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第3章 MIRA CREATE!
第21話 絆創膏
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5月に入り、文化祭に向けた練習も始まった。そんな中で、優姫の提案が物議をかもしていた。
「だから! フォルテゾンでライブしようって!」
「もうフォルテゾンは使わない。前にもそう話したでしょ」
「アイツが使ってると知った以上は使わん」
「だな。遥歩もそれで良いか?」
「どこでも良い」
相変わらずの僕達。変わることはない。ずっとこのままが良いな。狭苦しいけれど、優しくて温かいこの場所のまま。
「それよりよ。武尊、一緒に頑張ろうな」
優助くんが僕の瞳を熱く見つめて、鋭い決意を込めた言葉を放った。僕の胸までもを熱くするように。
「うん……頑張ろう!」
「で、スタジオだけど……ここ。羽丘からは近いでしょ」
「えっと……bIrd?」
「color‘sとかデイスマ、カラリバなんかの御用達のスタジオ」
どこかで聞いたことのある名前を、遥歩くんがこぼしていく。
「えぇ⁉︎ 超有名なスタジオじゃん!」
「何か問題ある?」
「入れるのか? 人気ってのもあるしよ」
「アポ取ったら、即オッケー貰えた」
「で、でも……真風樹さんは?」
もしそのスタジオを使うことになれば、僕達に居場所を提供してくれたフォルテゾンの真風樹さんを裏切ってしまう。
「俺の方から話しとくぜ。親父には話してあるしよ」
「そ、そうじゃなくって……」
「ほら、フォルテゾンも使おうよ~!」
「絶対いや。武尊のこと傷つけておいて逃げたやつが使ってる場所なんて、使いたくない」
「同じく。あんなクソ兄貴と会いたくねぇ」
「どこでも良い」
僕の言葉でまた壊れそうになる。この雰囲気は、あのときと同じだ。
「……1曲くらい、音合わせてみたいとか思ったんだけどな」
優助くんがワガママだと分かって落とした言葉が壊しかけた、あの雰囲気。僕だってワガママだ。誰よりもワガママだ。不器用なくせに、ワガママだなんて、僕は最低だな。
「……まあ、でも……クソ兄貴がいても、お前がいるなら良いけど。フォルテゾン」
「えっ……」
僕が落とした言葉を、優助くんが優しく拾ってくれた。その温かさが僕の耳から胸の奥へと脈と一緒に伝う。
ああ、繰り返しって温かいときもあるんだ。僕の知っている繰り返しは、悲しいと痛いの暗がりに繋がるものだけだった。
でも。ここは違うみたいだ。痛いときもあるけれど、これ以上にないほど柔らかくて脆いものだらけだ。
「……どうしても使いたいなら、私も言わないけど」
「まあそのほうが、俺も嬉しいけどよ」
「どこでも良い」
「あゆちん、そればっかり!」
「あゆちん?」
遥歩くんは優姫の突然のあゆちん呼びを、不思議そうに首を傾げて尋ねた。
「あれ、良い反応しない?」
「遥歩で良い」
「それじゃあつまんないじゃん?」
「ハァ……?」
「あっ。歌詞、書いてたけど……ダメだった?」
「あ、いや。続けて良いよ、ごめん武尊」
「うーちゃんは武尊にだけ甘すぎでしょ」
たしかに生維は僕にだけ優しい。なぜかは分からない。でも温かいから気にしない。
「どれどれ~……ん、これ……」
「うん。昨日の優助くんを見て……支えてあげたくなって……」
僕の書いていた歌詞は、昨日の優助くんが浴びた針のような言葉の痛みを和らげられるようなもの。絆創膏だけじゃ足りないから、もっと伝えられるように。
僕には歌でしか届けられないって、分かっているから。
「……これ、やる!」
「なっ、まだ作曲もしてねぇし」
「やる。やりたい」
「分かった、分かったから腕離せ!」
遥歩くんはどこかの人形のように、作曲担当の賢足郎くんの腕にしがみついている。
このなんでもない今を繋いで、どんな未来になるだろう。痛いも悲しいも思い出だけど、キレイだって思い出になる。
そんな凸凹した今を繋ぐのだから、簡単に壊れてしまう未来なのかな。それを分かったとしても、歩いていたい。ずっと、この場所で。
「曲名、思いついた」
「おっ、流石は武尊……? なんて読むんだそれ」
僕の書き連ねた文字。それは僕だけの文字。僕にしか分からない文字。だけど、それはありふれた言葉。
「絆奏煌」
「バンソウコウ……武尊らしいか」
僕らしくいられるから、僕らしく書ける。ううん。僕らしいんじゃない、僕でいられるんだ。千の鳥が残した羽が今、僕の胸から離れていく。でも気に留めない。もうここで歩くと決めたから。
「だから! フォルテゾンでライブしようって!」
「もうフォルテゾンは使わない。前にもそう話したでしょ」
「アイツが使ってると知った以上は使わん」
「だな。遥歩もそれで良いか?」
「どこでも良い」
相変わらずの僕達。変わることはない。ずっとこのままが良いな。狭苦しいけれど、優しくて温かいこの場所のまま。
「それよりよ。武尊、一緒に頑張ろうな」
優助くんが僕の瞳を熱く見つめて、鋭い決意を込めた言葉を放った。僕の胸までもを熱くするように。
「うん……頑張ろう!」
「で、スタジオだけど……ここ。羽丘からは近いでしょ」
「えっと……bIrd?」
「color‘sとかデイスマ、カラリバなんかの御用達のスタジオ」
どこかで聞いたことのある名前を、遥歩くんがこぼしていく。
「えぇ⁉︎ 超有名なスタジオじゃん!」
「何か問題ある?」
「入れるのか? 人気ってのもあるしよ」
「アポ取ったら、即オッケー貰えた」
「で、でも……真風樹さんは?」
もしそのスタジオを使うことになれば、僕達に居場所を提供してくれたフォルテゾンの真風樹さんを裏切ってしまう。
「俺の方から話しとくぜ。親父には話してあるしよ」
「そ、そうじゃなくって……」
「ほら、フォルテゾンも使おうよ~!」
「絶対いや。武尊のこと傷つけておいて逃げたやつが使ってる場所なんて、使いたくない」
「同じく。あんなクソ兄貴と会いたくねぇ」
「どこでも良い」
僕の言葉でまた壊れそうになる。この雰囲気は、あのときと同じだ。
「……1曲くらい、音合わせてみたいとか思ったんだけどな」
優助くんがワガママだと分かって落とした言葉が壊しかけた、あの雰囲気。僕だってワガママだ。誰よりもワガママだ。不器用なくせに、ワガママだなんて、僕は最低だな。
「……まあ、でも……クソ兄貴がいても、お前がいるなら良いけど。フォルテゾン」
「えっ……」
僕が落とした言葉を、優助くんが優しく拾ってくれた。その温かさが僕の耳から胸の奥へと脈と一緒に伝う。
ああ、繰り返しって温かいときもあるんだ。僕の知っている繰り返しは、悲しいと痛いの暗がりに繋がるものだけだった。
でも。ここは違うみたいだ。痛いときもあるけれど、これ以上にないほど柔らかくて脆いものだらけだ。
「……どうしても使いたいなら、私も言わないけど」
「まあそのほうが、俺も嬉しいけどよ」
「どこでも良い」
「あゆちん、そればっかり!」
「あゆちん?」
遥歩くんは優姫の突然のあゆちん呼びを、不思議そうに首を傾げて尋ねた。
「あれ、良い反応しない?」
「遥歩で良い」
「それじゃあつまんないじゃん?」
「ハァ……?」
「あっ。歌詞、書いてたけど……ダメだった?」
「あ、いや。続けて良いよ、ごめん武尊」
「うーちゃんは武尊にだけ甘すぎでしょ」
たしかに生維は僕にだけ優しい。なぜかは分からない。でも温かいから気にしない。
「どれどれ~……ん、これ……」
「うん。昨日の優助くんを見て……支えてあげたくなって……」
僕の書いていた歌詞は、昨日の優助くんが浴びた針のような言葉の痛みを和らげられるようなもの。絆創膏だけじゃ足りないから、もっと伝えられるように。
僕には歌でしか届けられないって、分かっているから。
「……これ、やる!」
「なっ、まだ作曲もしてねぇし」
「やる。やりたい」
「分かった、分かったから腕離せ!」
遥歩くんはどこかの人形のように、作曲担当の賢足郎くんの腕にしがみついている。
このなんでもない今を繋いで、どんな未来になるだろう。痛いも悲しいも思い出だけど、キレイだって思い出になる。
そんな凸凹した今を繋ぐのだから、簡単に壊れてしまう未来なのかな。それを分かったとしても、歩いていたい。ずっと、この場所で。
「曲名、思いついた」
「おっ、流石は武尊……? なんて読むんだそれ」
僕の書き連ねた文字。それは僕だけの文字。僕にしか分からない文字。だけど、それはありふれた言葉。
「絆奏煌」
「バンソウコウ……武尊らしいか」
僕らしくいられるから、僕らしく書ける。ううん。僕らしいんじゃない、僕でいられるんだ。千の鳥が残した羽が今、僕の胸から離れていく。でも気に留めない。もうここで歩くと決めたから。
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