通ってる大学が私学で、学費が高額だってこと、わかってるか?」
「それは、父さんに感謝してるよ」
「その学費、彼は自分できちんと払ってるんだよ。これがどれだけ大変なことか」
新しい恋に浮かれていた隆平は、水をかけられたような気持ちになった。
「おそらくだが、学費はお母さんの保険金と奨学金、というところだろうね。それでも人一人の生活を学生がアルバイトだけで賄うのは厳しいご時世だ」
ああ、その通りだ。ひょんなきっかけだったけど、由起也をこの家に住むよう言いくるめたのも、悪いことじゃなかった。
「しかし、なぜ彼は、そんな無理をしてまで、あの大学に進学したんだろうね。学力的には国公立も狙えただろうに」
ありきたりの茶封筒を眺めながら寛治がつぶやく。
わざわざうちの大学を選んだのには、何か理由があるのだろうか? いつかそれを聞かせてもらえるだろうか。隆平は、頑張り屋の由起也の笑顔を思い出しながら、彼を支えてやりたいとますます思った。
***
午後のゼミの後は、由起也のアパートへ行って、引越し準備を手伝う約束をしていた。ゼミが終わって、待ち合わせ場所である二人で最初に話した自動販売機のある方へ向かう。
自動販売機の近くまで行くと、由起也がベンチに座って待っているのが見えた。声をかけようとしたその時、視界の端にひらひらしたものが映った。こちらに向かって女の子が手を振っていた。
「っ! まずい」
そう思った時には、その女の子はこちらに向かって走り出していた。
「リュウ!」
「隆平先輩」
女の子と、隆平に気づいた由起也の声が重なる。
由起也が首をかしげているのが見える。
隆平が由起也の方へ近づこうと足を踏み出したその瞬間、脇腹に女の子が突撃してきた。
「やっと捕まえた! ひどいよ、リュウ。なんでいっつも優芽花のメッセ、無視するのぉ!?」
「うん、それは君がしつこいからだよね」
「だってユメ、リュウと会いたかったんだもん」
「俺は会いたくないし、付き合えないって、何度も言ってるよね」
「だってぇ」
甘ったるい匂いと、甘ったるい喋り方に、隆平はうんざりする。うんざりを通り越して、もう声も態度も冷たくなっていることに、なぜこの子は気づかないんだろう。気づいても無視、ってところか。
そこで隆平は、ハッとして由起也の方を見た。
由起也は呆然として、立ち尽くしていた。
隆平は、舌打ちをしそうに顔を歪め、優芽花を引き剥がした。そして、冷たい声で言った。
「悪いけど、君とは付き合いたいと思わないし、この先そう思うことは絶対に、ない。だからもう、メッセアプリもブロックしていい?」
優芽花は、隆平の発言が理解できないという顔をして言い放った。
「もしかして、リュウがゲイだっていう話、本当なの?」
「そうだよ」
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