旦那様は甘かった

松石 愛弓

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「君に初めて会ったのは、まだ5歳の頃だった。大人たちのお茶会が退屈で、こっそり抜け出し君と庭を探検したんだ。君は私が王子だと気付かず、普通の友達のように接してくれた。
 それから10年後、学園では同じクラスになり、山へ遠足に出かけた。
 私は巨大な熊に襲われそうになり、護衛たちも恐れをなして腰を抜かすし、危機一髪のところで、君が私を背中におぶって熊より速く走り逃げ切ってくれた」

「走ることと鍛錬が趣味でしたの」
 私は恥ずかしくなって、頬を赤らめてしまいます。

「君が風のように野山を駆け抜けた時、君の背中に乗っていた私は、恋に落ちた」

「そのタイミングで?」

「恋とは突然やってくるものさ」

 王子様は、フッと照れ笑いをしながら続けました。

「その後、私が谷底に落ちそうになった時にも助けてくれた。他のクラスメイトが大蛇や大蜘蛛や大猪に襲われそうになった時も、君は助けに行った」

「なんであんな危険な山に遠足に行ったのでしょうね?」

「さぁ・・・。でも、君は困っている人を放っておけない優しい人だと思ったよ」

「身に余るお言葉ですわ。あの後、王子様や級友を救助したご褒美だと王様からトレーニングジムを1軒いただきましたの。これからも、これで体を鍛えるようにとの仰せで。私ひとりで使うには勿体ないほどの充実した施設でしたので、領地の皆さんにも使っていただいております」

「それでこの領地には、筋骨隆々な人が多いんだね」

「おかげさまで」

 私たちは和やかな雰囲気で微笑み合います。

「私は、隣国の姫との政略結婚が決まっている。側室を持つことも許されない身だ。でも、私が幼い頃から好きだったのは、君だけだ。
 君と恋することは出来なかったが、君の幸せを守れるように応援したいと思っている」

 真剣に話される王子様は、ぞくりとするほど美しいお姿でした。

「フランク王子様・・・」

 
 その時、ドアが叩かれました。

 立ち上がり私がドアを開けると、王子様の護衛騎士たちが旦那様とピンキーを連れてきていました。

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