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ひとりぼっちの俺は、君だけに縋りたい。
今にも雨が降りそうな曇り空
いつもは特に気に留めることもないカラスが
その曇り空を飛んでいく姿を見ると、なぜか映える。
特に夕方くらいの明るさに、カラスが飛び立っていくのを見ると
何か、これから悪い出来事が起きるんじゃないかと考えてしまう
ゴミを荒らす、ただの雑菌まみれのカラスとは違って
なにか負の革命を起こす、そんな気がしてならないのだ。
ー1ー
部屋に籠ったまま、2ヶ月が過ぎた頃、大学から封筒が届いた。
それを開いて見てみると『原級止め』の報告だった。
つまり留年というやつだ。
1年前に進学した大学の近くにアパートを借りて、現在に至る。
狭いワンルームで、最初はユニットバスが少し気に食わなかったが
徐々に慣れていき、今では何も気にしなくなった。
大学生活も、ユニットバスみたいに慣れていくと思ったのに
つまらない授業、学生を馬鹿にする教授、勘違いしている学生
どの学校も、同じと言われてしまえば、何も言い返せないが
とにかく俺の肌には合わず、次第に学校へは行かなくなった。
アルバイトもやっていないので、両親の仕送りだけで生活している。
二十歳手前だというのに、一滴も大人の成分が混入していない
所謂、クズ人間であり、ただ生きてるだけで、何の才能も持たない人間だ。
人の失態を嘲笑ったり、ブスな女を見るたびに睨みつけている。
そのくせ、自分が失態を犯したり、他人の言葉で傷つけられると
まるで自分は世界中の誰よりも不幸な人間だと、本気で思い落ち込む。
そしてその度、俺は死ぬことだけを考えて、ますます自己嫌悪に陥る。
たぶん誰かに声をかけてもらいたいのだろう、だがそんな友人はいない
俺は、いつでも死ねるように、常に右ポケットにロープを入れてある。
だが今の今まで自殺をしなかった理由が一つだけある。
こんな自分のことを気にかけてくれる存在がいるからだ。
夕方時、大学の授業が終わる頃、彼女は俺のアパートにやってくる。
ー2ー
ドアを開けると、そこにはいつも光景があった。
綺麗な黒髪でモノトーンの服を着た小柄な彼女が立っていた。
にこっと俺に微笑むと、そのまま部屋に入ってきた。
年頃の女性だというのに、化粧もしておらず、衣服も地味だ。
性格もどちらかというと、少年のような明るい性格であり
それが返って、俺にとって気兼ねなく喋れる理由なのかもしれない
「ありがとう、来てくれて」と俺が言うと、彼女は黙って微笑む。
そんな気障なセリフも、おそらく彼女以外には使えないと思っている。
どちらが先に愛の言葉を伝えたわけでもなく
交友が続いているうちに、いつのまにか互いに愛し合うようになっていた。
最初は俺の愚痴を聞いてもらっていたが、最近ではそれもなくなった。
ただ誰にも触れない二人だけの空間を作り、そこにいるだけで良いのだ。
俺は黙って彼女の口に近づき、彼女は目を閉じる。
憂鬱な日々の中で、この時間だけ、生きていたいと思えるときだった。
長いキスが終わり、徐に彼女を優しく布団に寝かせる。
彼女が着ていた服を全て剥ぎ取り、完全に日が暮れるまで
その行為を続けた。
彼女は喘ぎ声は、とても響き、おそらく近隣の迷惑にもなっているはずだ。
だが現在まで、この行為を一度として邪魔されたことがない。
本当に俺と彼女の二人だけの空間があるように・・・。
ー3ー
気がつくと、外はすっかり暗闇で包まれていた、寝てしまったようだ。
それに部屋を見ても、彼女の姿がなく、既に帰宅したようだ。
自分からセックスに持ち込んだのに、終わると疲れて寝ている男
まったく情けないと思う、少しは彼女を大切にしなくては・・・。
俺は部屋の電気を付けて、カップラーメンを作るため、湯を沸かす。
自炊も掃除も出来ないので、夕食は大概インスタト食品になってしまう。
既に賞味期限の切れた、チーズカレー味のカップ麺を発見する。
それに熱湯を注ぎ、3分待つ
たまにこんな簡単な作業を失敗することもあり、これまた情けなくなる。
それにしても部屋が汚い、飲みかけのペットボトルや既に読んだ雑誌
いつ食べたか分からない弁当や腐った生物まで乱雑している。
今度、彼女が家に来たときに、一緒に処理しようと思う。
その上、酷く嫌な臭いがするので、窓を全開にして換気する。
すると少し暖かい風が、汚い部屋に流れてくる・・・。
もうすぐ一人暮らし2年目の夏が訪れる。
ー4ー
目が覚める、時計を見ると午前11時を回ったところだった。
とりあえず2限目に履修している授業が、既に開始されている。
まぁ別に行かないからいいんだけども
しかし今日は、久々に気分が晴れている。
昼飯でも買いに行こう、そう思いジャージから普段着に着替える。
そして布製のショルダーバッグを担ぎ、家を出る。
アパートの階段を下りると、近所のおばさん達が俺を見てくる。
まるで汚物を見るような目で
罵声を浴びせたい気分だったが、面倒くさいことになるのも嫌なので無視した。
少し歩くと、家族経営のコンビニがある。
店に入ると、俺より年下であろう学生の店員がカウンターに立っていた。
その学生店員は『いらっしゃいませ』の一つも言わずに、ボーッとしていた。
俺はカゴを手に取り、お弁当コーナーまで歩を進めた。
なんとなく脂っこいものを食べたかったので、からあげ弁当を2個
それとウーロン茶をカゴに入れたとき、店に誰か入ってきた。
『いらっしゃいませ!』と元気な声が聞こえる。
俺のときは、声すらかけてくれなかったのに・・・。
そんな少しのことで、苛ついた俺は、かごを持ったまま全速力で店の外へ出た。
どうせ監視カメラなんか設置していないコンビニなのだ。
俺は急いでアパートまで戻ってきた、まったく外に出るのは恐ろしい。
部屋のドアを開けると、ベランダに彼女の姿があった・・・!
いつものように、俺を見て微笑んでいる。
『カギをせずに、家を出ていくなんて危ないよ』
「ごめん、ちょっと忙しい朝だったからさ」
昨日と同じくモノトーンな服を着ているが、スカートを履いている。
少し見える細い足が、とても魅力的だ。
時計を見ると、既に12時を回っていた、昼飯の時間である。
俺は、偶然からあげ弁当を2個買ってきたので、彼女にそれをあげた。
普段は凄く清楚なのに、飯を食べるときは少し行儀が悪い。
でもそのギャップも、許せる。
『ありがとう、私が家にいること、見透かされちゃってたみたいね』
「偶然だよ」
『ほんとに?偶然っていう名前の必然だと、私は思うけどな』
彼女はそう言うと、俺のほうへ寄ってきた
ときおり冷たい目をして、俺の目を見つめてくる。
俺の彼女か・・・もう何度目だろうな・・・。
ー5ー
時計を見ると9時を回ったところだ、夜のニュース番組が始まる頃
あまりテレビ番組を視聴するほうではないが、なぜかニュースだけは見る。
特に自分と関係ない地域で起こった事件や天気予報を見るのが好きなのだ。
俺はいつかテレビに出たいと思っている、それもこういう固いニュースで
それを実現するためには、何らの事件を起こすか遺書を残して自殺するかだ。
しばらくテレビを眺めていると、勢いよくドアが開かれた。
そして懐中電灯を持った男が二人立っていた。
俺の膝で寝転んでいた彼女は、酷く驚き、ベランダからどこへ行ってしまった
「なにをやっているんだ!」
男の1人が俺に怒鳴りつける、何を言っているのか分からない。
俺は普通にテレビを見ていただけなのだが
「君は一体、ここでなにをしているんだ!」
「何をしてるって・・・別にテレビ見ていただけですけど」
「ここは君の家じゃないだろ!」
「え?あなたたちは何を言ってるんですか?ここは僕の家ですけど」
「そんなわけないだろう、いいから私たちに着いてきなさい」
「嫌です」
そう俺が言うと、二人の男は有無を言わせずに強く手を引っ張った。
「やめろ!警察を呼ぶぞ!」久々に声を荒げる
精一杯の抵抗はしたが、結局、俺は二人にアパートの外に連れてかれた。
部屋を出ると、周囲には人集りが出来ていた、そこで俺は気づく
たぶん昼にやった万引きがバレたのだろう、それで通報されたのか。
ご丁寧に、赤く点滅するランプを乗っけた車まで駐車している。
俺は「車に乗れ」と言われ、そのまま大人しく従った。
ー6ー
驚いた、万引きごときで、牢屋に入れられるとは思ってもいなかった。
なにもかも無機質で、俺はここを究極の殺風景と名付けて笑った。
設置されているトイレも汚く、とてもじゃないが使う気にはなれない。
そして見上げると、手の届かない場所に窓があり、俺は空を眺める。
外は既に明け方特有の澄んだ青色で包まれているのが分かった。
大学は辞めることになり、親からは見放されることは確実だろう。
そんなことを考えながら、しばらく窓の外に景色を見つめていた。
すると、その景色の中で彼女が流れて行くのが見えた。
俺は、今まで生きてきた中で一番の驚愕状態に陥った。
「そっか、俺を助けに来てくれたんだね」
『・・・・』
「いつも、君には迷惑をかけてばっかりで」
『そんなことないよ』
「ごめんね、こんなダメ人間な彼氏で・・・」
『そんな顔しないで、ほら泣かないの』
『でもごめんね、私も、もうあなたを助けられないの』
「どうして?」
『もうあなたのなかには、生きることが出来ないの』
「俺のなかに?」
『ごめんね、もう少し私が我慢できればよかったのに、ごめんね』
窓の外に流れて行く彼女が少しずつ減ってゆく・・・。
「嫌だ、消えないでよ」
『それは無理なの、もっとあなたを助けてあげたいけど、もう出来ない』
「頼むよ、俺のそばでずっと微笑んでてよ」
彼女が少しだけ微笑む、最期に見た笑顔はとても美しくて儚かった。
『じゃあね、また会えるといいね』
そして流れて行く彼女達が、見えなくなった・・・。
俺は何もかも失くした気分に陥り、段々と自分が壊れていくのが分かった。
右ポケットに手を伸ばし、入っていたロープを首に巻き付けた。
もう一方を牢屋の柵に括り付けて、身体を宙に浮かす。
遠のく意識の中で見たのは、窓の外に映る、曇り空だった。
ー7ー
「彼は一体、何をしていたんでしょうね、あの中で」
「あの廃屋を自分の家だと『錯覚』していたんだろう」
「入ったとき、彼はカラスを膝に乗せながら、電子レンジを見ていたし」
「いつもああしていたのかな、彼は」
どこかの青年が誰も住んでいない住居に出入りしていると
昼頃に近隣に住んでいる、主婦3人に通報を受けた。
そして青年の住処を後日改めて調べてみると、大量のカラスの死骸が発見された。
それも普通の死骸ではなく、羽が全て切り取られた状態になっていた。
もっと酷いのでは、カラスの胴体が真っ二つに切り離されているのもあった。
閉鎖病棟に入っているときも、窓の外に飛んでいたカラスを眺めていた。
そして青年は、まるで何を言ってるのか分からない言葉を口にしていた。
私たちは、それを設置されている定点カメラで監視していた。
ロープを括り付けたとき、私たちは急いで、そこへ駆けつけた。
幸い死には至らなかったが、あれきり目を閉じたままになってしまった。
青年の両親は『大学生活が楽しすぎるとのメールが何通も来ていた』と
まったくこの現実を知らなかったようである。
父親は月に1回、彼の顔を見に来ているが
母親はショックのあまり、精神科病院に通うようになってしまったそうだ。
おそらく彼は、大学に馴染めず、人間関係もうまくいかなかった。
証拠に、彼の友人であるという人間は一人もいなかったのだから
彼の所属していたサークルや履修していた少人数制のゼミナールに
聞き込みに行っても、彼がどんな人物であったのかを知っている学生は
一人としていなかったのだ、もちろん教授や講師らも
そしてこんな結果を招いてしまった。
誰かに自分の苦痛を分かって欲しかっただけなのかもしれない。
いつもは特に気に留めることもないカラスが
その曇り空を飛んでいく姿を見ると、なぜか映える。
特に夕方くらいの明るさに、カラスが飛び立っていくのを見ると
何か、これから悪い出来事が起きるんじゃないかと考えてしまう
ゴミを荒らす、ただの雑菌まみれのカラスとは違って
なにか負の革命を起こす、そんな気がしてならないのだ。
ー1ー
部屋に籠ったまま、2ヶ月が過ぎた頃、大学から封筒が届いた。
それを開いて見てみると『原級止め』の報告だった。
つまり留年というやつだ。
1年前に進学した大学の近くにアパートを借りて、現在に至る。
狭いワンルームで、最初はユニットバスが少し気に食わなかったが
徐々に慣れていき、今では何も気にしなくなった。
大学生活も、ユニットバスみたいに慣れていくと思ったのに
つまらない授業、学生を馬鹿にする教授、勘違いしている学生
どの学校も、同じと言われてしまえば、何も言い返せないが
とにかく俺の肌には合わず、次第に学校へは行かなくなった。
アルバイトもやっていないので、両親の仕送りだけで生活している。
二十歳手前だというのに、一滴も大人の成分が混入していない
所謂、クズ人間であり、ただ生きてるだけで、何の才能も持たない人間だ。
人の失態を嘲笑ったり、ブスな女を見るたびに睨みつけている。
そのくせ、自分が失態を犯したり、他人の言葉で傷つけられると
まるで自分は世界中の誰よりも不幸な人間だと、本気で思い落ち込む。
そしてその度、俺は死ぬことだけを考えて、ますます自己嫌悪に陥る。
たぶん誰かに声をかけてもらいたいのだろう、だがそんな友人はいない
俺は、いつでも死ねるように、常に右ポケットにロープを入れてある。
だが今の今まで自殺をしなかった理由が一つだけある。
こんな自分のことを気にかけてくれる存在がいるからだ。
夕方時、大学の授業が終わる頃、彼女は俺のアパートにやってくる。
ー2ー
ドアを開けると、そこにはいつも光景があった。
綺麗な黒髪でモノトーンの服を着た小柄な彼女が立っていた。
にこっと俺に微笑むと、そのまま部屋に入ってきた。
年頃の女性だというのに、化粧もしておらず、衣服も地味だ。
性格もどちらかというと、少年のような明るい性格であり
それが返って、俺にとって気兼ねなく喋れる理由なのかもしれない
「ありがとう、来てくれて」と俺が言うと、彼女は黙って微笑む。
そんな気障なセリフも、おそらく彼女以外には使えないと思っている。
どちらが先に愛の言葉を伝えたわけでもなく
交友が続いているうちに、いつのまにか互いに愛し合うようになっていた。
最初は俺の愚痴を聞いてもらっていたが、最近ではそれもなくなった。
ただ誰にも触れない二人だけの空間を作り、そこにいるだけで良いのだ。
俺は黙って彼女の口に近づき、彼女は目を閉じる。
憂鬱な日々の中で、この時間だけ、生きていたいと思えるときだった。
長いキスが終わり、徐に彼女を優しく布団に寝かせる。
彼女が着ていた服を全て剥ぎ取り、完全に日が暮れるまで
その行為を続けた。
彼女は喘ぎ声は、とても響き、おそらく近隣の迷惑にもなっているはずだ。
だが現在まで、この行為を一度として邪魔されたことがない。
本当に俺と彼女の二人だけの空間があるように・・・。
ー3ー
気がつくと、外はすっかり暗闇で包まれていた、寝てしまったようだ。
それに部屋を見ても、彼女の姿がなく、既に帰宅したようだ。
自分からセックスに持ち込んだのに、終わると疲れて寝ている男
まったく情けないと思う、少しは彼女を大切にしなくては・・・。
俺は部屋の電気を付けて、カップラーメンを作るため、湯を沸かす。
自炊も掃除も出来ないので、夕食は大概インスタト食品になってしまう。
既に賞味期限の切れた、チーズカレー味のカップ麺を発見する。
それに熱湯を注ぎ、3分待つ
たまにこんな簡単な作業を失敗することもあり、これまた情けなくなる。
それにしても部屋が汚い、飲みかけのペットボトルや既に読んだ雑誌
いつ食べたか分からない弁当や腐った生物まで乱雑している。
今度、彼女が家に来たときに、一緒に処理しようと思う。
その上、酷く嫌な臭いがするので、窓を全開にして換気する。
すると少し暖かい風が、汚い部屋に流れてくる・・・。
もうすぐ一人暮らし2年目の夏が訪れる。
ー4ー
目が覚める、時計を見ると午前11時を回ったところだった。
とりあえず2限目に履修している授業が、既に開始されている。
まぁ別に行かないからいいんだけども
しかし今日は、久々に気分が晴れている。
昼飯でも買いに行こう、そう思いジャージから普段着に着替える。
そして布製のショルダーバッグを担ぎ、家を出る。
アパートの階段を下りると、近所のおばさん達が俺を見てくる。
まるで汚物を見るような目で
罵声を浴びせたい気分だったが、面倒くさいことになるのも嫌なので無視した。
少し歩くと、家族経営のコンビニがある。
店に入ると、俺より年下であろう学生の店員がカウンターに立っていた。
その学生店員は『いらっしゃいませ』の一つも言わずに、ボーッとしていた。
俺はカゴを手に取り、お弁当コーナーまで歩を進めた。
なんとなく脂っこいものを食べたかったので、からあげ弁当を2個
それとウーロン茶をカゴに入れたとき、店に誰か入ってきた。
『いらっしゃいませ!』と元気な声が聞こえる。
俺のときは、声すらかけてくれなかったのに・・・。
そんな少しのことで、苛ついた俺は、かごを持ったまま全速力で店の外へ出た。
どうせ監視カメラなんか設置していないコンビニなのだ。
俺は急いでアパートまで戻ってきた、まったく外に出るのは恐ろしい。
部屋のドアを開けると、ベランダに彼女の姿があった・・・!
いつものように、俺を見て微笑んでいる。
『カギをせずに、家を出ていくなんて危ないよ』
「ごめん、ちょっと忙しい朝だったからさ」
昨日と同じくモノトーンな服を着ているが、スカートを履いている。
少し見える細い足が、とても魅力的だ。
時計を見ると、既に12時を回っていた、昼飯の時間である。
俺は、偶然からあげ弁当を2個買ってきたので、彼女にそれをあげた。
普段は凄く清楚なのに、飯を食べるときは少し行儀が悪い。
でもそのギャップも、許せる。
『ありがとう、私が家にいること、見透かされちゃってたみたいね』
「偶然だよ」
『ほんとに?偶然っていう名前の必然だと、私は思うけどな』
彼女はそう言うと、俺のほうへ寄ってきた
ときおり冷たい目をして、俺の目を見つめてくる。
俺の彼女か・・・もう何度目だろうな・・・。
ー5ー
時計を見ると9時を回ったところだ、夜のニュース番組が始まる頃
あまりテレビ番組を視聴するほうではないが、なぜかニュースだけは見る。
特に自分と関係ない地域で起こった事件や天気予報を見るのが好きなのだ。
俺はいつかテレビに出たいと思っている、それもこういう固いニュースで
それを実現するためには、何らの事件を起こすか遺書を残して自殺するかだ。
しばらくテレビを眺めていると、勢いよくドアが開かれた。
そして懐中電灯を持った男が二人立っていた。
俺の膝で寝転んでいた彼女は、酷く驚き、ベランダからどこへ行ってしまった
「なにをやっているんだ!」
男の1人が俺に怒鳴りつける、何を言っているのか分からない。
俺は普通にテレビを見ていただけなのだが
「君は一体、ここでなにをしているんだ!」
「何をしてるって・・・別にテレビ見ていただけですけど」
「ここは君の家じゃないだろ!」
「え?あなたたちは何を言ってるんですか?ここは僕の家ですけど」
「そんなわけないだろう、いいから私たちに着いてきなさい」
「嫌です」
そう俺が言うと、二人の男は有無を言わせずに強く手を引っ張った。
「やめろ!警察を呼ぶぞ!」久々に声を荒げる
精一杯の抵抗はしたが、結局、俺は二人にアパートの外に連れてかれた。
部屋を出ると、周囲には人集りが出来ていた、そこで俺は気づく
たぶん昼にやった万引きがバレたのだろう、それで通報されたのか。
ご丁寧に、赤く点滅するランプを乗っけた車まで駐車している。
俺は「車に乗れ」と言われ、そのまま大人しく従った。
ー6ー
驚いた、万引きごときで、牢屋に入れられるとは思ってもいなかった。
なにもかも無機質で、俺はここを究極の殺風景と名付けて笑った。
設置されているトイレも汚く、とてもじゃないが使う気にはなれない。
そして見上げると、手の届かない場所に窓があり、俺は空を眺める。
外は既に明け方特有の澄んだ青色で包まれているのが分かった。
大学は辞めることになり、親からは見放されることは確実だろう。
そんなことを考えながら、しばらく窓の外に景色を見つめていた。
すると、その景色の中で彼女が流れて行くのが見えた。
俺は、今まで生きてきた中で一番の驚愕状態に陥った。
「そっか、俺を助けに来てくれたんだね」
『・・・・』
「いつも、君には迷惑をかけてばっかりで」
『そんなことないよ』
「ごめんね、こんなダメ人間な彼氏で・・・」
『そんな顔しないで、ほら泣かないの』
『でもごめんね、私も、もうあなたを助けられないの』
「どうして?」
『もうあなたのなかには、生きることが出来ないの』
「俺のなかに?」
『ごめんね、もう少し私が我慢できればよかったのに、ごめんね』
窓の外に流れて行く彼女が少しずつ減ってゆく・・・。
「嫌だ、消えないでよ」
『それは無理なの、もっとあなたを助けてあげたいけど、もう出来ない』
「頼むよ、俺のそばでずっと微笑んでてよ」
彼女が少しだけ微笑む、最期に見た笑顔はとても美しくて儚かった。
『じゃあね、また会えるといいね』
そして流れて行く彼女達が、見えなくなった・・・。
俺は何もかも失くした気分に陥り、段々と自分が壊れていくのが分かった。
右ポケットに手を伸ばし、入っていたロープを首に巻き付けた。
もう一方を牢屋の柵に括り付けて、身体を宙に浮かす。
遠のく意識の中で見たのは、窓の外に映る、曇り空だった。
ー7ー
「彼は一体、何をしていたんでしょうね、あの中で」
「あの廃屋を自分の家だと『錯覚』していたんだろう」
「入ったとき、彼はカラスを膝に乗せながら、電子レンジを見ていたし」
「いつもああしていたのかな、彼は」
どこかの青年が誰も住んでいない住居に出入りしていると
昼頃に近隣に住んでいる、主婦3人に通報を受けた。
そして青年の住処を後日改めて調べてみると、大量のカラスの死骸が発見された。
それも普通の死骸ではなく、羽が全て切り取られた状態になっていた。
もっと酷いのでは、カラスの胴体が真っ二つに切り離されているのもあった。
閉鎖病棟に入っているときも、窓の外に飛んでいたカラスを眺めていた。
そして青年は、まるで何を言ってるのか分からない言葉を口にしていた。
私たちは、それを設置されている定点カメラで監視していた。
ロープを括り付けたとき、私たちは急いで、そこへ駆けつけた。
幸い死には至らなかったが、あれきり目を閉じたままになってしまった。
青年の両親は『大学生活が楽しすぎるとのメールが何通も来ていた』と
まったくこの現実を知らなかったようである。
父親は月に1回、彼の顔を見に来ているが
母親はショックのあまり、精神科病院に通うようになってしまったそうだ。
おそらく彼は、大学に馴染めず、人間関係もうまくいかなかった。
証拠に、彼の友人であるという人間は一人もいなかったのだから
彼の所属していたサークルや履修していた少人数制のゼミナールに
聞き込みに行っても、彼がどんな人物であったのかを知っている学生は
一人としていなかったのだ、もちろん教授や講師らも
そしてこんな結果を招いてしまった。
誰かに自分の苦痛を分かって欲しかっただけなのかもしれない。
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