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番外 二十五 テオドールとダリオの赤いポシェット
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先日、テオドールに赤いポシェットを作ったら、望外に喜ばれてしまった。
ダリオとしては、水饅頭形態のテオドール用に作ったが、差し上げる気はあまりなかったのである。
勝手にダリオが作ったものなので、押しつけてもなという思いは頭の隅にあって、できたらできたでどこかに仕舞い込むつもりだったのだ。
テオドールが「ぼくのですか」とテーブルに短い腕を乗せて伸ばし、期待を込めて言うので、「そうかも」と献上した次第である。
ダリオさんがつくってくれました、とエヴァやクリスに見せびらかしに行って報告しまくっていたので、テオドールは結構気に入ったようだ。報告自体が目的になっているところがしばし見受けられた。なんかもう報告したいらしい。可愛いからやめて欲しい、とすらダリオは思った。可愛すぎて、心と体が四肢爆散に引き裂かれる。
それはともかく、ダリオとしては別にこれ以上作る気はなかった。
本当なのだ。
気づいたら、ネット検索して、材料を買ってきて、無心にDIYして、ドール用小さいベッドが完成していた。
「……?」
疑問符を浮かべていてる場合ではない。どう考えても水饅頭のテオドールが使うのを想定して作成してしまった。
ダリオはこれも仕舞い込もうと思ったが、一応テオドールにいるか聞いておこうかと腰を上げた。
青年の姿のテオドールに聞いたら、猫が驚いた時みたいに目を見開いて、十秒くらい固まっていた。
それどういう気持ちなんだ、とダリオにも不明である。
「これはダリオさんが作られた……?」
「ああ」
テオドールは真顔で檻から解き放たれた猛獣のようにうろうろした。バグって延々ミスコードを繰り返すプログラムのようでもある。むしろ後者か。落ち着け、と宥めて聞き出すと、作っているところを見たかったらしい。
よくわからないが、すまんな、とダリオは謝った。ダリオにはこういうところがある。
テオドールに尋ねられて、ダリオはどのように作ったか説明する羽目になった。
「ヘッドボードは木製ボックス使ったし、フレームはウォールラックを分解して流用した。すのこになりそうなもの代用してカットして敷いて」
肌触り重視で選んだ手ぬぐいを使った生成り色のマットレスには、中身に段ボールやキルト綿を重ねている。その上に、ちょっと奮発したふわふわの温かい色をしたハンドタオルをかけて一回折り返すと、そこそこ立派な寝台になった。
テオドールが使うというので、じゃあ、とダリオは小さい寝台を持ち上げる。ふたり用の寝台脇、サイドボードに設置したのだが、テオドールが再び停止した。なんなのだろう。
その晩、水饅頭のテオドールはメイドインダリオの小さな寝台を使ったが、妙にぷるぷるしていた。
「合わないなら仕舞おうか?」
ダリオが言うと、「いります」と頑なに嫌がって拒む。妙な執着心が及んでいるようで、いるというものをダリオも取り上げるわけにはいかない。
三日ほどして、ダリオが洋館に帰宅すると、水饅頭形態のテオドールがサイドボードの上にいた。
珍しくダリオに気づいていないようで、無言のゼラチン質はしばらくぷるぷるしていると、唐突に。
ぺしっ!
と、小さな寝台を打った。
水饅頭形態のまま、手と腕だけ作って、無言からの親の敵のように打ったのである。
陰惨なものではなく、猫や犬が上手く感情表現できずに、飼い主に向かって、ぺし! と前脚で叩くようなやり方で、ダリオは「なに?!」と驚いてしまった。
そうしたら、見るからに、「はっ」とした様子で、テオドールがボディをひねり、ダリオをふり返って硬直する。
「ダリオさん……」
テオドールはショックを受けているようだった。思わずダリオは、「わかった、わかったから、ストップ」とわかってないのにタイムを要求した。
話を聞くと、小さな寝台は、ダリオさんとぼくを物理的に引き裂く憎いやつ、でもダリオさんが作ってくれました……みたいな葛藤と愛憎があったらしい。
ここ、笑うところだろうか。いやいや、それもどうなんだ。
ダリオは割と本気で苦笑いした。
なので、テオドールに腕を広げて招き、ぴょん、と胸に張りついてきた彼を抱きしめると、ヨシヨシする。
「うーん、実は俺もテオと一緒に寝られないのは寂しいなぁ」
棒読み過ぎたか。まあ、本旨はここではない。
「小さいベッドは、テオが気分の乗った時に使ってもらって、寂しいから毎日俺と一緒に寝てほしいな」
テオドールが、べたっ、とダリオの胸に四肢を作ってくっついてくる。
「あー、例えば、小さな寝台は、一緒にふたりでいなくて、テオが寂しい時に使ったらいいんじゃないかな」
そういうわけで。
ダリオが試験のため、テオドールはすっかりお留守番の時に、小さなベッドは使われるようになった。
後日、ダリオは疲れて帰ってくると、小さいテオが小さいベッドで小さくなって布団の中に包まれている。まぶしいのか、短いちっちゃな腕で、目の部分を覆っていた。ぎゅっと折り曲げた、猫のようなちっちゃい口だけがのぞいている。
それを見て、ダリオはもう、うあーーーーっ! となった。
同時に、テオって俺に対してこういう気持ちなのかなぁなどと思いもする。
小さいテオドールを、ぎゅっとしたくなるが、こんなに小さいのだからそんなことしては駄目だろ! と思うダリオもいるのだ。
恐らく弱っていないテオドールなら問題ないのかもしれないが、ぎゅうっとしたくなる以上に、彼に対して酷いことをしたくないのである。何より、テオドールはペットではない。愛玩するのは違うだろう。それを考えると、テオドールはダリオの人格を最大限尊重するよう気をつけてくれているのも改めて実感する。
図らずも、ダリオはテオドールの気持ちについて想像を巡らせてしまうのだった。
なお、テオドールも気持ちが落ち着いたのか、更に後日のことだ。水饅頭形態の彼は、カフェテリアのテーブルに置いた携帯フォンの写真をエヴァに見せ、短い手でたしたしと指し示し、「ダリオさんがつくってくれました」「よく見て下さい」と見せびらかしながら報告していた。エヴァは本当にお疲れ様である。
ダリオとしては、水饅頭形態のテオドール用に作ったが、差し上げる気はあまりなかったのである。
勝手にダリオが作ったものなので、押しつけてもなという思いは頭の隅にあって、できたらできたでどこかに仕舞い込むつもりだったのだ。
テオドールが「ぼくのですか」とテーブルに短い腕を乗せて伸ばし、期待を込めて言うので、「そうかも」と献上した次第である。
ダリオさんがつくってくれました、とエヴァやクリスに見せびらかしに行って報告しまくっていたので、テオドールは結構気に入ったようだ。報告自体が目的になっているところがしばし見受けられた。なんかもう報告したいらしい。可愛いからやめて欲しい、とすらダリオは思った。可愛すぎて、心と体が四肢爆散に引き裂かれる。
それはともかく、ダリオとしては別にこれ以上作る気はなかった。
本当なのだ。
気づいたら、ネット検索して、材料を買ってきて、無心にDIYして、ドール用小さいベッドが完成していた。
「……?」
疑問符を浮かべていてる場合ではない。どう考えても水饅頭のテオドールが使うのを想定して作成してしまった。
ダリオはこれも仕舞い込もうと思ったが、一応テオドールにいるか聞いておこうかと腰を上げた。
青年の姿のテオドールに聞いたら、猫が驚いた時みたいに目を見開いて、十秒くらい固まっていた。
それどういう気持ちなんだ、とダリオにも不明である。
「これはダリオさんが作られた……?」
「ああ」
テオドールは真顔で檻から解き放たれた猛獣のようにうろうろした。バグって延々ミスコードを繰り返すプログラムのようでもある。むしろ後者か。落ち着け、と宥めて聞き出すと、作っているところを見たかったらしい。
よくわからないが、すまんな、とダリオは謝った。ダリオにはこういうところがある。
テオドールに尋ねられて、ダリオはどのように作ったか説明する羽目になった。
「ヘッドボードは木製ボックス使ったし、フレームはウォールラックを分解して流用した。すのこになりそうなもの代用してカットして敷いて」
肌触り重視で選んだ手ぬぐいを使った生成り色のマットレスには、中身に段ボールやキルト綿を重ねている。その上に、ちょっと奮発したふわふわの温かい色をしたハンドタオルをかけて一回折り返すと、そこそこ立派な寝台になった。
テオドールが使うというので、じゃあ、とダリオは小さい寝台を持ち上げる。ふたり用の寝台脇、サイドボードに設置したのだが、テオドールが再び停止した。なんなのだろう。
その晩、水饅頭のテオドールはメイドインダリオの小さな寝台を使ったが、妙にぷるぷるしていた。
「合わないなら仕舞おうか?」
ダリオが言うと、「いります」と頑なに嫌がって拒む。妙な執着心が及んでいるようで、いるというものをダリオも取り上げるわけにはいかない。
三日ほどして、ダリオが洋館に帰宅すると、水饅頭形態のテオドールがサイドボードの上にいた。
珍しくダリオに気づいていないようで、無言のゼラチン質はしばらくぷるぷるしていると、唐突に。
ぺしっ!
と、小さな寝台を打った。
水饅頭形態のまま、手と腕だけ作って、無言からの親の敵のように打ったのである。
陰惨なものではなく、猫や犬が上手く感情表現できずに、飼い主に向かって、ぺし! と前脚で叩くようなやり方で、ダリオは「なに?!」と驚いてしまった。
そうしたら、見るからに、「はっ」とした様子で、テオドールがボディをひねり、ダリオをふり返って硬直する。
「ダリオさん……」
テオドールはショックを受けているようだった。思わずダリオは、「わかった、わかったから、ストップ」とわかってないのにタイムを要求した。
話を聞くと、小さな寝台は、ダリオさんとぼくを物理的に引き裂く憎いやつ、でもダリオさんが作ってくれました……みたいな葛藤と愛憎があったらしい。
ここ、笑うところだろうか。いやいや、それもどうなんだ。
ダリオは割と本気で苦笑いした。
なので、テオドールに腕を広げて招き、ぴょん、と胸に張りついてきた彼を抱きしめると、ヨシヨシする。
「うーん、実は俺もテオと一緒に寝られないのは寂しいなぁ」
棒読み過ぎたか。まあ、本旨はここではない。
「小さいベッドは、テオが気分の乗った時に使ってもらって、寂しいから毎日俺と一緒に寝てほしいな」
テオドールが、べたっ、とダリオの胸に四肢を作ってくっついてくる。
「あー、例えば、小さな寝台は、一緒にふたりでいなくて、テオが寂しい時に使ったらいいんじゃないかな」
そういうわけで。
ダリオが試験のため、テオドールはすっかりお留守番の時に、小さなベッドは使われるようになった。
後日、ダリオは疲れて帰ってくると、小さいテオが小さいベッドで小さくなって布団の中に包まれている。まぶしいのか、短いちっちゃな腕で、目の部分を覆っていた。ぎゅっと折り曲げた、猫のようなちっちゃい口だけがのぞいている。
それを見て、ダリオはもう、うあーーーーっ! となった。
同時に、テオって俺に対してこういう気持ちなのかなぁなどと思いもする。
小さいテオドールを、ぎゅっとしたくなるが、こんなに小さいのだからそんなことしては駄目だろ! と思うダリオもいるのだ。
恐らく弱っていないテオドールなら問題ないのかもしれないが、ぎゅうっとしたくなる以上に、彼に対して酷いことをしたくないのである。何より、テオドールはペットではない。愛玩するのは違うだろう。それを考えると、テオドールはダリオの人格を最大限尊重するよう気をつけてくれているのも改めて実感する。
図らずも、ダリオはテオドールの気持ちについて想像を巡らせてしまうのだった。
なお、テオドールも気持ちが落ち着いたのか、更に後日のことだ。水饅頭形態の彼は、カフェテリアのテーブルに置いた携帯フォンの写真をエヴァに見せ、短い手でたしたしと指し示し、「ダリオさんがつくってくれました」「よく見て下さい」と見せびらかしながら報告していた。エヴァは本当にお疲れ様である。
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