中堅地味破壊神は世界を平和にしたいだけ

キザキ ケイ

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本編

02.通常業務とセクハラ問題

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 朝食の使用済み食器をテーブルから持ってきて、食器洗い機に入れる。
 ぺたぺた。
 お昼のお茶のために、水を入れた薬缶を火にかける。
 ずるずる。
 今日は天気が良く風もあるので、布団を干そう。寝室に入る。
 ぺたぺた。

「あぁーーーもう! お前! 離れろ!」
「お前じゃなくて、ソーちゃんって呼んでよ」

 俺の背中にべったりとくっついて移動する創造神を力ずくで引っぺがす。
 僅かに見上げる背の高さの野郎がずーっとくっついていたら、これ以上ないほど邪魔なのだ。足が絡まりそうになる。
 いくらセクハラはデフォルトとはいえ、これでは仕事にならない。

「暇なら布団干すの手伝えよ、ほら部屋から布全部もってこい」
「ちぇ……」

 頑なにアダ名で呼ばない俺のことなど諦めればいいのに、こいつは毎日飽きもせず俺に絡んでくる。
 聞くところによれば、俺が来るまでこいつはしばらく一人仕事ワンオペだったそうだし、仲間ができたことが嬉しいんだろうとは理解している。
 俺より図体デカイやつに甘えられたって可愛くも嬉しくもないけどな。

 いわゆる庭付き一軒家が、俺達の住居だ。
 リビングから出られるウッドデッキから先は見渡す限りすべて庭だが、少なくとも庭付き一軒家という触れ込みに偽りはない。

「カイくん、持ってきたよ」
「おう」

 意外と素直に部屋から布類を持ってきた創造神に俺は鷹揚に頷いて、布団を次々とウッドデッキの手摺に干していった。
 ついでにさっき洗い上がった洗濯物も干していく。
 料理と洗濯が終われば、あとは掃除だ。

 洗濯物を入れていたカゴを片付けて室内に戻る。
 きちんと整頓されている部屋を見回して、俺はティッシュに包んでポケットに入れておいたものを手のひらに乗せた。薄っすらと緑色を帯びている少量の粉。
 これは先程俺が削ったガラス玉の、削りカスにあたる。
 手のひらの削りカスを、指で少量つまんで各部屋に撒く。
 コツはいるが、こうしてやると巻き起こる微風で部屋中のごみや埃がつむじ風に巻かれて、自然と部屋の中央に集まる。俺は頃合いを見てそれをちりとりで取る。
 掃除はこれだけで事足りるので楽ちんだ。

 ただし風呂場だけは風で掃除とはいかないので、しっかりと自ら掃除をする。
 破壊神の手にかかれば、風呂場の壁に繁殖しがちな水垢やカビは一発消滅だ。パッキンの黒ずみとか見たくないし。

 全部屋の掃除を終え、風呂場もぴかぴかに磨き上げ、俺の午前中の作業は終わる。
 続いては、本業だ。

「創造神、仕事始めるぞ」

 奴はリビングのソファの上に、掃除の邪魔にならないよう脚を折りたたんで座っていた。
 本当ならば同居人らしく、こいつにも家事をさせるべきなんだと思うが……料理をすれば食材が二倍三倍になり、掃除をすればゴミが増え、洗濯をすれば衣服に綿花が生える。
 そんなのを見れば、家事を頼もうという気はすぐに失せた。
 力が強いこと自体に憧れがないといえば嘘になるが、これだけ力を制御できないのであれば今の自分の身の丈にあった程度で良かったと安堵できる。

 とはいえ、こいつは同僚だ。
 こいつがいなければ仕事が回らないことも事実。
 憐れみを向けているだけでは仕事が滞る。こいつの舵取りをすることも仕事だ。
 俺はソファの前のローテーブルに、持ってきた図面を広げた。

「えーと、本日の議題は……北半球の今年の台風事情」
「ナシで良くない?」
「良くない! まじめに考えろ!!」

 初っ端から仕事が行き詰まった。
 口をとがらせてそっぽを向く創造神は、まるっきり子供だ。
 こいつ全然仕事する気ねぇな!

「台風作らねーと海水温の調節だの陸地の水不足だの、余計面倒になるって前に説明したろ! いいからこっち来て指針組め!」
「え~……」
「えー、じゃない!」

 創造神はあろうことかソファにそのまま横倒しで寝っ転がってしまった。
 やる気の無さを全身で表現している。
 星全体の状態を良好に保つためには多少の災害も必要だが、こいつは放っておくとちっともその辺の事情を考えないので、仕事にも身が入らないようだ。

「カイくんが膝枕してくれたら、ソーちゃんやる気出るかもなぁ~」

 ついにはコレだ。
 仕事をきっちりこなしたいだけなのに、なんで俺がこいつのために譲歩しないと仕事ができないんだ?
 そもそも一番働かなきゃいけないのはこいつであって俺じゃねぇ!
 だが、俺もこいつもなにもせずにいれば……世界は持って一週間ってところだ。そうなれば俺達も世界から放り出されるし、その後どうなるかは誰にもわからない。
 良くて別の世界に派遣、最悪なら消滅だ。
 俺だってできることなら仕事なんてしたくないが、消滅はもっと嫌だ。
 だというのにこの危機感ナシ野郎のせいで……。

 とはいえ、ここで奴を怒鳴りつけたり、逆に理詰めで仕事の必要性を説いたり……なんてことしても、こいつには一切響かないということは既に学習済みだ。
 俺が折れるのが一番早い。
 わかっちゃいるけど、いるけど……こう、モヤモヤする。

 俺は深く深くため息をついて、一人がけのソファから腰を上げた。
 創造神の寝そべるカウチソファの空いた部分に座り、奴の頭と顎を掴んで俺の膝の上に引っ張り上げる。

「いだだだ!? カイくん俺の首取れちゃう」
「うるせぇ文句言うな! ほら、これでいいんだろ!」
「うぅ……乱暴だなぁもう」

 創造神は粗雑に扱われたことにぶつぶつ文句は言っていたが、膝枕自体は満足したらしい。
 俺の固い太ももの上に頭を乗せたまま、図面の脇に置いてあった数枚の資料を手にとって捲りはじめた。
 仕事のスイッチさえ入ってしまえば相手は最上級、俺の出る幕などないほど完璧な段取りを仕上げてくる。
 そこに至るまでが面倒なだけで。
 本当に嫌味なやつだ……。

 それから二時間後、俺達の今日の仕事は全部終わっていた。

「じゃあ、台風の件はこの日程通りに。ついでに熱波と山岳地方の山火事についても調整が必要かな」
「わかった」
「今日の創造の予定は?」
「創造も破壊もなし」
「じゃあお仕事終わりだね! あ~疲れた!」
「疲れるほど仕事してないだろ……」

 それまでの真面目な様子が嘘のように、スイッチが切れた創造神は気の抜けた声を出して伸びをした。
 さすがにその頃には膝枕ではなくなっていたが、不必要なほどぴったりくっついて書類と格闘していたのは本当に解せない。

「おい、ちょっと離れろ」
「えぇ~なんで? お仕事終わったじゃん」
「お前は終わりでも俺は残ってるんだよ」
「ダメだよ、ちゃんと休憩しないと。それにもうひと月先まで仕事片付いてるでしょ?」
「う……」

 痛いところを突かれた。
 たしかにこいつは(やる気さえあれば)やたら仕事ができるので、今は案件をどんどん前倒しにしている。台風の件も山火事の件も、本当は緊急性なんてない。
 でも、仕事でもしていないと、こいつと二人で家にいるのは……気まずい。

「じゃあ~……カイくんがそんなに仕事したいなら、俺と過ごすのが仕事! どう?」
「そんなの仕事でもなんでもないじゃねえか!」
「そんなことないよ。俺が寂しくて力を暴発させたり、機嫌を損ねて山脈増やしちゃったりするかもよ? 俺の管理も大事な仕事だよ」
「……うーん……」
「ね? わかったら今日は書類はおしまい」

 にっこり笑う創造神に、丸め込まれた感は否めないが……俺には否定するだけの材料がなかった。
 それに実際、こいつの創造の力は近くにいたほうが相殺しやすいし、触れ合っていればさらに効率がいい。合理的だ。
 ただ、俺が、こいつがくっついているとモヤモヤしたりイライラしたりするのが問題なだけだ。
 それを我慢すれば利点のほうが大きい。
 頭では分かってはいるが、受け入れられないものっていうものもある。

「カイくん難しい顔してる。今度はなに?」
「なんでもねーよ! いいからもうちょっと離れて座れ」
「カイくんのいけずぅ」

 俺がこいつの傍にいたくないのは、偏にこいつのこの態度のせいだ。
 まるで女子供のように俺を扱ってくる。
 そういう姿の神はいるが、俺は完全な男性体。
 こいつには劣るが上背だってあるし、少なめではあるが筋肉も満遍なくついている。抱きついても触り心地はよくないだろう。
 そんな体に敢えて近づき、いつも触れようとしてくるということがどういう意味なのか───俺だってわからないわけじゃない。

 こいつは───力の暴発が怖いのだ。
 だから俺の破壊の力を自らのストッパーとして使っている。

 いくら俺だって、同僚から四六時中道具扱いされていい気分でいられるはずもない。
 創造神ありきの世界で、俺がただの調整弁にしか過ぎないと頭ではわかっていても、だ。
 だからこのナヨナヨした態度のくせに極上の創造神相手に、口だけの八つ当たりをするくらいは許されてもいいのではないかと……結局俺は創造神の態度にかこつけて甘えてしまっている。
 その自覚もあるので尚更イライラする。負の連鎖だ。

「は~……カイくんって全然俺の気持ちとか考えたことないよね」
「あ? なんだって?」
「なんでもなーい」

 なぜかいきなり拗ねたような声を出す子供のようなこいつの気持ちなど、一生わかりそうにない。
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