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(日常小話)大人になったら。
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Side ひよしさん
夏の日の夜。
空と一緒に近くのラーメン屋にやってきた。
暑い日に熱いラーメンを食うのはいいもんだ。
ラーメン屋の風鈴のチリンチリンという音が夏っぽさを感じさせる。
俺はとんこつラーメン大盛り、空は油少なめの並盛りを頼んだ。
「空、もうちょっと食わないと背伸びないぞ」
「ひよしさんの食べる量が多いんだってば」
俺らはカウンターに並んで、ラーメンを待ちながら話をする。
「でも、周りの友達と比べても、そいつらの方が沢山食ってんじゃね?」
「人は人、僕は僕だから」
空は冷静にそう言うと、水を飲んだ。要は食べる量は人それぞれだと言いたいらしい。
「そんなこと言ってると大人になっても背小さいままだぞ?」
「別にいいもん。心が大きい大人になるもん。」
空は唇を尖らせながら言う。
ちょっといじけたり拗ねたりした時に唇を尖らせるのが空の癖だ。
その時の顔がめっちゃ可愛いから、俺はいつも、あえて空をいじけさせたくなってしまう。
「空はさ、大人になったらやりたいこととかあるのか?」
「やりたいこと?」
「あぁ。ハタチになったらできる事も増えるだろ?」
「うーん、お酒飲んでみたいかな。ひよしさんいつもビールおいしそうに飲んでるし」
空が1回水と間違えて焼酎を飲んで人が変わったように可愛らしく乱れていたのを思い出した。
「‥お前は酒だけは飲まない方がいいぞ…」
「えーなんで?」
「なんでも!他には何かないのか?」
「んー、あ、車の免許取りたい」
「なんか空の運転危なそうだな」
「ひよしさんより安全運転できる自信あるし」
そう言って、空は「任せて!」みたいな感じで自分の腕をぽんぽんと叩いてみせた。
その細い腕でそれやられてもな…。
「あ、あと、海外旅行行きたい!」
「お、いいじゃん。どこ行きたいんだ?」
「んーやっぱりヨーロッパ行ってみたいよね。ベルギーとか。本場のチョコレート食べてみたいし」
「ベルギーか。いいな。俺もベルギービール飲みてぇな」
「え、ひよしさんも行くの?」
「あぁん?お前一人で行く気かよ」
何が面白かったのかわからないが、空は一人でクスクス笑っていた。
「あと、好きなものを好きなだけ買ったりしたいかなぁ」
「それをやるにはしっかり働かなきゃだな。そういや大人になったらやりたい仕事とかないのか?」
何気なくそう問いかけると、空は少し考えてから言った。
「教師」
「え?」
思わず聞き返した。
「教師になりたい。ひよしさんみたいな教師に。」
あまりに予想外の言葉に俺は呆然としてしまった。
空は少し照れたような顔で言うと、恥ずかしくなったのか、ふと目を伏せた。
「ラーメン大盛りと並盛りィ!お待たせしやしたァ!」
元気のいいあんちゃんが調度ラーメンを運んできた。
空は腹が減っていたようで、さっそくラーメンを啜る。
「ん!おいしい!やっぱりここのラーメンおいしいよね。…あれ、ひよしさん?どしたの?食べないの?」
「あ?あぁ、食う食う」
空に呼びかけられて、ふと我に戻り、箸に手を伸ばす。
教師になりたいなんて初めて聞いた。
俺みたいな教師になりたいって…。
腹をいっぱいにするつもりでラーメン大盛り頼んだけど
胸はもういっぱいだった。
「ひよしさん、チャーシュー1枚ちょーだい」
空は俺のラーメンから勝手にチャーシューをパクった。
「あ、おま…っ、俺のチャーシュー…」
俺が文句を言う前に空はそのチャーシューをはむはむしながら言う。
「へへ、おいしい」
その顔が可愛すぎてもう俺は何も言えない。
「…ったく、俺も幸せもんだな」
俺は小さく呟くとラーメンを勢い良くズズズッと啜った。
風鈴は相変わらずチリンチリンと涼しげな音を鳴らしていた。
END
夏の日の夜。
空と一緒に近くのラーメン屋にやってきた。
暑い日に熱いラーメンを食うのはいいもんだ。
ラーメン屋の風鈴のチリンチリンという音が夏っぽさを感じさせる。
俺はとんこつラーメン大盛り、空は油少なめの並盛りを頼んだ。
「空、もうちょっと食わないと背伸びないぞ」
「ひよしさんの食べる量が多いんだってば」
俺らはカウンターに並んで、ラーメンを待ちながら話をする。
「でも、周りの友達と比べても、そいつらの方が沢山食ってんじゃね?」
「人は人、僕は僕だから」
空は冷静にそう言うと、水を飲んだ。要は食べる量は人それぞれだと言いたいらしい。
「そんなこと言ってると大人になっても背小さいままだぞ?」
「別にいいもん。心が大きい大人になるもん。」
空は唇を尖らせながら言う。
ちょっといじけたり拗ねたりした時に唇を尖らせるのが空の癖だ。
その時の顔がめっちゃ可愛いから、俺はいつも、あえて空をいじけさせたくなってしまう。
「空はさ、大人になったらやりたいこととかあるのか?」
「やりたいこと?」
「あぁ。ハタチになったらできる事も増えるだろ?」
「うーん、お酒飲んでみたいかな。ひよしさんいつもビールおいしそうに飲んでるし」
空が1回水と間違えて焼酎を飲んで人が変わったように可愛らしく乱れていたのを思い出した。
「‥お前は酒だけは飲まない方がいいぞ…」
「えーなんで?」
「なんでも!他には何かないのか?」
「んー、あ、車の免許取りたい」
「なんか空の運転危なそうだな」
「ひよしさんより安全運転できる自信あるし」
そう言って、空は「任せて!」みたいな感じで自分の腕をぽんぽんと叩いてみせた。
その細い腕でそれやられてもな…。
「あ、あと、海外旅行行きたい!」
「お、いいじゃん。どこ行きたいんだ?」
「んーやっぱりヨーロッパ行ってみたいよね。ベルギーとか。本場のチョコレート食べてみたいし」
「ベルギーか。いいな。俺もベルギービール飲みてぇな」
「え、ひよしさんも行くの?」
「あぁん?お前一人で行く気かよ」
何が面白かったのかわからないが、空は一人でクスクス笑っていた。
「あと、好きなものを好きなだけ買ったりしたいかなぁ」
「それをやるにはしっかり働かなきゃだな。そういや大人になったらやりたい仕事とかないのか?」
何気なくそう問いかけると、空は少し考えてから言った。
「教師」
「え?」
思わず聞き返した。
「教師になりたい。ひよしさんみたいな教師に。」
あまりに予想外の言葉に俺は呆然としてしまった。
空は少し照れたような顔で言うと、恥ずかしくなったのか、ふと目を伏せた。
「ラーメン大盛りと並盛りィ!お待たせしやしたァ!」
元気のいいあんちゃんが調度ラーメンを運んできた。
空は腹が減っていたようで、さっそくラーメンを啜る。
「ん!おいしい!やっぱりここのラーメンおいしいよね。…あれ、ひよしさん?どしたの?食べないの?」
「あ?あぁ、食う食う」
空に呼びかけられて、ふと我に戻り、箸に手を伸ばす。
教師になりたいなんて初めて聞いた。
俺みたいな教師になりたいって…。
腹をいっぱいにするつもりでラーメン大盛り頼んだけど
胸はもういっぱいだった。
「ひよしさん、チャーシュー1枚ちょーだい」
空は俺のラーメンから勝手にチャーシューをパクった。
「あ、おま…っ、俺のチャーシュー…」
俺が文句を言う前に空はそのチャーシューをはむはむしながら言う。
「へへ、おいしい」
その顔が可愛すぎてもう俺は何も言えない。
「…ったく、俺も幸せもんだな」
俺は小さく呟くとラーメンを勢い良くズズズッと啜った。
風鈴は相変わらずチリンチリンと涼しげな音を鳴らしていた。
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