俺の人生をめちゃくちゃにする人外サイコパス美形の魔性に、執着されています

フルーツ仙人

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番外 三 eat me

eat me

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 ダリオは経済学部だが、イーストシティ大学では他学部の受講も認められている。元々経済学部では簡単なJabberwock言語のプログラミング一般教養講義が推奨されている関係で、ダリオは工学部の同言語プログラム講義にも顔を出していた。この単位をとっておけば後々就職に有利というより、知っておいた方がよいという考えだ。
 プログラムを動かす環境設定の関係で、ダリオの生活水準を考えると、飛びぬけて性能のよいパソコンを購入している。
 今回はアプリ作成のため、パソコン内に仮想携帯フォンを立てて、動作を確認しながら設計を行っていた。
 現在ダリオは、工学部、文学部の友人に協力を仰ぎ、古語翻訳アプリを作っている。
「ダリオ、お前目の付け所マジ守銭奴!」
 とは工学部の友人、ダグラス・ポーカーのコメントで、彼はかなりこの試みを面白く思っているようだった。文学部の友人、アリス・メイフィールドも、わくわくを隠さない様子で歓び、文学部の教授にも協力を仰いで半ばプロジェクトと化したアプリ制作を進めている。工学部教授からも、面白そうだから一枚噛ませろと声がかかっていて、ダリオがやったことといえば、デモアプリで話を具体的に進め、横断的に人々を結びつける「ブリッジ」の役目だった。
 あさってには関係者で一度集まる予定で、ダリオは最終調整の資料を自室で用意しているところである。
 デモを一度仮想携帯フォンの上で走らせて、チェックしたところで、ダリオはぐぅっと真上に腕を伸ばした。首を鳴らし、少し休憩するかと、コーヒーでも作ろうかと思った時だ。
「ダリオさん」
「うぉっ!?」
 けはいもなく、背後からテオドールに声をかけられた。集中が途切れた瞬間とはいえ、ぎょっとしてしまう。 
「な、なんだ?」
「しばらくお暇をさせていただくことになりましたので、ご報告に」
「は?」
 ダリオは頭が真っ白になった。どういうことか、うまく呑み込めない。目の前のパソコンが自動で遷移し、待機画面の複雑怪奇な三次元コンピューターグラフィックスを描き始める。
 テオドールの言い方からして、決定事項っぽい、と理解した。
「あー、戻るのはいつ頃なんだ?」
 たぶん脱皮事件の際に、何も言わずに消えるのはもう二度目ナシ、と言ったので、律儀に事前予告ならぬ報告にきたのだろう。
 テオドールは黒の皮手袋に包まれた指を口元に当て、少し思案すると、口を開いた。
「長ければ一カ月程度かと」
「長ければ一カ月」
 ダリオはアホみたいに繰り返してしまう。思考がまとまらない。
「その間、連絡は取れるのか?」
「少し難しいかもしれません」
 何の罰? とダリオは内心思った。エヴァではないが、いや本当になんの罰食らっているんだ? という気分だ。
「えーと、何の用でどこ行くのか聞いていいか?」
「……」
 沈黙され、脱皮事件の時より事前報告があるだけ状況はマシだが、また帰って来るのか精神的にしんどいやつではという気がしてきた。
 しかし、テオドールが黙ったのは、言いたくないわけではなかったらしい。どう説明するか考えていたようで、普通に話し始めた。
「■■■■■■……失礼しました。エルダーから召喚要請があったので、無視していたのですが、あまりにも執拗なため一度顔を出しておこうかと思いまして」
「色々言いたいことはあるが、エルダーってなんだ?」
「直訳すると高齢者です」
「ああ、そう」
 色々察したダリオである。
「お身内からの呼び出しみたいなやつか?」
「身内ではありません。ただ歳をとっただけの同族です」
 身内では? とダリオは思ったが黙っておいた。身内の高齢者から、さいさん実家に戻ってくるように言われていたのに、無視していたので、いよいよ痺れを切らした彼らから何か言われたというような感じか? と想像する。
「場合によっては交戦になるかと思いますので、その際は連絡することが難しいのではないかと」
「いやいやいや、なんで同族と交戦になるんだよ」
 なんで身内の高齢者と交戦するんだよ、とダリオは言いたい。
「……」
 テオドールは無感動ながら、どこか苦々しい顔つきに見えた。表情はいつものとおりなのに、なんとなくそういう感じがする。
「あー、言いたくないなら聞かないが……その、無事で帰ってきてほしいんだが、俺は」
「善処します」
「公約守らない政治家みたいな言い方すんな」
「……前向きに努力します」
 言いなおした。これダメなやつだな、とダリオは思った。
「えー、無事に帰って来てくれるなら、俺なんでも言うことひとつ聞くぞ。まあいらんかもしれ」
 ないが。とみなまで言う間もなく、ずい、とテオドールが目をかっ開いてダリオに顔を寄せて来た。普通に怖い。
「なんでも言うことをひとつ聞くとおっしゃいましたか?」
「い、言った……」
 言ったけど、割と俺いつも、お前の要望聞くぞ、って言ってるよな? とダリオはドン引きする。そういう軽い感じではなくて、何かこうした取引でないと口にできないようなことでもあるのか? とむしろ気になるくらいだ。
 テオドールは元の位置に引くと、真顔で物騒な台詞を吐いた。
「わかりました。バラバラにして、『海』に廃棄する予定でしたが、話し合いでかたをつけてきます」
 もうなんか色々つっこみが追いつかねーなーとダリオは思った。『海』というのも、翻訳がそうなっただけで、多分ダリオの思う海ではないのだろう。
 あとお前、交戦になるどころか、殺る気満々じゃねーか、と遠い目になった。
「あのさ、前もって何希望なのか聞いといていいか?」
 テオドールは黙り込んだ。言いづらいやつなのか、まだ決めかねているのか。そういう感じではなかったよな、具体的に何かしてほしいことがある様子だったとダリオは言葉を待つ。
 やがてテオドールは慎重に言葉を選ぶ語調で、ダリオの表情を伺うように申し出た。
「……僕の領域にお連れして、以前脱皮の際にしたように、僕の本体の方で、ダリオさんに触りたい。可能なら、中に入れていただきたいのですが……」
 え、それ別にわざわざ取引せんでも、いつでも俺はウェルカムなやつだが!? とダリオはむしろ驚いた。あーなるほど、テオドール的には本体の方はあまり見せたくない感じだったから、特別なお願いでないと言えないやつなのか、とダリオは呑み込む。あの巨体もかわいいとダリオは思っているが、本人が色々思うところのある以上、無理に引きずりだすものでもあるまいし、まあ今回はとりあえずいいかと考えた。
 ダリオは指で手招きして、テオドールに屈んでもらう。わざと舌先だけ出して、この美しい青年の唇をぎりぎり触れないで、舐めるように上下、右から左にゆっくりなぞると、最後に空中でリップ音だけ鳴らした。
「帰ったら……いっぱいしよ」
 うな。とまで言うつもりだったのだが、がしっ、とテオドールが妙な気迫で肩口をつかんで乗り出してきたので、チェアに背中がぐいと押し付けられ、上半身が仰け反るように胸を突き出す姿勢になってしまう。中途半端に言葉が切られてしまい、妙に誘い文句がかわいい感じになってしまったダリオは、ええ、と思ったが、「いいですか」と前のめりに問われて、もちろん了承する。痛いほど舌のつけ根を吸われながら、もうなんでもいい、はやくテオとしたい、できるのかあ、と帰りを楽しみに待てるなと快感に呑まれていった。

 テオドールの帰りを待つ間に、アプリで読み込んだ古語からとんでもないゲストを呼び出したり、他にもいろいろ事件に遭遇したりはあったが、比較的平和な一カ月が経過し。
 はからずも、テオドールが事前に『お願い』をしていったおかげで、心配しつつも、あれこれと想像し、期待し、ドキドキしながら待つことができた。それは、一度体験して知っているだけに、焦らされ、とろ火でじっくり炙られるような、心身が準備のために熟成する期間でもあった。
 テオドールが帰宅したのは、本人の言う通り最長一カ月後だった。古語翻訳アプリのつめで、着替えることもせずベッドに倒れ込んで寝ていたらしいダリオは、ふと真夜中に目を覚ました。なんとなく予兆を感じたのか、用もなくパチッと目が覚めたのだ。サイドボードの時計を確かめようとして、強い視線に目線を上げると。
「おわっ」
 テオドールが真っ暗闇の中、ダリオをじっと凝視していた。
 普通に怖い。
「お、おかえり……帰って来てたのか」
「はい。少し前に帰投しました」
 帰還兵の報告ではないのだから、言い方……と思ったが、当初相手をバラバラにして海に捨てるつもりだったらしいので、戦地と言えば戦地帰りなのかもしれない。ダリオは手元のリモコンで明かりを点灯した。
「起こしてくれてよかったんだが」
「そうでしたか」
 テオドールは言葉少ない。あー、とダリオは両手を組んだ。
「その……ハグでもするか?」
「はい」
 手招きすると、ゆっくりと覆いかぶさって来るテオドールは知らず唇が半開きになっている。舌をしまい忘れている猫みたいな感じだな、とダリオは苦笑した。
 かかってくる重みに対し、特に抵抗もしなかったためシーツに引き倒されてしまって、全身で圧し掛かられるようにハグされた。ダリオもテオドールの背に片手を回し、特になにするでもなくお互いの体温や匂いを確認するようにしばらくじっとしている。
 テオドールが何もしゃべらないので、ダリオは彼の腰に両手を回して下から抱きしめるようにした。
「無事でよかったよ。けがはないか?」
「……はい」
 本当にしゃべらないので、疲れてるのかね、とダリオはポンポンと背中を叩く。そのまま撫でていると、
「ダリオさんがいなかったので」
 と言われた。
 まあそりゃそうだよね、とはなるが、テオドールが言いたいのは多分そういうことではないのだろう。
「ダリオさんがいませんでした」
 もう一度報告され、お前報告すること他にあるだろ、とは思ったが、この青年にとって一番報告すべきはそこであって、言いたいのもそれらしいのは理解した。さいさんの召喚要請を無視していたのはその辺りなのかもしれない。
 テオドールは身を起こし、ダリオの回していた手も外れた。
 平淡ながら、どこか切羽つまったように問われ、ダリオは「カム」と了承した。
 もう一度青年は覆いかぶさって来る。
 唇がやさしく寄せられ、今度はダリオの目元に、次は鼻先に、その次は唇に。と思うとすぐ離れ、また目元、額、再び目元、耳、こめかみ、顎先と来て、いつの間にか二本の指が、ダリオのうなじから襟足へと触れている。髪を弄ばれ、指の腹で襟足の薄い皮膚を愛撫されると、ぞく、と粟立つような微弱の寒気にも似た官能が、頭皮と首のつなぎ目を起点に上下へと走って行く。
 ちゅ、と唇を吸われ、また離れると、もう次は深く重ねて、再度離れる。ダリオが追いかけるように舌先を伸ばしたところで、ゆっくりと舌の表面を舐められた。
 襟足やうなじをなぞっていた指は、次第に背筋を降りて来て、今は背骨を辿りながら、胸椎の間をひとつひとつ確かめるように押さえていく。
 とりわけ、胸椎から腰椎に指先が降りて来た時には、ダリオは耐え難くて、背中を反らすように腰骨が浮き上がってしまった。尾てい骨から双丘にまで滑らされるともう駄目だ。なにかの勝負をしていたわけではないが、もはや全面降伏である。
 背骨を数えていた指が、腰まで落ちて来た時に、総毛立つような官能のピークだと思ったが、臀部を手のひらで包まれるのは、また違った直接的な快楽がある。
 もうどうにでもして、全部食べて、

——please eat me up.
 
 わたしを食べ尽くしてください。

 などというどう考えても危機感ゼロのアレな台詞を怪異のヤバイ奴に言ってしまったあたり、ダリオも相当頭がゆだっていたのだろう。
 テオドールは無言となった。先ほどから無言ではあったが、質の違う、あらゆる音がサイレントになるような沈黙である。
 耐えがたいような沈黙の末、ひにんは、します、と呻くような色っぽいかすれ声が低く絞り出されたのを最後に。 
 この世のものとも思えぬ妖美な青年は、魔性は結局魔性なのだと根源をあらわすように、次の瞬間には形が崩れていた。以前もあったように、彼らが彼ら足りえる内圧の衝動に、今度こそ形を保てなくなる。揺らいで闇へとほどけ、世界は彼で満たされた。


 夢と現が反転し、ぐちゃぐちゃに織り交ざる。ダリオは巨大な闇の中、たっぷり慣らされてから、ゆっくりと挿入された。
 その挿入だって、入り口を何度も先っぽで丹念にくちくちと出入りされ、泣きながらもう入れて、もう入れて、と強請らされ、更にまだ具合を確かめられながら、少しずつ指の関節二つ目あたりを行ったり来たり、中々入れてもらえなくて、もう最後はなじって喚いていた。
 意地悪をされているわけではないのは分かっている。慎重なのだ。
 そういうわけだから、奥まで挿入されても、その頃にはダリオはもう完全に受け入れ準備が出来過ぎていて、やっと、と号泣してしまったほどだ。感動ではない。快楽地獄のせいである。
 ああ、大きい。内部からめいっぱい押し拡げられる圧迫感が、甘い快感とえも言われぬほどの多幸感を連れて来る。はあ、はあ、とダリオは胸を上下させ、犬のように口をあけて呼吸した。
 ゆっくりとした挿入は、そのまま奥に口づけて、のろのろとした動きに取って代わった。もうそれだけでも十分だった。
 絶頂する。ぷしぷしと使いどころのない大ぶりの性器から薄い液体を撒き散らした。
 発達した両脚の筋肉、内腿が絶頂の余韻で震える。
 あ、あ、としばらく放心し、それからどれだけ時間が経過したか。
 前回、脱皮中無理やり召喚事件の際も、気が付くとこのような空間にいて、テオドールの本体もどきと交わっていた。テオドールから聞いたことを合わせて考えても、これ多分半ば夢みたいなもんだよな、とダリオは結論づけている。
 テオドールの能力は、夢と現実を融合させるようなものもあるらしい。元々、彼らの繁殖活動は、相手の精神体と混じり合い、法悦を感じるような行為になると言っていた。
 現実世界にこんな巨大な闇の塊だかなんだか不明の質量が出現したら大騒ぎになるに決まっている。なので、少なくともダリオの普段暮らしている世界ではないのだろう。
 それに、おそらく現実にテオドールとセックスしたら、彼のコントロールが効く効かない云々以前にダリオは発狂するんじゃないかと懸念していた。テオドールもそれを恐れて『ゆっくり慣らしていきましょう』と当初言っていたのだ。
 夢の世界ならセックスできるのか、ということは俺の尻穴はまだ未貫通なんだな、と思う。思うけれども、今は夢の中でテオドールの本体に愛されまくって、ずっぽりはめられて弾まされているのだ。一応騎乗位。でも主導権はダリオに全然ない。嬌声を上げながら、泣きじゃくっている。快感で頭がおかしくなりそうだった。テオドールとダリオの両方の体液でどろどろになり、さきほどから、色々口走っている。
「ておっ、てお、しゅき、しゅきぃっ」
 いや全然本心隠せない。本当に駄々洩れ。隠す気も元々ないが、それにしたって酷い。精神世界のせいなのか? 別に困らないけれど、酷いなとは思うダリオである。
 そもそも、やっぱり尻の穴に受け入れているのはなんなのかよく分からない。テオドールの本体の性器? そういう理解でいいのか? 俺、前回も今回も、結局何をハメられてるんだろう? わからんが幸せで気持ちいい。性器ならアレ、アレ出るのか? ダリオは段々頭が馬鹿になってくる。
「てお、だして、くれ。せーえき、だして……」
 ダリオはぐちゃぐちゃに泣いていた。精液なのかなんなのか知らんが、欲しい。お腹がきゅんきゅんする。飲み干したい。
「奥まで、いっぱいにして……熱いのいっぱい出して……おれの中、いっぱいびゅっびゅして……ておの、ておの」
 頭が馬鹿になり過ぎて、アホみたいな台詞を口にしている。しかし、出されたい。出してもらいたい。そのためなら、アホな台詞などダースで吐ける。ぎゅうっ、と中がびくびく痙攣した。と、同時にテオドールのそれが一瞬膨らんで、「あ」と思った瞬間。
「~~~~~~~~~~~ッッ」
 ダリオは奥の入り口でぱくぱく食みながら、痛いほど肉膣を喰い締める。どくどくと脈打つそれが、あますところなくダリオの中を埋めて、最奥の入り口にキスしながら、熱い精液もどきを打ちつけている。
 ひぃ……ん、とダリオは蕩けた顔で鳴いた。また、大きくなる。気持ちいい。幸せ。死んじゃう。俺、死んじゃう……ダリオは、ぎゅうぎゅうぱくぱく中を忙しく閉めたり吸いついたりしながら、恍惚と熱い精を奥で受け止めた。
 忘我の凪は一瞬だ。再び暴風のような快楽が渦巻き、攫われ、めちゃくちゃに泣きじゃくりながら、あらぬことをまた口走る。初めてした時は、ダリオが「駄目」と口走るため、いちいちテオドールが律儀に「待て」状態に止まるので、ある種の寸止め生き地獄が多展開した。駄目と言われれば、テオドールは相手の状態を確認するため止まる支配者である。ダリオは自らの心情の開陳を余儀なくされた。つまり、この駄目はイキたくない駄目です。何故達したくないかというと体力を削られてテオドールとつながっている時間が短くなるかもしれないからです。まだ滅多に性行為できないから、もったいない、もっとつながっていたい、好きだ、と説明する羽目になった。新手の精神攻撃受けているのかという目に合って、ダリオは質疑応答により目が死んだ。そうしたひと悶着もあったが、セーフワードも決めてからは意思疎通もなんとか滑らかである。
 闇の巨体に抱きつき、ダリオは湯だった頭でこう叫んでいた。
「すき、すき、てお、すきぃっ、う゛ぁ゛あ゛……」
 何か不明の衝動がある。以前もこんな風になって、うまく言葉にできずに飲み込んだ。体の中にぐるぐる渦巻いて苦しい。これじゃ戻れなくなる。このままでは、どうにかなってしまう。苦しさから逃れたい一心で、頭に思い浮かんだそれを叫ぶ。
「っめ、だめ、おれ、ておの……ておのお嫁さんなっちゃ……う~~~ッ」
 自分で自分の口にした内容に驚き、ダリオは愕然とした。なっちゃうとはなんだ。なりたくないってことか。そもそもお嫁さんとはなんだ。以前のブライダルセクシーランジェリーのコンセプトが、どこか脳に引っかかっていたらしい。同時にとてつもない解放感が生じて、ダリオの発達した太腿の筋がわななき、快感が這い上るが早いか達してしまう。喘ぎながら、混乱した。何言ってんだ、という思いと、すとんと腑に落ちる感覚の両方だ。自分でも知らない願望大暴露である。
『お嫁さん……』
 テオドールのぞくぞくするような美声が、不思議な反響を伴ってダリオの脳に直接響いてきた。這いまわる闇が、あちこち伸ばされて、何かを探るようにしている。あとで聞いたら、この次元のビッグデータにアクセスし、情報を集めていたらしい。
 十分な情報分析が済んで満足したのだろうか。闇の中からテオドールの白い上半身が出て来て、ダリオの上にのしかかり、更に閉じ込めるようにして上から無表情に尋ねる。
「ダリオさん、僕のお嫁さんになりますか?」
 のぞき込まれて、そう問われた瞬間、ダリオはぎゅうぎゅうと中が凄まじくうねり、再びあっという間に絶頂してしまった。しばらく意識が飛んでいたかもしれない。へろへろとしながら、返事する。
「なる……テオのお嫁さんになる……」
 とろ……と結合部から互いの体液を垂らし、甘い鼻声がまた出てしまう。鳴きながら、ようやく理解した。自分がなるのではなくて、テオドールのお嫁さんにしてもらいたい。テオドールから能動的にもらえる全てがダリオを幸福にする。テオドールからダリオの好きに、彼の好きをもらえたら、嬉しい。ぐぐっ、とテオドールは闇から身を乗り出す。おそらく性器を根元までねじ込んだ。隙間もないほど結合部位が密着し、ぐいぐいとダリオはテオドールのものを飲み込んでいる。その状態でまた、どぷっどぷっ、と熱いものが注がれた。
「あ、あ~~~~~~~~」
 潮が奥に打ちつけられている。テオドールの。全部注がれている。ダリオの中に、テオドールの精が塗り付けられている。ぎゅうううっ、と中が収縮した。先端を食む奥の部分が、じゅっぱじゅっぱと鈴口に吸いついて、もっともっととキスしている。甘い多幸感が堆積し、美味しくてもっと味わいたくて、ダリオは懸命に甘えるよう奥へ奥へ飲み込み、先っぽをちゅうちゅう吸い上げた。
 もう駄目。もう駄目だ。ダリオは身をよじって、凄まじい快感と幸福にむせび泣きながら、我が身の状態を表明した。
「ひもち、ひもちぃいっ、らめ、らめえっ、おれ、もう、も、おれえっ」
 熱い。熱いのが注がれる。テオドールの。もう注がれてる。
「ておの、ておのものにして。おれのこと、ておのものにしてぇっ」
 叫ぶと同時、手足をテオドールにぎゅっと巻きつけた。ぞくぞくぞくぞくっ、と乳首から受け入れている腹の奥、うなじ、背骨、腰の裏、尾てい骨、性器のつけ根、全部に寒気のような甘い疼きと電流が走り抜ける。口にすると、それが答えだと言う気がした。テオドールのものになりたい。害されることもなく、彼のものになりたい。捧げているのは信頼だ。ダリオがテオドールに体も心も開いても、決してめちゃくちゃにされはしないという信頼があるから、気持ちいい。彼のものにしてほしかった。テオドールの欲情を体の奥にかけてほしい。種付けされたい。願望を言語化した解放感に、甘苦しい快楽と凄まじい絶頂感が同時に生じて、ふわりとした浮遊感が一瞬起きる。すぐさま、これまでで一番中が、ぎゅううううううっと強く収縮した。お嫁さんの是非も何もない。もうそうなってしまう。テオドールに愛されて、そうなっちゃうんだ、仕方ないだろ、とダリオは思った。好き。好き。大好き。声にならないので、中の締め付けで伝える。びゅく、びゅく、と吐き出されると、内側が痙攣して大喜びした。テオドールの。射精されている。俺、テオドールに注いでもらってるんだ。そう思うと、手足の先まで、じん、と痺れるような多幸感と酩酊に体が浮き上がった。内壁がうねり、テオドールのペニスを好き好きと愛撫するように甘えしゃぶりつく。ダリオは熱い潮を、奥で飲み干し続けた。

 今度はバックから犬のような姿勢で愛され、ぷっくり膨らんだ前立腺をエグイ傘で何度も擦り立てられる。甘突きというのか、奥まではせずに、ただただ気持ちのイイところを優しくかわいがられた。
 前回もそうだったのだが、これは二人のピロートークのようなもので、この世のものとも思えぬ快楽からいきなり収束させると、ダリオはうまく帰って来られない。なので、こういう甘い突き方をしながら、テオドールはしきりと彼なりに愛を囁き、ダリオもひんひんと応えている。
「ダリオさん、好き、僕も好きです。愛しています。ダリオさん」
「おれも、おれもしゅきぃ……うあぁ~~~~~~」
 だらしなく顔をよくわからないやわらかい闇に押し当てながら、ダリオは高く掲げていた尻をゆっくり下ろされ、ぴったりと体を密着させて抱きしめられる。
「は、ぁ、あ、あー」
 とろり、とよだれが口端から垂れた。優しく前立腺を擦られ、ただただ気持ちいいまま、ゆっくりと今度は奥まで押し入ってきて、とん、と入り口を押された。
 ぱくん、と先端を食み、ちゅうっと吸い上げる。テオドールのペニス。巨体テオドールなので、これがペニスなのか知らないが、たぶん性器もどき。大きくなってる。嬉しい。奥でキスしてる。ぱくぱくした。もっと。もっと。ぐい、と持ち上げられて、足を開かされる。奥深くまで肉輪を潜り抜けられ、断末魔のような悲鳴が出た。突き上げられて、押し出されるように性器のつけ根から先っぽまで快感が昇って来る。
「あ゛~~~~~~~~~~~~~っっ」
 切ないように疼く甘い快感と、射精よりも凄まじい絶頂感の両方が同時に生じ、繰り返し苛んで、また与えられた。
「すきっ、すき、ておっ、すきぃっ、あ、ああっ、ぁん、あーっ、いぐ、い、あ、あ、だめっ、だめ、いあぁぁあんああ゛あ゛あ゛あ~~~~~~~~~~~~~~~~~っっ!!!」
 びしゃびしゃと割れ目からまき散らしながら、ダリオは長く深く絶頂し、今度こそゆるやかに快楽の曲線を落として、終わらせたのだった。

 その後、目が覚めたダリオのケアをして、テオドールは体に不具合がないか尋ねて来た。問題ないとやりとりしたのだが、テオドールからの視線が強く、なんだ? とダリオが問うと。
「ダリオさんが、僕のお嫁さんになってくださると」
 無表情な中、そのアビスのような真っ暗な目の奥に、食欲にも似た確かな狂気的な熱狂がおぞましくうごめいていた。
「どのようなものかこの次元のデータにアクセスして検索しましたが、僕にとって望外の喜びでした」
「あ、ああ」
 気おされるようにダリオはうなずく。
「『花』の口から自発的にそう言われるのは……『支配者』にとり、夢のようなことです」
 テオドールの指が、ダリオの指の間に差し込まれ、握り込む。時折、『花』に拒絶された他の支配者同様、千も万も歳月を浪費する自分が勝手に夢見ている、そんな都合の良い夢ではないかと疑う。テオドールはそういったことを言った。
 そんなこと疑ってたのか、とダリオは内心ぽかんとした。どこまで種族的経験蓄積がドメスティックバイオレンスなんだ。ほぼほぼ決裂からの花殺しで終わってそうである。
 あー、もしかして、テオドールがしつこく呼び出されていた件って、それなんかね、とダリオはなんとなし察した。呼ばれて無視していたというのも、やたらテオドールの殺意が高かったのも、そのあたりの事情であればなるほどという。あとで聞いてみるかと考える。
 何にせよ、かなり業の深い種族だ。
 まずは、目の前の青年に、夢ではないということをきちんと分かってもらうために、なにができるか脳のリソースを使いたいダリオだった。
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