中堅地味破壊神は世界を平和にしたいだけ

キザキ ケイ

文字の大きさ
12 / 44
本編

12.職場の秩序

しおりを挟む

 破壊神も創造神も、存在の構造はほとんど変わらない。
 実体は血と肉で出来ているし、人間に混じれば違いはわからないだろう。
 が、性能には差がある。
 破壊神は世界中の生物から恨みを買いやすい構造上、一定以上の負荷を掛けると破損、もしくは機能停止するように「作られている」。
 実際に破壊神を死に至らしめるのはその個体が内に持っている破壊の力で、外傷または外圧によって死ぬわけではないのだが、破壊神を殺すときは有機生物と変わらないような様子を観測できるという。

 刺されれば血を流し、首を絞められれば息絶える。

 そういった都合のせいなのか、破壊神はとても人間に近い。
 生命維持に必要なものが一切なくても存在を保てる創造神とは、根本から作りが違うのだ。

 だから、こうやって長時間呼吸を奪われれば酸素が足りなくなって頭が回らなくなるし、立っていられなくなる。

「はっ、はぁ……そうぞうし、ん、んぅ……やめ……」

 最近妙に創造神がキスにこだわってきたから、特に深く考えることもなく許していた唇を、今は恐ろしいほど強引に貪られている。
 どんなに腕を突っ張って体を離そうとしても、基本性能どころか筋力体力も目の前の男に敵わない俺では拒むことができなかった。
 いっそ舌を噛んでやろうと思ったら、俺の不穏な考えを察知されたのか口端に指を突っ込まれ、歯を噛み合わせられないようにされてしまった。
 それでも俺の口腔を蹂躙する創造神の舌は止まることない。
 無理やり開かされた口から唾液が流れるままになっているのがとてつもなく恥ずかしい。
 酸欠と、上顎を撫でられたときに走る奇妙な感覚に腰が砕けてしまって、壁に体重を預けたまま俺の体はずり落ちたが、追求が止むことはなかった。

「こういうの、あいつともしたの? カイくん」
「っ!? てめ、どこ触って……!」

 キスの最中、創造神の片手がシャツをたくし上げて俺の肌を辿っていたのは気づいていた。
 なんとなくぞわぞわとした感覚が背骨を撫でていくのが気持ち悪くて、這い回る手を止めようと抵抗したら口づけが激しくなってそれどころではなくなってしまっていた。
 そしてとうとう創造神の手は、俺の下腹部に到達していた。

 同じ家に住んではいるが俺は居候に近い。
 脱衣所などで無様な姿を見せたりしないよう、俺は気を使っていた。創造神の体も見ないようにしていた。
 破壊神の多くは他人に体を見られることを好まず、創造神もその傾向が多かったからだ。
 それに加え、俺の体は筋肉が付かないことがコンプレックスで見た目が悪いし、男性体なのに頼りなくて好きではなかった。
 きれいな筋肉が体中にしっかりとついている創造神と比べられたくなかった。ましてや、触れられるなど。

「やめろ、触んな!」

 間近にある細められた瞳が狂気を孕んでいる気がして、俺の体をまさぐっている手を剥がそうと力を込める。
 いつもは、全力で破壊の力を放出すれば手を引き剥がすくらいはできるのに、今はそれすら封じられている。
 俺の力はどうしてこんなに弱くて、肝心なときに役に立たないんだろう。

「ふーん……あのクソメガネは良くて俺はダメってわけ?」
「い゛っ!」

 相変わらず立ち上がれないまま精一杯の抵抗を示すと、創造神が思いっきり俺の首筋に歯を立てた。ギリギリと皮膚が悲鳴を上げている。
 噛み千切られる……っ!

「いやだ、もう、こんな……やだよソウ……」

 痛い、痛い。
 確実に息の根を止められる急所を抑えられていることで、俺の目からは生理的な涙がぼろぼろと零れた。
 はっと息を呑む気配があって、押さえ付けられていた体がやっと解放される。
 傷つけられた皮膚からは血が流れていた。

「ごめん、ごめんカイくん」
「う……いてぇ、めっちゃ血出てるし……」
「本当にごめん、俺どうかしてた……」

 先程までの様子が嘘のように、おろおろしながら傷を覗き込む創造神を睨みつける。
 きつく睨んでいるつもりだが、未だ止まらない涙のせいで威圧もへったくれもない有様になっていることだろう。

「俺が気に入らないのも嫌いなのもいいけどな、だからって殺そうとする前にやることあるだろ! 今までみたいに本部宛で配置換え請求すれば、破壊神側は従うしかないんだから」
「えっ?」
「頼むから、こんなことしないでくれ……いくらでも替えが効くようなしょっぱい破壊神でもな、必死に生きてるんだよ……」

 傷の痛みに情けなさまでプラスされて、いよいよ泣きが入ってしまった。
 どうしようもない気分に陥り、立てた膝に顔を埋める。

 創造神は数が少なく、貴重で、世界の根幹から動かすことが出来ないため本部も丁重に扱う。
 一方破壊神は所詮派遣の神なので数も多く、替えが効く。
 創造神の方から破壊神を「お断り」されれば、俺達はそれに従うしかない。
 それがどんなに気に入った職場でも、気に入った同僚でも……。

 怖かった。創造神が本気を出せば、俺みたいな力のない破壊神は命すら奪われてしまうということが。
 悲しかった。彼の怒りをいつの間にか買っていて、代替えよりも殺したほうが早いと思われるほど疎まれていたことが。
 自分なりに、新しい職場で環境を整え、同僚とも部下ともうまくやっていけるかもしれないと思っていた。今度こそは、誰も傷付けずに立派な世界を作り上げていけると。
 この世界を運営するための歯車の一部になることを夢見て赴任してきたのに、歯車にすらなれない自分の至らなさが惨めだった。

「ごめん。急に泣いたりして。すぐ本部に請求を出すよ。早ければ二日で後任の破壊神が」
「待って待って、ちょっと待って! どうしてそんな話に!?」

 涙でぐしょぐしょの目元を腕で拭って見上げると、創造神は片手で顔を覆って焦ったように目を泳がせていた。

「俺がカイくんを襲ったから、カイくんは怖くて泣いたんじゃないの?」
「襲った……っていうか。殺されるんだろうなと。吹けば飛ぶような神生じんせいだったけど、死ぬとなるとやっぱり惜しいもんだよな」
「違うよ、殺さないよ! ていうか破壊神って首とか傷つけられると死ぬの!?」
「あぁ、お前達とは作りが違うから。俺達は常に破壊の力を纏っているから傷を付けるのが難しいだけで、急所を突かれれば普通に死ぬんだ」

 首と下腹は重要な血管がいくつも通っているし、そこを同時に押さえられたら死を覚悟するしかない。
 力で敵わない相手なら尚更だ。
 多少落ち着いてきた俺は、殺すつもりまではなかったらしい創造神の態度にほっとして説明を加えた。
 俺が話す度、創造神がどんどん項垂れていく。

「…………ごめん。はぁ……ごめん……」
「う、うん。死なないで済むならそれでいい。こっちこそ長時間の残業しないと仕事が終わらないポンコツ破壊神でごめんな。もっと仕事が出来る奴を次に呼んでもらうから」
「いらない! 俺はカイくんがいいんだ、他の破壊神と交代なんてさせない!」

 本部と代替えの話をしないと、と腰を上げようとした瞬間、創造神に抱きつかれて俺はまた床に逆戻りした。

「え。いや大丈夫だ、破壊神の配置換え請求は創造神に認められた人事権のひとつだし、俺も可能な限り引き継ぎを」
「行かないで、無理強いして痛い思いさせたこと謝るから……」
「でも合わない破壊神を無理に置いておくのは」
「俺は! カイくんが好きなんだ!!」

 創造神が突然叫んだ。
 両肩を、今度は痛くない力で掴まれて、とても真剣な顔をした創造神が目の前にいた。

「カイくんが好きだから、ずっとくっついていたいしキスもしたい。何も言わずにここから出て行かれて悲しかった。キスマークなんて付けて帰って来て、嫉妬で頭がおかしくなりかけた。カイくんが好きなんだ」
「……それは、朝飯に出すベーコンはカリカリが好きとか言う、」
「違うよ。俺はカイくんと、恋人になりたいんだ」

 思考が追いつかない。
 人間同士が番───恋人や伴侶にと他人を望むときに使う言葉の意味で、好き……なのか?

 創造神が俺に、恋を?

「恋なんてとっくに通り越してるけど、カイくんが許してくれるなら恋人から……いや、友達でもいいです。ここにいてください。あと俺にチャンスください」

 がばっと頭を下げた創造神の触れている手が、ほんの少しだけ震えている。
 そういえば人間達も、好いた相手に様々な方法で告白していた。
 そんなときの彼らは真っ直ぐに気持ちをぶつける者も、余裕を装って逃げ道を用意しつつ言葉を告げる者もいたが、皆一様に緊張していた。ちょうど今の創造神のように。

 そんなとき、告白を受けた者達はどうしていたか。
 嫌いな相手なら丁寧に、もしくはビンタで断ればいい。
 では嫌いではない相手なら?

「お……お友達から、なら……」

 明け方のリビングで、首筋から血を流しながら、俺はとても間の抜けた言葉を口にしたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

炎の精霊王の愛に満ちて

陽花紫
BL
異世界転移してしまったミヤは、森の中で寒さに震えていた。暖をとるために焚火をすれば、そこから精霊王フレアが姿を現す。 悪しき魔術師によって封印されていたフレアはその礼として「願いをひとつ叶えてやろう」とミヤ告げる。しかし無欲なミヤには、願いなど浮かばなかった。フレアはミヤに欲望を与え、いまいちど願いを尋ねる。 ミヤは答えた。「俺を、愛して」 小説家になろうにも掲載中です。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り

結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。 そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。 冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。 愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。 禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。

触手生物に溺愛されていたら、氷の騎士様(天然)の心を掴んでしまいました?

雪 いつき
BL
 仕事帰りにマンホールに落ちた森川 碧葉(もりかわ あおば)は、気付けばヌメヌメの触手生物に宙吊りにされていた。 「ちょっとそこのお兄さん! 助けて!」  通りすがりの銀髪美青年に助けを求めたことから、回らなくてもいい運命の歯車が回り始めてしまう。  異世界からきた聖女……ではなく聖者として、神聖力を目覚めさせるためにドラゴン討伐へと向かうことに。王様は胡散臭い。討伐仲間の騎士様たちはいい奴。そして触手生物には、愛されすぎて喘がされる日々。  どうしてこんなに触手生物に愛されるのか。ピィピィ鳴いて懐く触手が、ちょっと可愛い……?  更には国家的に深刻な問題まで起こってしまって……。異世界に来たなら悠々自適に過ごしたかったのに!  異色の触手と氷の(天然)騎士様に溺愛されすぎる生活が、今、始まる――― ※昔書いていたものを加筆修正して、小説家になろうサイト様にも上げているお話です。

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

【完結】下級悪魔は魔王様の役に立ちたかった

ゆう
BL
俺ウェスは幼少期に魔王様に拾われた下級悪魔だ。 生まれてすぐ人との戦いに巻き込まれ、死を待つばかりだった自分を魔王様ーーディニス様が助けてくれた。 本当なら魔王様と話すことも叶わなかった卑しい俺を、ディニス様はとても可愛がってくれた。 だがそんなディニス様も俺が成長するにつれて距離を取り冷たくなっていく。自分の醜悪な見た目が原因か、あるいは知能の低さゆえか… どうにかしてディニス様の愛情を取り戻そうとするが上手くいかず、周りの魔族たちからも蔑まれる日々。 大好きなディニス様に冷たくされることが耐えきれず、せめて最後にもう一度微笑みかけてほしい…そう思った俺は彼のために勇者一行に挑むが…

過労死転生した悪役令息Ωは、冷徹な隣国皇帝陛下の運命の番でした~婚約破棄と断罪からのざまぁ、そして始まる激甘な溺愛生活~

水凪しおん
BL
過労死した平凡な会社員が目を覚ますと、そこは愛読していたBL小説の世界。よりにもよって、義理の家族に虐げられ、最後は婚約者に断罪される「悪役令息」リオンに転生してしまった! 「出来損ないのΩ」と罵られ、食事もろくに与えられない絶望的な日々。破滅フラグしかない運命に抗うため、前世の知識を頼りに生き延びる決意をするリオン。 そんな彼の前に現れたのは、隣国から訪れた「冷徹皇帝」カイゼル。誰もが恐れる圧倒的カリスマを持つ彼に、なぜかリオンは助けられてしまう。カイゼルに触れられた瞬間、走る甘い痺れ。それは、αとΩを引き合わせる「運命の番」の兆しだった。 「お前がいいんだ、リオン」――まっすぐな求婚、惜しみない溺愛。 孤独だった悪役令息が、運命の番である皇帝に見出され、破滅の運命を覆していく。巧妙な罠、仕組まれた断罪劇、そして華麗なるざまぁ。絶望の淵から始まる、極上の逆転シンデレラストーリー!

処理中です...