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7章 幸せに暮らしましたとさ
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午後になって、高木が病室に来てくれた。程なくして、昨日と同じ刑事たちも到着して、事情聴取の続きが始まった。
目的がある今は、由起也は緊張よりも使命感の方が強く、昨日よりもしっかりと受け答えができた。昨日は焦りを煽るようにしか聞こえなかったノートPCのカチャカチャという入力音は、今日はただの作業音にしか感じなかった。
事情聴取は、櫛田の家に着いてからのことに進んだ。そして、健臣が父の死の真相を自白したことを由起也が話した時、病室の空気が一変した。
「白石さん、もう一度、櫛田健臣が言ったこと、お願いできますか。できるだけ、正確に」
由起也はもう一度、父がりんごアレルギーの発作を起こして苦しみながら亡くなったと、健臣が言ったことを話した。思い出すと、どうしても怒りと悲しみが蘇ってくる。冷静にと思っても、抑えきれるはずもなく、涙が溢れてくる。
高木が背中をさすってくれる。その手から、励ましとともに怒りも伝わってくる。
それで少し落ち着いた由起也は、この事件の話ではないと前置きしつつ、小学生の頃、祖母が亡くなり、その後父が出かけたきり帰って来なかったことも、刑事たちと高木に話した。
「多分、櫛田の家にあった骨袋は、父と祖母のものだと思うんです。……あれをオレがもらうには、どうしたらいいですか?」
そう尋ねてまた涙を溢れさせる由起也に、高木が答えた。
「不可能ではないですよ。いくつか方法は考えられます。大丈夫。正式な手順を踏んで、取り返しましょう」
「そうなんですね。……良かった。ぅう、……良かった……!」
高木が力強く答えてくれたのを聞いて、由起也は胸がいっぱいになって、また泣きじゃくってしまった。
由起也はしばらく泣いた後、袖で涙を拭いて、高木の顔をしっかりと見てお願いした。
「高木さん。父さんとばあちゃんの骨を取り戻すの、手伝ってもらえませんか?」
「もちろんですよ」
高木は、頼りになる笑顔で答えてくれた。
「あ、ありがとうございます……!」
そして、話は健臣の動機へと移った。要は、櫛田の相続争いだ。由起也が言われたこと、逮捕の時に捲し立てたことを合わせると、由起也の存在を知った健臣が焦って事を起こしたのは明らかだ。しかしそこで、刑事が意外にもうんざりした表情になった。
「それなんですけどね。白石さんは、櫛田由信さんとは戸籍上では親子関係ではなかったのですよね」
「はい、そうです」
「そこなんですよ。法律では、死亡した人に子があった場合は、財産は子が相続します。子がなかった場合は、故人の兄弟。兄弟が亡くなっている場合は、甥姪が代襲相続する。それで合ってますよね? 高木先生」
「はい、その通りです」
高木は力強くうなずいた。由起也も、そう大学で習ったと頭の中で思い返した。
「でも白石さんは、由信さんとは戸籍上では親子ではない。ということは、あなたには相続権は、そもそもないんですよ」
「そうなんですか?」
「ええ、そうです。血のつながりがあったとしても、戸籍上では他人、認知の関係もない場合、相続人とはみなされません」
そう高木が補足した。
「え? じゃあ、オレ……」
「健臣は、今回の事件を起こさなくとも、守信の唯一の相続人なんですよ。ですから、白石さんには大変気の毒なことなんですが……完全にとばっちり、ってやつです」
「えーー……」
由起也の全身の力が抜けた。
ベッドの上でぐにゃりとなってしまった由起也を、慌てて高木が支えてくれた。
「まあまあ、由起也くん。これは土地の登記簿を見ての私の推測ですけどね」
由起也があまりに落胆しているのを見た高木は、わざとらしい明るい声を作って言った。
「実は、我が社が櫛田の土地を購入したのは任意売却でだったんです。つまり、銀行も回収に回らざるを得ないほど、あのあたりの地価は下がっているんですよ」
高木が何を言いたいのか分からず、由起也は首を少し傾げた。その様子を見た高木は、少しだけ教師のような調子で由起也に説明した。
「つまり健臣は、守信の土地を相続したら、もれなく大きな借金もついてくる状態だ、ってことです」
「え? 健臣はそんなこと言ってなかったです」
「ヤツは知らなかったそうですよ。土地の価値よりも借金の方が大きくなっていることを」
高木の説明を補うように、刑事が取り調べの中で健臣から聞き出した内容を漏らした。
「まぁ、それを知っていたら、今回のようなことはしでかさなかったでしょうね」
高木が、茶目っ気のある表情をして続けた。
「そういうわけで、健臣は価値のないものにしがみついていた、というわけですよ」
「そっか……」
由起也は少しだけ健臣を哀れに思った。
目的がある今は、由起也は緊張よりも使命感の方が強く、昨日よりもしっかりと受け答えができた。昨日は焦りを煽るようにしか聞こえなかったノートPCのカチャカチャという入力音は、今日はただの作業音にしか感じなかった。
事情聴取は、櫛田の家に着いてからのことに進んだ。そして、健臣が父の死の真相を自白したことを由起也が話した時、病室の空気が一変した。
「白石さん、もう一度、櫛田健臣が言ったこと、お願いできますか。できるだけ、正確に」
由起也はもう一度、父がりんごアレルギーの発作を起こして苦しみながら亡くなったと、健臣が言ったことを話した。思い出すと、どうしても怒りと悲しみが蘇ってくる。冷静にと思っても、抑えきれるはずもなく、涙が溢れてくる。
高木が背中をさすってくれる。その手から、励ましとともに怒りも伝わってくる。
それで少し落ち着いた由起也は、この事件の話ではないと前置きしつつ、小学生の頃、祖母が亡くなり、その後父が出かけたきり帰って来なかったことも、刑事たちと高木に話した。
「多分、櫛田の家にあった骨袋は、父と祖母のものだと思うんです。……あれをオレがもらうには、どうしたらいいですか?」
そう尋ねてまた涙を溢れさせる由起也に、高木が答えた。
「不可能ではないですよ。いくつか方法は考えられます。大丈夫。正式な手順を踏んで、取り返しましょう」
「そうなんですね。……良かった。ぅう、……良かった……!」
高木が力強く答えてくれたのを聞いて、由起也は胸がいっぱいになって、また泣きじゃくってしまった。
由起也はしばらく泣いた後、袖で涙を拭いて、高木の顔をしっかりと見てお願いした。
「高木さん。父さんとばあちゃんの骨を取り戻すの、手伝ってもらえませんか?」
「もちろんですよ」
高木は、頼りになる笑顔で答えてくれた。
「あ、ありがとうございます……!」
そして、話は健臣の動機へと移った。要は、櫛田の相続争いだ。由起也が言われたこと、逮捕の時に捲し立てたことを合わせると、由起也の存在を知った健臣が焦って事を起こしたのは明らかだ。しかしそこで、刑事が意外にもうんざりした表情になった。
「それなんですけどね。白石さんは、櫛田由信さんとは戸籍上では親子関係ではなかったのですよね」
「はい、そうです」
「そこなんですよ。法律では、死亡した人に子があった場合は、財産は子が相続します。子がなかった場合は、故人の兄弟。兄弟が亡くなっている場合は、甥姪が代襲相続する。それで合ってますよね? 高木先生」
「はい、その通りです」
高木は力強くうなずいた。由起也も、そう大学で習ったと頭の中で思い返した。
「でも白石さんは、由信さんとは戸籍上では親子ではない。ということは、あなたには相続権は、そもそもないんですよ」
「そうなんですか?」
「ええ、そうです。血のつながりがあったとしても、戸籍上では他人、認知の関係もない場合、相続人とはみなされません」
そう高木が補足した。
「え? じゃあ、オレ……」
「健臣は、今回の事件を起こさなくとも、守信の唯一の相続人なんですよ。ですから、白石さんには大変気の毒なことなんですが……完全にとばっちり、ってやつです」
「えーー……」
由起也の全身の力が抜けた。
ベッドの上でぐにゃりとなってしまった由起也を、慌てて高木が支えてくれた。
「まあまあ、由起也くん。これは土地の登記簿を見ての私の推測ですけどね」
由起也があまりに落胆しているのを見た高木は、わざとらしい明るい声を作って言った。
「実は、我が社が櫛田の土地を購入したのは任意売却でだったんです。つまり、銀行も回収に回らざるを得ないほど、あのあたりの地価は下がっているんですよ」
高木が何を言いたいのか分からず、由起也は首を少し傾げた。その様子を見た高木は、少しだけ教師のような調子で由起也に説明した。
「つまり健臣は、守信の土地を相続したら、もれなく大きな借金もついてくる状態だ、ってことです」
「え? 健臣はそんなこと言ってなかったです」
「ヤツは知らなかったそうですよ。土地の価値よりも借金の方が大きくなっていることを」
高木の説明を補うように、刑事が取り調べの中で健臣から聞き出した内容を漏らした。
「まぁ、それを知っていたら、今回のようなことはしでかさなかったでしょうね」
高木が、茶目っ気のある表情をして続けた。
「そういうわけで、健臣は価値のないものにしがみついていた、というわけですよ」
「そっか……」
由起也は少しだけ健臣を哀れに思った。
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