水野勝成 居候報恩記

尾方佐羽

文字の大きさ
48 / 89
<2022年、福山城は築城400年>

『お城EXPO』の福山城ブース訪問記

しおりを挟む

 2019年12月22日に『お城EXPO 2019』に行ってまいりました。
 本当は殿と行くはずでしたが、タイムマシンの都合でキャンセルとのこと。せっかく横浜の町を案内してさしあげようかと思っていたのに、ちょっぴり残念です。かようなひとりぼっちは慣れっこですから、いいもん(拗ねています)。ランドマークタワーが涙でにじむなぁ。いや、雨にけぶっていました。上ってもよい景色は望めなかったようです。

 しかし、殿はちゃっかりしています。「どんなものだったか報せてくれやあ」との伝言が矢文にて(ひらりと避ける)……おっと危ない。さっそくかかりましょうか。

※筆者注……できごとは事実ですが、『殿へのご報告』という設定はフィクションであり、風変わりな感想文とお考えいただきますよう、お願いします。


⚫福山城のブースについて

 百聞は一見にしかず、まずはこちらをご覧ください。備後福山藩(広島県福山市)の皆さまにございます。前回は『とんど祭り』の法被だったようにお見受けしましたが、揃いの陣羽織がりりしく、精悍なこと。今回の『お城EXPO2019』から登場したのです。前回(2018年)も伺ったのですが、今回はさらに華やかになっておりました。2022年の築城400年を前に、ますますご城下の皆さまも熱がこもっている感じがいたします。



 別の項目でカープ坊やの甲冑姿(Tシャツ)をご紹介しましたが、それだけではないのです。あ、あのカープ坊やは愛らしくて何度も頬ずりいたしました。甲冑では身動きがとれない感じですが、陣羽織はイカしてると思いました。

 こちらでは、福山城博物館の学芸員の方がCGを使って福山城を説明されています。殿、じっくり聞きたかったのです。でもわたくしはたいへん恥ずかしがりやで、後ろでこっそりと写真を撮ることしかできなかったのでございます。CGの福山城、なんと美しいことにございましょう。
 わたくしも(現地に)行きたくなってしまいます。





 さて、殿、こちらがこの前申し上げた福山市のマスコット・キャラクター、『ローラ』ちゃんです。



 ご城下である広島県福山市の花が「ばら」であることにちなんで作られました。愛くるしいでしょう。いつもは違う装束なのですが、福山城築城400年にちなんで、「お城」をかたどった装束となっているのです。数年前、中国地方のマスコット・キャラクターが東京タワーに集まるという催しがございまして、そのときにわたくし、初めてご対面いたしました。さすがにわたくしが「わーい!」と行くわけにはいきませんでしたが、子どもが斥候となりハグしていただきました。
 しかし殿、そのときにわたくしは見たのです。
 東京タワーのマスコット・キャラクター『ノッポン』が中国地方のキャラに押されて出るに出られず、片隅でそっと様子を伺っていたのを。そして、皆が自分に近寄ってこないようだと判断したのか、寂しそうに去っていくのを。アレン・ギンズバーグ風に書いてみました。
 ノッポンもがんばれ!とその背中に静かに告げたのでございました。


⚫令和の大普請

 さて、殿、『お城EXPO』のお話を前にしたときにも申し上げましたが、今はご城下福山市で『福山城築城400年記念基金 令和の大普請』というものを募っております。そのチラシもブースでいただきましたので、拝見しつつ改めてご説明さしあげたく。
 去年始まったこの基金への寄付は、
・福山城天守の外観復元
・福山城博物館リニューアル
・史跡福山城跡の保存・整備
・夜間照明(ライトアップ)整備
・福山城築城400年記念祝賀行事の開催
などに使われる予定だとのことです。

 天守の外観のお話は前回いたしましたね。北側に黒い鉄板を張っていたのを復元されようとしているのです。博物館のリニューアルも楽しみです。
 実はわたくし、前回福山城に登城したおり、上の方の階をよく見られなかったのです。福山城博物館の事務所のほうで資料のコピーをお願いしておりまして、そちらに詰めておりました。その節は厚かましくも失礼をいたしました。それがあったからこそ、お話の方も何とか書けたというわけです。まこと懐かしいことにございます。
 福山城跡の保存・整備とは何じゃ? と尋ねられるでしょうから、こちらもお知らせいたしましょう。
 殿、江戸時代が終わったのち、明治という元号になりまして、武士というものはなくなったのでございます。大名も家老もございません。そのときにお城というのはずいぶん肩身が狭くなりました。藩は県になり、それらの政務は新しい建物でされることになった。お城はもはや用済みということになったのです。そのときにお城が壊されたり、敷地が別の用途に使われるようになりました。福山城がそのまたのちの空襲まで残っていたことは前にもお知らせしましたが、二之丸西側の石垣などは明治の頃になくなったようです。
 それを150年ぶりに復元することをはじめ、お城の保存・整備をされるということなのです。

 殿、2年後の福山城を楽しみにお待ちくださいませ。


⚫ご城印はブーム傾向のようです

 こちらは、殿に申し上げてもおそらく、かっかっかと笑い飛ばされた上で、「ええんじゃなかろうか」とおっしゃるに決まっていますので、書かずにおこうと思ったのですが……書きます。
 福山城のみならず他でも同じなのですが、今回は『ご城印』というものがたくさん出されておりました。簡単に申し上げると、神社でいただく『御朱印』のお城版でございます。太閤(秀吉)さまが次々と発給されていた『朱印状』ではございませんので誤解なされませんよう。



 わたくし、殿への報告に取りかからんとし、試しにネットというもので「ご城印」と検索したのでございます。すると、出るわ出るわ出るわ出るわ……競売やら有料で譲ります(オークションやフリマアプリなどのことです)といった告知の数々。この業界を殿にご報告するために例えるならば、「何でも売るぞ!の楽市楽座」というところでしょうか。石川五ェ門が浸かった釜も売っているかもしれません(それはないし、イヤです)。平蜘蛛の茶釜とか(それは……松永弾正さんが……)、釜にこだわり過ぎました。徳川の埋蔵金とか(本当にあるのですか? 教えてください)……殿、人の欲とは、はかなく哀れを誘うものでございますね。
 そういえば、わたくし、寺社に多々詣でておりますが、御朱印をいただいたことがないです。

 大々的なご城印の発布や収集は比較的最近の流行だと思いますが、「わーいわーい!」と喜んで押しいただいたご城印が、値段を付けて売られているのを見ると何気に悲しくなるのです。
 インフレーションが起こらないよう、心から祈念しております。


⚫まとめのかわりに

 殿、わたくしの生国は備後でも安芸でも備中でもございませんが、殿のことを書いてからとても親しみを持って見つめているのです。いいえ、もっと古いです。小学生のころは世良公則さんのファンでしたし(福山出身)、井伏鱒二さん(福山出身)のご本も読んでおりました。長じてはTHE GROOVERSさん(メンバーのお二人が福山出身)のファンです。そもそものご縁があったから、殿のところまで行き着いたのだと思っております。
 お話を書き終えてから、わたくしの伯母が備後神辺城主だった杉原氏の子孫であることも分かって驚いたしだいです。他の項目にも書きましたが、これには本当に仰天しました。杉原氏は藤井氏と対立されていましたから……神辺城の争奪戦では毛利も入っておおごとになりました。おとくさまは本当にたいへんな時に生まれたのでした。
 わたくしはしばらく、藤井氏と神辺城のことを書いていると伯母に言えなかったのでございます。後で恐る恐る伯母に伝えたところ、
「そんな昔のこと! あなたって面白いわね」と一笑に付されました。
 杉原氏のことは伯母が調べていたようですが、世羅町の辺りで庄屋格を得ていたようです。戦国時代は一族滅亡のような悲劇がそこらじゅうにあったようですが、きっと殿は在地の豪族もこれまでと変わらず、対立した者同士の過去に関わりなく大切にされたのですね。刈屋(刈谷、愛知県)の家臣も備後の家臣も殿の治世ではあつれきを生じなかったように思います。
 そのような意味でも、福山城はシンボルだったのだとわたくしは考えております。櫓(やぐら)の多さや天守の豪壮さだけが城ではない。戦国の世を終えて、城は戦の場ではなく、「和」の象徴にもなったのでございましょう。難攻不落の山城も人びとの普請(工事)の苦労が思い起こされて素晴らしいと存じますが、平時の平城もかつてのいくさの反省をこめて築かれたものだった。そう思うと、また見る目も新たになるように思うのです。

 そこには必ず人がいる。
 人と人との関わりがある。

 それが今、わたくしの考えていることにございます。殿のお考えはいかがにござりましょうや。

 さて、この辺りでわたくしのご報告を締めさせていただきます。
 最後にご城下(福山市)のみなさま、写真を撮らせていただいて、本当にありがとうございました。

   尾方佐羽
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末

松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰 第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。 本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。 2025年11月28書籍刊行。 なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。 酒と肴と剣と闇 江戸情緒を添えて 江戸は本所にある居酒屋『草間』。 美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。 自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。 多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。 その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。 店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜

かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。 徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。 堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる…… 豊臣家に味方する者はいない。 西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。 しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。 全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

処理中です...