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7話 再会
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レイヴェールの町に来て、早数日が経った。初めて散歩に行った日以来、ルートを変えながら朝と夕方色々な道を散歩した。
レイヴェールはそんなに広い町ではない。そのため、昼間は中心町の店をまわることで、自分の行動範囲となる部分については大体の全体像を把握することができた。
中心町は人が多く集まっていた。知らない人がいても、森の中に木に隠すようなもので、恐らくだが特別何かを言われることもなかったし、一安心だ。
町の中心町からは離れているが、散歩中に見つけた手芸店にも行きいくつか商品を買ってみた。すると、早くも私が新しく引っ越してきた人物だと店主は気付き、歓迎の意味を込めておまけまで付けてくれた。
もちろん、初日のうちに近所の人たちには引っ越しの挨拶を済ませた。そのお陰で、お互いある程度顔見知りになれた。
最初に挨拶に行ったのは隣家のメアリーさん宅だった。そのとき、メアリーさんはわざわざ寝ていたジェイスさんを起こして玄関まで連れ出し、困ったことがあったらジェイスにも頼ってねと言ってくれた。
そして、当の本人であるジェイスさんは突然起こされたにも関わらず、人当たりの良い笑顔で接してくれた。この日私は、夫婦揃ってなんて親切なんだと感動した。
他の家にも挨拶に行ったが、皆口を揃えて「面倒見の良い人たちが隣で良かったね」と言っていた。実際メアリーさんたちは皆の言う通り非常に面倒見が良く、今では引っ越してきて間もない私のとても頼れるご近所さんだ。
初めて会ったときから笑顔で挨拶してくれるし、困っていることは無いかと何かと気にかけ気遣ってくれる。今はこの町に越して来て必要になる消耗品や生活雑貨をそろえている最中だ。そのため、隣に住んでいるメアリーさんたちを、情報元として頼りにさせてもらっている。
最近はこうして町を知り、人々と接するようになったことで、何となくこの町に自分が馴染み始めてきたような気がする。しかも、この町に来て以来6つほどのルートで散歩をし、私はお気に入りの散歩道を2つ見つけることが出来た。
そのうちの1つは、あの綺麗な花の家の前を通るルートだ。あの綺麗な花を思い出し、また行きたいと思えてくる。
――ある程度の道も覚えたし、明日はもう1回あの家の前の道を通ってみよう!
自分でも不思議なくらい もう一度あの綺麗な花々を見たいという欲が出てきたため、明日の散歩ルートは初めて散歩したルートにすることに決めた。しかし、このルートを通るにあたり、1つの問題が生じる。
あの家の前を、以前よりどれくらい早い時間に通るかだ。このあいだは、お兄さんを脅かせてしまった。わざとではなかったが、猫のように逃げるお兄さんの反応を思い返すと、私と会ったら気分を害するのではないかと思ってしまう。
前より早い時間に通ろうとは決めていた。30分? でもそれは、日によって前後する誤差の範囲かもしれない。1時間早かったら大丈夫かな? 明日のためにいつもより早く寝よう。それならきっと大丈夫な気がする。
こんなことを考えている私は、まるで不審人物のようだ。真剣に考えている自分に対して、正直自分でも引いている。
だが、とりあえず前回より1時間早く出発して、綺麗な花の家の前を通ることに決めた。そのため、明日に備えいつもより1時間早く眠りについた。
次の日早起きに成功した私は、あの綺麗な花々をもう一度見るため、例の家の前を目指して歩いていた。
――そろそろ見えてくるかな?
そう思ったそのとき、今まさに水やりをしているお兄さんが視線の先に見えた。お兄さんは花だけを見ていて、こちらには気付いていない。
1時間早く来たのに、まさかお兄さんがいるとは思っていなかった。想定外の事態に戸惑うが、遭遇してしまったからには仕方ない。私はそのまま家の前を通ることに決めた。
ただ、お兄さんがいくらこちらに気付いていないとはいえ、遭遇したからには当然無視して通るわけにはいかない。一度自分から挨拶してしまっているからだ。
そのため、私はその家の前に差し掛かった時、花に水をあげているお兄さんに挨拶をした。もちろん、出来るだけ警戒されないように笑顔でだ。
すると、花を見るため下を向いていたお兄さんは私の挨拶に気付き、ハッと驚いた顔をして顔を上げた。しかし、前回とは違いお兄さんは家の中に駆け込むことなく、挨拶を返してくれた。
「お、おはよう、ございます……!」
自分から挨拶をしたが、返してくれるかは一か八かだった。だからこそ、今日も無視されたら、流石にどうしようかと思っていた。
だが、今日お兄さんはちゃんと挨拶を返してくれた。そのことに、私はつい気分が良くなって話しかけた。
「綺麗なお花ですね。きちんとお手入れされているのがよく分かります。どの花もとても素敵です!」
思ったままのことを言ったところ、お兄さんは顔を真っ赤にし、顔を隠すように手で前髪を触る仕草をしながら、少し俯き気味に口を動かした。
「あ、いや、そんなっ! ……あ、ありがとうございます」
彼は口を動かすと、赤面のまま戸惑ったような顔をしたり嬉しそうな顔をしたりと百面相した。
――もしかして、人からあまりこんなことを言われ慣れてないのかな?
お兄さんを見ていると、お兄さんは嬉しさを噛み締めるように少し微笑んだ様な気がした。その顔を見て、何とも言えない感情が胸を襲った。少なくとも、ネガティブな感情ではない。しかし、何とも言えないのだ。
しかし、そんなことを考えているうちに、いつの間にかお兄さんは警戒したような表情になった。この抽象的な気持ちはなんだろうと思うが、いつまでも道に突っ立っているわけにもいかない。
「では、また」
そうお兄さんに告げ、私はいつもより少し早い速度で歩みを進めた。歩き始めたは良いが、しばらくは何もない道だ。少し退屈なその道を歩きながら、先ほどのお兄さんのことを思い出した。
――やっぱり変わっている人ね。
でも何だか少し可愛らしいひとなのかも?
それこそ猫みたいな感じかしら?
なんてことを思った。あの少し微笑んだように見えた顔がそう思わせたのかもしれない。でも、お兄さんが口を動かすときに少し下を向いていたから、何て言っていたのかが少し微妙だ。
――多分、ありがとうと言っていたのよね?
そんなことを思いながら、また時間をずらして来ようと思い2日後にやって来た。すると、時間をずらしたはずなのに、お兄さんに遭遇した。
こんなに会うことがあるなんて……。私はまたいつものごとく、今日もお兄さんに挨拶をした。すると、お兄さんは少しビクッとしたが、以前のように顔を隠すようにしながらも挨拶を返してくれた。
こうして、1日か2日に1回くらいの頻度で毎回時間を変えながら通り、お兄さんと初めて会ってから8回ほどになったころ、私はついに仕事に応募することにした。実は、引っ越してきてすぐに応募しようと思ったが、応募したくても出来なかった。
というのも、この町は外部から転入してきた人間がここで働き始めるための手続きが、半月から1か月ほどかかるらしいのだ。私はそのことを知らなかった。これに関しては、きちんと事前に下調べをしていなかった私が悪い。
こんなに手続きに時間がかかるのかと思ったが、そうなっているのなら仕方ない。そのため、引っ越してきた日からその手続きが終わる日を待っていたところ、手続きが完了したという手紙が届いたというわけだ。
――やっぱり接客業が一番楽しかったな……。
あの喫茶店で雇ってもらえないか、お願いしてみようかしら?
その喫茶店は、私がレイヴェールにやって来て、初めて訪れた喫茶店だ。私は1人客だったためカウンター席に案内された。そのお陰で、初めての来店にも関わらずカウンター越しの会話によって、気さくで明るいオーナーさんとすぐに打ち解けられた。初めて見る顔だったから、つい話しかけてしまったと後から言われた。
その後、不動産屋に行って家が決まり次の日にその家に行ったところ、引っ越しの挨拶でその喫茶店のオーナーのメアリーさんが、お隣さんだと分かったのだ。このあいだメアリーさんと家の外で会った時、最近働いていた人が1人、仕事は楽しいけど歳でつらいからと言って辞めて人手が足りないと困っていた。
優しくて面倒見の良いメアリーさんが経営している喫茶店だ。その穴は、すぐに埋まってしまうだろう。思い立ったが吉日、雇ってもらえないかの交渉をしに喫茶店に行こう。
そうは決めたが、喫茶店が込み合う時間に行くのは良くないだろう。午前中に用事を済ませて、喫茶店に行くのは午後の空いた時間にしよう。そう予定を立て、私は16時ごろ到着するように喫茶店へと向かった。
レイヴェールはそんなに広い町ではない。そのため、昼間は中心町の店をまわることで、自分の行動範囲となる部分については大体の全体像を把握することができた。
中心町は人が多く集まっていた。知らない人がいても、森の中に木に隠すようなもので、恐らくだが特別何かを言われることもなかったし、一安心だ。
町の中心町からは離れているが、散歩中に見つけた手芸店にも行きいくつか商品を買ってみた。すると、早くも私が新しく引っ越してきた人物だと店主は気付き、歓迎の意味を込めておまけまで付けてくれた。
もちろん、初日のうちに近所の人たちには引っ越しの挨拶を済ませた。そのお陰で、お互いある程度顔見知りになれた。
最初に挨拶に行ったのは隣家のメアリーさん宅だった。そのとき、メアリーさんはわざわざ寝ていたジェイスさんを起こして玄関まで連れ出し、困ったことがあったらジェイスにも頼ってねと言ってくれた。
そして、当の本人であるジェイスさんは突然起こされたにも関わらず、人当たりの良い笑顔で接してくれた。この日私は、夫婦揃ってなんて親切なんだと感動した。
他の家にも挨拶に行ったが、皆口を揃えて「面倒見の良い人たちが隣で良かったね」と言っていた。実際メアリーさんたちは皆の言う通り非常に面倒見が良く、今では引っ越してきて間もない私のとても頼れるご近所さんだ。
初めて会ったときから笑顔で挨拶してくれるし、困っていることは無いかと何かと気にかけ気遣ってくれる。今はこの町に越して来て必要になる消耗品や生活雑貨をそろえている最中だ。そのため、隣に住んでいるメアリーさんたちを、情報元として頼りにさせてもらっている。
最近はこうして町を知り、人々と接するようになったことで、何となくこの町に自分が馴染み始めてきたような気がする。しかも、この町に来て以来6つほどのルートで散歩をし、私はお気に入りの散歩道を2つ見つけることが出来た。
そのうちの1つは、あの綺麗な花の家の前を通るルートだ。あの綺麗な花を思い出し、また行きたいと思えてくる。
――ある程度の道も覚えたし、明日はもう1回あの家の前の道を通ってみよう!
自分でも不思議なくらい もう一度あの綺麗な花々を見たいという欲が出てきたため、明日の散歩ルートは初めて散歩したルートにすることに決めた。しかし、このルートを通るにあたり、1つの問題が生じる。
あの家の前を、以前よりどれくらい早い時間に通るかだ。このあいだは、お兄さんを脅かせてしまった。わざとではなかったが、猫のように逃げるお兄さんの反応を思い返すと、私と会ったら気分を害するのではないかと思ってしまう。
前より早い時間に通ろうとは決めていた。30分? でもそれは、日によって前後する誤差の範囲かもしれない。1時間早かったら大丈夫かな? 明日のためにいつもより早く寝よう。それならきっと大丈夫な気がする。
こんなことを考えている私は、まるで不審人物のようだ。真剣に考えている自分に対して、正直自分でも引いている。
だが、とりあえず前回より1時間早く出発して、綺麗な花の家の前を通ることに決めた。そのため、明日に備えいつもより1時間早く眠りについた。
次の日早起きに成功した私は、あの綺麗な花々をもう一度見るため、例の家の前を目指して歩いていた。
――そろそろ見えてくるかな?
そう思ったそのとき、今まさに水やりをしているお兄さんが視線の先に見えた。お兄さんは花だけを見ていて、こちらには気付いていない。
1時間早く来たのに、まさかお兄さんがいるとは思っていなかった。想定外の事態に戸惑うが、遭遇してしまったからには仕方ない。私はそのまま家の前を通ることに決めた。
ただ、お兄さんがいくらこちらに気付いていないとはいえ、遭遇したからには当然無視して通るわけにはいかない。一度自分から挨拶してしまっているからだ。
そのため、私はその家の前に差し掛かった時、花に水をあげているお兄さんに挨拶をした。もちろん、出来るだけ警戒されないように笑顔でだ。
すると、花を見るため下を向いていたお兄さんは私の挨拶に気付き、ハッと驚いた顔をして顔を上げた。しかし、前回とは違いお兄さんは家の中に駆け込むことなく、挨拶を返してくれた。
「お、おはよう、ございます……!」
自分から挨拶をしたが、返してくれるかは一か八かだった。だからこそ、今日も無視されたら、流石にどうしようかと思っていた。
だが、今日お兄さんはちゃんと挨拶を返してくれた。そのことに、私はつい気分が良くなって話しかけた。
「綺麗なお花ですね。きちんとお手入れされているのがよく分かります。どの花もとても素敵です!」
思ったままのことを言ったところ、お兄さんは顔を真っ赤にし、顔を隠すように手で前髪を触る仕草をしながら、少し俯き気味に口を動かした。
「あ、いや、そんなっ! ……あ、ありがとうございます」
彼は口を動かすと、赤面のまま戸惑ったような顔をしたり嬉しそうな顔をしたりと百面相した。
――もしかして、人からあまりこんなことを言われ慣れてないのかな?
お兄さんを見ていると、お兄さんは嬉しさを噛み締めるように少し微笑んだ様な気がした。その顔を見て、何とも言えない感情が胸を襲った。少なくとも、ネガティブな感情ではない。しかし、何とも言えないのだ。
しかし、そんなことを考えているうちに、いつの間にかお兄さんは警戒したような表情になった。この抽象的な気持ちはなんだろうと思うが、いつまでも道に突っ立っているわけにもいかない。
「では、また」
そうお兄さんに告げ、私はいつもより少し早い速度で歩みを進めた。歩き始めたは良いが、しばらくは何もない道だ。少し退屈なその道を歩きながら、先ほどのお兄さんのことを思い出した。
――やっぱり変わっている人ね。
でも何だか少し可愛らしいひとなのかも?
それこそ猫みたいな感じかしら?
なんてことを思った。あの少し微笑んだように見えた顔がそう思わせたのかもしれない。でも、お兄さんが口を動かすときに少し下を向いていたから、何て言っていたのかが少し微妙だ。
――多分、ありがとうと言っていたのよね?
そんなことを思いながら、また時間をずらして来ようと思い2日後にやって来た。すると、時間をずらしたはずなのに、お兄さんに遭遇した。
こんなに会うことがあるなんて……。私はまたいつものごとく、今日もお兄さんに挨拶をした。すると、お兄さんは少しビクッとしたが、以前のように顔を隠すようにしながらも挨拶を返してくれた。
こうして、1日か2日に1回くらいの頻度で毎回時間を変えながら通り、お兄さんと初めて会ってから8回ほどになったころ、私はついに仕事に応募することにした。実は、引っ越してきてすぐに応募しようと思ったが、応募したくても出来なかった。
というのも、この町は外部から転入してきた人間がここで働き始めるための手続きが、半月から1か月ほどかかるらしいのだ。私はそのことを知らなかった。これに関しては、きちんと事前に下調べをしていなかった私が悪い。
こんなに手続きに時間がかかるのかと思ったが、そうなっているのなら仕方ない。そのため、引っ越してきた日からその手続きが終わる日を待っていたところ、手続きが完了したという手紙が届いたというわけだ。
――やっぱり接客業が一番楽しかったな……。
あの喫茶店で雇ってもらえないか、お願いしてみようかしら?
その喫茶店は、私がレイヴェールにやって来て、初めて訪れた喫茶店だ。私は1人客だったためカウンター席に案内された。そのお陰で、初めての来店にも関わらずカウンター越しの会話によって、気さくで明るいオーナーさんとすぐに打ち解けられた。初めて見る顔だったから、つい話しかけてしまったと後から言われた。
その後、不動産屋に行って家が決まり次の日にその家に行ったところ、引っ越しの挨拶でその喫茶店のオーナーのメアリーさんが、お隣さんだと分かったのだ。このあいだメアリーさんと家の外で会った時、最近働いていた人が1人、仕事は楽しいけど歳でつらいからと言って辞めて人手が足りないと困っていた。
優しくて面倒見の良いメアリーさんが経営している喫茶店だ。その穴は、すぐに埋まってしまうだろう。思い立ったが吉日、雇ってもらえないかの交渉をしに喫茶店に行こう。
そうは決めたが、喫茶店が込み合う時間に行くのは良くないだろう。午前中に用事を済ませて、喫茶店に行くのは午後の空いた時間にしよう。そう予定を立て、私は16時ごろ到着するように喫茶店へと向かった。
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