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第1章〜ウロボロス復活〜

第23話「ウロボロス、ドラゴンやめます(一日)」

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「マンドオオオオ!マンドオオオオ!」

 振り返ることもせず、一直線で逃げ出した我が向かった先はマンドの移動販売車である。
 我はとある目的を持ってそこに向かった。今必要なのは身代わり、つまり我以外の魔物である。そやつを手に入れるには‥‥‥!

「おー、お前はたしか‥‥‥ウーロだったか?ペットの」

 商人のくせに体を鍛えた痕跡が残るマンドは、会計カウンターの席でキセルを咥え、プカプカとタバコの煙を蒸していた。
 口に溜め込んだ煙がブレスのように膨らむ様は面白いが、今の我にそれを悠々と見ている暇はない。

 我は苦情をぶつける客のように会計用の机を叩くと、乗り込む勢いで近づいて大声で叫んだ。

「マンドよ!ガルム!ガルムは居らぬか!?あとできればフィン!いやできればというか主にフィンが目的である!どこにおるか知らんか!?」

 鬼気迫る表情で近づかれたマンドは、若干の驚きと戸惑いを混ぜ合わせた顔で固まり、しかし答えてくれようとジョリジョリと音を出しながら顎をさすった。

「あいつらは、あぁ‥‥‥たしか村の狩人たちと狩猟に行ってたな」

「なんだとおおおぉぉぉぉ!?」

 その情報は我にとって死刑宣告と同義であった。まずい。このままでは我が実験台のモルモットにされてしまうではないか!

 ならば狩りをしている森に行き、直接連れてくるまで!我がそう決意した時、急に影が我の体を覆った。
 ほえ?っと間抜けな声を漏らし、振り返ると我の両肩と腕を左右から握られ、クレーンに持ち上げられた荷物のように掴まれた。

「どこ行く気ですかウーロさぁん?」

「私たちからは逃げられない」

 あ、あ、あ、視線だけで声を辿ると、そこにはシオンとサエラが我を見下ろしていた。
 げええええ!もう追いついて来やがったである!

「さぁ、お家に帰りましょうねー」

「帰ろうウーロ」

 まだ外で遊びたいと駄々をこねる子供を言い聞かすような、そんな優しい声質で我に囁く2人。
 その本質がまったく優しいものではない事を知っている我は、死にものぐるいでマンドに助けを求めた。

「マンドォォ!助けてくれ、ころされる!」

「はっはっはっ。モテモテだな」

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁあ!」

 茶化すマンドがゲラゲラと笑いながら、罪人のように連行される我を眺める。

 しかし奴の目はこう語っていた"巻き込まれずに済んだ"と。

 冒険者を護衛として雇い、さらには商人として様々な地域で色々な人と接していれば、変人に遭ったり厄介ごとなどに巻き込まれたりするのだろう。
 彼の目つきがそれを物語っていた。今日は助かった。じゃねぇ!!





「これより手術オペを開始します」

「手術!?」

 ちゃぶ台と呼ばれる天板が円の形をした机に寝転がされ、四肢をベルトで固定された我は、両手に手袋をしてマスクをつけたシオンに悲鳴をあげた。

 ガチャガチャと音を鳴らしながらベルトを外そうと力を込めるが、シオンやサエラに押さえられて身動きが取れない。
 殺される!間違いなく殺される!!

「サエラ!ひどいではないか!こんな簡単に我を実験に使うとは‥‥‥この二週間、一緒に過ごした時間はなんだったのだ!」

 情を誘う作戦で、脱出しようと我は考えた。単純な力技が使えない以上、敵を懐柔するしか方法はない。
 我は涙目になり、か弱い動物を演じてサエラに助けを求める。今の我はあまりにも哀れな姿だろう。サエラの心にはきっと響くはずである!

 サエラは悲しそうに目を細め、我を見つめ返した。

「ごめんねウーロ」

「サエラっ!」

「ウーロ自由にしたらわたしが飲まされるから、助けることはできない」

「そんな」

「私のために死ね」

「貴様ぁぁぁぁぁあ!!」

 お前後半のそれが本音だろ!あの魔法薬飲みたくないから我を贄にしてるのだろ!わかるわ我もそうだもん!脱出できたらサエラを生贄にしようと思ってたもん!

「メアリーさん。‥‥‥GO」

「イエス、マム」

 シオンが冷酷な声で合図すると、メアリーは従順な兵士のように魔法薬の蓋を開け、ザッザッザッと足音を鳴らしながら我に近づいてくる。
 それはまるで死神が鎌を研ぐ音にも聞こえた。

「やめてくれ!いやだぁ、死にたくない!死にたくない!!」

「大丈夫ですよウーロさん」

 喚く我に対し、シオンはマスクを外してニコリと口元をゆがめた。若い肌からなる唇は薄くピンク色で、笑うとツヤが生まれて妙な色気がある。鼓膜を揺らす囁き声は優しく、けれども謎の不気味さが我の背筋を震わせた。
 シオンは続ける。

「ほら、わたし、生きてるでしょ?」

 目が笑ってない!!!真っ赤に充血した目が全然笑ってない!!

「むがあっ!?」

 我が恐怖で固まった隙をついて、メアリーが魔法薬を口に突っ込んできた。
 止まることなく魔法薬の液体は我の舌を通り喉に入り、凄まじい勢いで体内に侵入していく。
 砂糖が少し入っているのかどうにも甘く、冷えた液体は温かい体にとっては間違いなく異物である。それが胃にどんどん溜まっていく。

「おげ、おえっ!えふっえふっ」

「どうですか?調子は」

 シオンが尋ねてくるが‥‥‥う、うーん?

「べべべべべべつつつつつににににな、なななんとももないではる」

「完全にバグってるよウーロ」

 サエラが「うわっ」て顔で我を見下ろした。


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