BLINDFOLD

雲乃みい

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第一夜 性少年の苦悩

8.朝ちゅんちゅん。

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「……ん」
 ぼんやり瞼を上げると天井が映った。
「………」
 俺の部屋にはない形の照明。
 明るい日差しが室内を照らしていた。
「……ん?」
 肘をついて右見て左見てみる。
 やらたらとでかいベッドの真ん中に寝ていた。
 俺の部屋よりも広い寝室はなんかオシャレな高そうなモノトーン系の家具で揃えられてる。
「……どこだ……、……あ!!」
 ようやく寝ぼけた頭が活動してきて思いだした。
 きょろきょろあたりを見渡すと時計を発見。9時を指してる。
「……朝の9時!?」
 ぴょんと跳ね起きて、なんだか違和感を覚えて俺は自分を見下ろした。
「……これ」
 俺が着ているのは着替えとしてもってきたいたTシャツにハーフパンツだった。
 松原が着替えさせてくれたのかな?
 だって俺、あのとき――。
 そう考えて一気に顔が熱くなった。
 昨日の夜のこと、最後イッて意識を飛ばしたのは……夢?
 意識がなくなるくらいに気持ち良かったことなんていままでない。
 そりゃ射精すれば気持ちいいし疲労感で眠くなったりするけど。
 昨日のはそんな次元じゃなかった。
 射精なんかよりもっと倍以上気持よかった。
「……あれ、なんだったんだろう」
 後孔であんなに感じてしまってたことがめちゃくちゃ恥ずかしい。
 そういえば松原……、前……なんとかっていってたっけ?
 つーか……めちゃくちゃ喘ぎまくってたような気がするんだけど!?
 うああ、恥ずかしい……。ありえねぇ。
 頭を抱えて羞恥に悶々としてたら―――ドアの向こうから小さな電子音が微かに聞こえてきた。
 電話、かな?
 ぼんやり考えながら、俺もとりあえずリビングに行こうって思った。
 寝室のドアに手をかけて開けたら、松原の横顔が目に飛び込んできた。
 電話している松原は笑ってる。
 ものすごく……優しい顔で。
 すぐに電話の相手が実優ちゃんなんだってわかった。
 松原は穏やかな顔で相槌を打ったり、優斗さんのことを訊いたり、声をたてて笑ったりしてた。
「……」
 ドアをそっと閉めて、もたれかかる。
 昨日は媚薬なんて使ったから……きっと流されたんだろうけど。
 結局最後までシてないし、ていうか俺わざとイかされて寝かしつけられたとかじゃねーのかな。
 なんだかそんな気がした。
 俺の身体はべたつきとか全然ないし、いままで俺が寝てたベッドは俺がいたところだけ皺がよってるけど他はキレイだ。
 きっと松原はここで寝てないんだろう。
「……俺、なにやってんだろ」
 すごく空しくなってベッドにダイブした。
 柔軟剤なのかすごくいい香りがするシーツ。
 無理やり一晩泊めてもらって、無理やりヤろうとして――。
昨日の夜はとにかく夢中だったけど、今考えるとバカバカしくて情けなくって惨めで……自分がウザイ。
 枕に顔を埋めてきつく目を閉じた。
 ダサすぎる……。
 オカマのアドバイスなんて聞くんじゃなかった。
 なんて責任転嫁してみたりするけど、テンションはどんどんどん底目指して落ちていく。
「……あの二人の間に割り込めるわけねーのに」
 らぶらぶだって、知ってたのに。
 ツキン、て胸が痛む。
 ……松原のこと、俺やっぱり好きだったんだよな?
 いまさらなことを自分の心に訊いてみる。
 返ってくるのは苦しさだけで、やりきれなくなる。
 いまはなにも考えたくないし、松原に今会うのもイヤだったから寝ちまおうって一層強く目をつむった。
 どれくらいかかったかわからない。
 たぶん30分くらいかかってようやく眠りについた。



 力強く身体を揺すられて目を開けると松原が目の前にいた。
「うわっ!!」
「……うわっじゃねーよ、お前いつまで寝てるんだ」
 呆れたように腰に手をあてた松原が大げさなくらい大きなため息をつく。
「いつまでって……いま何時?」
「12時だよ!」
「げ!」
「今日用事あってあと30分後にはマンションでるから、お前も帰り支度しろ」
「あ、うん」
 ラフな感じの私服を着た松原は言うだけ言ってすぐに寝室を出てった。
 松原に変わった様子は全然なかった。
 俺が昨日訪ねてきたときと変わらない。
 まるで昨日の夜のことなんてなにもなかったような――……。
「……だぁ! やーめた!!」
 パチンと両頬を叩く。
 またマイナス思考に陥りそうだったから、ぐだぐだした思考なんて放り捨てる。
 勢いよくベッドを飛び出て、キッチンにいた松原に声をかけて洗面所を借りた。
 来客用の歯ブラシなんかあって、それで歯磨いて。
 ピンクとグリーンの歯ブラシ見てもやもやっとしかけたけど、可愛いクマの絵が入ってる子供向けのやつで、ちょっと笑ってしまった。
 顔洗って、松原の整髪料借りて髪を適当にセットしてリビングに戻った。
 ちらりこっちを見た松原が、
「食え」
と言ってダイニングテーブルにのってた皿を指さした。上にはサンドイッチが乗ってて、オレンジジュースも用意してあった。
 ぽかんとする俺に「とっとと食って、さっさと着替えろ」有無を言わせずに命令してくる。
「わかったよ」
 急かされながら口にしたサンドイッチはめちゃくちゃウマかった。
 卵とハムサンド……まさか松原が作ったのかな?
 意外すぎてじっと見てたら睨まれたから急いで口に詰め込んだ。
 それから着替えて、松原が言っていたちょうど30分後俺たちはマンションを出ていった。




「お前、家どこだ?」
 エレベーターの中で訊かれて答えたら、俺がいつも利用する二駅手前の駅までなら送ってやるって言われて迷ったけど頷いた。
 マンションの地下駐車場にある松原の車は2台外車で1台は国産の軽。
「……松原って……金持ちなんだな」
 この前見かけた白のBMWの助手席に乗って、シートの座り心地の良さにため息が出た。
「まぁな」
 エンジンをかけながら、謙遜することなく松原は平然と返事をする。
 車を発進させながらウィンドウを少し開いて煙草を咥えている。
 その慣れた流れが……無駄にカッコよくてなんかむかつく。
「……俺にも煙草ちょーだい」
 手を差し出すと横目に見て「駄目だ」って即答。
「なんでだよ。酒はよくて煙草はだめなのかよ!」
 思わず言って、あ……って自分から昨日のことを思い出すようなことを言ってしまったって後悔する。
 だけど松原はとくに気にした様子はなかった。
「あれは俺の部屋の中だったからいーんだよ」
「意味わかんねーよ。ケチ」
 ムッと口を尖らせて上目ににらむ。
 紫煙をくゆらせながらハンドルを握っていた松原は俺に向けて煙を吐き出した。
 顔面に直撃してむせてしまうと鼻で笑われた。
「お前は煙でも吸ってろ」
「副流煙も身体に悪いんだぞ」
 言い返したら今度はゲラゲラと笑われた。
「こんの……ドS」
 ぼそり呟いたらまた煙を吹きかけられて、……黙った。
 こいつ本当にもと教師かよ!?
 学校にいたころのくそ真面目な冷血教師って言われてたけど、どこが真面目だよって感じだ。
 でも――そんな松原も嫌いじゃない。
 ……だあ!!!
 また乙女チック発想になってるし!
 深いため息をついて流れる景色を眺めた。
 車の中に流れてるのは俺もアルバムを持っている海外アーティストの曲だった。
 つい口ずさんでいるとふっと横で笑う気配。
 ちょっと恥ずかしくてムッとしたけど、逆にわざとでかい声で歌ってやったら殴られた。
「……ってぇ!」
「うっせぇんだよ」
「くそじじい」
「エロ猿」
 めちゃくちゃドキッとして、喉が詰まったけど、頑張って言い返す。
「……鬼畜」
「ガキ」
「オヤジ」
「あほ」
「ばか」
「まぬけ」
「でべそ!」
 なんか一体何の言いあいなのかわけわかんなくなってきたけど、まるで子供のケンカみたいにくだんねーことを応酬し続けてった。
 それから20分くらいして車は止まった。
 降りなきゃいけないんだ、って思うとさびしくなる。
 でもそんなん一ミリだって気づかれたくなかったからすぐに車から降りた。
「ドーモ、アリガトウゴザイマシタ」
 わざとカタコトで言って頭を下げてみる。
「宿代は出世払いでいい」
「……」
 最後まで食えないやつ!
「じゃーな!」
 悪態つける余裕があるうちにとっとと松原から離れたかった。
「――向井」
 そんな俺を呼びとめる松原。
 振り返ると、「忘れものだ」って紙袋を窓越しに差し出される。
「忘れ物……?」
「それ結構高いんだからな? ちゃんと戻しておけよ」
 中を見ると、昨日俺が持ってきたプレミア焼酎だった。
「え、なんで!?」
 昨日確かに飲んだはずなのに。
 驚いて松原を見ると、軽く笑いを返される。
「俺も同じの持ってたんだよ」
「で、でも」
 土産だったんだし、って俺の言葉は一蹴される。
「盗難品は受け付けません」
 ちゃんと戻しておけ、ってもう一度釘を刺された。
「………わかった」
 なんか松原って―――……ずるいよな。
 ドSで鬼畜で変態のくせに(って俺が言える義理ないけど)、なんだかんだやることかっこよすぎんだよ……。
 ぎゅっと紙袋の持ち手を握りしめて、もう片手で車の窓枠に手を置いた。
「……あの、さ……松原」
 なにを言いたいのか自分でもわかんねー。
 好きかもしれない、なんて言うつもりか?
 昨日のことを謝るつもりか?
 自分に問いかける。
「……俺……」
 続く言葉はなかなか出てこなくって、そんな俺を松原は黙って見ている。
「……あの」
「なぁ、向井」
「……なに」
「お前、16だろ?」
「うん」
 松原は俺を見上げて新しい煙草を口に咥えながら、にやっと意地悪な笑みを浮かべた。
「若いんだから、悩むだけ悩みまくってとことん苦しめ」
「……ハァ!??」
 なんだよそれ!?
「せいぜい悩め、エロ猿」
 言い終わるなりふっと煙を吐きつけられる。
 同時にエンジン音が響いて、
「じゃあな」
 軽く手を上げると俺の返事も聞かずに松原は車を走らせていってしまった。
 駅のロータリーに取り残された俺は呆然としばらくの間立ちつくしてた。
 我に返ったのは、ポケットにいれてたケータイが振動してから。
 ハッとしてケータイを取り出すと新着メールが一件。
 ちょっとドキドキしながら見たそれは―――オカマのミッキーからだった……。
『なっちゃーん! どう? 熱い夜過ごせたぁ!? あの媚薬超強力だから朝まで♪楽しめたでしょう~☆』
「……」
 オカマめ!!!
 ちょっと八つ当たり気味にメール消去しちゃったりしながら、気づいた。
 媚薬……超強力?
 でも――松原は一回だけしか……。
「……なんだよ、ほんっと……俺ばかみたい」
 力が抜けてその場に座り込んだ。
 もう何回も思って何回もわかってたけど――やっぱり俺はあいつの目の端にもかかんねーんだなって実感した。
「悩むだけ悩め……か」
 あいつのことだから、きっと気づいたんじゃないかなって気がした。
 散々悩んで苦しんだら……気持の整理つくのかな?
「……好き……だよ……たぶん」
 車が去っていった方向に視線を向けて――俺は呟いた。




***第一夜 性少年の苦悩・END***



おまけ☆



 そういえば……。
 後ろポケットをごそごそと探る。
 媚薬の空の容器を家に着く前に捨てておこうと思ったのに、容器はなくって代わりにメモ紙が入ってた。
 驚いて広げると、すげぇ達筆な字。
 たぶん、松原の字なんだろう。
 ……うん、絶対アイツだ、あの野郎だ!!
 メモに書いてあった内容を読んで確信した。
『媚薬だけど、どこのメーカーのか、もらったやつに確認しといて。とりあえず試しに1か月分くらい欲しいからよろしく』
「……」
 無言でビリビリと破り捨てた。
 友達として実優ちゃんの危機を見過ごすことはできないからな!
 にしてもほんっとうに!!!
「ドSド変態鬼畜男め!!」
 夏の暑い青空に向かって大きく叫んだ。


おまけ☆おわり☆☆
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