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第1章〜ウロボロス復活〜
第35話「別れ、出会い」
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今日はガルムたちが拠点であるリメットという都市に帰還するのだという。
行商人は村に2日滞在して3日目に出発するのが大体の流れらしい。当然、護衛であるガルムたちパーティも行商人マンドと一緒に帰路につくというわけだ。
短い間であったが、なかなか濃密な時間を過ごした気がする。それだけインパクトのあった2日間であった。
「色々楽しかったぜ」
「そうねぇ、特にウーロちゃんの人化はよかったわぁ」
「ハハハ」
ガルムとゴードンが昨日のことをからかってくる。それに対して我は乾いた笑いで返す他ない。
昨日は一番大変だったかもしれない。二度と人化はしたくないと思える日であったな。
しかも夜の宴のことも完全に記憶がないのである。何食ったっけなぁ、覚えてないので勿体無い。
「なんで泣いてるんですか」
「ずび、えぐ、みんにゃ、えっぐ、りめっどぎでよー」
「無理」
「うぐっ」
女性陣の方の会話が聞こえてくるが、なぜかメアリーが号泣してしまっている。ガルムが「アイツ友達いねぇからなぁー」と呟いていたので、なんとなく心情は察することができた。
と言うかメアリーのキャラ崩壊が初期登場から川を下る魚並みに早い気がするのだが。
偉そうな態度を演じているのはわかってるが、いつも10秒と持たずに崩れてる気がする。まぁ良い子だというのはわかったがな。
「お前ら、そろそろ出発するぞ」
移動販売車を普通の馬車としても使っているのだろう。馬と接続させ、馬車と化した店に乗ったマンドがガルムたちを呼ぶ。
そろそろ時間のようだ。ガルムは泣くメアリーの頭に手を置いた。
「おら、いつまでも泣いてねーで行くぞ」
「やだぁ、拠点れってるにしよーよぉ」
「無茶言うな」
わがままを言うメアリーの涙をハンカチで拭い始めるガルムは、なんだか保護者というより兄のように見えた。
2人の距離は近いが、恋人関係になるまではまだまだ遠そうである。
「それじゃな。冒険者になりたかったら来いよ」
「うん」
ガルムはメアリーを抱っこして、サエラに向かってそう言うとゴードンを連れてレッテルを去って行った。
なんともあっけない別れであるが、今世の別れでもないし、次に会う機会を気長に待つとしよう。
特にメアリー辺りが来たがるだろうしの。
「そういえば、魔法薬の報酬もらったの?」
馬車の姿が見えなくなり、サエラは思い出した感じでシオンに尋ねた。
シオンはふふふと不敵に笑い、ポケットからジャジャーン!と口で効果音を付け足しながら紫色の液体が入った瓶を見せつける。
「これです!効果は魔力即時回復です!」
「ほお、なかなか便利そうであるな」
「3人分です!」
おぉ、なかなかメアリーも太っ腹であるな。1つがそれなりの額の価値をもっているだろうに、それを3つも。
我らはたくさん飲んだし、その分だろうな。あれ、でもおかしいな。
「1人薬を飲んでない奴いるのだがなぁ?」
最初にサが付いて最後にラが付く女子を見上げ、意地悪げにそう言う。
するとサエラは目を開いてフリフリと首を横に振った。
「飲んだ飲んだ。すごい飲んだ」
なんで嘘つくん?
「あ、もうそろそろ春ですねぇ」
シオンがしゃがみ、地面を見ながら言う。目線の先には、名も知らぬ草が小さなつぼみをぶら下げていた。
たしかに寒さも少しはマシになった気がする。そうか、我が生き返ったのは季節の変わり目であったのか。
春‥‥‥そうか。暖かいし、もうちょっとこの村を出るのは先にしても良いかもしれん。
そうだ、そうしよう。
「サエラの春はいつ来るんでしょうかねぇ?」
「やかましい。姉さんだって彼氏とかいないじゃん」
「出会いがないだけですーっ」
姉妹2人が軽い言い争いを始めました。じゃれ合いのようなものだが、やはり2人とも番が欲しいのだろうか?
生物としての本能であろうな。生を謳歌することは良いことだと思うぞ。リア充になったら妬むけど。
我がニッコリと2人を見上げていると、サエラからとんでもないセリフが飛び出てきた。
「でも、髪くらい伸ばそうかな」
えぇ!?我は驚き、シオンに至っては雷に打たれたかのような衝撃を表情で表していた。
「えええええ!?どうしたんですか!え、好きな人できたんですか!?ガルムさん!?ゴードンさん!?」
「どっちも違うし、内緒」
ほ、ほえぇ、サエラに好きな人が‥‥‥まじか。明日槍でも降るのではないか?
だが、こうなったら我が全力でサポートしてやるしかない。我は癒し系。キューピットになるのだ。
「サエラよ。恋の悩みなら我が解決してやるぞ!我にお任せである!」
むふん!決まった!我は満足げに鼻息を鳴らし、大きく胸を張った。
すると「こいつムカつく」みたいな顔をしたサエラがドスの効いた声で我を見下ろしてきて口を開く。
「おめーで春にしてやろうか」
どゆこと!?
ガタガタと揺らす馬車は止まっていた。数時間後に休憩を入れていたマンド一行は、ベヒモスウォールからすでに抜け出していてリメットへの長い道のりに足を踏み入れていたのだ。
休憩中でも周りへの警戒を怠らず、ガルムは泣き止んだメアリーの頭をさすっていた。
ズビッと鼻水を飲み込む音に顔をしかめつつ、ガルムはゴードンに話しかける。
「しっかしなかなかいい収穫だったな。見込みのあるやつと知り合いになれたしな」
「それって、サエラちゃんのことかしら?」
「まぁ、あいつら全員だな」
ガルムの言う全員とは、シオンとウーロも含まれているのだろう。それを理解したメアリーはコテンと首を傾げた。
「あの2人も?」
「あぁ。シオンは魔法系が得意だ。回復魔法とかに素質がありそうだし、サポート役としてはうってつけだな。ウーロはドラゴンだし、今後の成長次第で化けるぞ」
おもちゃを手に入れた子供のように嗤うガルムに、ゴードンとメアリーは「本当に性格が悪い」と不審者を見る表情でガルムを見ていた。もっとも害はないので放っておくのだが。
するとガルムの顔からすっと笑みが消え、引き締まった。ガルムの警戒網に何か入ったのだ。
会話しなくともそれがわかる練度で、ゴードンたちは立ち上がるが、すぐに座るようガルムが手でジェスチャーした。
その理由はすぐにわかる。
「すいませーん、あのぅ」
やってきたのは大きなカバンを背負った女の子であったからだ。見るからに見習いの行商人で、護衛らしき柄の悪そうな男が横に立っている。
ガルムは営業スマイルとでも言えるようなステキな笑顔を浮かべて、少女に微笑んだ。
「なんでしょう?」
「あの、この先にレッテルって村があるって聞いたんですが、合ってますかぁ?」
少し間延びした語尾は気にせず、ガルムは頷き少女の疑問を解消した。
その後何度か話し、行商人で商売目的でレッテルに行くのだと確認すると、少女はお礼を言いながらその場を立ち去った。
その後ろ姿を見てゴードンは笑う。
「礼儀正しい子だったわねぇ。でもレッテルで商売って、珍しいわね?」
「ホントに商売かね?」
「えっ」
ガルムのつぶやきにメアリーが首をかしげる。ガルムの目は、どことなく警戒心のこもった覇気のある目であった。
その警戒は、山を登る少女の背中に向いている。
「なんか、やべぇ気がする」
ガルムのつぶやきが耳に入ったかどうなのか、道を進む少女の口には耳まで届きそうなほど大きい三日月が浮かんでいた。
行商人は村に2日滞在して3日目に出発するのが大体の流れらしい。当然、護衛であるガルムたちパーティも行商人マンドと一緒に帰路につくというわけだ。
短い間であったが、なかなか濃密な時間を過ごした気がする。それだけインパクトのあった2日間であった。
「色々楽しかったぜ」
「そうねぇ、特にウーロちゃんの人化はよかったわぁ」
「ハハハ」
ガルムとゴードンが昨日のことをからかってくる。それに対して我は乾いた笑いで返す他ない。
昨日は一番大変だったかもしれない。二度と人化はしたくないと思える日であったな。
しかも夜の宴のことも完全に記憶がないのである。何食ったっけなぁ、覚えてないので勿体無い。
「なんで泣いてるんですか」
「ずび、えぐ、みんにゃ、えっぐ、りめっどぎでよー」
「無理」
「うぐっ」
女性陣の方の会話が聞こえてくるが、なぜかメアリーが号泣してしまっている。ガルムが「アイツ友達いねぇからなぁー」と呟いていたので、なんとなく心情は察することができた。
と言うかメアリーのキャラ崩壊が初期登場から川を下る魚並みに早い気がするのだが。
偉そうな態度を演じているのはわかってるが、いつも10秒と持たずに崩れてる気がする。まぁ良い子だというのはわかったがな。
「お前ら、そろそろ出発するぞ」
移動販売車を普通の馬車としても使っているのだろう。馬と接続させ、馬車と化した店に乗ったマンドがガルムたちを呼ぶ。
そろそろ時間のようだ。ガルムは泣くメアリーの頭に手を置いた。
「おら、いつまでも泣いてねーで行くぞ」
「やだぁ、拠点れってるにしよーよぉ」
「無茶言うな」
わがままを言うメアリーの涙をハンカチで拭い始めるガルムは、なんだか保護者というより兄のように見えた。
2人の距離は近いが、恋人関係になるまではまだまだ遠そうである。
「それじゃな。冒険者になりたかったら来いよ」
「うん」
ガルムはメアリーを抱っこして、サエラに向かってそう言うとゴードンを連れてレッテルを去って行った。
なんともあっけない別れであるが、今世の別れでもないし、次に会う機会を気長に待つとしよう。
特にメアリー辺りが来たがるだろうしの。
「そういえば、魔法薬の報酬もらったの?」
馬車の姿が見えなくなり、サエラは思い出した感じでシオンに尋ねた。
シオンはふふふと不敵に笑い、ポケットからジャジャーン!と口で効果音を付け足しながら紫色の液体が入った瓶を見せつける。
「これです!効果は魔力即時回復です!」
「ほお、なかなか便利そうであるな」
「3人分です!」
おぉ、なかなかメアリーも太っ腹であるな。1つがそれなりの額の価値をもっているだろうに、それを3つも。
我らはたくさん飲んだし、その分だろうな。あれ、でもおかしいな。
「1人薬を飲んでない奴いるのだがなぁ?」
最初にサが付いて最後にラが付く女子を見上げ、意地悪げにそう言う。
するとサエラは目を開いてフリフリと首を横に振った。
「飲んだ飲んだ。すごい飲んだ」
なんで嘘つくん?
「あ、もうそろそろ春ですねぇ」
シオンがしゃがみ、地面を見ながら言う。目線の先には、名も知らぬ草が小さなつぼみをぶら下げていた。
たしかに寒さも少しはマシになった気がする。そうか、我が生き返ったのは季節の変わり目であったのか。
春‥‥‥そうか。暖かいし、もうちょっとこの村を出るのは先にしても良いかもしれん。
そうだ、そうしよう。
「サエラの春はいつ来るんでしょうかねぇ?」
「やかましい。姉さんだって彼氏とかいないじゃん」
「出会いがないだけですーっ」
姉妹2人が軽い言い争いを始めました。じゃれ合いのようなものだが、やはり2人とも番が欲しいのだろうか?
生物としての本能であろうな。生を謳歌することは良いことだと思うぞ。リア充になったら妬むけど。
我がニッコリと2人を見上げていると、サエラからとんでもないセリフが飛び出てきた。
「でも、髪くらい伸ばそうかな」
えぇ!?我は驚き、シオンに至っては雷に打たれたかのような衝撃を表情で表していた。
「えええええ!?どうしたんですか!え、好きな人できたんですか!?ガルムさん!?ゴードンさん!?」
「どっちも違うし、内緒」
ほ、ほえぇ、サエラに好きな人が‥‥‥まじか。明日槍でも降るのではないか?
だが、こうなったら我が全力でサポートしてやるしかない。我は癒し系。キューピットになるのだ。
「サエラよ。恋の悩みなら我が解決してやるぞ!我にお任せである!」
むふん!決まった!我は満足げに鼻息を鳴らし、大きく胸を張った。
すると「こいつムカつく」みたいな顔をしたサエラがドスの効いた声で我を見下ろしてきて口を開く。
「おめーで春にしてやろうか」
どゆこと!?
ガタガタと揺らす馬車は止まっていた。数時間後に休憩を入れていたマンド一行は、ベヒモスウォールからすでに抜け出していてリメットへの長い道のりに足を踏み入れていたのだ。
休憩中でも周りへの警戒を怠らず、ガルムは泣き止んだメアリーの頭をさすっていた。
ズビッと鼻水を飲み込む音に顔をしかめつつ、ガルムはゴードンに話しかける。
「しっかしなかなかいい収穫だったな。見込みのあるやつと知り合いになれたしな」
「それって、サエラちゃんのことかしら?」
「まぁ、あいつら全員だな」
ガルムの言う全員とは、シオンとウーロも含まれているのだろう。それを理解したメアリーはコテンと首を傾げた。
「あの2人も?」
「あぁ。シオンは魔法系が得意だ。回復魔法とかに素質がありそうだし、サポート役としてはうってつけだな。ウーロはドラゴンだし、今後の成長次第で化けるぞ」
おもちゃを手に入れた子供のように嗤うガルムに、ゴードンとメアリーは「本当に性格が悪い」と不審者を見る表情でガルムを見ていた。もっとも害はないので放っておくのだが。
するとガルムの顔からすっと笑みが消え、引き締まった。ガルムの警戒網に何か入ったのだ。
会話しなくともそれがわかる練度で、ゴードンたちは立ち上がるが、すぐに座るようガルムが手でジェスチャーした。
その理由はすぐにわかる。
「すいませーん、あのぅ」
やってきたのは大きなカバンを背負った女の子であったからだ。見るからに見習いの行商人で、護衛らしき柄の悪そうな男が横に立っている。
ガルムは営業スマイルとでも言えるようなステキな笑顔を浮かべて、少女に微笑んだ。
「なんでしょう?」
「あの、この先にレッテルって村があるって聞いたんですが、合ってますかぁ?」
少し間延びした語尾は気にせず、ガルムは頷き少女の疑問を解消した。
その後何度か話し、行商人で商売目的でレッテルに行くのだと確認すると、少女はお礼を言いながらその場を立ち去った。
その後ろ姿を見てゴードンは笑う。
「礼儀正しい子だったわねぇ。でもレッテルで商売って、珍しいわね?」
「ホントに商売かね?」
「えっ」
ガルムのつぶやきにメアリーが首をかしげる。ガルムの目は、どことなく警戒心のこもった覇気のある目であった。
その警戒は、山を登る少女の背中に向いている。
「なんか、やべぇ気がする」
ガルムのつぶやきが耳に入ったかどうなのか、道を進む少女の口には耳まで届きそうなほど大きい三日月が浮かんでいた。
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