虹虹の音色

朝日 翔龍

文字の大きさ
上 下
58 / 68
第3章 MIRA CREATE!

第19話 仮面

しおりを挟む
 去っていく後ろ姿を茫然と眺める僕。後ろから、そんな僕を呼ぶ声がする。でももう、何も聞こえない。僕はまた、全て失ったから。

「武尊、何かあった?」
「……もう、良い。バンド、続ける意味……なくなったから」
「え、ちょっと待って。バンド、辞めるってこと?」

 おそるおそる優姫はそう僕を見ながら尋ねる。僕は頷いて答えた。

「……バカ」
「おま、武尊になんてこと言った⁉︎」
「お、落ち着きなようーちゃん」
「何かあったから話聞くぜ?」
「……アイツか」

 でも、僕の求めていた一言を優助くんが発してくれた。心の奥底に閉じ込めていた思いを、拾ってくれた。

「おい和矢! 聞こえてんだろ、返事しろ!」
「……負け犬が吠えんな。みっともない」
「! 優助くんは、負け犬じゃない!」

 咄嗟の僕の反論に、一番驚いた顔をしたのは優助くんだった。

「……かーくん。僕は、君に見つけてもらったあの日から何も変わってないよ。不器用で、上手く物事言えない僕。でも君は変わった。人を見下す、普遍に」

 言いたいこと、たくさんあって選べられない。あれこれと溢れ出す言葉に埋もれ、その苦しさで僕は泣いた。それでも言葉を紡ぎ出す。優助くんの今までを、集めるために。

「でも、優助くんは違う。誰も見下さないで、認めてくれる。ここにいるみんな、同じ。チグハグしてても、決して普遍には飲まれない!」
「……はたから見れば、陰キャの集まりだな」
「もういい。行こ、武尊」
「……セントリ。嫌い?」

 かーくんは僕の質問に答えることなくまた歩き出した。もう違う別の道を歩いていると言わんばかりだった。

「放っとけ、あんなやつ」
「飽きた、帰る」
「ちょ、ちょっと待った遥歩! 新しいゲームあるが、来るか?」
「ほぉぉぉ! 行く!」

 さっきまで無表情だった遥歩くんの瞳がキラキラと輝きだす。恥じらうことなく好きなものに釣られるその様子に、僕は無意識のうちにシャッターを上げていた。
 どんなに僕がシャットアウトしても、この場所はそんな僕を笑わせてくれる。この繰り返しは、セントリと同じだけど、どこか違う。柔らかくて、温かくて、包んでくれて、まるで毛布のようだ。
 もしかしたら、鳥が残してくれた羽で出来上がっているのかもしれない。

「ごめん。僕、バンドやる。続ける。みんなとなら、できる気がする」

 震えた僕の言葉で、全員はゆっくりと笑顔を咲かせる。それなのに僕はどんな顔をしているのだろう。自分で自分が見えないのが、これまた悔しい。

「タケッチ。あのバカのことは気にすんな。俺達でやろうや」
「うん。やろう」
「……そうだね。新しいバンドで頑張ろっか!」

 僕達は今、ようやく決別を受け入れたと思う。自信とかは、よく分からないけれど、この場所を信じていけば、きっと明るい未来へ辿り着く。そう信じて。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

お花の女王様

児童書・童話 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

転生お転婆令嬢は破滅フラグを破壊してバグの嵐を巻き起こす

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:70

傷ついた美:段ボールコレクターの成長物語

O.K
エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

玄奥

現代文学 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

例え、私が殺した事実に責任を感じようとも。

ミステリー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

僕とリンドの半日

大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

処理中です...