俺の人生をめちゃくちゃにする人外サイコパス美形の魔性に、執着されています

フルーツ仙人

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番外 九 甘える?

1 絵画の男編

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 かわいがってほしいとお願いしたら、めちゃくちゃ可愛がられた。すごい喜んでた。
 テオドールには、セックス中、基本的には手指を使う。あまりダリオの体を舐めたり、愛咬したりするようなことはしないのだが、嬉しそうにだいぶされた。あーおさえてたんだな、諸々……とは思った。初期は体液量の調節も大きかっただろうし、今もその面はあると思うが、「可愛がる」のをセーブしていたのだ。
 なんとなく感じていたし、割と確信に近くなってきたのだが、テオ、というか、支配者というのは、花を可愛がりたくて仕方ないのかもしれない。
 ただ、子供が本人はペットを可愛がってるつもりで、構いすぎて、嫌われるのを努力回避されていたかなとダリオは思った。例え好意であろうと、追いかけ回されて乱暴な扱いをされるのは、動物にとってはストレスだ。まあその辺りの我慢も課していたのかなとダリオは想像する。
 ペットのことを考えるなら、触りたくても様子を見てだろう。だが、ペットの方から寄ってきて、かまえかまえされたら、喜んで構うやつ……という納得感である。
 結局のところ、物理的に生殺与奪を握る力関係が歴然とあるかぎり、テオドールの方からダリオには触れない。ダリオから寄っていく必要があるということだった。
 そして、これはセックスだけではなく、日常の話なんだろうなということはダリオも察して、現在うんうんと頭を抱えていた。
 テオドールに寄っていく時、謎の心理抵抗がある。それがどこからどう来ているのかわからない。前回、子供時代から続く不信由来だなとは大雑把に思ったが、どうにもその心理の機序を整理しきらなかった。そこを紐解かないと、無理に甘えるようなことをしても、底の開いた桶に水を注ぐようなもので、どこかで破綻するよなぁという懸念がある。何がどう引っかかっているのか、自分の心に問うてみる必要があった。


 幼少期からの内面問題に気づいたのもあり、あっさりダリオはプロを頼ることにした。のだが、やっぱりすぐにはカウンセラーの予約がとれなかった。
 友人たちに相談するにしても、内容が幼少期から施設のヘヴィな部分や、テオドールの巨体と人型の話を両方するわけにも……と悩んでしまう。
 大体、恋人(人間ルールでは恋人だ)への甘え方分からん、などと相談されたら、恋人に直接聞けで終わりでは。
 ダリオが相談されたら、話を聞くだけ聞き、相手がコメントを求めるようなら、悩みをパートナーに打ち明け、ふたりで相談してみたらどうかと言うかもしれない。話を聞く過程で、なんらか心性のものやドメスティックバイオレンスなど問題が発覚した場合、専門機関へつなぐなどまた別の声かけになるが、単に関係性に悩んでいるなら、そういうコメントになるだろう。
 ついては、あくまで気持ちの整理に聞き役をするのが主になる。ダリオの場合、そこに両親の離婚や失踪、里親、施設と重めな事情が重なるので、どうにも気が引けた。ダリオが同じ内容を真面目に相談されたら、相手の様子次第でカウンセリングを勧めるだろう。そういうのは、金を払ってプロに相談した方がいい気がしたのだが、速攻手詰まりだ。
 ちなみに、最終的にパートナーと話しあおう、専門機関を頼ろうなどになるが、ダリオは他者から相談されても、それを無駄な行為には思わない。周囲の人へ負荷や依存先を分散すること自体は、プラスに作用すると見ているためだ。
 しかし、自分の話になるとこれができない。色々考えすぎるのか、それとも内面の問題か。
 具体的に困っている時、人を頼ることに抵抗はないが、漠然としていることで、妙にためらう。甘えるのも同じで、具体のことはできるが、漠然としたことには躊躇があった。


 そんな中、ダリオは現代アーティストのスカーレットから、今度画廊でグループ展やるから、もしよかったら寄ってって~と声をかけられた。リトル・レッド・フード村、通称赤頭巾村で縁があったが、その後もちょくちょくダリオのアルバイト先であるクラブ・ラビット・ホールに顔を出しており、グループ展のフライヤーを渡されたのだ。
 犬耳に尻尾メイド姿のダリオは、フライヤーを受け取って、概要に目を通すと尋ねた。
「俺、作品とても購入できないので、冷やかしになってしまいますが、いいんですか?」
「いいのいいの!」
 笑顔でスカーレットに請け負われる。
「お子さんから学生さんたちまで大歓迎だから! アートって、公園の遊具やマグカップみたいにさ、身近にあってほしいんだ。ふらっと寄って、見てもらえるだけでうれしいの」
 スカーレットは、それにさ、と指を一本立てた。
「大体子どもたちだって、将来超成功して、うちの絵を購入してくれるかもしれないじゃない? 将来のお客様かもしんないし、ウェルカムよ!」
「わかりました。では、遠慮せずに立ち寄らせてもらいますね」
「うんうん、無理にとは言わないけど、もし興味あったら是非来てね! テオドールくんも一緒にさ!」
「ああ、そうですね、テオも興味……いや、テオはまずいんじゃないですかね。グループ展ぶち壊しにしかねませんよ」
「ええ~」とスカーレットは、まさかあ、という風に手をふりかけて、あ、と真顔になった。
「あ、ああ~、言われてみればそう。あたしもテオドールくんは、美術視点でようやく正面から顔を見られるようになったんだった……うん、ごめん、テオドールくんは、来るなら閉会間近がいいかも? 別の意味で、あの人はいませんかってストーカー客増えそう……」
「そうですね……」
 ダリオは愛想笑いした。絶対という言葉はあまり使いたくないが、絶対そうなる。一緒にテオドールとアートを見るというのも楽しそうだなと思ったが、とりあえずダリオ一人で行った方がよさそうだ。
 ダリオも画廊を訪れるのは初めてで、こういうこととは縁がなかったから、楽しみに感じられる。それだけに、テオドールに声をかけられないのは少し残念に思った。かといってグループ展をぶち壊しにするわけにもいかない。まあ仕方ないとバックヤードにフライヤーを持って帰ったのだった。


 思い立ったが吉日だ。ダリオは翌日さっそく画廊を訪れた。天気は灰色の雲が垂れこめ、今にも雨が降りそうである。しかも、ダリオがギャラリーに入ると同時に、本当に雨が降り出してしまった。なんだか雨宿りに来た大学生みたいになってしまったが、受付でもらったパンフレットを片手に画廊をゆっくり回ることにした。
 さすがにプロの現代アーティスト、スカーレットの作品は絵心のないダリオにも「すごい」代物と思われた。
 特に、闇の中、煌々と燃えがある炎に自ら飛び込んでいく無数の蛾を描いた作品『再生』が凄い迫力で、ダリオはしばらく絵の前から動くことができなかった。また、金色の砂漠を黒い仏が一列になって歩く『影』。エメラルドとストームブルーの色彩で描かれた冬の海、荒れる波がぶつかって波頭の砕ける大岩の『静声』。
 スカーレット本人の気質とは真逆にも、静かな精神性を感じる作品が多い。人間の精神を切り取って、焼き付けたような作品で、はっと足を止めてしまう。芸術のことはわからないダリオにも、絵と向き合っていると、自分の心と向き合うような不思議と研ぎ澄まされる感覚があった。
 炎に飛び込む蛾の『再生』には、何かエネルギーのようなものを。金色の砂漠を歩く『影』には、祈りを。冬の海で大波に耐える岩には、なんだろう。自分の中にイメージ連想されるものがあって、それを考えるのが面白い。
 来てよかったなと思った。そして、テオドールと一緒に来られたらよかったなとも。
 グループ展なので、ダリオは他の作家の作品も見て歩いた。ダリオには全く分からないものもあれば、分からないなりに驚いてしまうもの、ほほえましいもの、色々だ。
 ダリオは特に、黒い影のこどもふたりが、楽しそうにシーソーをしている絵が好きだなと思った。
 真っ黒な影なので、表情はわからない。しかし、それだけにストーリーの想像の余地がある。身振り手振りで、シーソーの上がった方の台の子は風を切るように大きく手を広げているのが、歓声まで聞こえてきそうだ。下がった方の台の子は、体重をかけて次の跳躍を準備しているのがわかり、交代で楽しげに跳ね上がるのまで想像できる。
 あれ、とダリオは絵の隅を見た。
 靴先が見える。成人の靴だろう。こんなのあったか? と思うが、そこまでよく見ていたわけではない。シーソーを漕ぐ子どもたちの影とは別に、そこを通り過ぎようとする大人の靴先だけが見えている。
 奇妙な違和感に、しばし、じ、と凝視していると、近くで人の言い争う声が聞こえて来た。顔を上げて、そちらの方を伺えば、白髪のギャラリーオーナーと五十、六十くらいの男性が押し問答し、その近くで若い女性がおろおろとしている。
 どういう状況かわからない。
 ダリオ以外に客がたまたま途絶えている時間帯で、もう少し近くに行けば何を争っているのか話が聞こえそうだ。ギャラリーオーナーは枯れ枝のような老人だし、もし危ないようなら割って入ろうとダリオは静かに近寄った。
 結論から言うと、ギャラリーストーカーだった。
 うわー、とダリオはドン引きした。
 五十も過ぎたおっさんが、自分の子どもくらいの年齢の若い女性作家にストーカーをしているのを、ギャラリーオーナーが「ご遠慮ください」と体を張って止めていたようだ。
 ストーカーをされていた女性作家はみるからに優しそうなタイプで、ターゲットにされてしまったらしい。
「彼女は私が支えないと!」
「いや、ですから」
 ギャラリーオーナーが何か言おうとするのを、ストーカーの方が怒涛の勢いで遮った。
「私はただ彼女が心配なだけなんだ、そうだろう、ミナ? オーナーに君から説明してやってくれ」
 ミナと呼ばれた女性は顔が引きつっている。それもストーカーは気づかないようだ。
「ミナと私は運命なんだ。私は彼女を愛してるし、彼女も私を愛しているんですよ」
 女性の顔は違うと言っている。
「ああ、もちろん絵は全部私が買うからね。それなら文句ないだろう」
「困ります」
 ギャラリーオーナーはその後何か言うが、ストーカーはミナという女性に話しかける。
「ミナ、この後食事に行こうか。絵は私が買うから、在廊してなくてもいいだろう。貧乏そうな学生しか来てないし、いるだけ無駄だ」
 貧乏そうな学生とはダリオのことだろう。うーん、間違ってねーな、とダリオは思った。ダリオにはこういうところがある。
 ところが、在廊していた女性作家――ミナというらしい――は、完全に引いた愛想笑いになっていた。こういう笑い方にはダリオも見覚えがあり過ぎた。拒否したいが、思い切り拒絶すると何をするか分からない、逆上されたら対処できない、周囲に迷惑をかけたくない、何事もなくどうにかなってほしい、などの思いの末に、笑うのである。
 ダリオは頭に手をやった。
 明確に助けてくれと言われたわけでもないし、騒ぎを起こされたくないように見える。とすると――
「あの~」
 ダリオは空気の読めない貧乏大学生になった。ちなみに割と間違っていない。
「えっとお、大学のレポートで~、必要なんすけど~、この作品、説明してほしいんですけど~、なんか手ェ塞がってますか~?」
 揉めていた三人は、突然のそれに、え、と停止してダリオの方を見る。ダリオは完全に空気を読めないモードで続けた。
「できれば単位かかってるんで~、レポートあと一時間で仕上げて提出しないと、僕、留年なんすよ~。もう本当は締め切り過ぎてて~、泣いてお願いしてどうにか締め切り伸ばしてもらったんですけど~教授ガチ切れしてて~やばいんで、おねがいしたいんですけど~」
「あ、ああ!」
 まず正気に返ったのはギャラリーオーナーだった。
「ミナ君、お客様に説明をしてあげてください。単位かかってるらしいので、丁寧に教えて差し上げてくださいね」
「は、はい。あの、こちらの作品は」
「えっとー、僕、頭悪いんすけど、なんか紙の資料ももらえるとありがたいんですが、ないっすかあ?」
「あ、うん、あります。こっち、来てくれますか」
「ありがとうございます、助かります~」
 いまだ呆然としているギャラリーストーカーを置いて、ふたりは画廊のバックヤードへと向かう。ダリオは口調を切り替えた。
「なんかすみません、勝手に割って入っちゃったんですけど」
「あ、いえ助かりました!」
 大丈夫だったらしい。ダリオはほっとした。
 その後、ダリオは解説してもらいながら、男性が画廊を去るまで居座った。男性はしばらく外で待ち伏せしていたが、次第に客足も増えて来て、諦めたようだ。ダリオはギャラリーオーナーからは手土産までもらってしまって、かえって恐縮した。
 後日、スカーレットと一緒にお礼がてらミナがラビット・ホールに来て、どうもSNSでの宣伝などで在廊スケジュールを把握されており、つきまといされていることがわかった。
 その話を聞いたクリスが怒りに怒った。実際加害に及んだわけでもなく、微妙なラインで警察も頼れないと聞いて、僕も力になります、と申し出る。
 クリスくんは、優しげで大人しそうな女性が困っていると、お姉さんを重ねて怒り狂う節があるなぁ、とダリオは思った。力になるのは基本的に賛成だが、暴走したら止めようと思う。
 しかし、今回はその心配もなかったようだ。
 クリスは、大学の友人たちで、交代制に画廊へ訪問してもいいか尋ねた。もともとこれは問題ないが、ギャラリーオーナーに一応連絡してもらって確認する。
 許可が出ると、ストーカーが来たら、ダリオがやったような手で「この作品解説お願いしてもいいですか」と間に割って入る提案をしたのだった。実際にこれは効果がダリオで実証されている。
 ニャインで連絡網を回すと、特に武道サークルやラグビーサークル面子が喜んでこの護衛をやる! という。
 ええ~、お前らどこにそんな騎士道精神あったんだ? とダリオは謎に思ったが、参加してくれるのは素直にありがたい。あとでわかったのだが、スカーレットの現代アートファンはけっこう多かったようで、お役に立てるなら! 精神だったようだ。スカーレットさん、凄い。一応、お前らがストーカー化するなよ、と部長を通じて注意だけはしてもらった。
 なお、相手が逆上して、学生が被害を受けないかダリオは心配になり、必ず二人一組にすることを徹底し、テオドールに相談して、こっそり『犬』の護衛をつけてもらった。万一があった場合は、『犬』には防御に徹してもらう段取りだ。
 入れ替わり立ち代わり、屈強な体育サークルの男子大学生に邪魔をされ、オーナーからも止められて、ギャラリーストーカーはミナを御しやすい女性と思えなくなったのか、つきまといはほぼ解消されたと報告があった。
 一人の男性に割って入られれば、ストーカーも逆上したかもしれないが、邪魔をする人間が複数に分散したのがよかったらしい。
 ダリオは色々思うところもあったが、まあよかったかなと結論した。
 あと、テオドールも興味あるのかなと思って、グループ展会期終盤に、画廊一緒に行かないかと誘ったら秒で行くと言われた。テオ、けっこうフットワーク軽いよな、とダリオは思った。
 人の少ない時間帯を見計らい、一緒に再度画廊に足を運ぶ。テオドールの絵へのコメントがいちいち面白くて笑わないのに苦労した。
 中でも、冬の海と巨岩の『静声』を鑑賞した際、テオドールが興味深そうに見ていたので、どうしたのか聞いたら、故郷に少し似ているという。ダリオは「そうなのか」と頷きながら、話してくれた内容に、じわじわと嬉しい気持ちになる。風景が似ているというより、そこに切り取られたものが類似しているらしい。一見海は荒れて厳しそうな環境だが、じっと大波に堪えている岩は、不思議と静かで、その辺りなのかなとダリオは想像する。テオドールの話も聞けたし、一人でじっくり回るのもよかったが、二人で新しいことをするのもいいものだとダリオは思った。
 しかし数日後、ダリオがいいなと思ったシーソーの絵が館に届いて、「は?」となった。
「テオ、これ買ったのか?」
 いやまあ買ったんだろう。意味ない質問してしまったと思ったが、
「いえ」
 と否定され、疑問符が浮かぶ。
「絵を見ていたら、知らない方が買ってくれました」
「……あー」
 いつものやつね、とダリオは深く追及したくなかったので流した。
 受け取ってくれないと死ぬ! と相手が騒ぎ出す場合、もう受け取ったらいいんじゃないか……死人を出すよりは……とダリオも以前、引きながら口にしたことがある。日常で、他人の奴隷になりたがって、すがりつく人を見ることは早々ないのだが、テオドールといると、割と頻繁に目にする。みんな、自分をもっと大切にしてほしい。何故か、金持ちほど狂いやすいようだ。貧乏仲間から金を搾取するのは気がとがめるので、そこは助かっている。テオドールにすげなくされて、セレブが泣きながらすがりつき、奴隷にしてくれと叫ぶ光景にも若干慣れてきたが(慣れたくない)、さすがに画廊で泣きわめいた挙げ句、自殺されたらたまらない。血のアートなど現実には不要過ぎた。
 なお、テオドール自身もなにやら資産は結構潤沢に持っているらしい。
 詐欺も横行する分散型取引所で、とあるNFTゲームの独自トークンを、低コストで適当かつ大量に購入した。特に意味はなく、献上された金をもて余して、使い方を学習する教材でぶっ込んだらしい。
 すると、上場後3日で130倍に高騰した。意味がわからない。人外に金を与えたら、学習教材にして、130倍にしたというのだ。勤勉な投資家が聞いたら切れる。
 テオドールはダリオにあげたそうだったが、ダリオが察して首を横にふったら口をつぐんだ。かろうじて、何かあれば使います、と言っていたのは受け取った。
 ちなみに、こんなクソバカラッキー投機を真似してはいけない。
 よって、金はあるが、その後もインスタント志願信者から貢がれまくることが多く、テオドール自身が大きな資金を使うことはほぼないようだ。
 話の流れで、ふと、作品を全部買うと言って、それなら文句ないだろうとギャラリーストーカーが発言していたのを思い出した。若手の作家が、基本的に自分の作品を買ってくれる客を無下にできないのを逆手にとって、逃げ場がないのをいいことに、長々話し込んで居座ったり、つきまとったり、美術批評から関係ない話まで始めて説教をしてきたり、しまいには札束で顔をはたいて、これで文句はないだろうと、言うことを聞かせようとする。
 ミナによれば、作品を全部購入したいですとメッセージを送って来て、顔を合わせると体の関係を求めてきたり、プロポーズをしてくることもしばしばあったようだ。
 すげーなと別に誉めていないがダリオは呆れてしまう。客と駆け出しの若手画家であれば、そこにはおのずと権力勾配が発生する。ミナは怖かっただろうし、誰に助けを求めていいのか分からないし、一人で苦しかっただろう。
 体を張って最初に庇った老齢のギャラリーオーナーは立派だ。
「ダリオさん」
 届いた絵を、「居間に設置しますか?」とテオドールに聞かれ、ダリオは頷いた。手伝うまでもなく、壁から手が伸びてひっつかんだのをダリオは見なかったことにした。気にしていたらこの洋館では暮らせない。
 ソファに座って背を預ける。
 テオドールは最初こそ不法侵入してきたし、邂逅から行く先々現れ、支援も申し出てきたが、ギャラリーストーカーとは根本的に違う。
 ダリオが困っていたら、助けてくれるが、ギャラリーストーカーのような『何らかの力の差を利用して言うことをきかせよう』とはしない。
 学生寮が炎上した時は、この館を用意してくれたし、妙な事件が続いた時もいきなり現れて、こういうことができるがどうするかと確認してきた。
 ダリオが本当に困っている時は、積極的に動いてくれる。しかし、そうでないことは基本的に黙って見ている。必要そうなら聞いて来る。
 衣服の着脱も、当初そういう風に、必要な時だけ差し出してきた。それだって無理に着せようとはしなかった。ダリオの意思を確認して、許可をとってから肩にかけてくれたのだ。
 自分がそうしたいという欲望があっても、力で言うことをきかせるようなことは決してしない。
 必要なだけ。
 一事が万事そうだった。
 ダリオは両手を組んで額に当て、体を折り曲げたくなった。かろうじてそうしなかったが、気持ちはもう同じだ。
 知ってた。わかってる。だが、改めて確認すると、もう本当に駄目だ。
(俺、すごく、大切にされてる)
 痛いほど感じて、どうしようもなくなる。ダリオもテオドールに返したい。喜ばせたい。喜んでくれなくてもいいから。テオドールのニーズを考えて、そのための行動をしたい。その努力をしたい。
 そうするために、自分ときちんと向き合って、ダリオはダリオの問題を整理する必要があった。
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