虹虹の音色

朝日 翔龍

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第3章 MIRA CREATE!

第2話 また消える

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 なんとか、僕の所属する演劇クラブには5分前に間に合った。でも既に全員集まっていた。僕が1番最後とはいっても遅刻はしていないのに、なぜかお世辞にも良い顔をしているとは言えなかった。

「ど、どうしたの?」
「武尊くんも来たことだし、もう一度言うよ。演劇クラブは、今日を持って廃部になった」
「えっ」

 その言葉を聞いて、何も見えなく、何も聞こえなくなった。また、僕の居場所が消えてしまう。怖くて、嫌で、全てから心を閉ざしてしまった。



 クラブはその報告だけで終わって、僕はトボトボと家へと歩いていた。
 風の中に舞う桜が、時の流れを皮肉ながらに伝えている。

「……あれ?」

 橋の下の川原に人だかりができていた。そういえば、ここはあの男子生徒と出会った橋だ。ここで演奏するみたいなこと言ってたし、きっと彼が演奏でもしているのだろう。
 僕と違って、居場所がある。そんな彼を、いつしか僕は羨んで、気付けば僕の意思なく足が川原へと進んでいた。
 静かにしていなければかき消されてしまいそうな低音。それを耳にして、僕と似ているような気がした。大きな音で簡単に消えてしまう僕と。

「ふぅ……color‘sより『約束』でした、ありがとうございました……?」

 男子生徒の目と僕の目が合った。その刹那、世界が2人きりになったような感覚がした。

「す、すみません! 君、落とし物」

 観客をかき分けながら、男子生徒は僕の方へと駆け寄ってくる。

「あっ、ノート! な、中見てないですよね?」

 あまりこのノートの中は見られたくない。僕のがぎっしり詰まっているから。

「ごめん、見ちゃった」
「そ、そうですよね……」

 僕は俯きながらそのノートを手を震わせながら受け取った。

「そ、それじゃあこれで--」
「すっごい、良かった!」
「えっ⁈」

 僕の両肩をギッシリと握りしめて、男子生徒は目を輝かせながら僕にそう言った。

「これ、君が書いたんだよね⁉︎」
「う、うん?」
「こんな、初めて見た! 才能なんて言葉じゃ言い表せないくらい、すごい!」
「才能……僕に?」

 僕には才能なんてない。いつも何かをやっては失敗する。今回だってそう、演劇を始めたのに終わってしまった。
 僕が何かを始めると、それはいつか終わってしまう。このノートもそう。書き始めれば、いつかはきっと終わってしまう。僕は、終わりが怖いんだ。

「才能以外なんて言うんだよ! 特にこの、『終わらない今が重なった未来』! めっちゃ良いじゃん!」

 そのフレーズは、僕もお気に入りの一言だった。僕がいつも思い描いている世界。それがその一言に詰まっている。
 それを、この人は受け止めてくれた。でも、大勢の人の前でそんなことを言われて、僕は思わずノートを胸に抱きしめたまま走り去ってしまった。

「えちょ⁉︎ ぶそん~っ⁉︎」

 あの人が誰かの名前を呼んでいる。でもそれが僕の名前だとすぐに分かった。
 僕の名前を始めて見る人は、必ずそう呼んでしまう。仕方ないことだとは思う。そう思っていても、振り返ることなく僕は帰路へと戻り、駆け抜けていった。



 そして僕の家に帰り、一目散に僕の部屋へと駆け込んだ。窓を開けてから、ベッドの下にある僕の物入れを出して、中から光沢のある黒曜石を取り出して胸に当てた。
 僕なりの、落ち着くおまじない。僕の部屋は、僕のものしかない。石ころや葉っぱ、枝に羽。更には使い切ったクオカードやボロボロのオモチャにクタクタの人形。
 全部、僕が拾ってきたもの。そして、今まで生きてきたもの。

「……また、死んだ。また、拾えなかった」

 僕だけの部屋に、開いた窓から風が入り込む。僕の頬を伝うしずくを、優しく撫でてくれる。僕はまだ生きていることを知らせてくれる。
 あぁ、今日も風が僕の悲しみを誰かのもとへと運んでいく--。
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