俺の人生をめちゃくちゃにする人外サイコパス美形の魔性に、執着されています

フルーツ仙人

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番外 二十六 退魔協会編

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 ええっと、とダリオは空気を読めるが、読むのを辞めた。
「テオ、悪いんだが、そこの大きい顔やっつけてくれるか」
「まことに遺憾ながら——お断りします」
 人間離れした美貌の青年は、一刀両断にしてきた。意思が固い。
 お前、全然遺憾そうじゃねーんだが、遺憾の意味知ってる? とダリオは言いたくなった。テオドールはよく、恐縮です、と言うが、彼が真に恐縮そうだったことはほとんどないのである。
 お前、俺の使い魔になるんじゃなかったのかよ、ともダリオは思った。しかし、テオドールは大切なものを危うく燃やされるところだったのだ。強くは言えない。むしろ初手でよく堪えてるなと正直助かっている。
 ポシェットが無事だったからなのもあるのだろう。しかし、ただのポシェットが、炎に包まれたのになんで燃えてないのかわからない。更には、テオドールが指先で、す、と撫でたら、前よりきれいになった。
 もしかして、手づくりポシェットが、テオドールの手でヤバい呪物に成り果てているのではないかという可能性に気づいたダリオは、「……」と一瞬無になったが、まあいいか、と考えるのをやめた。ダリオにはこういうところがままある。
 周囲を一応気にしながら、まあでも大丈夫だろうとダリオは話を続けた。
「あー、お前の気持ちはわかる……ような気もする……勝手に推測だが、その、ガードできたんならひとまず置いて……」
「いたしかねます」
 いたしかねますって、お前……とダリオは絶句だ。アリアラエルに至っては、あわあわしている。アリアラエルさん、実は肝がとても太いんじゃねーかな、とダリオは微妙に思った。
 ダリオさん、と青年は――テオドールはその美貌を氷のように冷たくし、むしろ微笑のようなものさえ浮かべて、粛々と述べた。
「もはやここにいる意味はありません。引き揚げを提案いたします」
 ご納得されない人外の青年は、もう帰ってもいいだろう、と言い出した。おそらくテオドールが老爺の顔の悪霊を停止させているので、引き揚げたら、皆死ぬだろう。直接殺すのは、ダリオが止めに入るだろうと予測し、「支障がある」ため、搦手で全員殺す気だ。お前、間接的にでもなんでそれ通ると思った、とダリオは言いたい。
「帰らねえんだなあ。引き揚げたらまずいだろ」
「わかりません。彼らの仕事です」
 ずい、とテオドールは顔を寄せて来た。瞬間移動かよ、とダリオはドン引きする。
「僕は忍耐を極めている。あの人間は、ダリオさんがつくって下さったものに、火を放ちました。僕の理解では、明確な敵対行為です。報復してしかるべきところを、僕は抑えているのです」
 え、えらいでちゅね~~~~とダリオは割と真面目に現実逃避へ入った。久々にテオドールの頑固モードが発動している。怒髪天を衝いているのに、問答無用で虐殺しなかっただけマシなのか? あと重ねて瞬間移動止めろ、怖いんだよ、と思う。
「空間転移を嗜みますので」
「心を読むんじゃねえ」
「推測したのです。そういう顔をしていらっしゃったので、先回りして回答を試みたのですが、あまり愉快ではないようですね。失礼しました。もう少し人間らしい推量を学習しておきます」
 嫌味ではなくマジレスであろう。しかしながら、頑固になってる……とダリオは察しまくった。
「あ、あの……」
 震える声で、妖術師の導師エイブラハムが、やっぱりその皺を刻んだ手を震わせて重ね、拝むようにした。
「お、恐れながら……そ、そちらの方は……」
 はひ、はひっ、と高齢そうなのに呼吸が荒いので、大丈夫かよ、とダリオは二度目のドン引きをした。ダリオもアホではないので、自分が水饅頭のテオドールを連れていた時、周囲から『弱い使い魔を連れている』と言外に軽んじられているのは理解していた。エイブラハムも、ロビーで挨拶していた時は、ダリオなど見ておらず、オルドラ教会のアリアラエルに声をかけていたのである。
 それが今、ダリオに恐る恐る尋ねて来ているのは、どう考えてもテオドール本人に声をかけられないので、緩衝材のクッション代わりといったところだった。
 そういや、エイブラハムが出していた黒い手は、テオドールが時々使う分身もどきの劣化劣化劣化版みたいなところがあったな、とふと思う。
「お、お、おお、もしや、偉大なるお方……で、は……」
 目も合わさず、長い袖の間に指を入れて、礼拝し、「偉大なるお方……わたくしはしもべの導師エイブラハム……よもや御身にこの卑賤な老体がお目にかかれようとは」とひざまずいて、ぶるぶる枯れ枝のような身体を揺り動かしている。
 それを皮切りに、何人かが吐いた。何人かどころではない。弟子格の者たちの大半が、地面に手足をついて、吐いている。
 地獄絵図だ。
「お、おい」
 ダリオは本日三回目引いた。
 たぶん、感覚が鋭すぎてこうなっている。
 妖仙洞天のタイサイサイに至っては、狐の耳と尻尾が数本まとめて飛び出し、ぼわぼわになって、口元を抑え、結局吐瀉した。
 本性は動物なのか知らないが、動物虐待俺は望んでねーんだよ! とダリオも内心絶叫している。
 次に、ぎりぎり耐えていたらしいトーゴとキミヒコ兄弟が、がくっと足を折り、同じくげえげえと吐き始めた。顔色がどす黒い。
 トーゴの方は「ふざけんじゃねェ」と呻いたものの、テオドールが風景でも見るようにふと一瞥しただけで、この世で一番恐ろしいものに行きあったように絶望の表情をした。そして次の瞬間には、無の顔になる。
 テオドールが彼を見たのはほんの一瞬だ。視線が交差したかもしれない。
 その時、トーゴはおそらく『覗いてしまった』のだ。
「お、おい、トーゴ、トーゴ、しっかりせぇっ」
 キミヒコが呼びかけているが、トーゴは無反応だ。
 あかんやつ、これはあかんやつ……とダリオもメンタルブレイクしそうである。
 多分見えてる。感覚の鋭い彼らの何人かは、テオドールの本体まで気配だけでも見えてしまったのではないか。ダリオは花のためか何故か大丈夫だが、常軌を逸した怪異ですら、テオドールの本体の気配を感じるだけで、わっと散って、中には勝手に消滅してしまうくらいヤバいらしいのはダリオもわかっている。
 忘れていたが、クソヤバ怪異同士でも、こいつヤバい関わらんとこ、と認識されて避けられるテオドールは、一番あかんやつなのである。
 それ、退魔関係者の人間が見ちゃうとどうなっちゃうの~? キャハハハ! 精神崩壊?! ウケる~!! と昔から知己の鏡の妖精が馬鹿笑いしている幻聴がした。全然ウケない。崩壊した精神って戻せるのか? 戻せるよな、記憶喪失になってもらおう。そうしよう。できるのかじゃねぇ、やるんだよ。トーゴくん、多分そこまで悪いことしてねーよ、イキり散らしてたかもしれんが、年をとったら、恥ずかしくなるやつだろ、とダリオは思って周囲を見回した。
 あかんやつ。
 吐瀉物会場になってしまった。
 悪霊だか生霊に至っては、ナメクジが塩をかけられたように自壊していく。
 特に手を下さず、場はおさまりつつあって、しかしながらモザイク虹色のゲロ会場になってしまい、ダリオはもう終わった、と思った。
 更には、テオドールが悪霊を再度再生させて、爆散させていたので、ダリオは心から引いた。本当にドン引きである。なんでわざわざ再生させて爆散させるんだよ。えっ、なんで?! 久々にテオドールの人外節を浴びまくって、ダリオは目が死んだ。
 クライアントの曽祖父氏もひっくり返って泡を噴いている。たぶん、テオドールが生霊を爆散させたせいだろう。
 生きた人間にしないだけマシかもしれないが……悪霊だか生霊だか知らないが、戦地で極悪非道の畜生にも劣る行いをしていたのはあるため、自業自得ということで、ダリオは引きつつも「これも因果応報ってやつ……なのか……知らんけど……」と枯れた声で漏らした。
 みんなみんな自滅している。
 みんな……これ俺が後始末すんのか……
 ダリオの目は更に死んだ。
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