ポケットに隠した約束

Mari

文字の大きさ
26 / 31
第七章

最後の望み

しおりを挟む
雪乃はトボトボと歩きながら、イルミネーションがキラキラと輝く街を抜ける。
気が付けば夜景が一望出来る高台の公園まで来ていた。

先程、将太から聞いた話を思い出す。
〝高台にある公園でプロポーズを考えてた〟
その言葉が浮かび、きっとこんな場所なんだろうなと辺りを見渡した。

晃平と出逢った日のことや、二人で過ごした日々が脳裏に蘇る。
一目惚れで、晃平の優しさを利用して始まった恋。
〝ごめんね…〟罪悪感と共に、〝好きだよ…〟そんな愛しさも同じように雪乃の心に溢れ出した。

雪乃は思わず膝を抱えてうずくまる。

こんなに好きなのに…
そんな気持ちがまた涙に変わり、止まることのない涙は冷たい風に吹かれて雪乃の心までもを凍らせるようだった。

声を聞きたい。
今はただそれだけだった。


雪乃はおもむろに携帯を取り出し、晃平に電話をかける。

Trururu…trururu…

電話をかけながら、電話に出てくれるのだろうかと不安な想いでいっぱいになった。
〝別れよう〟と言われたあの日以来なのだから。

『はい…』
「…っ、もしもし、晃平…」
『…うん』
「…」
声を聞いただけで胸がいっぱいだった。
晃平への想いが溢れてくる。

「ごめん…なさい。…晃平の気持ちも、考えずに…私、晃平を苦しめてた…」
泣きながら、なんとか口にした言葉。
『俺も…ごめん』
返ってくる晃平の優しささえも辛かった。

「…会いたい、晃平…別れたくない…」
『…雪乃…』
「別れたくないよ…」
『…ごめん、もう気持ちに嘘はつけない』

最後の望みも届かない。
雪乃にとっては精一杯の素直な気持ちだった。



ピンポーン…

「はーい」
玄関のドアがすぐに開かれる。
雪乃は晃平との電話の後、咲良のマンションへと向かっていた。

「お姉…ちゃん…」
「ひとしきり泣いてきましたって顔ね…」

涙と鼻水で、鼻や目を真っ赤にした雪乃を見て、咲良は困ったように微笑むと雪乃の肩に触れて部屋へ促した。

「ほら、コーヒー飲んで暖まって」
「…ありがと」

冷えきった身体をブランケットで包み込み、温かいコーヒーの匂いが心を落ち着かせる。

「別れ話でもしてきた?」
咲良は唐突に雪乃へ問い掛けた。
「…別れたくないって言ってみたけど、見事玉砕…」
「雪乃がここに来る前にね、晃平くんから電話があったのよ」
「…え?」
雪乃は顔を上げ、咲良を見る。

「…〝雪乃を、宜しくお願いします〟って」
「っ…」
どこまで優しいんだろう。
こんな状況でも気遣ってくれる晃平の優しさに、雪乃は自分自身の不甲斐なさを強く感じた。

「〝雪乃のこと、幸せに出来なくてすみません〟って、晃平くん言ってたよ。いい男、好きになったね、雪乃」
咲良の言葉に止まっていた涙が再び溢れる。
「私、晃平のこと…、本当に好きだったの…」
「うん」
「だけど、晃平の気持ちも考えずに、自分の幸せだけを考えてた…」
「…うん」

咲良は雪乃の隣に座り直した。
雪乃の気持ちが痛いほど伝わってくる。

「今度はちゃんと最初から好きな人と向き合って、好きになってもらって、いい恋しようね、雪乃…」
「…うん」

咲良は雪乃の頭を優しく撫でた。
今度こそ幸せになって…そう願いながら。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

抱きしめて

麻実
恋愛
夫の長期に亘る不倫に 女としての自信を失った妻は、新しい出会いに飛び込んでいく。

【完結】妻の日記を読んでしまった結果

たちばな立花
恋愛
政略結婚で美しい妻を貰って一年。二人の距離は縮まらない。 そんなとき、アレクトは妻の日記を読んでしまう。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

二十年以上無視してきた夫が、今さら文通を申し込んできました

小豆缶
恋愛
「お願いです。文通から始めてもらえませんか?」 二十年以上会話もなかった夫――この国の王が、ある日突然そう言ってきた。 第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。 それから二十年。 第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。 なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。 不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。 これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。 ※本作は「存在されていないことにされていた管理ギフトの少女王宮で真の家族に出会う」のスピンオフですが、単体で読めます。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

処理中です...