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7章 幸せに暮らしましたとさ
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入院5日目。今日で事情聴取も一旦終わりの予定で、夕方には退院できることになっていた。昨日、伝えるべきことも伝えたので、由起也はある程度の達成感はあった。しかし、結局のところ、健臣の法的な知識の欠如で今回の事件が起きたという衝撃の事実には、由起也も腹立たしさを消化できないでいた。
父さんとおばあちゃんの遺骨を取り戻すくらいできないと、納得できそうにない。
そんな気持ちが出ていたのを感じたのだろう。事情聴取の最後に、刑事が「本当は私の立場で言って良いことではないんですけどね」と前置きした上で、言った。
「白石さんのお父さん……由信さんが、お母さんと入籍しなかったのは、そういうことじゃないですかね」
「それは、どういうことですか?」
刑事が突然そんなことを言い出したので、由起也は理解できずに首を傾げながら尋ねた。
「守信にはかなりの借金があります。それに妻に……白石さんのおばあさんに、日常的に暴力を振るっていた。おそらく、由信さんも辛い目にあっておられたんでしょう。そんな櫛田家に、あなたを関わらせたくなかったんじゃないでしょうか」
「私もそう思います」
刑事が職務を離れて私見を述べ、それに高木が同意した。
そうか。そうだったのか。
由起也は、胸の中にずっとあった霧が晴れるような、そんな気持ちになった。
――オレ、父さんに捨てられたんじゃなくて、守られてたんだ。
由起也はしばしぎゅっと目を閉じた後、顔を上げて刑事と高木に礼を言った。
「ありがとうございます。そう思うようにします。いえ、きっとそうだと思います」
「それと、最後に大事なことを2つ確認させてください」
刑事が態度をまた元に戻して、切り出した。
「一つは、今回の事件に関して。白石さん、櫛田守信と櫛田健臣を、告訴しますか?」
由起也の気持ちは決まっている。一度、高木と頷き合ってから、由起也はキッパリと言った。
「はい。告訴します」
刑事は軽く頷いて、もう一つの確認事項について言った。
「もう一つは、お父さん……由信さんの件です」
来た。由起也は思った。
「今回、あなたの証言で、由信さんが亡くなったのは事故ではなく、殺人である可能性が出て来ました。再捜査をするかどうか、まだ検討中ではありますが……もしそうなった場合は、ご協力いただけますか?」
昨夕、高木から聞かされた通り、警察は再捜査を仄めかしてきた。由起也の答えは、決まっている。
「はい。もちろんです。協力します」
「ありがとうございます。その時はよろしくお願いします」
刑事が言ったのは礼の言葉だった。けれど、由起也には、任せておけ、と聞こえたような気がした。
***
夕方、由起也は退院し、花城邸へと帰ってきた。
やっと帰って来れた。まさか、この豪邸を見てホッとする日が来るとは、と由起也は少しおかしくなった。
車でここまで送ってくれた高木を先に通そうと、由起也が玄関の扉に手をかけようとした時、内側から勢いよく扉が開いた。
「おかえり!」
そう言って満面の笑みで迎えてくれたのは、隆平だった。玄関の中には、パパさんの姿も見える。
「ただいま帰りました」
由起也は二人の姿を見て、少し泣きそうになった。
加奈子もリビングで迎えてくれた。由起也の頬に残るアザを見て、痛ましい顔をして、泣き出しそうになったのを宥めるのがちょっぴり大変だった。
「由起也くんの好きなもの、たくさん用意したのよ」
ダイニングを見ると、たくさんの料理が並んでいた。料理の数が心配の数のように思えてきて、由起也はとても申し訳なく思ったと同時に、嬉しくも思った。
帰ろうとした高木も引き留め、パパさん、隆平とともに加奈子の作った料理を囲んで、お疲れ様会となった。みんな、事件のことには触れようとはせず、気を使われているのがわかる。由起也としては、事情聴取で言いたいことは全部言えたので、かなりスッキリしているのだけれど。
「いろいろあったけど、一段落したし、俺もそろそろバイト兼インターンをやろうと思う」
話の流れで、隆平がそう宣言した。
「お前、本当にあの設計事務所でバイトするのかい?」
「だって、うちの会社だとバイトもインターンもやりづらいだろ」
どうやら隆平は、花城エステートとは関わりのない設計事務所でアルバイトをするらしい。初めて聞いたと由起也は目をぱちくりさせた。
「そろそろ去年稼いだお金がなくなりそうなんだよねー」
「それって、ホストのことですか?」
「そうそう。あの時たっぷり稼いだから、しばらくバイトしなくても大丈夫だったんだよ」
そう聞いて由起也は、あ、そういうことか、と思って隆平に確認した。
「もしかして、先輩がホストのバイトをしてたのって、……万里子さんのことがあったから?」
「あー、……うん」
バツの悪そうな顔をした隆平が頷く。
確か知り合いに頼まれてと言っていたが、そうか、本当のところは、できるだけ万里子のそばにいられるよう、一気に稼いでおこうという目的があってのことだったのか。でも、それでホストって……。
どこまでも真っ直ぐで、目指すところへ突っ走る。ああ、本当に困った人だ。
由起也は隆平のことが、ますます愛おしく思えた。
父さんとおばあちゃんの遺骨を取り戻すくらいできないと、納得できそうにない。
そんな気持ちが出ていたのを感じたのだろう。事情聴取の最後に、刑事が「本当は私の立場で言って良いことではないんですけどね」と前置きした上で、言った。
「白石さんのお父さん……由信さんが、お母さんと入籍しなかったのは、そういうことじゃないですかね」
「それは、どういうことですか?」
刑事が突然そんなことを言い出したので、由起也は理解できずに首を傾げながら尋ねた。
「守信にはかなりの借金があります。それに妻に……白石さんのおばあさんに、日常的に暴力を振るっていた。おそらく、由信さんも辛い目にあっておられたんでしょう。そんな櫛田家に、あなたを関わらせたくなかったんじゃないでしょうか」
「私もそう思います」
刑事が職務を離れて私見を述べ、それに高木が同意した。
そうか。そうだったのか。
由起也は、胸の中にずっとあった霧が晴れるような、そんな気持ちになった。
――オレ、父さんに捨てられたんじゃなくて、守られてたんだ。
由起也はしばしぎゅっと目を閉じた後、顔を上げて刑事と高木に礼を言った。
「ありがとうございます。そう思うようにします。いえ、きっとそうだと思います」
「それと、最後に大事なことを2つ確認させてください」
刑事が態度をまた元に戻して、切り出した。
「一つは、今回の事件に関して。白石さん、櫛田守信と櫛田健臣を、告訴しますか?」
由起也の気持ちは決まっている。一度、高木と頷き合ってから、由起也はキッパリと言った。
「はい。告訴します」
刑事は軽く頷いて、もう一つの確認事項について言った。
「もう一つは、お父さん……由信さんの件です」
来た。由起也は思った。
「今回、あなたの証言で、由信さんが亡くなったのは事故ではなく、殺人である可能性が出て来ました。再捜査をするかどうか、まだ検討中ではありますが……もしそうなった場合は、ご協力いただけますか?」
昨夕、高木から聞かされた通り、警察は再捜査を仄めかしてきた。由起也の答えは、決まっている。
「はい。もちろんです。協力します」
「ありがとうございます。その時はよろしくお願いします」
刑事が言ったのは礼の言葉だった。けれど、由起也には、任せておけ、と聞こえたような気がした。
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夕方、由起也は退院し、花城邸へと帰ってきた。
やっと帰って来れた。まさか、この豪邸を見てホッとする日が来るとは、と由起也は少しおかしくなった。
車でここまで送ってくれた高木を先に通そうと、由起也が玄関の扉に手をかけようとした時、内側から勢いよく扉が開いた。
「おかえり!」
そう言って満面の笑みで迎えてくれたのは、隆平だった。玄関の中には、パパさんの姿も見える。
「ただいま帰りました」
由起也は二人の姿を見て、少し泣きそうになった。
加奈子もリビングで迎えてくれた。由起也の頬に残るアザを見て、痛ましい顔をして、泣き出しそうになったのを宥めるのがちょっぴり大変だった。
「由起也くんの好きなもの、たくさん用意したのよ」
ダイニングを見ると、たくさんの料理が並んでいた。料理の数が心配の数のように思えてきて、由起也はとても申し訳なく思ったと同時に、嬉しくも思った。
帰ろうとした高木も引き留め、パパさん、隆平とともに加奈子の作った料理を囲んで、お疲れ様会となった。みんな、事件のことには触れようとはせず、気を使われているのがわかる。由起也としては、事情聴取で言いたいことは全部言えたので、かなりスッキリしているのだけれど。
「いろいろあったけど、一段落したし、俺もそろそろバイト兼インターンをやろうと思う」
話の流れで、隆平がそう宣言した。
「お前、本当にあの設計事務所でバイトするのかい?」
「だって、うちの会社だとバイトもインターンもやりづらいだろ」
どうやら隆平は、花城エステートとは関わりのない設計事務所でアルバイトをするらしい。初めて聞いたと由起也は目をぱちくりさせた。
「そろそろ去年稼いだお金がなくなりそうなんだよねー」
「それって、ホストのことですか?」
「そうそう。あの時たっぷり稼いだから、しばらくバイトしなくても大丈夫だったんだよ」
そう聞いて由起也は、あ、そういうことか、と思って隆平に確認した。
「もしかして、先輩がホストのバイトをしてたのって、……万里子さんのことがあったから?」
「あー、……うん」
バツの悪そうな顔をした隆平が頷く。
確か知り合いに頼まれてと言っていたが、そうか、本当のところは、できるだけ万里子のそばにいられるよう、一気に稼いでおこうという目的があってのことだったのか。でも、それでホストって……。
どこまでも真っ直ぐで、目指すところへ突っ走る。ああ、本当に困った人だ。
由起也は隆平のことが、ますます愛おしく思えた。
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