虹虹の音色

朝日 翔龍

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序章

第0話 バンド結成!

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「……眠い」
「おい颯太、いきなりそれか?」
「そう言うなよ勝喜しょうき~。詩の課題がダルいんだよ~」

 夏らしい詩ってなんだよ、思いつかないっての。勝喜ならこういうの得意だけど、手伝ってくれないだろうな~。

「お前さ、音楽聴くか?」
「音楽? 何の話?」
「歌詞だよ。あれの真似しかしてねぇぜ、俺」
「ハァ⁉︎    マジで⁈」

 歌詞の真似って、そんなので賞状貰えるものなの? 俺の記憶違いか? そういう不正がないかを、普通は確かめられると思うけど。

「あ。なんなら見るか? 俺、趣味で詩書いてるんよ」
「お、ならパクらせて貰おーっと!」
「どうせそれ目当てだろ。その代わり、駅前のアレ、奢りな?」
「はいはい、ラーメンでしょ。しかも、あの店で1番高いやつ」

 今でも、ラーメン1杯で1580円は高いよなー。まあ、宿題を手伝ってくれるお題としては安い安い。

「よし! なら早速行こうぜ!」
「ちょ、待って! まだ次の授業残ってる!」
「あ、そだっけな。アハハハハ、忘れるとこだった」

 まだ昼休みなのに。しかも、弁当食ったばっかだし。あのラーメンをそんなに愛してるの、ある意味で羨ましいよ。

「あー、早く授業終わんねーかなぁ」
「も少し待てば勝手に終わってるって。それが授業だし」
「ねぇねぇ勝喜くーん。教科書見~せて!」
「おっす、美由。ほい、世界史。また寝てたか?」

 あ、また来やがった。リア充は良いよなぁー。俺もガルフレほしいわ~。

「ん? 颯太くん、美琴は?」
「購買じゃね? それよりさ、できた? 詩の課題」
「でけたよ、メチャ良い感じ。バンドの歌詞でも使えそうだし」

 バンドやってて歌詞担当なら、こういうのは得意か。俺そういうの苦手なんだよなー。

「そういえばさ、颯太って演劇やってなかった? しかも台本担当で」
「えっ、そうなの⁈    中学の頃か?」
「まあ一応……。へ、いやいや! 台本と詩は全く別物! まあ、勝喜の写すし、それで良いや」
「良くないよ! 元音もとねちゃんには間違いなく悪影響だね」

 うぐ、そこで俺の妹のことを言うとは、流石は美由。話が上手い。
 それでも写すかんな。

「ん? てか、美由。お前のクラス、次って体育だろ? 時間大丈夫か?」
「あっ、ヤバっ! 忘れてた、グラウンドじゃん! ごめん、教科書明日返すね、行かなきゃ!」


 美由は世界史の教科書を胸に抱えて、急いで自分の教室に戻っていった。

「ていうかさ、やっぱ入ってくんね?」
「だから、入んないって。人前とか、苦手だし」

 勝喜は、いつもこんな風に俺をバンドに入れたがってくる。正直、それだけが厄介なんだよな。

「何でだよー、演劇やってたんだろ~? なら人前だって得意だろ」
「いや……裏方だったし」

 人前に立つなんて考えただけで怖い。俺なんかが舞台に立てるわけでもないし。

「じゃあよ、詩の課題。お前なりに書いてみろって。思うがまま書けば良いし、なんなら教えてやるぜ?」
「え~、めんどくさ」
「めんどくさくねぇよ、詩って言っても、長くなくて良いしさ。俺なんて3行だぜ」
「あ、そっか。短い詩だってあるっけね」

 そんなのでも良いなら、俺でも出来そう。まあ、書くだけ書いてみるか。

「お、いきなり書くのか?」
「それなりに。やっぱ、夏といえばこれしかないってやつ、たくさんあるし」
「出来たら見せてくれよな!」
「おう、まあすぐ終わらせるわ」



 そして授業開始2分前に、颯太は詩を書き終えた。

「よし、出来た!」
「どれどれ~…」

《せみしぐれ響く坂道 入道雲浮かべる青い空
どこまでもどこまでも続いていけ
 サンサン輝く太陽と ユラユラ風と遊ぶ青葉たち
全ては波に辿り着く 
 さぁ踊り狂え 波に全てを乗せて 波に全てを委ねて》

「……お前さ。ずるいわ」
「は? 何がだよ、普通に書いただけだし」
「いやいや、これ普通に良いじゃん。へ~、こんな書き方あるのか~」
「そう言って、お前のはもっと良いくせに」
「なんなら見るか? 俺のやつ」
「もちろん。えーっと?」

《風がないこの街 僕は海を呼んだ こだまする誰かの声
夢を見ているかの気分だ
 夏が来た 精一杯 楽しんでいこう》

「…何これ」
「は⁈    素人のお前に言われたくねーし!」
「だってこれ、文に脈略ないし、それに-」
「そこ! 授業開始のチャイム鳴ってるのに何やってんだぁ⁉︎」

 えっ、何でもう先生いるの……って、とっくに5時間目の始まる時間過ぎてるやんけ。
 何やってんだろ、バカみたい。

「とにかく! 後でさっきの言い分は撤回しろよ!」
「はいはい、席戻って」



 5時間目が終わり、今日は早めの放課後。部活も休みということもあり、珍しく颯太は全員と帰路を共にしていた。

「で? 撤回するなら許すけど?」
「する気ないし。ねぇ美由、これどう思う?」

 作詞担当の美由なら、俺より良い意見言ってくれそうだし、それよりも勝喜だって言い返せないだろう。
 なにせ、やつのガルフレだし。

「この字……勝喜のだよね。ハッキリ言っちゃうと、没」
「ぼっ…⁉︎    マジか~」
「当たり前じゃん、時制もおかしいし、脈略も意味不明だし。ねぇ美琴、これどう思う?」
「ん~? あたし、作曲担当だから偉そうなことは言えないけど~……無理矢理完結させた感じがするよね~」

 うわー、踏んだり蹴ったりの言われようじゃん。まっ、だわな。良かった、俺の感覚通りで。

「でもね~、そういう発想だけの書き方、嫌いじゃないよ~。しょうちゃんらしくて、良いと思うな~」
「へ?」
「美琴が言うなら、まあそうなんだろうね」
「えぇ~、この詩のどこが良いのか、分かんない」

 勝喜らしいって言っても、この詩が良いとは言いにくいけどなー。

「そういえば~、颯太っちのはどう~?」
「俺の? まあ、はい。こんな感じ」

 なんか、あんな詩を書く勝喜に褒められたせいで自信なくしたわ。思う存分言ってくれて構わないや。

「…良いな、これ。普通に続き書きたい」
「あたしも同じ~。もう譜面できちゃった~」

 あれ。意外に好評? じゃあ何だ? 勝喜の感性は良いけど、能力がないってだけ? あちゃ~、こりゃヤバいかもな。

「ねぇ、颯太。バンド、やっぱり入る気ない?」
「あたしだったら、強引にでも勧誘しちゃうけどな~」

 ほら、こうなる。もうやりたくない理由、素直に言ったほうが早い気がしてきた。

「あ、あのさ。俺、そういうの向いてないと思うんだ。人前に立って良いようなやつじゃないし…」
「ねぇ~、思うってことはさ~。立ったことないんだよね~? ならさ、今日路上でやるし、試しに立とうよ~」
「あ、それ良いかも! 颯太、歌上手いから何かカバーしてくれたり!」
「俺も賛成。それにヴォーカルいなかったし、まあ試しにってな」
「えっ、待って待って! これ、決定事項⁉︎」

 なんか勝手に話が進んでるせいでわけ分かんないけど、これまずい事態なんじゃ……。
 なんとしてでも避けないと。

「い、いやえっと。だから、自信ないし」
「私達だって、最初は同じだったよ。でもね、その最初の頃からずっと見てくれる人もいてくれて」
「その人のおかげでね~、あたし達も今じゃ自信ありまくりなんだ~」
「まあ、まだヴォーカルがいないせいで、バンドというよりもパフォーマーって感じしかしなくてな。正直、お前がいるとバンドって感じがしたり…」

 えぇ~、これ不可避なのかな。まあ、試しって言ってるなら、今日限定か。
 そう思えば、ちょっとは気が楽になるし。いつも通りやってれば、失敗もしないかな。

「分かった、今日だけなら、良いよ」
「今日だけ、ね。分かった、じゃあいつも通りあそこでやろっか!」
「オッケ~、じゃあその前にスタジオだね~」
「いよっしゃ~! 思いっきりやろうぜ!」

 やれやれ、まあ歌うだけなら良いか。それに、そんな人気でもないみたいだし人数も多くないよな。



 駅前のスタジオに立ち寄って、勝喜が自分のドラムセットを分解して持ってきた。

「おっし! じゃあ、ここでやるか!」
「今日はここだね。じゃあ準備始めよっか」
「キーボードの音量は~……こんな感じかな~」

 美由はアコースティックギターのチューニングを、美琴は自立型キーボードの音量調整を、勝喜はドラムの組み立てを行っていた。

「うわー、ガチじゃん。って、何の曲やるんだろ?」
「うーん……たしか、颯太ってcolor’sの曲聴いてたよね?」

 たしかに聴いてるし、インディーズ時代からファンだから歌えるけど。まさか歌えって言うのかな。
 まあ、1番歌ってるし、それで良いか。

「準備オッケ~。しょうちゃんは~?」
「いつでも良いぜ。で、何やるよ?」
「じゃあ……スカイスカイ」
「おっ、良いな! いつも通りだぜ、それじゃあ、やるぜ! 1・2、1・2・3!」

 勝喜の合図と共に2人が前奏を始めた。スカイスカイの前奏といえばエレキギターだが、メンバーにはその担当がいない。
 その代わりに美由がそのパートを弾いた。だが、勢いが足りない。なら、その勢いをつけることができるのは、声だけだ。俺の得意な歌だ、いつも通りやれば良いだけだが、自信はないに変わりはない。上手くできるかな。

「スカイスカイ 手を伸ばせ 夢をぶつけちまえ
眩しい太陽目指して かっ飛ばしてけ」

 ダメだ、緊張のせいで声が出ない。いつも通りにできない。だから嫌だったのに。

「お、やってんね~! あれ、ヴォーカルかな?」
「あ、彩綾さあやさん! そうなんです、でも自信がないみたいで」
「大丈夫だよ~、あたし達がそばにいるから~」
「お前の技量なら大丈夫だって! なっ!」

 演奏しながら、俺を励ましてる。そうだ、今日1日だけだし、それに奏でてくれる3人がいる。
 よし。気持ちも落ち着いてきた。いつも通りに、そう、ただいつも通りに。

「はっちゃけて踏み出した 一歩が思い出になってく
チャランポランと怒られた日は 塗りたくっちゃおう…」

 気持ちが高鳴ってく。決してcolor’sに近い音ってわけではない。
 だけど、鼓動が強くなってく。気持ちがいい。目の前の観客がいるはずなのに、なぜか見えない。見えているのは、青空を仰いでいる俺たち。
 この歌の中で生きているような、不思議な気持ちでもある。



 気付けば1曲目が終わっていた。それと同時に拍手が鳴り渡った。
 その音で視界が戻った。目の前には、30人くらいの観客。その視線が、再び緊張を感じさせた。

「えっ、えっと…」
「皆さん、今日は集まってくださりありがとうございます! 本日は特別に、臨時ヴォーカルとして同級生の颯太くんに来ていただきました~!」
「颯太っちは~、歌が上手くて有名な生徒で~、あたし達とも仲良しなんです~」
「それで、詩の才能もあるから最高!」
「へぇ~。にしても、スカイスカイ、良かったよ。最初聴いたときは印象最悪だったけどね」

 あっちゃ~。これがMCなのか。しかも、俺褒められまくってるし。なにこれ、夢なのか?

「折角だし~、颯太っちの書いた詩読んで~」
「えぇ⁉︎    今読むの⁈」
「あ、あれなら俺持ってるし読むぜ。あー…」
「ちょ、ちょ! やめて~!」



 色々あったが、あっという間にライブは終わった。しばらくは緊張からの開放感で颯太はボーッとしていて、気づいた頃にはハンバーガー屋にいた。

「いやー。大成功だったね!」
「そうだね~。いつもの3倍は人いたよね~」
「楽しかったよな、だろ! 颯太!」
「へ、あ、ごめん。何の話だった?」

 まだ緊張してこそいたが、ようやく落ち着いてきた。人前に立つって、あんな緊張するんだ。

「ねぇ颯太。今日はありがとね。無茶させちゃったと思うけど、いい経験になったかな?」
「まあ、なった。でも…」
「でも~? やっぱ怖い感じ~?」
「そ、そう……」
「俺たちも鬼じゃないし、今日だけって約束だ。付き合わせて悪かった」

 怖いものは怖い。でも、あの気持ちよさをまた感じたい。変だな、怖いはずなのに、また立ちたいと思ってしまう。

「その感じだと、また立ちたいのかな?」
「あ~。あたし達と同じだね~。怖いのに、気持ちよさを追いかけてまた立ちたくなるやつ~」
「で、気付けば怖さがなくなってんだよな」
「でも……俺みたいなやつが人前なんて…」

 どっちにしても、俺は人前に立てるような人間じゃない。俺は、ただ普通でいるべきだと思う。

「そんなことないと思うなぁ。歌上手いし、現にさっきのライブの盛り上がり。私達だけじゃできなかったよ」
「だよね~。すんごい盛り上がってた~。颯太っち、自信持っていいと思うよ~」
「そうそう。お、この期間限定バーガー美味いな」
「ちょっと勝喜、いいとこなのに」
「……」
「あ、POP-SHINEじゃん。ちょっといいかな?」

 えっと、誰だっけこの人。たしか、美由が彩綾って呼んでた人だったような。

「彩綾さん! どうしたんですか?」
「実はね。今日のライブの盛り上がりがすごくって、コンサート会からのオファーがあってさ。やらない?」

 オファーって…オファー⁉︎    あんな音しか奏でられないのに、いいのかな。しかも、color’sのカバーだし。

「ちょっとお待ちを~。颯太っち、あの詩さ~、歌詞にできない?」
「えぇと……」
「できないなら、私やるよ?」
「……やる、やります! 俺、自信ないけど……俺の声が必要なら、バンド、やる!」

 あの音のままコンサート会に行かせられない。なら、俺の声で精一杯カバーするしかないか。

「お~。良かった、これでPOP-SHINEも始動できるよ~」
「だね! で、歌詞はどうするの?」
「それは……まず、自分で頑張ってみる。詰まったらよろしくかな」
「うぅぅぅぅ! 来たァァァァァァ!」
「アハハ、じゃあ今月末の土曜日。ちょうど夏休みかな? その日にコンテストだから、参加よろしくね」

 笑ってそう言うと、彩綾さんはゴミ箱に食べ跡を捨てに行った。

「じゃあ、今日からよろしくね、颯太!」
「あたしからもよろしくね~、颯太っち」
「まあ、お前ならそう来るとは思ってたぜ。よろしくな」
「……うん、よろしく!」

 こうして、俺のバンドマンライフが始まった。青春真っ只中で、弾けそうな生活のスタートラインが切られた。
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