春の明日になりたい

ハルの笑顔

クレハの言葉に甘え、ハルは暫く眠りについた。

夕方頃目を覚ますと、クレハが部屋の隅の窓際でタバコを吸っていた。

「あ、おはよう。」

目を覚ましたハルに気付いたクレハは笑顔を向けて行った。

「…おぅ…」

起き抜けに向けられた爽やかな笑顔に思わず顔を逸らしたハルは気のない返事をしてしまう。

「ハル。おはようにはおはようでしょ。」

「…おはよ…」

クレハに促され、ハルは小さく言った。

「うん。と言ってももう夕方だけどな。そろそろ店開けないと。」

「店って下のバー？」

「そうだよ。」

「クレハ一人でやってるのか？」

「まぁね。小さい店だし常連しか来ないから一人で充分なんだ。」

「へー。出すのはお酒だけ？」

「たまに料理も作って出すよ。俺の気まぐれだから出さない時もあるけどな。」

「テキトーだな…」

ハルのツッコミにクレハは「ごもっとも！」と言って笑った。

ハルは「ごもっとも！じゃねーよ」と言いつつ、なんだか可笑しくなってしまって、つられて笑った。

「あれ…ハル…」

「なに？」

「ハルの笑顔、初めて見た気がする。」

「え、そうか…？」

「うん。ハルって笑うとめちゃくちゃ可愛いんだな。えくぼが出来て小さな犬歯が覗いてすごく可愛い。まぁ元々可愛いんだけどさ。」

いきなり3回も"可愛い"と言われ、ハルは顔を赤らめて下を向く。

ハルが黙ったことで、沈黙が流れた。

「あ！あのさ…料理…手伝おうか？」

ハルは沈黙を打ち消したくて早口で言った。

なぜか胸の鼓動がうるさくて、部屋が静かだとクレハに聞こえてしまいそうだったから。