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【ハッピーBL】
托卵ドラゴンの生存戦略
しおりを挟む生まれながらに兄弟を追い落とし、強い親に守られながら一匹だけでぬくぬく育つ……はずだった。
親にすら忘れられるほど巣の奥で孵化した弟のオルグは、ピシャよりずっと大きく強く、ついでにピシャのことが大好きに育った。
ついに迎えた巣立ちの日。上手く飛べないピシャはオルグにさらわれるように新天地に連れてこられてしまったのだが────。
【キーワード】
ファンタジー / ドラゴン攻め×ドラゴン受け / 義兄弟 / ヘミペニス
◆ ― ◆ ― ◆ ― ◆
学名ハイランドヒメヘビハネトカゲ。
それが俺の種族。
高地に生息するのでハイランド、小さいのでヒメ、手足が小さく短いのでヘビ、羽があるトカゲなのでハネトカゲ。
ハネトカゲという種がドラゴンを指す。威厳のない名前だが、学名ってこんなもんだろ。
ただでさえ立派な爪も逞しい手足もなく、小さいと宿命づけられている俺に比べれば、ハネトカゲくらいなんだ。
そんなくさくさした気持ちになっているのには理由がある。
俺が今いるのは、オオハネトカゲの巣だ。
名前からして大きいドラゴンだとわかるだろう。俺はオオハネトカゲの巣に生み落とされたヒメヘビハネトカゲ。
いわゆる托卵だ。
ヒメヘビハネトカゲは小さくて非力だから、本来ならドラゴンより弱いはずのモンスターにも負け、タマゴを奪われ親まで食われる。地味に絶滅危惧種なのだ。
だからタマゴはこっそりと強いドラゴンの巣に隠される。
俺はこれから、横に並んでいるタマゴたちより早く孵化して、やつらを巣から落とす。もちろん偶然を装ったり、親ドラゴンが不在のうちに、だ。
そうして俺一匹になった巣で、俺はオオハネトカゲの親からたっぷりご飯をもらい、守ってもらって、立派に成長するのだ!
「ふみゃ……ふみゃあ!」
よし。誰より早く殻を破れたぞ。
オオハネトカゲのタマゴは大きいし殻が分厚いからなかなか生まれないのだ。
俺の何十倍も大きな親ドラゴンは、思ったより早く俺が生まれたことを不思議そうにしながらも、食事を分け与えてくれて、冷える夜は鱗だらけの腹に抱えてくれた。
数日経ち、目が開くようになると巣の状況が見えてくる。
俺は峻険な山の上、ぽかりと空いた洞窟にある巣に生み落とされたようだ。
見下ろした先は断崖絶壁、落ちたら翼があっても助かるかは微妙だろう。顔も知らぬ母よ、小さな翼でよくこんなところまで登ってきて出産したなぁ。
母の想いを無駄にしないため、俺は小さな手足をじたばた動かしてせっせとタマゴを転がしていき、巣から落とした。
よいしょ、よいしょ、どっこいしょ。
ごついオオハネトカゲのタマゴは、崖を転がり落ちながら割れることなく消えて行ったので、もしかしたら崖下で生まれるかもしれない。それならそれでいい、親の寵愛を俺が一身に受けられるのならあとは些事だ。
そして数日のうちに俺はやり遂げた。
他にあったオオハネトカゲのタマゴ三つを見事に落としきり、俺だけが巣に残ったのだ。
(顔も知らぬ母よ、俺はやりました……!)
巣の主である親ドラゴンは、日に日にタマゴが減るのを不思議そうにしていたが、元来がさつな性質なのか嘆いたり消えたタマゴを探し回ったりすることなく、俺だけを育ててくれた。
大きくて強いドラゴンに守られながら、お腹いっぱい食べて寝て、なんてよい暮らしなんだろう。
俺はぱんぱんに膨れた腹を撫でて、巣の中でごろりと横になった。ヒメヘビハネトカゲは鱗も薄いので、岩肌そのままの巣の寝心地はそれほど良くないが、贅沢は言えない。
うとうととまどろみ、次に起きたらまた腹いっぱい食べられるだろう……と思っていた。
ばきん、という音で目が覚めるまでは。
「はっ!」
すぐ近くで音がする。なにかが割れるような、いや、割られているような。
ばきばき、ぱりぱりという音は、巣のある洞窟の中で響き渡っている。
「まさか……!」
ばきん、と一際大きな音がして、はっと振り返った。
洞窟の奥の奥、親ドラゴンすら見もしない岩場の影の隙間に、オオハネトカゲにしては小さな、そして地味な色のタマゴがひとつだけ残されていたのだ。
それが今まさに孵って……割れ目からひょっこりと顔が出る。
「ぎゅわ」
見間違うことなくそいつは、オオハネトカゲの雛だった。
深い紅色の鱗に覆われた頭と、同じ色の爪がのっそりとタマゴから出てくる。分厚い殻を難なく壊しながら出てきた雛は……でかい。生まれて数分のくせにもう俺よりでかい。
迷っている暇はなかった。
「おい、おまえ!」
「ぎゅ?」
「おまえだよ、このデカブツ!おまえがいると俺は困るんだ、ここから出ていけ!」
言いながら、雛を押したり引いたりして巣から落とそうと踏ん張る。
しかしこいつ、でかい上に重い!全然動かせない。
「んぐぐぐ~!は、や、く、落ちろよ~!」
「んぎゃ!」
俺が必死にやってるというのに、雛はなんだか嬉しそうに鳴いて俺にまとわりついてきた。
でかいのにのしかかられて、踏ん張れるわけがない。俺は巣を転がり、ふと、地面がなくなった。
「あっ……」
落ちる。
手が空を切り、羽は俺の体を支えられるほど大きくなく、風が強く吹いて────。
「ぐゎ!」
巣から落とそうとして逆に落ちた俺を、なぜか雛が助けた。
生まれたばかりなのにもう力強い腕が、生まれたばかりなのにもうぱっちりと開いている目が、俺をしっかり捉えて離さない。
巣の中に引き上げられ、俺は慌てて崖から離れた。
心臓が痛いほど鳴っている。息があがる。
「……おまえ、俺を助けたのか」
「ぎゅぎゃ!」
「なんで……俺はおまえを殺そうとしたのに」
「んぎゅ?」
雛はこてんと頭を傾けて、ちっとも意味がわかっていなかった。
ただしっぽをびたんびたんと振っている仕草が嬉しそうで、こいつは思惑も裏もなく、ただ俺が落ちそうだったのを拾い上げただけなんだとわかって、一気に気が抜けた。
「なんだよ……はは」
這い寄っていって、改めて雛を見る。
俺よりは一回りほど大きいが、これまでに巣から落としたタマゴに比べるとずいぶん小さい。もしかしたら親ドラゴンも産んだことを忘れていたんじゃないだろうか。だからこそ俺も、こいつが巣の奥に転がってることに気付けなかった。
「運のいいやつだな、おまえ。いいか、俺はおまえより先に生まれた、いわば兄だ。弟は兄を立てて、慎ましく生きるんだぞ。わかったか?」
「ぐぎゅ!」
「わかってないな、こりゃ」
がっくり項垂れて、気づく。俺はもうこいつを巣から落とそうと思っていないことに。
結局俺は、こいつを弟として生かすことにした。
雛はすくすくと育った。
親からもらう食事は俺が一番、あいつが二番と決めているのに、だ。
一月もすると、あいつは俺より倍でかくなっていた。
「おにちゃ」
「なんだ、弟」
「おにちゃ、ちっちゃい」
「うるさい! おまえがでかくなりすぎなんだ!」
俺の繊細で長いしっぽであやしてやると、弟は嬉しそうにじゃれついてくる。図体はでかくなったが、おつむのほうはまだまだだ。
ヒメヘビハネトカゲは、生まれてすぐに巣のタマゴを追い落とすため、早熟で知恵もある。俺のほうがずっと利口なのは当然だが、それにしたってこいつはアホだ。
俺が落とそうとしなくても、こいつは何度も巣から落ちそうになったし、実際一度落ちた。
その時は運良く、崖のすぐ下にあるくぼみに足が引っかかり、戻ってきた親が掬い上げていた。
そのときに落ちていてくれれば食い扶持が減らずに済んでよかったのにと思ったが、まぁいい。
親が異変に気づくようにと俺が必死に声を張り上げぴぃぴぃ鳴いて知らせたなんて事実はない。ないったらない。
そんな放っておいても死にそうな弟ではあったが、悪運強く死なず、俺たちはともに育った。
「おい、オルグ」
「にいさん、何?」
「おまえ……でかくなりすぎだろ」
弟はオルグという名をつけられ、すくすくと、そりゃもう見上げるような大きさに育った。
巣がある洞窟はとっくに狭くなっていて、でも巣立ちにはちょっと早いので、俺は弟がミチミチに詰まっている洞窟の隅っこで肩を縮めて暮らしている。
そう、俺はあんなに優先されて育ったのに、オルグのしっぽくらいの大きさにしかなれなかったのだ。
「くそっ、これでもヒメヘビハネトカゲの平均よりは大きいはずなんだが」
「ピシャにいさんは大きくなくていいよ」
「ケンカ売ってんのか? 買うぞ?」
目の前に広がる横っ腹をべちべち叩くと、オルグはくすくす笑った。洞窟の壁面が揺れる。
「にいさんはそのままでいいよ。ちっちゃくて、かわいくて、きれいなにいさんで」
「な……おまえ今言ったの全部ドラゴンにとっちゃ悪口だぞ! ちっちゃくてかわいくて嬉しいドラゴンがいると思うか!?」
「でも、にいさんがかわいいのはホントだし」
「うぐぅ~このデカブツめ……!」
地団駄踏むほど悔しいが、足を踏み鳴らす場所すらない。
たしかに俺は、大きくなれなかった上に、かっこよくもなれなかった。
オルグのような太い手足や強そうな濃紅の鱗はなく、細くて小さな手足と、魚みたいに薄い水色の鱗。花弁に似た細い爪、植物の蔓のような尾は長さがあるだけで、極めつけは翼だ。
オルグはでかい図体を包み込めるほど立派な翼を持つのに、俺は自分の胴をギリギリ一周できるくらいのヒョロっとした翼にしかならなかった。
わかっていた、あぁわかっていたさ。
ハイランドヒメヘビハネトカゲの平均はこんなもん。オルグ以外を追い落とした俺は、これでも立派に育ったほうなんだってことは。
「こんなんじゃ、巣立っても生きていけない……飛び出した途端にグリフォンに狩られる。なんなら群れる肉食鳥類にも負けるかもしれん……」
「だいじょーぶだよ、ピシャにいさん」
「何がだよ! おまえみたいに体格に恵まれたやつに俺の何がわかる……っ」
ぶっとい紅色のしっぽがゆったりと巻かれ、俺の体をすっぽり抱き込むと、オルグはふふと息を吐きながら笑った。
「にいさんはおれが守る。だから、だいじょーぶ」
吐息混じりに言って、すぐに寝息を立てはじめた弟のなんと憎たらしいことか。
俺を守るだと?
弟のくせに、オルグのくせに!
「……くそっ……」
こいつに守ってもらえるなら、巣立ちも怖くないかもしれないなんて思ってない。ないったらないんだ。
近頃は、でかオルグのせいで巣穴に入れないから、もっぱら穴から顔を出すだけの親ドラゴンがやってきたのは、よく晴れた日の朝だった。
「ピシャ、オルグ。飛ぶ練習をしてみるか」
ハスキーな声でそう問いかける義理の母親は、育った後も見た目が違いすぎる俺に首を傾げるだけで、最後まで分け隔てなく育ててくれた。
紅色の翼をはためかせて飛ぶ育ての母に、何度憧れたことだろう。
「ピシャ、やってみなさい」
「はいっ」
養母が見守る中、俺は精一杯翼を羽ばたかせ、崖から飛んだ。
ぱたぱたぱた!
うぅぅ、どんなに羽ばたいても高度が落ちていく。
ゆっくりと滑空するように回りながら落ちていく俺の横を、すいっと大きなものが横切った。
「にいさん、大丈夫?おれの背中で休んでく?」
「なんで、おまえ、もうそんな飛べてるんだよ~!」
「へへへ」
大きな翼いっぱいに風を受け、優雅に空を舞うオルグは、力強くてかっこよくて、俺が憧れるドラゴンそのものだった。
鱗と同じ色の赤い目が細められて、どきっとする。
オルグのやつ、俺より何日も遅く生まれた弟のくせに、立派な体躯と翼、強靭な鱗と、今じゃこうして妙な色気まで備えているんだ。
弟の世話になんかなりたくなくて必死に羽ばたくが、すぐ横にでかいのがバッサバッサとやってるせいで気流が乱れる。つむじ風のような乱流に翼を取られ、一瞬体勢を崩した。
「あっ!」
真っ逆さまに崖下へ落ちる。
なんとか体を水平に……いや間に合わない。少しでもダメージを減らすために頭を腹を庇って……!
「だめだよにいさん、意地はらないで」
俺の体を掬い上げるようにオルグが舞い、その背中に胴体着陸する。喉奥からぐえっと空気が漏れた。
「うぐ……オルグ、おまえぇ……」
「いっしょにおさんぽしよ、ね?」
「……」
広い背中に乗っけられて、俺は拗ねた。
どうせ俺はハイランドヒメヘビハネトカゲで、こいつは大空の王者オオハネトカゲ。最初からフィジカルで敵うはずがないんだ。
オルグはよく俺に懐いてる。
オオハネトカゲの子分がいるなんて得難い幸運だ。オルグをうまくおだてて操って世渡りしていくほうがいい。
わかっちゃいるけど、どうしても納得できないのは、兄のちゃちなプライドだ。
「母さん、もういい?」
「あぁ、まったくオルグ、おまえという子は。好きにするがいい」
「わーい。にいさん、おれたち巣立ちだよ」
「えっ」
そんな、俺はちゃんと飛べなかったのに。
慌てて養母を見ると、彼女は首を振って悲しそうに……いや、憐れむように俺を見た。
「かねてからオルグはな、自分が巣立ちできたらピシャ、おまえを連れていくと言っていた。ピシャが飛び立てるかどうかは関係なく、自分が飛んで支えるからと」
「な、なっ……」
呆気に取られて言葉が出ない俺をよそに、本物の親子は雑に別れの挨拶を交わして離れた。
養母は巣へ戻り、オルグはどんどん巣から遠ざかっていく。
「おいオルグ、オルグっ! どこ行くんだ!」
「おれたちの巣だよ。母さんの縄張りを分けてもらうんだ」
「一匹で行け! 俺は行かないぞ!」
「じゃあ降りる?」
オルグの背から身を乗り出し、下を覗く。
すっごく高い。景色が風のように早く過ぎ去っていく。いや、オルグが風になっているんだ。
今ここを飛び立っても、山岳地帯の真ん中に落ちるだけだ。槍のように立つ木々を避けて着陸できたとしても、巣立ったばかりで手負いのヒメヘビハネトカゲなんてオオカミの群れにすら狩られる。
俺はやっと、今自分が連れ去られていることを知った。
「オルグ、おまえ、何考えてる?」
「おれはずっとピシャにいさんのことしか考えてないよ」
「はぁ……」
どうやらずいぶん変な趣味の弟に育ってしまったようだ。
オオハネトカゲとして独り立ちし、広大な縄張りに君臨するでもなく、あらゆる美しいメスドラゴンを侍らせハーレムを作るでもなく。
兄を背中に乗せて、親に分けてもらった土地で細々暮らすのが目的の巣立ちだなんて。
弟の輝かしい未来を思えば、俺は一匹で飛び立つべきだったのだろうが────できなかった。
そうこうしているうちに、オルグは図体に似合わぬ軽い動作でふわりと着陸した。背中は少し揺れただけで、転がり落ちることはなかった。
「ここだよ。巣から落ちてもケガしない高さで、返しがついてるから獣は登ってこれない。見晴らしがいいから飛獣がよく見えるし、母さんの縄張りだから他のドラゴンも来ない。にいさんにピッタリでしょ?」
「……」
「うれしい?」
「……」
オルグの言った新居の利点は、俺が求めていたものにすべて合致していた。
切り立った崖をくり抜いたような形の空洞は、広く空が見渡せる入り口部分と、奥へ続く空間の二重構造になっている。崖下はそれほど高くなく、日当たりが良いせいか低木や草花が生えそろっている。
「まぁ、悪くない」
精一杯の虚勢に、オルグはにこにこ笑う。こいつはまったく……。
洞窟を下っていくと広間に出た。
オルグのような図体のハネトカゲが何匹も入れそうな空間には、枯葉が降り積もって吹き溜まっている。寝心地が良さそうだ。寝返りを打っても、岩肌で鱗が傷つくおそれもない。
まさかオルグのやつ、そこまで計算してここを棲家にしようってんじゃないだろうな。
ちらりと見ると、オルグは大きな口を大きく開けてあくびしていた。……こののんきな弟にそんな能はないか。
「さて、これからどうするんだ。おまえ、ここを俺に譲ってくれるのか?」
「どうしてゆずるの? ここにおれたち二匹で住むんだよ」
「はぁ?」
あり得ない話だ。
ハネトカゲはどの個体も我が強く、多種族とも縄張りを争う。ハネトカゲのオス同士なんて最悪で、縄張りの近くで羽ばたく音を聞きつけただけで飛び出していって喧嘩するような、プライドのバカ高い生き物なのだ。
それが、いくら兄弟とはいえオス二匹で住むなんて無理。絶対無理。
「ピシャにいさんは、おれとケンカしたいの? 縄張り争い、する?」
当のオルグは不思議そうにしている。
でかい頭をこてんと倒したって全然かわいくないが、立場上かわいい弟を導いてやるのが兄のつとめだ。
「おまえと縄張り争いはしない。おまえが出ていかないのなら、俺が出ていく」
「なんで?」
「なんでって、二匹でなんていられるわけないだろう。俺たちは兄弟だし、俺が譲るしか」
「にいさんはおれの兄じゃない」
凍りついたように思考が止まった。
「知って、いたのか」
「ピシャにいさん、おれとも母さんとも全然ちがうんだもの。わかるよ、それくらい」
「そう、だよな……」
「母さんはほんとに気づいてなかったかもだけど」
あの大雑把な養母のことだ。それはあり得る。
しかし大雑把加減なら負けてないオルグが、それに気づいていたことは、俺にとって結構な衝撃だった。
「いつから……」
「ん~、わりと前から」
「母さんは気づいてないのに?」
「おれはずっと見てたから。にいさんのこと」
深い紅色の虹彩は輝いていて、洞窟のなかにあって宝石のように美しい。
見入ってしまいそうになり、慌てて目を逸らす。
「追い出そうとは、思わなかったのか? 俺は、俺たちはおまえたちオオハネトカゲの巣に勝手に入り込んだ邪魔者で……」
「そんなこと考えもしなかった」
うーん、大雑把なことに変わりはないらしい。オオハネトカゲがおおらかで助かった。
「でもそれなら、話はもっと簡単だ。オスドラゴンが二匹で一つの巣に住むなんてありえない。おまえも本能でわかっているだろ?」
「え、わかんない」
「おいおい……」
立派に育ったのは外側だけで、中身はまだ赤ちゃんだ。
がっくり肩を落とす俺を、オルグは不思議そうに見つめた。
「ピシャにいさんと離れるつもりなんてないから、そんなの考えもしなかった。オス同士で、種もちがうけど、いっしょに育ったんだしこれからもいっしょでよくない?」
「よくない! なんでおまえはそう大雑把なんだ!」
「なんでだめなの? にいさんはおれのツガイなのに」
「は……?」
ツガイ、それはドラゴンの夫婦のことだ。
オスメスで一対のツガイとなり、子を産み育てる。巣に顔を出すのはもっぱら母親だが、父親も近くにはいて、巣に近づく外敵からツガイと子を守っていた。
大事なのは、オスメスで一対ということ。
俺もオルグもオス同士。
「オス同士でツガイになれるわけないだろ!」
「なんで?」
「なんでって……常識的に考えて、」
「ツガイかどうかは自分たちが決めることじゃん。他がどうなんてカンケーないよ」
「いやっ、ツガイってのは子孫繁栄のための単位で、おまえのツガイは同じオオハネトカゲのメスじゃなきゃ、」
「おれは、にいさんがいい。おれの本能は、ピシャにいさんがツガイだって言ってる。にいさんは感じないの?」
本能。ツガイを求める心。
そんなの、そんなものは幻想だ。
なぜなら俺はオルグとは違うから。弱くて小さなハイランドヒメヘビハネトカゲじゃ、獣の頂点に君臨するオオハネトカゲには釣り合わないから。
どこもかしこも細くて薄い体。
色も厚みも違う鱗は見るたびに嫌になった。
もっと強いドラゴンに生まれたかった。
オルグに釣り合うような、強いドラゴンに────。
「ピシャにいさんはそのままでいいよ。そのぶんおれが強いから。きれいで、頭がよくて、大好きなおれのにいさん」
「……っ」
しっぽと翼で抱き寄せられるのを拒めないのは、力の差だ。
決して、ツガイになるのを了承したわけじゃない。
それなのにオルグは嬉しそうに破顔して、腕まで使って俺をぎゅうぎゅう拘束する。
「外はあぶないよ。ここにいなよ」
「……仕方ないから、出ていくのは後にする」
「うんうん、ずーっといっしょにいようね」
ずっといっしょとは全く言ってない。それなのにオルグにとってはそういうことになってしまった。
逃げられない強さのハグに押しつぶされながら、もうこれでいいか、という気がしてきた俺だった────のだが。
「おい……オルグ、なんか出てるぞ」
「え、あぁ、ほんとだ」
オルグの腹の上で身をよじると、下の方、しっぽの付け根あたりからなにかが出ていた。
腹側の鱗の列に裂け目のような場所があって、そこから赤っぽいものが二本、飛び出ている。微かに震えるそれは肉肉しくて、オルグの体の一部であることは明白で、位置的に、生殖器の可能性が高くて。
「おまえっ、俺に欲情してんのか!?」
「ヨクジョーってわかんない……んっ、にいさん……」
「ちょ、ちょ、待て、おいっ、それをこすりつけるな!」
薄い腹にごりごりと肉棒がすりつけられる。というか俺がすりつけられてる。
オルグは俺を抱えたまま気持ちよさそうにしているし、先端からはなんか液体が出てきているし、ずりずりと腹に押し当てられるたびに俺もなんか変な気分になってくる。
「あ、にいさんのも出てる」
「────ッ!」
「嬉しい、にいさんもきもちいんだね」
俺の腹からもぴょこんと二本出てきてしまった。
大きさの違いが際立って恥ずかしい。どうしてこいつはこんなところも大きいんだ。俺は全然大きくなれなかったのに。
悲しみに打ちひしがれる俺をよそに、オルグは遠慮というものを知らず粘膜同士をこすり合わせてくる。
「にいさん、にいさん……」
「あっ、ちょ、そこは、そこはだめだろっ」
「いれたい、いれたいにいさん……」
肉棒が引っかかったのを契機に、オルグの切先が俺のしっぽの付け根をぐりぐりと執拗に暴こうとしてくる。
ついでのように首元をゆるく噛まれ、俺は悲鳴をあげた。
「ぴゃっ! あ、あ、やだ、噛まないで」
「にいさん……ここ、いれていい?」
「だめ、だめだよオルグ」
「でもいれたい……」
「うぅっ」
鼓膜を直接震わせるような、欲に濡れた声を拒絶するのが難しい。
かわいい弟のささやかなお願いをいつだって叶えてやってきた。
俺がいつまでも大きくならないからと、兄に食事を譲るよくできた弟は、昔から無茶なお願いなどしてこなかった。退屈だと言うので、巣に吹き込んできた木の葉で遊んでやった。母が狩りに行って寂しいと鳴くので寄り添って眠った。
そんな弟の切実な願いを振り払えないほど、俺はこいつに情を持ってしまった。
「い、痛くしないで……」
頷くが早いか、細長いものが腹に突き刺さった。
先端が入ると奥までずるずると侵入を許してしまう。
「あぁっ! う、ぐ、お、るぐ……」
「ピシャにいさん、うれしい。にいさん、にいさん」
首を噛まれながら揺すられ、奥まで押し込まれるとさすがに圧迫感が著しい。
でもオルグがあまりにも嬉しそうで。
これくらいのことで弟が喜ぶのなら、まぁいいかと思ってしまう。
「うっ、出る……」
「ひ、ぁ、あ」
生殖器がびくびく震えて、総排出腔の奥へ生暖かいものが出されるのを腹で感じた。
俺、メスじゃないのに、オルグに種付けされてる……。
屈辱のはずの事実に頭がぽーっとして、気がついたら俺の肉芽からも少量の液が漏れ出ていた。
ずるりと抜かれたオルグのものと絡み合って、ぬらぬら光るさまが卑猥だ。
あぁ、俺は弟となんてことを。
「にいさん、もう片っぽでもしていい? いいよね」
「えっ、だめ、だめだっぁああ!」
出されたものがとろとろこぼれ出ている穴に再び熱を突き立てられ、大きな体でのしかかられて身動きできず、俺はひたすらオルグの欲望に付き合わされる羽目になった。
その後俺は、何度か巣を出て行こうとしたものの、そのたびにオルグに阻止され、説得され、最後は交尾になだれこんで有耶無耶にされ、いまだに独り立ちが叶っていない。
ハイランドヒメヘビハネトカゲのオスとして立派に生きていく予定だったのに、現状なぜかオオハネトカゲがいつも俺のそばにいて、片時も離れようとしないのだ。
「おまえなぁ、狩りくらい一匹で行けばいいだろ?」
「ピシャがいないとうまくできないよ。とれても、おいしいところをつぶしちゃうし」
「オルグ、大雑把だもんなぁ。俺がしっかりしないと」
「うんうん、頼りにしてるよ、ピシャ」
実は兄弟でなかったことがとっくにバレていたので、兄呼びはやめさせた。
そう言いつつ俺のほうこそオルグを弟扱いしてしまうことも多く、気をつけているところだ。
「ピシャ、愛してるよ」
兄呼びをやめさせたら、こんなセリフが飛んでくるようになった。
危うくオルグの背中から落ちそうになる。
「おま、そういうことはこういうとこで言うなって!」
「巣でならいいの?」
「……」
振り返ったオルグの顔が、期待するようににこにこ笑顔で、大きな紅色の瞳はきらきら輝いて、とてもきれいだったから。
「……巣でなら、いい」
そっぽを向いて言った言葉は、風に溶けてオルグの耳に届かなければいいと思ったのに、こういうときだけ地獄耳のオオハネトカゲには意味がなかった。
「今すぐ戻ろう。そんで朝まで交尾しよ」
「するかバカ! それよりほら、グリフォンがいるぞ、あれを狙おう」
「狩りどころじゃないよぉ。帰りたいよぉ」
「発情するなバカオルグ!そんならさっさと狩ってこい!」
その直後、信じられないほどの速度で飛び一撃でグリフォンを仕留め、おいしい部位も損なわず肉を巣に持ち帰ったオルグに、今度は俺が仕留められてしまうことになったのは……言うまでもないことである。
おわり
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