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(日常小話)サイダー

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Side 空

「ねぇひよしさん、ほんとに平気なの?」

「その質問何回目だよ」

「だって…っ」

「大丈夫だって。心配すんなよ」

そう言われて連れられて来たのは夜の高校の屋上。

鍵あるからこっそり忍び込んでみようぜって、ひよしさんの教師とは到底思えない発言がきっかけでこんな所に。

「ねぇ、見つかったら怒られるんじゃないの?」

「今日は見回りの警備員も非番だから誰もいねーよ」

「でもさぁ…」

「なんだよ、チキンだよな空って」

「チキンじゃないし!だいたいさぁ、夜の8時に屋上なんて来て何する気なのさ。しかもひよしさん足早いし。歩き過ぎで喉乾いたよ」

僕が不満を零すと、いつの間に買ったのかペットボトルのサイダーをひよしさんが取り出した。

「ほら、喉乾いたならこれやるよ」

「あ、ありがと…」

喉が渇いて仕方なかった僕は、ひよしさんから受け取ったサイダーの蓋を開ける。

でもその瞬間、、、

プシューッ

「うわぁっ!」

サイダーの泡が溢れ出した。

「あ、わりぃ!すげぇ早歩きだったから、知らないうちに振られてたみてーだわ」

「もう!ばか!手ベトベトじゃん!」

僕は口を尖らせてひよしさんに抗議する。

「わるかったって」

と、まるで悪びれていないように言うと、ひよしさんは僕のベトベトになった指をあろうことか口に含んだ。

「ぁ…、ちょっと!何してるの!」

「何ってベトベトを舐め取ってやってんだろ?」

「…バカ…」

何か色々言い返したかったど、結局されるがままの僕。

するとひよしさんがチラッと腕時計を見て言った。

「空、今から魔法かけるわ」

「はい?」

いよいよおかしくなったのかな?この人。

そんな事を考える僕を尻目に、ひよしさんがカウントを取り始める。

「スリー、トゥー、ワン!」

ヒュー

ドンッ!

「え、嘘…っ」

大きな音ともに夜空を照らしたのは花火だった。

真夏の夜空に次々と花が咲く。

「空に見せたかったんだよ。この屋上からキレイに見えるの知ってたからな」

夏の夜風が心地よく僕の髪をなびかせる。

色とりどりの花火が夜空を飾る。

「ひよしさん」

「ん?」

「花火、きれいだね」

「だろ?」

夏の匂いとサイダーの匂いが鼻をくすぐる。

手を繋ぎたくなって手を伸ばそうとした。

でもその前にひよしさんが繋いでくれた。

嬉しくなった僕はその手をぎゅっと握り返す。

「あのさ、ひよしさん」

「なんだ?空」

「さっきのワントゥースリーってやつ、よくタイミング合ったね」

「あぁ。まぐれに決まってんだろ」

そう言ってひよしさんはニカッと笑う。

その横顔を花火が照らした。

僕は、魔法使いじゃないひよしさんが好き。

そう口に出そうと思ったけどやめた。

代わりにサイダーを口に含んだ。

シュワシュワとした炭酸が口の中で弾けるのを感じながら僕は花火を見上げた。





END
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