BLINDFOLD

雲乃みい

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第四夜 性少年の決断

55.キモチ。

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 まだ丸一日も経っていない優斗さんの車の中。
 なのに、全部これから変わってしまう。
 いやもう先週の土曜日、変わってはいたんだろうけど。
「どうしようか。車の中で話す?」
 すっげぇ息止まるんじゃねーかってくらい苦しくて拳にぎりしめてたら優斗さんの優しい声が響く。
「……あの、外がいいかも。……でもあんまり人いないところがいいけど」
「――わかった」
 車内でこんな至近距離で正直ちゃんと喋れる自信がなかった。
 優斗さんは俺にきちんと話してくれたんだから――俺も、本当の気持ちを話さなきゃならない。
 どうやっても落ち着かなくってため息混じりにしか呼吸もできやしねーけど。
 ヘタレな俺のせいで車の中はすっげぇ静かも静かだ。
 昨日の夜もすっげぇ静かだったけど……昨日の夜よりもなんか……。
 結局また俺はため息を吐きだした。
 優斗さんはとくになにも言うことなく黙って車を走らせていた。
 そしてついたのは海沿いの公園だった。
 駐車場には数台の車が停まっていたけど公園自体は広いから他の人が気になることもない。
「寒くない?」
 車を降りて少し歩いていたら優斗さんが俺を見て首を傾ける。
「大丈夫」
 そう、と微笑む優斗さんの背中を前に見ながら俺は少しだけ歩くペースを落とした。
 並んで歩くことがなんとなく出来なくて、正面切って話すことが出来なくって、距離を置いてその背中に話しかけた。
「……優斗さん。――俺ね…」
「……うん」
 やばい、心臓大丈夫なのかってくらい痛い。
 でもちゃんとしなきゃ。
 優斗さんの歩みも少し遅くなって、お互い立ち止まるギリギリくらいで歩き続けた。
「例の罰ゲームで……あっさり松原に落ちて、そんで優斗さんと知り合って……、流されるようにヤって」
 ちゃんと声出てんのか、声震えてないか気になる。
 噛みそうになるし、止まりそうになるのを必死で我慢して続ける。
「でもぶっちゃけ……後悔とかはなかった」
 俺の言葉にか、それともベンチがあったからか優斗さんは立ち止まった。
 そのベンチに腰掛けて優斗さんは俺を見たけど座るようには促さなかった。
 俺は座れなかった。
「そのときは松原のこと好きだったはずなのに、変だよな。でもなんか……優斗さん優しいし気持ちよかったし……なんか……。あ、でもその時はすっげぇびっくりっていうのも大きかったし……そのときだけで二度と会うなんて思ってもみなかった」
 初めて会ったその日にヤって、それで終わるんだって思ってた。
「だけど連絡あって、また会って……そんでシて……。それが当たり前みたいになっていって――だんだん、よくわかんなくなってったんだ」
 会えば楽しかったし、ヤれば気持ちよかったけど、モヤモヤが残って溜まっていっていた。
「なんで……優斗さんは俺と会うんだろうとか……。実優ちゃんのことまだ好きなのかなとか……。俺って松原のことどう思ってんだろうとか。………優斗さんのこと……好きかも……とか」
 優斗さんと会うたびに、優斗さんに惹かれていってるのは――ぶっちゃけ自覚してた。
 でもその分、優斗さんの気持ちがわかんなかったからセーブかけてたっていうか……。
「ずっと自分の気持ちも優斗さんの気持ちもはっきりわかんねーでいたとき……痴漢にあって。なんか俺最悪だって思って優斗さんに会うことができなくなって……智紀さんに出会った」
 立ってらんなくって、優斗さんと距離をあけてベンチの端に座った。
 優斗さんはずっと黙って俺の話を聞いている。
 うつむいて、自分の手眺めながら、また口を開いた。
「優斗さんに誘われて断る自信なかったから、その前に智紀さんと会う約束して……毎週会ってた。でも別に……ほんと先週までは友達っていうか。飯食って喋って……ってそんくらいだったし」 
 ……やばい。
 心臓がどんどん痛くなってる。
 ずっと壊れそうなくらい苦しいのに、どんだけまだ痛むんだろう。
「……だけど智紀さんと会うのはすっげぇ楽しくって……優斗さんのことで悩むのも忘れられて……。それで、俺………」
 きつく、奥歯を噛みしめる。
 言える?
 言わなきゃなんねー。
 ぎゅ、ってさらにキツくズボン握る手に力こめて。
 深呼吸して、吐き出した息は震えてた。
「俺……」
 気合を入れて立ちあがる。
 優斗さんの方を向いて、頭を下げた。
「ご、ごめんなさい。俺っ」
 最悪だって、わかってる。
 振り返ってみて俺って本当にどうしようもないアホで最悪。
「まじ……ごめんなさい」
 苦しい、けど。
「でも、俺――好きだってちゃんと気づいたんだ」
 最後の気力を振り絞って真っ直ぐ優斗さんを見た。
 優斗さんは俺を見ていて、
「俺、俺……」
 めっちゃくっちゃ声裏返るの覚悟して、言った。
「俺――……優斗さんのこと、好き」
 って、
 ……言った。
 い……言ったぁぁあ!!!!!
 うっしゃー!
 よくやった俺!
 ついに言った、俺!
 ああああ、まじで心臓が壊れそうなくらいバクバク言ってんだけど!!!!!
 つーか、顔真っ赤になってるよな。
 寒いのに顔すっげぇ熱い。
 あああ、言った。
 言ってしまった!!!!!!
 ついに告白して一気にテンパった俺は――まったく優斗さんの反応がないことに、気づいた。
 きょとんとして顔を上げて優斗さんを見ると、優斗さんは呆けたように俺を見ている。
「……優斗さん?」
「……え? あ、えと……あの、捺くん、俺のことが好きなの?」
「へ? う、うん。お、俺もずっと……優斗さんのこと好きでしたっ」
 真っ赤になって叫ぶ。
 けど、優斗さんはまだぽかんとしていて。
「……どうかした?」
 まさか半日で俺のこと嫌いになったとか!?
 って焦ってたら、
「えっと……さっきの"ごめんなさい"っていうのは?」
 そう訊かれた。
「あれは……その、優斗さんの好きかもって気づいてたのに……智紀さんに流されるままにヤって……後悔してるから。それで謝ろうと思って」
「……」
 いくら百戦錬磨な智紀さんに迫られたって、本当は流されるべきじゃなかったって思う。
 智紀さんは優しくって楽しいし、好きだけど、"友達"としてだったんだから、快感にながされるべきじゃなかった。
「……ほんとごめん。でもちゃんと、智紀さんとは話してきたから! ちゃんと、ゆ、優斗さんのことが好きだって言ってきたから!」
 優斗さんに会う二時間前、6時に智紀さんと待ち合わせて話してきた。
 優斗さんのこと、智紀さんと会ってたときのこと、そのときの気持ち、話してきた。
『智紀さんと会うのは本当に楽しかったし、本当に好きだけど……。でも優斗さんに対する"好き"とは……違うんだ』
 そう言った俺に智紀さんは苦笑して俺の頭を撫でた。
『あーあ、振られちゃった』
『ごめん』
『謝らなくていいよ。勝率は3割程度かなって思ってたし。まぁ……かなり落ち込むけど』
『……ごめんっ』
『謝らないで、謝られると逆に引きとめたくなる』
『……え』
 智紀さんはクスクス笑って、俺の頭に手を置いたまま顔を覗き込んできた。
『……正直、優斗さんより俺と出会うのが早かったら捺を好きにさせていた自信はあるけどね』
『……』
『まぁそんなことただの負け犬の遠吠えだけど。――でも、優斗さんと幸せになって、捺くん』
『……ありがと』
 もう一回俺の頭を撫でた智紀さんはすっげぇ優しく笑ってくれて。
 俺は本当に申し訳ないやら、ずっと一緒にいてくれたことを感謝しながら、笑顔を向けた。
『じゃ、最後に……。なーつ、キス、していい?』
 少し気持ちが落ち着いた俺にいきなり智紀さんがそんなこと言いだして、は?、って言いかけた瞬間。
 唇が――俺の頬に落ちた。
『っ!!』
 びっくりして頬を押さえる俺に智紀さんは屈託なく笑った。
『優斗さんとお幸せにっていう餞別?』
『餞別って!!』
『別にほっぺだからいーでしょ』
『と、智紀さんー!!』
「……」
 って、最後まであの人はあの人だったな、なんて回想終了。
「智紀さんから、なにかされた?」
「えっ?」
 思い返していた俺の顔を覗き込んで優斗さんが言う。
「顔真っ赤だよ」
「え、いや、なんか"優斗さんとお幸せに"って餞別にほっぺたチューされただけ! それだけだから!!!」
「へぇ――、それは妬けるね?」
「……へ」
 ぽかんってしたら手を引っ張られて――抱き締められた。
「捺くん」
 一気に暖かい腕の中に閉じ込められて冷えてきてた頬がまた熱くなる。
「は、はい」
「もう一回言って?」
「え?」
「俺のこと、どう思っているか」
「……え、……えと」
 頬に手を添えられて顔のぞき込まれて至近距離で見つめられる。
 ……だから、イヤだったんだよ、近づくの!!
 もうすんげぇ勢いで心臓がさっきよりもMAXでドキドキしてる。
「……あの……、優斗さんが……好きデス……」
 うぁあああ! 恥ずかしい!
「もう一回」
「……ま、まじで好きだからっ!!」
 赤過ぎる顔でそう叫んだら――優斗さんの目がすっげぇ優しく細くなって。
「俺も好きだよ」
 って、唇が触れ合った。
 何回もキスしたことあるのに、気持がはっきり繋がってるっていうだけで全然違うんだって初めて知った。
 甘くなぞるように優斗さんの舌が俺の唇を舐めて、自然と口を開けて、舌が絡み合う。
 好きだって言われて
 好きだって伝えて
 そうしてする初めてのキスはめちゃくちゃ気持ちよくて、幸せで――俺を抱きしめる優斗さんの手に力が加わるのを感じながら、俺も優斗さんの背に手を回した。

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