無能力者の俺が世界最高峰の実力至上主義の学園で無双する!?

とこ

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1章 集う、世界有数の実力者たち

入学試練

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プロローグ 

この世界の日本国は、実力至上主義の国だ。
実力あるものが上につき、実力がないものは下に見られる、そんな国。
そして、日本国にはおよそ100年前から、〝異能の力〟を先天的に宿した、所謂〝異能力者〟が存在し始め、近年爆発的に国内に派生していき、今では全国民の3割ほどが異能力者となった。
 その背景からこの国は国主導の実力至上主義学園を設立し、全国各地から実力者を募るようになった。
 この学園について公表されている情報を説明するとしたら、まずこの学園は2つの学科に分けられている。それは『技能科』と『知能科』だ。
『技能科』は主に異能力を持つ者たちが集い、己の実力を高めるため、そしてこの国の警察組織における幹部級の役職に就くために切磋琢磨することを狙いとして設置された。
一方、『知能科』は一部の戦闘系でない異能力者、そして知的能力に自信がある無能力者が集い、様々な経験を通して、この国の政府組織などの位の高い職に就くために日々精進しることを目的として設置された。
 さらに、この学園は数十年に一度しか開校されないため、幅広い年齢層の者たちが一度に入学してくる。なぜ数十年に一度なのかについては、この国の政府・警察組織の幹部クラスの任期は20~30年であるため、それらの任期に合わせて卒業者を出すことを狙いとしているからである。
 そして俺は今日から、晴れてこの学園の『技能科』に入学するわけなのだが、果たしてうまくやっていけるのだろうか・・・

桜も満開となり心地よい春風が吹き抜ける中、本島から離れた学園島にそびえたつ、この実力至上主義の学園では入学式が行われていた。
ちなみにこの学園には明確な名前というものがない。ただこの学園は本島からかなり離れた島に位置しており、その大きな島全体が学園の敷地になっているため、巷では『学園島』と呼ばれている。
・・・にしても、かなり人数が多い。見渡すだけでも数百人はいるんじゃなかろうか、と思えるくらいには人が溢れかえっていた。
(・・・まさか)
確かこの学園に入るときに俺は入学試験も面接も受けたわけではない。となると、この学園の戦闘科に入学希望を出したやつ全員がこの講堂に集まっているわけか・・・と、俺がそんなこと考えてると、
「・・・皆さん、この学園へようこそ」
壇上には白髪が少し生えた中年ほどの男性が立っていた。
「私はこの学園の理事長の、天宮と申します。ここにはこの学園の技能科を志望してくれた皆さんに集まってもらいました。」
・・・なるほど、つまりここにはこれから過ごす仲間たちがいるのか。仲良くなれるか不安である。
「この学科の定員は300名なわけですが、この場には今1500名強の人数がいます。本学としてもこれだけの人数に集まってもらえたことを非常にうれしく思います。しかしながら定員が300名と限られている以上こちらとしてもある程度人数を絞る必要が出てきます。そこで・・・」
そして理事長はこう言葉を続けた。
「・・・これから本学園技能科入学試練をとり行います。」と。
その瞬間、弛緩していた周りの空気が一気に張り詰めた。
(・・・入学試練か)
まさか1500人も入れるとは思っていなかったが、今から入学試練を行うとはな。
「これから君たちにはこの島に来た時と同じ船に乗ってもらい、こことはまた別の島へ行ってもらいます。試練の内容は島についてから改めてお伝えしますので、乗船の準備をよろしくお願いします。」
そういうと理事長は壇から降り、講堂を出ていった。
あたりは喧騒に包まれていたが、とりあえず俺は隣にいるそいつに声をかけた。
「とんでもないことになったな」
「そうね、私の中でもいまいち整理できていないわ」
こいつの名前は二階堂花音。俺の中学からの知り合いであり、同じくこの学園の戦闘科を希望した少女である。
「それにしてもお前ならこの入学試練難なく突破できそうだな」
「油断はしてないわ。世界的にも有名な学園だもの、どんな相手が出てくるのか分からないし、全力で行かないとね」
俺が知っている中でも二階堂花音という存在はかなり強い存在だ。だからこそ俺はこいつは確実に入学試練を突破することだろうと思っている。
「それにしても、アンタはどうなの?」
そんなことを考えていると隣にいる少女にそんなことを聞かれた。
「・・・俺か? わからんな」
俺はそう返答する。するとその少女はため息をついて、
「私はアンタが残るのは正直厳しいと考えてるわ。実際にこの場には自分の実力に自信を持った人が集まっているわけだし、競争率も5倍ほど・・・。そしてなにより、」
そして彼女は告げる。
「・・・アンタは無能力者だし」
その言葉に俺は、
「大丈夫だ。きっとなんとかなるさ」
と、返すのだった。
 俺は無能力者だ。そのおかげで中学の頃はよく能力者の奴らにいじめられていた。
別にすべての無能力者がいじめられていたわけではない。頭の良かった奴らはいじめられるようなこともないし、それ以外の奴らも能力者を上の立場としてふるまっていたため、いじめの対象となることもなかった。
ただ俺はたかだか能力の有無ごときでそいつらをあげてやろうとは思わなかったため、それが能力者どもの鼻につき、いじめられることとなったのである。殴る蹴るは当たり前だったし、そいつらの気分によっては失神するまで打ちのめされたことだってある。
そしてその度に俺を助けてくれたのが、今隣にいる二階堂花音という少女だった。だから俺はこいつの実力が高いことも知っているし、こいつは俺の不合格を懸念しているのである。
「今までは私がアンタを助けることができたのかもしれないけど、今回の試練はアンタを助けられるっていう保証もない。それにそもそも会えない可能性だってある。アンタもそれは心にとめておきなさいよ」
「ああ、分かってる」
そのような軽い話を交わした後、俺たちは船へと向かうのであった。

1章 集う、世界有数の実力者たち

〇入学試練
 ブオーという音とともに俺たちが乗る船は試練が行われる島に向かっていた。
「奇麗ね、海」
「ああ、そうだな」
島につくのは明日になるらしいので、俺たちは今日はこの船に寝泊まりすることになる。
「それにしても、この船は広いわよね」
「・・・試練とはいえここまで贅沢に過ごしていいとなるとさすがにビビるよな」
そう、この船は誰が見ても豪華だといえるくらいには設備が整っている、いわゆる豪華客船であった。
船内にはカフェテリア・映画館・劇場・レストランが設置されており、巨大なプールやウォータースライダーも完備されているなど、とても入学前の生徒が乗れるような船でないことは確かであった。さらに一人一部屋用意されているという。
「なんかバカンスみたいね」
「今からやるのはとてもバカンスとは言えなさそうだけどな」
「楽しみね」
「どこがだ」
そのような他愛のない会話をしていると、支給されたスマホから通知音がなった。
「なにかしら?」
俺も気になり内容を確認すると、
『入学試練についてご説明しますので、30分後の16時に劇場へ集合してください。遅刻した場合の処置はありませんのでくれぐれも遅刻しないようにお願いします。』
と、書かれてあった。
「いよいよだな」
「ええ、準備しないとね」
30分後とは書いてあるが、今のうちから用意しておいた方がいいだろう。そう考えた俺たちは自室に戻って説明会に備えるのであった。
 30分後、劇場には学園の講堂でも見たように、大勢の人が集まっていた。ちなみに今俺には連れがいない。あいつと合流しようにもこの人数だと合流することは難しいためである。それに変な誤解も生みたくないからな。
そして16時を回ったところで、ステージ上には学園の教師らしき人物が現れた。おそらくこれから説明が始まるのだろう。
「・・・これから入学試練の説明を始める。しっかりと聞くように。」
と、いかにもぶっきらぼうにその教師らしき人物は話し始めた。
「まず、今回の試練内容を端的に言うと・・・」
そして、その試練内容を告げる。
「・・・サバイバルだ。」
「・・・へぇ」
ある程度予想はできていた。サバイバルだと1500人いる人数を300人に絞るのは簡単だろうからな。
・・・そして案の定
「この試練で300人の入学者を決定する。」
と、そういわれた刹那、会場内は少しざわめいた。
しかし、前の教師らしき人物は言葉を続ける。
「・・・ざわめくのも仕方がない。この試練でおよそ1200人が脱落するのだからな。」
確かにそうだ。一気に1200人の脱落が決まるのなら焦りや驚きが表れるのは自然なことなのだろう。だが、
「ただこの学園に入ったらこのようなことは続くぞ。詳しくは言えないが、学園生活は常に退学との隣りあわせだ。それに君たちは自分の実力に自信があるからこの学園に来たのだろう? だったら入学試練ごときでビビっているようでは話にならないぞ。」
そう、ここに集まっているのはあくまで自分に自信がある者たちばかり。そうであるならこれだけのことで衝撃を受けるのは程度が知れるというものである。
「さて、話を戻して試練の内容を説明しよう。」
教師らしき人物がそのように言うと劇場内は再び静かになる。
「今回のサバイバル試練はさきほども言ったようにこの学園の技能科の定員である300人を決定するまで行う。つまり時間制限はなく無制限だ。300人が決定するまでは1週間経とうが1カ月経とうがこの試練は終わらない。」
前の人物は話を続ける。だが説明が長かったので一応この試練についてまとめておこう。
 ・入学試練は時間無制限で行われる
 ・試練会場である無人島に着いたら、一人一人がランダムで島のどこかにワープさせられ、それをもって試練が開始される
 ・生徒たちは無人島において同じ入学希望者を倒し合い、戦闘可能者が残り300人になるまでサバイバルを行う
 ・生徒たちは事前に腕輪型操作端末を配布し、サバイバル時の連絡手段・生命管理手段などに用いる
 ・生徒の生命管理はその腕輪型操作端末で行い、個人個人の脈拍や心拍数などからその生徒が試練活動可能かを管理する
 ・機械によりサバイバル時に戦闘不能・体調不良と判断され、運営により試練続行不可能だと判断された場合にはその時点でその生徒の試
  練を打ち切る。
 ・生徒一人ひとりには事前に日本円1500円が電子マネーとして支給され、サバイバル時にはその金を用いて物の売買が行える
 ・ポリ袋や生理用品などの道具に関しては無償で支給される
 ・サバイバル時に生徒一人を戦闘不能とすることで電子マネー500円を獲得できる
 ・サバイバルには私物の持ち込みを禁ずる
 ・排出されたごみなどは支給されるポリ袋に詰めて処理ができるようにその場においておくこと。後に学園スタッフが回収する
 ・不必要な自然破壊行為に関しては発覚次第即時入学不合格処分とする
 ・試練打ち切りの処分を受けた生徒も同様入学不合格処分とする
 ・サバイバル時の成績は入学後の評価にも直結する
(・・・なるほどな)
要するにこれから行われるサバイバルで1500人中300人に入らなければ入学することはできなくなるということである。
「以上だ。最後に・・・」
そうして前にいる人物は、
「上陸は今晩になるが試練自体は明日朝9時から始める。質問はメールにて受け付ける。試練に備えて各自休息をとりモチベーションを整えておくことだ。」
と言い、その説明会を締めくくった。

 夜、俺は自室でココアを啜っていた。
試練の説明を一通り聞いた俺は部屋へ戻り、夕飯、入浴などを済ませ一人考え込んでいた。
この試練のルールは一通り把握したが、おそらくこれだけでは試練中にいくつか疑問もわくことだろう。それに、
(質問はメールのみで受け付けるか・・・)
メールで受け付けると言われたあたり、質問の内容。答えが全体共有される可能性も高いわけではない。もしかしたらそういう部分についても自分で気づかないといけないという暗黙のメッセージなんだろうな。
それにこの試練にはおそらくだがルールの抜け穴だったり裏技だったりがあると俺はにらむ。そう考えると質問するという行為、案外試練を有利に進めるための一つの手段にもなりうる。さすがは最高峰の学園、一筋縄ではいきそうにないな。
「・・・夜風でも浴びてくるかな」
もう寝てもよい時間帯なのだが、なんとなく外に出たいなと思った俺は夜風を浴びに外に出ることにした。
 「・・・気持ちいいな」
船のデッキにて俺は夜風を浴びる。波は穏やかで星は街頭などがないためきらきらと空を照らしている。今この場に響く音というのは波のさざめく音、そして船の進む音だ。技術が発達した日本の本島ではまず聞けない音、そして景色である。
俺はこういう景色は好きだ。星空・海というのは人間の悩みだったり煩悩だったりを忘れさせてくれる。俺にはそういうのは特にないが、それでも星空・海というのは人間の心を穏やかにしてくれて、頭を空っぽにさせてくれる。本島では味わえない感覚故に、俺は好きなのだ、こういうシチュエーションが。
・・・と、俺がそんな風に灌漑に耽っていると、
(・・・ん?)
デッキの奥の方に一つの人影があることに俺は気づいた。
「こんな時間帯に人か・・・」
時刻は午後11時。この時間帯は明日に大事な試練を控えているならなお、人々は寝静まっていてもおかしくないし、そもそも部屋にいるはずの時間帯だ。となるともしかして学校の教師だったり船の従業員だったりするのか? そう思いその人影に近づいてみるが
(あれは、どう考えても学生だろうな)
背丈や容姿から見て、そいつは学生だろう。幸いデッキは少し明かりがともされているため表情も確認できるが、そいつは不安などで頭がいっぱいになってそうな、そんな表情をしていた。
「おい、どうした? 風邪ひくぞ」
俺がそう聞くとそいつ、そこにいた短髪の女はこちらを振り向き、
「・・・なに? アンタ」
と言ってきた。制服を着ているあたりまだ風呂などには入っていないんだろう。・・・などと俺がそんなこと考えてると、
「アンタこそ、そんなとこで何してんだよ」
目の前の女はひょいっと柵から立ち上がり、俺にそう質問してきた。
「俺はべつに、ただ夜風を浴びに来ていただけだ」
「なにそれロマンチストかよキモ」
「初対面でひどすぎやしませんかね」
というかこいつはなぜ初対面の相手を睨み付けて暴言を吐くんだ・・・。俺はただ心配していただけだぞ?
きっと今まで友達とかいなかったんだろうな~。ああ可哀想に。俺でも友達一人はいるのに。あっちはどう思ってるのかは知らんが。
「・・・なんかすまんな」
「あ? なにがだよ殺すぞ」
おっと怖い。でも決めつけは良くないな。まあ謝ったし大丈夫だろう。それにしても、
「なんかあったのか?」
あの表情から推察するにおそらく入学試練に対する不安があったんだろうが、一応聞いておいた。
「・・・アンタに教える義理なんてない」
確かにそうではある。
「さしずめ入学試練に対する不安から落ち着きを取り戻したいとか、そんなところだろ?」
別にこのまま立ち去って一人にしておいてもよかったが、他の生徒と会話をするのも悪くないと思ったため言及してみた。
「・・・どうせアンタも似たような理由でしょ?」
「まあ確かにそれもあるが、俺はこういう景色や空気が好きなもんでな」
「ああそうか。アンタ変人ロマンチストだったわね」
「全世界のロマンチストに謝った方がいいぞ」
「メンゴ」
「お前なあ」
と、そんな生産性のない会話を繰り広げていると、
「・・・アンタは不安にならないわけ?」
そんな質問が彼女から投げかけられた。
「この学園に来て、新たな夢や希望なんかを持って頑張っていこうってときに、実際は全体の2割くらいしか入学できないって知らされて、これからサバイバルさせられる。普通の人間だったら不安を抱える。でもアンタからはなんか、そういうのを感じない」
その言葉に俺は、
「・・・ハハッ」
と軽く鼻で笑い、
「確かに俺も驚いたさ。いきなりサバイバルをしてみろ、なんて言われて今船に乗らされてる。でもな・・・」
俺は続ける。
「不安は生憎とないな。俺はこの学園に入学するためにこの試練を乗り越えようとしている。それに自分の実力に自信があるような奴らが不合格なんてことを考えるのはおかしな話だろ?」
まあ、俺は無能力者なんだけどな。
俺は改めてそいつの方を向く。そいつは俺に対して少し目を見開きつつも、
「・・・アンタそれ、説明会の時のセリフほぼリピートしただけじゃんか」
すぐに平常運転がん睨みに戻ってそう告げるのだった。
「そういえばお前名前はなんていうんだ?」
これから関わることになるかもしれない奴だ。名前ぐらいは聞いておいてもいいだろう。
「は? なんであんたなんかに教えないといけないわけ?」
・・・まあ予想通りの答えだ。彼女は俺と目を合わせることすらせずそう返す。
「べつに名前ぐらい聞いてもいいだろうよ。これから関わることになるかもしれないだろ?」
「ハッ、たとえアンタが生き残ったところで誰が関わるかよ」
そういうと彼女は俺に対して踵を返し、
「せいぜい頑張るんだな。アンタが生き残ってたら多少は褒めてやるよ」
そう言って船内へと戻っていくのだった。
(べつにあいつに褒められたところでって感じだけどな)
それにしても最初会ったときは彼女は不安そうな顔をしていたが、船内に戻る直前にはその顔には不安げな様子は表れていなかった。
(・・・敵に塩を送った感じになったか?)
案外あいつは最後まで残ってそうだな、などと考えつつ俺も船内へ戻るのであった。
明日も早いしな・・・

 その夜、俺は夢を見た。久しぶりの夢だ。
そこは、いわば日本のスラム街と呼ばれている場所だった。俺たちはそのスラム街にあるボロボロの家で暮らしている。
「お兄ちゃん!」
俺のそばにはきらきらとした目をしている妹がいる。
「・・・シノン」
俺はその妹の名前を呼ぶ。
「・・・お兄ちゃん、どうしたの?」
シノンは心配そうな瞳で俺の方をのぞき込んでくる。
「・・・なんで、泣いてるの?」
ああ、そうか。俺は泣いてたのか。世界が色を失ってゆく。もう夢は終わりか。
「お兄ちゃん」
消えゆく世界の中でシノンの言葉が木霊する。
「・・・死なないでね?」
「ああ、絶対死なないさ」
伝えられているかどうか分からないが、俺は告げる。
「だから、また・・・」
そうして俺は現実へと引き戻される。
「・・・一緒に暮らそうな」

 翌日、俺は早朝5時に目を覚ました。俺は早起きは得意な方である。
「さて・・・」
俺は身支度を整えて外に出る。外に出ると船が停泊していることを確認できた。どうやら言われた通り昨晩中に島に到着したらしい。
俺は島の海岸が見えるところまで行って、その浜辺に勢いよく飛び降りた。
「よし、行くか」
俺は昨晩、学校側に2つの質問を投げかけた。そのうちの1つが、
『船が島に到着してから試験開始時まで、島を探索することは可能か』
というものだ。そして回答が『8時半までなら可能とする』というものだった。
島の事前探索、この行為はこの試練をクリアすることにおいて欠かせない要素だ。会場を下見することはその後の試練を有利に進めることのできる大きな手段である。今回の試練は特に先が読みづらいものであるため、事前探索などの前もってできることは可能な限りすべて行うつもりだ。
俺は浜辺に着地して、本格的に調べるために、森の中へと入っていくのであった。
 一通り島全体の構造は理解できた。森の中にはイノシシや野兎などの動物の気配も感じ取れたし、川の水や果実、一部のキノコは飲食することもできそうである。俺は食料がある位置などを把握し、試練中の立ち回りについてある程度想定することはできた。
(6時半、か)
なるほど、かれこれ1時間半ほど探索していたのか。ならもうそろそろ戻ってもよさそうだな。そうして俺が船に戻ろうとした刹那、
「あら? もしかして私と同じ事前調査組かしら」
背後から声。まあ俺と同じような考え方の奴がいてもおかしくないか、と思い俺は後ろを振り返る。そこには赤い瞳を輝かせた紺色の髪の女が佇んでいる。
「初めまして。私の名前はスカーレット。よろしく」
「スカーレットか、外国の奴なのか?」
「名前以外の個人情報を明かすつもりはないわ」
「・・・そうかよ」
「ところであなたもここにいるということは、試練の予習ってところかしら?」
「どうだろうな」
「あら、包み隠さなくてもいいのに。それ以外の目的で誰がこんなところに来るというのかしらね」
「観光かもしれないぞ」
「だとしたらよっぽどの変人ね」
俺とスカーレットはそのような軽口を交わし合う。
「でも、似たような考えの人たちもいるにはいるみたいね」
それは俺も感じていた。なんというか気配が島中に漂っていた。それもかなりの強者ばかり。
「そうなのか?」
俺はあえてとぼけて見せたが、嘘つきなどと難なく交わされてしまった。
「まあ、お互いけん制し合ってるってところかしらね」
「そういうお前はどうなんだよ」
あたりには今でも強い気配が漂ってはいるものの、目の前の少女からはそれが全く感じられない。
「私はそういうのにはあまり関心を持ってないからね。でもそんなに気になるなら・・・」
「・・・・・!」
その瞬間、彼女からとてつもないオーラが発せられるのを感じた。間違いなく島中に響き渡っていることだろう。数十個あった気配が一気に途切れ、あたりが彼女のオーラで包まれた。
「・・・なるほどな」
間違いない。こいつは俺が今まで見てきた中でもかなり上位の実力者だ。それもあいつ、二階堂花音をも上回っているほどの。
目の前の女は今はオーラをまとっておらず、俺に向けてニヤついている。
「あなたは出さないの?」
「馬鹿言え。俺は弱すぎて相手を威圧することなんかできねーよ」
「安心してちょうだい。弱かったら私のオーラで腰抜かしてるか気絶してるわよ」
相変わらず目の前の女はニヤニヤしながら俺を見てくる。周りの気配が途切れたところを見ると牽制勝負はスカーレットに軍配が上がったようだ。
「そういえば」
彼女は何かを思い出したかのようにそう言葉を発す。
「島内で誰かと会ったら聞こうと思ってたことがあるんだけど」
そう言って彼女は続ける。
「この試練について互いに知っている情報、そうね、例えば質問とかで手に入れた情報なんかがあれば共有したいなと思ってたのよ」
「・・・・・確かに名案かもしれないな」
その条件は俺にとってもおいしいものだ。だから俺は提案を飲むこととした。
「・・・だが悪い。俺はお前にとって有効となる情報は1つしか持ってないんだ」
もう1つは事前探索の件であるため言う必要などないだろう。
「あらそうなの? まあ私は提案者なんだから私の持ってる情報全部教えるわよ」
「助かる」
「それじゃあまずは・・・」
そうして彼女は自身のスマホを俺に見せる。見るとそこには様々なものがリスト形式で掲載されており、下にはそれぞれ数字が打ってある。
「これは、カタログか?」
「ええ、これは試練中に買うことのできるものの一覧よ。学園側から頼んだら送られてきたわ」
俺はスカーレットの端末に表示された商品の一覧を見る。食料、水はもちろん、トイレ、寝袋、衣類などの生活雑貨もそろえてある。俺が一番欲しかったものもあった。だが、それにしても
「・・・値段設定、高すぎないか?」
最初に配給される電子マネーは1500円だ。だが飲料水500mlにしても200円かかる。固定式トイレは1200円。あっという間に金が飛ぶ。
「つまりこれは・・・」
俺は1つの結論にたどり着き、彼女を見る。
「ええ、この試練は敵を倒すことが必須となる。潜伏作戦はあまりにも無謀ということよ」
この試練では敵を倒すごとに500円を得ることができる。この高い金額設定の下では500円の獲得はいつまでかかるか分からない試練を進めるにあたってかなり有利に働くだろう。なるほど、なかなかに作りこまれた試練だ。
「それでもただ1人2人倒しただけではまだ怪しいな」
「これくらい突破しろという学園側のメッセージでしょうね」
ただ能力だけじゃなくサバイバル技術も求められる試練。無能力者の俺にとってはうれしい内容だ。
「んで、もう1つの情報ってのは何なんだ」
「あら、それが人様にものを頼むときの態度かしら?」
「なんだ、そんなことを気にするような奴だったのか?」
「だったらどうする?」
「生憎と、俺は敬語は使いたくないんでな」
「ひねくれ者ね。嫌われるわよ」
「お前には言われたくないもんだな」
「まあいいわ。もう1つ教えてあげる」
そして彼女は告げる。
「・・・入学後の評価についてね」
「おいおい、試練とは関係ない話じゃないか」
「フフッ、でも知って損はない話じゃないかしら」
「・・・まあな、じゃあ聞かせてくれ」
「ええ、もちろん」
そして彼女は語りだした。
「まず、その島内はすべて監視されてる。死角もあるにはあるらしいけど、それは置いておくとして、生徒一人一人の行動はすべて見られるらしいわ」
「なるほど。つまりバナナの皮を捨てたりその辺に糞尿垂れ流してたりしたらちゃんとばれるってことだな」
「そういうことね」
なるほど、トイレは必須か・・・
「そして監視されているということはつまり、学校側に見られているということよ」
「だろうな、監視って言ってるんだからな」
「ええ、だからつまり個人個人のサバイバル内での行動が学校側に把握されて、入学後の評価に響くらしいわ」
つまりは、だ。サバイバル中に仮に誰も倒さなかったり、ぎりぎりで合格したりしようもんなら入学後の待遇は低くなるということか。そして俺がこの島を探索している中で監視カメラらしきものをいくつも目撃しているところから、この島はくまなく学校側に見られていることになる。
「まあ、入学後に私たちがどう評価されるかは教えてくれなかったんだけどね」
「なんだよ、結局分かってないじゃねーか」
「ふふ、でも注意力は高まったんじゃないかしら」
「まあ、そうかもな」
まあ監視があろうがなかろうが、死ぬ気でやらないと入学できないという事実は変わらないけどな。
「それで? あなたが得た情報ってのは何なのかしら?」
「ああ、そうだったな」
情報共有って形だし、俺も教えなければいけないか。そして俺は告げる。俺が持ってる情報を。
「この試練、相手を殺してもいいらしいぞ」
俺がそう言うと、目の前の女はニヤリと笑みを零した。
「なるほど、殺してもいいのね。てっきり気絶させないといけないとばかり思ってたわ」
「ああ、俺もまさか殺人が許容されてるとは思わなかった」
「ふふ、確かに言われてなかったわね、殺しが駄目だなんて」
目の前の女は変わらずニヤニヤと笑っている。
「良かったわ。これで中途半端に実力を抑える必要がなくなって助かる」
「俺は逆に死なないように怯えなきゃならんわけだが」
「まだ自分が弱いムーブをするつもりなのね。まあいいけど」
このシステムはおそらく学校側が中途半端な実力で個人を判断したくないって思惑から採用したものだろう。
「っと、そろそろ私は戻ろうかしら」
スマホを見ると時刻は6時50分を指していた。まあもう戻ってもいいだろうな。
「良ければ一緒に戻らない?」
「遠慮しておく」
「フラれちゃったわ」
そういうと彼女は踵を返して船の方へ向かっていった。あいつとは帰りたくないな、と思った俺は少し遠回りをして船へと戻るのであった。
 「・・・・・ん?」
船の麓までやってくると、そこには見知った顔がいた。
「奇遇だな、お前もこの島を見てたのか?」
「・・・え? アンタなんでここに」
俺が声をかけるとそこにいた少女、二階堂花音は驚いた表情でこちらを見てきた。
「今朝は早く目覚めてな。どうせならと思って島に降りたわけだ」
「あ、ふーん、そうなんだ・・・」
なんだろう、今日はどことなく彼女は焦ってるような、そんな感じがする。
「なんかあったのか?」
俺はそんな彼女の様子が気になり、声をかける。
「ええ、あんたも感じたでしょ? あの気配」
「あの気配?」
「ちょっと前に誰かがとてつもないオーラを放ってたじゃない」
スカーレットのことか。こいつの表情を見る限りやはりあいつの放ったオーラは島にいたやつを完全に威圧していたみたいだな。
「ああ、俺その時気を失ったんだよな。たぶんそのオーラのせいで」
「そうね・・・、まああれは気絶するやつは気絶するかもね」
まあ、してないが。
「んで、お前はあれに気圧されたってことなのか?」
俺自身、今までにこいつが焦っているような表情はあまり見たことがない。だからこそ俺は少し驚いている。
「いや、気圧されたわけじゃないけど。ただ、あれほどの気配は今まで感じたことなかったから驚いたってところかしら」
「ほう、今までは絶対的な強さを見せつけてきたお前からは出てこなさそうなコメントだな」
「あのねえ、私はべつに自分の実力を見せびらかしたいとは思ってないし、他にマウントとろうとも思ってないのよ」
彼女は俺をジト目で見ながらそう言う。
「でも、あれくらいの実力者がいるってなるとさすがに気を抜けないわね」
そういうと彼女は表情を引き締め、
「この学園に入学するためにも、私は必ずこの試練で生き残る。油断はしないわ。全力で取り組む」
と、そう宣言した。
「ああ、油断はするなよ? 俺もお前が不合格になるのは嫌だしな」
「・・・アンタの方がやばいの自覚してる? 正直私アンタが生き残れる気がしないんだけど」
「大丈夫だ、何とかなる」
「その自信はどこから来るのかしらね」
はあっと彼女は重い溜息をついた後、
「まあ、アンタも頑張りなさいよ」
そう言って俺に背を向け歩き出した。
「生き残れる気がしない、か」
1人になった俺は彼女の言葉を頭で反芻する。
「まあ、なんとかなるさ」
たとえスカーレットのような強者が立ちふさがったとしても、きっと何とかなるだろう。今の俺にはなぜかそのような自信が溢れているのであった。
 朝食を食べ終え、俺は自室でその時が来るのを待っていた。ちなみに服装なんかは指定がないみたいなので俺は愛用の私服(超シンプル)を身に着けていた。制服なんかでは動きにくいからな。
どうやら9時までに部屋で待機しておけばいいらしいので、俺は適当にぼーっと過ごしていた。
「・・・いったいどうなるのやら」
俺が頭の中で試練での立ち回りはどうしようかと考えていると、
「・・・そろそろ9時だな」
秒針が動く。5、4、3、2、1・・・
・・・0
そして突然、俺の視界は真っ黒に染まり、目を開けると、
「なるほど、ワープ系の能力か」
俺は、森の中に放り込まれているのであった。


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