下宿屋 東風荘 7

浅井 ことは

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南中心街から秋へ

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買えなくなる前に買ってから進もうと提案し、布団の中に潜り込んでゆっくりと寝る。

朝は、早めに起きて朝食を摂り、桔花に一人にしてごめんねと行ってから荷台に乗り込み、市場を回ってから街道に出ると、車の渋滞ならぬ荷馬車の渋滞にハマってしまった。

「朝から凄いんだけど」

「どうも宿の主人が言うには、この冬は早くに雪が降りそうだと。南ではめったに降りませんが、さすがにこれだけ冷えると降るかも知れません。寒いので後ろは閉めたままで。寒いようでしたら、火鉢に木炭を入れてください」

「中毒とかにならない?」

「風通しがいいのでなりません。それ、密室のことですよね?あちらのテレビというので見ました」

三郎と四郎、周太郎と祖父母とともに二時間サスペンスを毎夜見ていたと言い、そのなかに七輪での事件があったという。

目の前にあるのはスーパーのレジのかごほどの大きさのもので、荷馬車に乗せて使っても大丈夫な大きさだと言う。

「冬についたらあとひとつ欲しくなるくらい寒いです。なので、木炭はとても大事なので、買える場所で買いだめておきたいんです」

「わかった。一個使うね」

教えて貰った通りに火を付けて待っていると、段々と暖かくなってはきたが、かなりの時間がかかり、冬だとどのぐらい使うんだろう?と火にあたりにきた紫狐に聞く。

「お館様の家では、常に火をつけておいてありましたから、お部屋があったかいんですー。冬だと、これ一つでは凍えてしまいます。この荷台は隙間風が入るのでもう一つあってもいいと紫狐は思いますー」

「御者台にもいるよね?」

「勿論ですー!でないと重次さんが凍ってしまいますー」

既にプルプルと震えている翡翠と、金、銀に毛布をかけてあげ、檪にもと渡すと、「まだ平気だ」と言われる。

「それでもこんな混雑は見たことが無い」

「いっちーは、天の神様なのに、下のこと見てたんですか?」

呑気にいっちーと呼ぶ紫狐は誰とでも仲良くなれるが、まさか天の使いの狐をいっちーと呼ぶとは思っておらず、こちらが「いいの?」と聞いてしまうほどだった。

「構わん。我らとて下の街を見ない訳ではないし、祭りと聞けば見ながら宴をしたりもしていた。だが、こんなに混んでいるのは初めて見た。ちょっと見てこよう」

ふっと姿を消して行ってしまったので、檪も好奇心旺盛だなとだけ思い、重次にもひざ掛けを渡す。

「ぼ、坊っちゃま……天の使いの方を使いっパシリのようにされて大丈夫なのでしょうか?」

「だって勝手に見に行くんだもん。いつもそんな感じだよ?」

「はぁ……」

「それよりも、御者台の火鉢はどうするの?」

「そこから見えますか?私の足元に埋め込まれてます。上に蓋もついてるので、外せば使えますよ」

「付けたの?」

「いえ、元々付いてました。なので安いと言ったのもあるんです。横にはランプもついてますから、夜も走れますが、冬の国に入ったら、桔花が歩けそうな道を選ばないと進めないかと」

「置いていけないもんね」

「置いていくなど!選択枝としては無いこともないのですが、車椅子では冬の国では雪で埋まるので進めません」

「桔花には悪いけど、頑張ってもらわないと。あ、戻ってきた」

「重次と言ったな?」

「え?は、はい」

「前の方で何があったかはわからんが、荷馬車が三台ひっくり返っておった。これでは一日待っても動かん」

「広い街道で何も無いんですが……」

「海側にみんな回っておる」

「では、反対の山側……一本奥の道に入る方がいいと?」

「いや、行けるところまで山側の道で行くほうがいい。周りの者達もどちらで行くか話しておったから、その奥で先回りして行ったほうが早いし、今行かないとどこも一杯になる……」

「檪……だからね?言葉が硬いから、重次さん困ってるじゃん」

「す、済まない」

「いえ、そのままで大丈夫です。檪様、山側は途中で道が塞がっていたと思うのですが」

「その手前で街道に出るのに、馬は走らせてもつか?」

「全力でなければ」

「ならそれでいい」
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