BLINDFOLD

雲乃みい

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第二夜 性少年のジレンマ

14.え、マジで、マジで――?!

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 ……な、なんて反応すればいいんだ!?
 俺を見つめて煙草を吸っている優斗さんから目が離せない。
 どういう意味なんだろう。
 パニックな頭の中で考える。
 これも実優ちゃん絡みでなのか? 実優ちゃんを取られて、エッチの内容が気になるとか?
 まぁでも確かに松原は……上手そうだけど。
 ドSだし変態っぽそうだけど……エッチは――……。
 思考に引きずられるようにして思い出したのはあの夜のこと。
 最後まではシなかったけど、でもあの日はじめての快感を味わった。
「松原さんと、シたのかな?」
 意識が目の前の優斗さんから松原へと完全に移っちまって、あの日からずっと溜まっていた欲求に下半身がうずくのを感じていると、優斗さんの言葉が俺を現実に引き戻した。
「え――」
「実優が捺くんは小悪魔タイプって言ってたけど……、結構素直なタイプだよね? さっきから顔に出てるよ。いまなに思い出してたのかな」
 優斗さんは微笑みながら灰皿に吸いかけの煙草を置いて、俺をどん底に突き落とす。
「すごくエロい顔してる」
 からかうような口調だけど、俺にとっては笑えない冗談。
 めちゃくちゃ顔が熱くなってまた顔を俯かせようとしたら、それを遮るように優斗さんの手が伸びて俺の頬に触れた。
 びくり、とバカみたいに大げさに反応する俺の身体。
「捺くんは実優が好きだったんだし、もともとは女の子が好きだったんだよね? でも松原さんとシたんだ?」
「……っ」
 どくんどくん心臓が激しく動いてる。
 否定しなきゃなんねーのに、全然口が動かない。
 でも、一つだけ……誤解されたままじゃ駄目だって思って、必死の思いで声を絞り出した。
「違うんです……俺が……その……媚薬を飲ませて、……無理やりその気にさせたんです。だから……松原は悪くない……」
「媚薬を? なるほどね、松原さんが実優以外に手を出すなんてなさそうだなって思ったけど、捺くんそんなことしたんだね?」
 優斗さんの声は変わらず優しくって俺を咎めるような感じではない。
 けど――、だから逆にわからない。
 優斗さんの手が俺の頬から髪を撫でるように動いてる、その意味が。
 肌に触れる指の感触に俺はぞくぞくしてしまってる。
 こんなんで感じるなんてありえねぇ。
 だけどずっと欲求不満だっから、敏感になりすぎてるのかもしれない。
「ねぇ、捺くん」
「……はい」
「松原さんとシたとき、ちゃんとイケた?」
「……え、と」
「そっか、ちゃんとイケたんだね?」
「……」
「でも松原さんとはその一回だけなんだよね?」
「……」
 一回、だけ。
 もう二度と松原と俺がキスもそれ以上もすることはないってはっきりわかってる。
 優斗さんと視線を合わせることができなくって、優斗さんの腕のあたりを意味なく見ていた。
 その腕が動いて、そのたびに俺の頬や髪を指が撫でていく。
 部屋の中に充満してる空気が――経験から普通じゃないってことにはとっくに気づいてる。
 やばいくらいに色のついた空気。
 なんで、こんなことになってるんだ?
 そう何度も頭の隅で繰り返してる。
「射精とは違うオーガズムに達したら……なかなか抜け出せないっていうけど、捺くんはどう?」
 一瞬意味がわからなくて、理解したとたんまた下半身がうずいた。
 後孔で味わったあの――。
「捺くん」
 シュル、と小さな音がして見ると優斗さんが片手でネクタイを取ったところだった。
「捺くんは……満足できそう?」
「……なにが……ですか」
「またあの快感味わいたくない?」
 優斗さんの手が頬から俺の口元に移動してきて、唇をなぞる。
 暖かい指先がそっと触れる感触に、やっぱりゾクゾクしてしまう。
 でも、でも――なんで。
「実は俺もちょっと溜まってて……ね。だから……よかったら捺くん」
 優斗さんがキスできそうなくらいまで顔を近づけてきて、囁いた。
「俺と――シない?」
 なんで、こんな雰囲気になってんだ……よ!
 なんで、このひとが俺なんかにこんなこと言ってくるんだよ!
 パニックになるけど、だけど俺はどうしようもなくゾクゾクしてて、なにも考えられなくって、なにも言えねぇで。
 息苦しさに思わずギュッと目を閉じたら―――次の瞬間、暖かいものが唇に落ちてきた。
 驚いてすぐに目を開ける。
 俺の視界いっぱいに広がる優斗さんのきれいな顔。
 キスは触れるだけ。
 優斗さんの手は相変わらず俺の髪を撫でて、首筋へと移動していく。
 指が肌の上を滑っていく感覚に、またゾクゾクして――つい口を少し開けてしまってた。
 すぐに舌が入り込んできて俺の舌をに触れてくる。
 舐められて絡められて、頭ん中がパニクって、なのに気持ちよくって優斗さんの舌を追いかけてしまう。
 初対面のこの人とキスしているなんてありえねぇって思うのに優斗さんの手が俺の背中に回って、どんどん深くなっていくキスにしがみつくように優斗さんの首に片手を回した。
「……ん…」
 唾液が口の端からこぼれた。
 舌も口の中も、頭ん中も沸騰したように熱い。
 久しぶりにキスなんてするから、相手が初対面のそれも男だっていうのに俺は快感に溺れはじめてた。
 背中に柔らかい感触がしてソファの背もたれに押し付けられてるのに気づく。
 俺の身体を、動きを封じ込めるよう優斗さんの身体が密着してる。
 長いキスがようやく終わって離れた唇同士の間を銀糸が伝ってた。
 濡れた優斗さんの唇や俺をまたキスできそうなところから見つめてくる目にバカみたいにドキドキしてる。
「――いい? 捺くん」
 キスの余韻でうまく頭が働かない。
 拒否するべきだよな……ってことはなんとなくわかるけど、優斗さんの指が悪戯に俺の首筋や耳朶を撫でるから考えが言葉がまとまらない。
 相手は男だっていうのに。
 松原とは違うのに、キスで俺の身体は疼きまくって息子は半勃状態。
「あ……の、俺……」
「なに?」
 熱っぽい息が妙に甘く唇に吹きかかってくる。
「……あの」
 帰ります、って言わなきゃなんねぇ。
 だってこの人は実優ちゃんの叔父さんだし、実優ちゃんが好きなんだし。
 それに初対面だし、男同士だし。
 だから――だから――……。
「俺とじゃイヤ?」
 ちょっとだけ寂しそうにする優斗さんに、迷っちまう。
「そう……いうわけじゃ……」
 視線を合わせきれなくって逸らすと、とたんに耳朶を甘噛みされた。
「ンっ」
 たったそれだけなのに、びくんって身体が震えて、女みたいな甘い声が自分の口から出てた。
 めっちゃくちゃ恥ずかしい!
 それにどんだけ……欲求不満なんだよ俺の身体は!
 息子がもっと反応していくのを感じて、逃げようって動こうとしたらぎゅっと腰を抱かれた。
「だめ?」
「……だって」
「だって?」
「……きょう……はじめて会ったばっかだし」
「そういう経験はいままでにない?」
「……あるけど……。で、も……」
「でも?」
「……男同士だし……」
 優しくってでも色気垂れ流し状態の優斗さんがその言葉に目を光らせた……ような気がする。
「そう、だね? だけど、捺くんは松原さんとシたんだよね? そのときの快感――また欲しくない?」
「……それは」
 オナっても満足できなかったこの一カ月。
 優斗さんとすれば……いいのか?
 女の子に誘われてもヤる気なんて起きなかったけど、いま本当は……流されちまえって本能が言ってる。
 でも、でも……。
「なにを迷ってるのかな? どうしても踏ん切りがつかないなら……大義名分をあげるよ」
 何かを思いついたように優斗さんは見惚れるような妖しい笑みを浮かべて俺から手を話した。
 大義名分……ってなんだ?
 どういうことだろ?
「捺くん、後ろ向いてくれるかな」
「……え」
 肩をそっと叩かれて、ちょっとビビりながら座ったまま優斗さんに背を向ける。
 ドキドキがはんぱじゃねぇ。
 不安なのか期待なのか。
 本当はもっと押して、迷いを吹き飛ばしてくれたら……なんて思ってる。
 って……俺、まじか!?
 ぐちゃぐちゃの頭ん中がもっとぐちゃぐちゃになってたら―――優斗さんが俺の腕を掴んで。
「――……え……!?」
 両手を後ろで縛られた。
「え!?」
 たぶんネクタイだと思う。
 でも縛られたといってもきつくじゃなくって、かなり緩め。
 解こうと思えば解けそうな緩さ。
 だけど縛られたことは縛られたわけで。
 驚いて優斗さんを振り返るとソファに押し倒された。
「自分で抜けれるくらいにしか縛ってないから本当にイヤなら外すといいよ。一応これが大義名分」
 俺の上にいる優斗さんが目を細めて頬を撫でてくる。
「捺くんの意思じゃなく、俺が無理やりってことにすればいい。俺が捺くんを欲しくなって、どうしてもシたくて縛って、無理やり行為に及んだ、ってね?」
 そして俺が優斗さんの言葉に反応する前にまた口をふさがれた。
 今度は最初っから深くって激しいキスに……理性があっさり吹きとんじまった。

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