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第五夜 性少年の嫉妬
第39話
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「捺くん」
「ん」
「ゆーにーちゃんをよろしくね」
姪っこからのお願いです、なんて頭を下げた実優ちゃんに、俺も慌てて頭を下げ返して。
「は、はい。俺もよろしく」
とか意味わかんねーこと口走って。
そんで――顔を上げた実優ちゃんと顔を見合わせて笑った。
ほんとうに久しぶりに、ただ純粋に笑えて、あんだけモヤモヤしてたのがウソみたいに心が軽くなってた。
それから、実優ちゃんに優斗さんのことをいろいろ聞いた。
最近のことやすっげえ昔のこと。
アルバムも見せてもらった。
優斗さんの小さい頃の写真はなかったけど、小学校高学年くらいからのはたくさんあった。
優斗さんのお姉さんと義兄さんの三人で映ってるのとか、実優ちゃんが生まれたころのとか。
そして俺と同い年の優斗さんとか。
高校の制服を着て映ってる優斗さんは俺なんかよりも大人っぽく見えて、頭良さそうで、やっぱりカッコよくて。
「写真いる?」って実優ちゃんに訊かれて「いる」って即答したりした。
その写真も――ある時点で途切れてたけど、でもまた実優ちゃんが中学生になったころから増えて。
この前温泉に行った時の写真なんかもちゃんとアルバムに綴じてあった。
どれも全部笑顔で、全部幸せそうで。
――どんだけつらい過去があって、優斗さんがその背中に重いものをたくさん背負ってたってしても、俺の知る優しい優斗さんは全然ブレないし、変わらない。
でもだからこそ俺は……俺は――。
「捺くん、冷蔵庫にデザートもあるから、食べてね」
散々アルバム見て実優ちゃんと二人喋り倒して笑って、そういやって中断してた夕食の準備を終わらせてから実優ちゃんは帰り支度をした。
玄関まで見送る。
キッチンには美味しそうな料理が出来上がってる。
優斗さんが帰ってきたら俺が温めて、ふたりで食べる料理。
「うん、ありがと。なんか今日の夕食すっげぇ俺の好きなものばっかりで嬉しい」
たまたま実優ちゃんが作ってくれたのは俺の好物ばかりだった。
笑いすぎて疲れさえする頬を上げて、俺が言えば実優ちゃんはきょとんとして、そして「うふふ」って口元を押さえた。
悪戯でも思いついたような、そんな顔。
「ね、捺くん」
「なに?」
「ゆーにーちゃんにはあとで謝っておいて? ちょっと怒っちゃうかもしれないから」
「なに? 怒るって……」
「いまから私が言うこと。本当はね、黙っておこうって思ったんだけど。せっかくだから私が言っちゃう。一番乗りしちゃおうかなって思って」
「……はぁ」
なんなんだろう?
楽しそうに笑う実優ちゃんに首を傾げた。
「だって私だって捺くんの友達だからいいんだもん!」
実優ちゃんはよくわかんねーこと言って拳を握りしめてる。
……本当になんなんだろ。
「まだちょっと早いけど、かなりフライングだけど、捺くん」
「は、はい?」
大きな目を一瞬瞬かせて、優斗さんとよく似た笑顔を、俺にくれた。
「――明日、お誕生日おめでとう!」
「――……え」
「じゃあ、ゆーにーちゃんとケーキ食べてお祝いしてね」
呆気にとられる俺に、実優ちゃんは手を振ると玄関を出ていった。
慌てて、
「あ、ありがとう! また来週学校で」
「うん」
ばいばい、って手を振り合って、実優ちゃんを見送って。
それからリビングに戻ってカレンダーを見て、いまさら思い出した。
――明日、6月26日って俺の誕生日だ。
すっかり忘れてて、そういや今日の土曜日の休日出勤を優斗さんが珍しく渋ってたことを思い出した。
「……明日で18なんだ、俺」
結婚だってできる歳。
大人じゃないけど、大人に一歩近づく歳。
「……」
キッチンに入って実優ちゃんが作ってくれた料理を眺める。
全部俺の好物なのは偶然じゃなかったんだ。
でも、俺実優ちゃんに好きな食べ物の話そんなしたことないような気がするから――、たぶん情報は優斗さんからなのかな。
って、思うと勝手に顔が緩んだ。
時計は4時を少し過ぎた頃。
優斗さんは定時であがってすぐに帰ってくるって言ってた。
「……早く会いてーな……」
たぶん、あってすぐの笑顔はひきつってしまうかもしれない。
でも、早く会いたかった。
たとえなにも言えないままでも。
そしてリビングに戻ってテレビつけて家に電話した。
たぶん優斗さんは俺の誕生日を祝うけど、家族とも過ごしてほしいって言うと思う。
でも俺はやっぱり優斗さんと過ごしたいし。
「……明日8時か8時半くらいに帰ってくる」
『なによその微妙な時間帯。ご飯いるの?』
「……いらない。ケーキはいる」
『はあ? しょうがないわねー。じゃあ9時に帰ってきなさい。外食してケーキ買ってそれくらいに帰ってくるから』
「……なんで俺がいないと外食なんだよ。明日俺の誕生日なんだろ」
『家で食べるなら好きなもの作ってあげるけど、いないなら私たちが好きなもの食べにいくからよ』
自信満々に答えるお袋にため息しかでねー。
「いや意味わかんねーんだけど」
『ま、いいじゃない。ケーキはあんたのすきなの買っておくから。プレゼントほしいならちゃんと帰ってきなさいよ』
「わかった」
よくわかんねーおばさんだ。
でもそれも俺の大事な家族。
「じゃーね」
って、電話切ってソファにごろんと横になった。
いろんなものが、まだ胸の中には残ってはいる。
けど、たぶん――大丈夫。
優斗さんが帰ってくるまでの間、テレビを見て過ごした。
ある特集番組がちょうど終わりかけたころ玄関ドアの開く音がしてきた。
テレビを消して玄関に向かう。
俺の足音に気づいた、靴を脱いでいた優斗さんが顔を上げて俺を視界に入れる。
一週間ぶり。
ぶっちゃけ結構緊張してたけど頑張って声をかけた。
「おかえり」
優斗さんは俺を見て少し驚いたみたいな顔をしたけどすぐにほっとしたように目を細めて微笑んだ。
「……ただいま」
気まずさとは違うけど、照れるっつーかなんかちょっと言葉がでなくて見つめ合うような状態が少し続いた。
「あ、あの、早かったね」
定時に終わるって聞いてたから予想通りの時間だけど、とっかかりっつーか話すきっかけがほしくてへらっと笑いかける。
「ああ、定時だったし。それに……早く捺くんに会いたかったから」
「……」
相変わらずさらっと言ってくれる。
こっちが恥ずかしくなる。
なんかほんと……やばい。
「……っとさ、メシはまだ早いよね」
俺もーとか言いたかったけど、気持ち的に妙に久しぶりに感じて素直に言えずに話題を変えてしまった。
ヘタレ!って自分に悪態つきながら、優斗さんが俺のとなりに並んで二人してリビングに向かった。
「そうだね。捺くんはお腹空いてない? 空いてるならもう夕食でもいいよ?」
「俺はまだ大丈夫」
「そう? 今日はなにを食べようか」
「……え」
にこにこと訊いてくる優斗さんに、実優ちゃん夕食作りにくること言ってなかったのか、っていまさら知った。
リビング入ったらキッチンがすぐそばで優斗さんが何気なくそっち見て首傾げてる。
「あれ、捺くんなにか作ってくれたの?」
「え……っと、いや」
不思議そうにキッチンに入っていく優斗さんをさりげなく見つめてみる。
実優ちゃんといろいろ喋ってたときに――、
『ゆーにーちゃんって私のほうが学校で捺くんと会う時間多いから、たまに羨ましいみたいなこと言うんだよ』
なんてこと言ってたの思い出した。
実優ちゃんが作りに来たって言ったらどんな反応するのかな……。
いややっぱ実優ちゃんが大げさに言ってるだけで特に反応ないような気がするんだけどな。
「実優ちゃんと一緒に来たんだ。それで夕食作ってくれた」
「実優が?」
聞いてなかったな、と呟きながらフライパンの蓋を開けた優斗さんがちょっと眉を寄せた。
今日のメニューは煮込チーズインハンバーグと海老フライにサラダ。
海老フライはもう揚げた状態であとは盛り付けるだけ。
「そのハンバーグ、チーズ入りなんだって。俺、すっげぇ好物なんだよね」
優斗さんの様子を見ながら軽く言ってみる。
「……そうだったね」
笑顔で優斗さんは返事してくれた、けど、いますっげぇ間があったよな。
その間はなんなんだろう。
「喉渇いたな」
ネクタイ緩めながらフライパンに蓋を戻した優斗さんが今度は冷蔵庫を開ける。
冷蔵庫には実優ちゃんが作って持ってきてくれた小さめのホールケーキが入った箱がある。
こっそり俺もさっき見たんだけど飾られたチョコプレートにばっちり"Happy Birthday 捺くん"って書かれてる。
「なんだこれ……」
優斗さんがそのケーキの箱に気づいて覗き込んで――少し固まって小さくため息をついた。
すぐに箱をもとに戻してミネラルウォーターを取り出す。
グラスについで飲みだす優斗さん。
ケーキのことでなにか言うのかなと思ってじっと見てたんだけど、なんにも言わないで俺の視線に気づいたら「どうしたの」って訊いてくる。
「え、いや」
実優ちゃんの手づくりケーキスルー!?
スルーしていいのか?
「あの実優ちゃんがデザート作って持ってきてくれたって」
「みたいだね」
「……」
……笑顔だけど、なんか機嫌が少し斜めってる気もする。
「なんか料理見たらお腹減ってきた気もする! 先食う?」
なんで斜めになってんだ!?
ちょっと焦って夕食の提案してみた。
「んー……捺くん」
「なに……?」
だけど真剣に優斗さんが見つめてきて、戸惑う。
「実優からなんか言われた?」
「なんかって?」
「……明日のこととか?」
帰り際の実優ちゃんの悪戯を思いついたような笑顔を思い出しながらへらへらっと誤魔化すように笑ってみた。
「……フライングで……お誕生日おめでとうー……とか?」
「……」
「……」
「そっか。やっぱりこれ実優が捺くんのために作ったんだね。あとで食べようね」
実優にもお礼を言わないとね、なんて優斗さんは笑顔だけど。
……すっげぇいま間があったよな。
『ゆーにーちゃん、結構独占欲強いよー』
なんて言ってた実優ちゃんの言葉に半信半疑だったけど……。
やばい……。
「捺くん?」
「へ?」
「……顔緩んでるよ。なに考えてたの?」
「へっ? あ、いや」
やっべー。
慌ててぺチぺチ頬を叩く。
叩いても緩みそうになってる頬を摩ってると、優斗さんが俺の方に近づいてきて――ふっと抱き締められた。
一週間ぶりの優斗さんの香り。
それだけで頭の中が痺れたみたいになにも考えられなくなる。
優斗さんは俺の肩に顔を埋めて、聞こえるか聞こえないかの小さい声で呟いた。
「――……俺が一番におめでとうって言いたかったんだけどな」
「……」
や、やっべー!!!
久しぶりの体温とそんな言葉とで一気に体温が上がって顔は熱くなるは息子は反応しかけるわで心臓がばくばくしてきた。
優斗さんの吐息が首にかかってぞくっとする。
動くに動けないでいたら優斗さんが少し動いて、俺の顔を覗き込む。
頬に触れて髪を梳くように潜り込んでくる指。
至近距離にある優斗さんの顔にドクドク身体が熱い。
俺を見つめる優斗さんの目に目が離せなくて、ごくんと唾飲みこんで。
なんでこんなに緊張しまくってんだ、俺ってくらいに動悸が激しくて。
「日付変わったら俺が一番に言うから」
なんて笑って――唇が触れてくる。
「ん」
「ゆーにーちゃんをよろしくね」
姪っこからのお願いです、なんて頭を下げた実優ちゃんに、俺も慌てて頭を下げ返して。
「は、はい。俺もよろしく」
とか意味わかんねーこと口走って。
そんで――顔を上げた実優ちゃんと顔を見合わせて笑った。
ほんとうに久しぶりに、ただ純粋に笑えて、あんだけモヤモヤしてたのがウソみたいに心が軽くなってた。
それから、実優ちゃんに優斗さんのことをいろいろ聞いた。
最近のことやすっげえ昔のこと。
アルバムも見せてもらった。
優斗さんの小さい頃の写真はなかったけど、小学校高学年くらいからのはたくさんあった。
優斗さんのお姉さんと義兄さんの三人で映ってるのとか、実優ちゃんが生まれたころのとか。
そして俺と同い年の優斗さんとか。
高校の制服を着て映ってる優斗さんは俺なんかよりも大人っぽく見えて、頭良さそうで、やっぱりカッコよくて。
「写真いる?」って実優ちゃんに訊かれて「いる」って即答したりした。
その写真も――ある時点で途切れてたけど、でもまた実優ちゃんが中学生になったころから増えて。
この前温泉に行った時の写真なんかもちゃんとアルバムに綴じてあった。
どれも全部笑顔で、全部幸せそうで。
――どんだけつらい過去があって、優斗さんがその背中に重いものをたくさん背負ってたってしても、俺の知る優しい優斗さんは全然ブレないし、変わらない。
でもだからこそ俺は……俺は――。
「捺くん、冷蔵庫にデザートもあるから、食べてね」
散々アルバム見て実優ちゃんと二人喋り倒して笑って、そういやって中断してた夕食の準備を終わらせてから実優ちゃんは帰り支度をした。
玄関まで見送る。
キッチンには美味しそうな料理が出来上がってる。
優斗さんが帰ってきたら俺が温めて、ふたりで食べる料理。
「うん、ありがと。なんか今日の夕食すっげぇ俺の好きなものばっかりで嬉しい」
たまたま実優ちゃんが作ってくれたのは俺の好物ばかりだった。
笑いすぎて疲れさえする頬を上げて、俺が言えば実優ちゃんはきょとんとして、そして「うふふ」って口元を押さえた。
悪戯でも思いついたような、そんな顔。
「ね、捺くん」
「なに?」
「ゆーにーちゃんにはあとで謝っておいて? ちょっと怒っちゃうかもしれないから」
「なに? 怒るって……」
「いまから私が言うこと。本当はね、黙っておこうって思ったんだけど。せっかくだから私が言っちゃう。一番乗りしちゃおうかなって思って」
「……はぁ」
なんなんだろう?
楽しそうに笑う実優ちゃんに首を傾げた。
「だって私だって捺くんの友達だからいいんだもん!」
実優ちゃんはよくわかんねーこと言って拳を握りしめてる。
……本当になんなんだろ。
「まだちょっと早いけど、かなりフライングだけど、捺くん」
「は、はい?」
大きな目を一瞬瞬かせて、優斗さんとよく似た笑顔を、俺にくれた。
「――明日、お誕生日おめでとう!」
「――……え」
「じゃあ、ゆーにーちゃんとケーキ食べてお祝いしてね」
呆気にとられる俺に、実優ちゃんは手を振ると玄関を出ていった。
慌てて、
「あ、ありがとう! また来週学校で」
「うん」
ばいばい、って手を振り合って、実優ちゃんを見送って。
それからリビングに戻ってカレンダーを見て、いまさら思い出した。
――明日、6月26日って俺の誕生日だ。
すっかり忘れてて、そういや今日の土曜日の休日出勤を優斗さんが珍しく渋ってたことを思い出した。
「……明日で18なんだ、俺」
結婚だってできる歳。
大人じゃないけど、大人に一歩近づく歳。
「……」
キッチンに入って実優ちゃんが作ってくれた料理を眺める。
全部俺の好物なのは偶然じゃなかったんだ。
でも、俺実優ちゃんに好きな食べ物の話そんなしたことないような気がするから――、たぶん情報は優斗さんからなのかな。
って、思うと勝手に顔が緩んだ。
時計は4時を少し過ぎた頃。
優斗さんは定時であがってすぐに帰ってくるって言ってた。
「……早く会いてーな……」
たぶん、あってすぐの笑顔はひきつってしまうかもしれない。
でも、早く会いたかった。
たとえなにも言えないままでも。
そしてリビングに戻ってテレビつけて家に電話した。
たぶん優斗さんは俺の誕生日を祝うけど、家族とも過ごしてほしいって言うと思う。
でも俺はやっぱり優斗さんと過ごしたいし。
「……明日8時か8時半くらいに帰ってくる」
『なによその微妙な時間帯。ご飯いるの?』
「……いらない。ケーキはいる」
『はあ? しょうがないわねー。じゃあ9時に帰ってきなさい。外食してケーキ買ってそれくらいに帰ってくるから』
「……なんで俺がいないと外食なんだよ。明日俺の誕生日なんだろ」
『家で食べるなら好きなもの作ってあげるけど、いないなら私たちが好きなもの食べにいくからよ』
自信満々に答えるお袋にため息しかでねー。
「いや意味わかんねーんだけど」
『ま、いいじゃない。ケーキはあんたのすきなの買っておくから。プレゼントほしいならちゃんと帰ってきなさいよ』
「わかった」
よくわかんねーおばさんだ。
でもそれも俺の大事な家族。
「じゃーね」
って、電話切ってソファにごろんと横になった。
いろんなものが、まだ胸の中には残ってはいる。
けど、たぶん――大丈夫。
優斗さんが帰ってくるまでの間、テレビを見て過ごした。
ある特集番組がちょうど終わりかけたころ玄関ドアの開く音がしてきた。
テレビを消して玄関に向かう。
俺の足音に気づいた、靴を脱いでいた優斗さんが顔を上げて俺を視界に入れる。
一週間ぶり。
ぶっちゃけ結構緊張してたけど頑張って声をかけた。
「おかえり」
優斗さんは俺を見て少し驚いたみたいな顔をしたけどすぐにほっとしたように目を細めて微笑んだ。
「……ただいま」
気まずさとは違うけど、照れるっつーかなんかちょっと言葉がでなくて見つめ合うような状態が少し続いた。
「あ、あの、早かったね」
定時に終わるって聞いてたから予想通りの時間だけど、とっかかりっつーか話すきっかけがほしくてへらっと笑いかける。
「ああ、定時だったし。それに……早く捺くんに会いたかったから」
「……」
相変わらずさらっと言ってくれる。
こっちが恥ずかしくなる。
なんかほんと……やばい。
「……っとさ、メシはまだ早いよね」
俺もーとか言いたかったけど、気持ち的に妙に久しぶりに感じて素直に言えずに話題を変えてしまった。
ヘタレ!って自分に悪態つきながら、優斗さんが俺のとなりに並んで二人してリビングに向かった。
「そうだね。捺くんはお腹空いてない? 空いてるならもう夕食でもいいよ?」
「俺はまだ大丈夫」
「そう? 今日はなにを食べようか」
「……え」
にこにこと訊いてくる優斗さんに、実優ちゃん夕食作りにくること言ってなかったのか、っていまさら知った。
リビング入ったらキッチンがすぐそばで優斗さんが何気なくそっち見て首傾げてる。
「あれ、捺くんなにか作ってくれたの?」
「え……っと、いや」
不思議そうにキッチンに入っていく優斗さんをさりげなく見つめてみる。
実優ちゃんといろいろ喋ってたときに――、
『ゆーにーちゃんって私のほうが学校で捺くんと会う時間多いから、たまに羨ましいみたいなこと言うんだよ』
なんてこと言ってたの思い出した。
実優ちゃんが作りに来たって言ったらどんな反応するのかな……。
いややっぱ実優ちゃんが大げさに言ってるだけで特に反応ないような気がするんだけどな。
「実優ちゃんと一緒に来たんだ。それで夕食作ってくれた」
「実優が?」
聞いてなかったな、と呟きながらフライパンの蓋を開けた優斗さんがちょっと眉を寄せた。
今日のメニューは煮込チーズインハンバーグと海老フライにサラダ。
海老フライはもう揚げた状態であとは盛り付けるだけ。
「そのハンバーグ、チーズ入りなんだって。俺、すっげぇ好物なんだよね」
優斗さんの様子を見ながら軽く言ってみる。
「……そうだったね」
笑顔で優斗さんは返事してくれた、けど、いますっげぇ間があったよな。
その間はなんなんだろう。
「喉渇いたな」
ネクタイ緩めながらフライパンに蓋を戻した優斗さんが今度は冷蔵庫を開ける。
冷蔵庫には実優ちゃんが作って持ってきてくれた小さめのホールケーキが入った箱がある。
こっそり俺もさっき見たんだけど飾られたチョコプレートにばっちり"Happy Birthday 捺くん"って書かれてる。
「なんだこれ……」
優斗さんがそのケーキの箱に気づいて覗き込んで――少し固まって小さくため息をついた。
すぐに箱をもとに戻してミネラルウォーターを取り出す。
グラスについで飲みだす優斗さん。
ケーキのことでなにか言うのかなと思ってじっと見てたんだけど、なんにも言わないで俺の視線に気づいたら「どうしたの」って訊いてくる。
「え、いや」
実優ちゃんの手づくりケーキスルー!?
スルーしていいのか?
「あの実優ちゃんがデザート作って持ってきてくれたって」
「みたいだね」
「……」
……笑顔だけど、なんか機嫌が少し斜めってる気もする。
「なんか料理見たらお腹減ってきた気もする! 先食う?」
なんで斜めになってんだ!?
ちょっと焦って夕食の提案してみた。
「んー……捺くん」
「なに……?」
だけど真剣に優斗さんが見つめてきて、戸惑う。
「実優からなんか言われた?」
「なんかって?」
「……明日のこととか?」
帰り際の実優ちゃんの悪戯を思いついたような笑顔を思い出しながらへらへらっと誤魔化すように笑ってみた。
「……フライングで……お誕生日おめでとうー……とか?」
「……」
「……」
「そっか。やっぱりこれ実優が捺くんのために作ったんだね。あとで食べようね」
実優にもお礼を言わないとね、なんて優斗さんは笑顔だけど。
……すっげぇいま間があったよな。
『ゆーにーちゃん、結構独占欲強いよー』
なんて言ってた実優ちゃんの言葉に半信半疑だったけど……。
やばい……。
「捺くん?」
「へ?」
「……顔緩んでるよ。なに考えてたの?」
「へっ? あ、いや」
やっべー。
慌ててぺチぺチ頬を叩く。
叩いても緩みそうになってる頬を摩ってると、優斗さんが俺の方に近づいてきて――ふっと抱き締められた。
一週間ぶりの優斗さんの香り。
それだけで頭の中が痺れたみたいになにも考えられなくなる。
優斗さんは俺の肩に顔を埋めて、聞こえるか聞こえないかの小さい声で呟いた。
「――……俺が一番におめでとうって言いたかったんだけどな」
「……」
や、やっべー!!!
久しぶりの体温とそんな言葉とで一気に体温が上がって顔は熱くなるは息子は反応しかけるわで心臓がばくばくしてきた。
優斗さんの吐息が首にかかってぞくっとする。
動くに動けないでいたら優斗さんが少し動いて、俺の顔を覗き込む。
頬に触れて髪を梳くように潜り込んでくる指。
至近距離にある優斗さんの顔にドクドク身体が熱い。
俺を見つめる優斗さんの目に目が離せなくて、ごくんと唾飲みこんで。
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