下宿屋 東風荘 7

浅井 ことは

文字の大きさ
24 / 68
南中心街から秋へ

.

しおりを挟む
家に入って、胡蝶が侑弥が見たいと言っていることを栞に告げ、リビングに連れてきてもらう。

「おお、元気にしておったか?赤子というのは可愛いものよのぅ」

そう言って抱っこしながら、気が緩んでいるのかいつの間にか耳が出ている。

「胡蝶さん出てる!出てるっ!」

「あぁ、妾の耳かえ?たまには良いであろ?のぅ、侑弥よ」

「胡蝶さんて、尻尾は?」

「無いがどうかしたかえ?」

「無い?」

「天狐ともなると尾はなくなるのじゃ」

「え?でも冬弥さんはあるよ?」

「そろそろなくなると思うがのぅ?確かに神格化した天狐は幾人か居るが、尾が残ったままの天狐は今まで居らなんだ」

「私も不思議なんですけどねぇ。うちの父に聞いたら、一年ほどで無くなると言ってましたが」

「力によって違うといえば違うが、そなたの力は桁外れじゃからのぅ、ま、あっても無くても困るまい?」

「そんなものなの?」

那智を見ると、分からんと言われただけなので、近くにいた重次に目でそろそろ……と合図を送る。

キャッキャッと笑ってご機嫌な侑弥をベビーベッドに胡蝶が寝かし、リビングのソファまで来ると同時に重次が大きな鞄を下げて戻ってきた。

「雪翔君!」

「ごめんね、栞さん。次の学校の日も帰ってくるから」

なにか言おうとした栞を冬弥が止め、「気をつけて行くんですよ」と手を振ってくれる。

そのあと、冬弥とは違う光に包まれ目を開けると、出てきた時と同じ宿屋に着いた。

「桔花 きっかも荷もそのままにしてますから。この荷物はどうしますか?」

「その荷の中に、解読したものは入っておるのかえ?」

鞄を見ると、紐で閉じられたワープロ用紙が入っていたのでそれを見ると、冬弥が纏めてくれたものだったので、胡蝶に渡す。

「ここじゃ何だから、部屋に……」

「ふむ、少しばかり邪魔をする」

重次がお茶を入れて胡蝶に渡し、胡蝶が読んでいる間に荷物の確認をする。

「あ、翡翠の服も入ってる」

「玄関に置いてあった毛布も入れておきました。それと、薬と鞄も」

「ありがとう。教科書とプリントもあるし、夜にやるね」

カバンの整理が終わる頃に、「これは今回見つけたと聞いたもののみの解読じゃな?」と聞かれるので、そうだと答えると、「全ての解読したものは用意できるのじゃろう?」と言われる。

「何か……前に見たのと少し中が変わってるように思えて、今見直してて。でも、地図みたいなのがあって、それもいくつかの形に変わるからどこか分からないから、こっちの地図も見ないとって思ってるところで……冬弥さん達はわかったみたいだけど」

「全部解読できるまでどのくらいかかるのじゃ?」

「一週間はいると思う……」

「ならば、出来上がったらその紐に念じて呼んでくれたら良い。昴と少し検討したいが良いか?」

「はい」

胡蝶が帰り、重次が宿の主人と話してくると出ていったので、先に学校のプリントを一枚やり、そのあと戻った重次とお風呂に入る。

「何日か留守にして大丈夫だったの?」

「はい。昴様が何か言っておいてくれたようですので、今夜までの宿泊となり、明日の朝に出発します」

「どう進むの?」

「この数日で東からの帰りの荷馬車で混雑してるようなので、中心の街道から外れます。そこから一気に南の中心と秋の境とのあいだまで行きたいと思うのですが、ちょっと問題が……」

重次のいう問題とは、やはり境目の方になると宿が少なくなるということ。それとこれからもっと寒くなり出す時期なので、山賊が荷物を狙って出やすくなるということだった。

「僕、前に攫われたことあるよ?」

「お聞きしております。なので、なるべく団体の振りをして進みたいのですが、それだと坊っちゃまが一周するまでに三ヶ月以上かかってしまいます。足止めされるのは秋と冬の境にかけてからと、冬の中心街を越えるまでですから、今は少しでも進んでおかないとと思いまして。境に入る前に多めに薪などを買っておきたいと思うのですが。木炭と携帯型の火鉢も要ります」

「明日でて、買うところある?」

「街道をそれてしまうと中々……」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

あやかし家族 〜五人の兄と愛され末妹〜

南 鈴紀
キャラ文芸
 妖狩りにより両親を奪われ、囚われの身となった半妖の少女・鈴音は浄化の狐火を利用するだけの道具のように扱われていた。呪いにより成長は止まり、容姿も思考も幼いまま、感情が消え失せてもなおただ生かされるままに生きていた。  しかし妖保護部隊本部第一部隊との出会いにより、鈴音の止まっていた時間が動き出す。  掴みどころはないが頼れる氏神・雅仁、兄には厳しいが弟妹には優しい狼の妖・千里、人間嫌いだが人当たりの良い振りが得意な人間・遥杜、可愛いもの好きで元気いっぱいの猫又・鴇羽、大人しいが思いやりに溢れる猫又・瑠璃。  五人の兄と過ごす時間の中で、無いものだらけだった鈴音にもやがて大切なものが増えていく。  妖×家族の心温まる和風ファンタジー。

下宿屋 東風荘 2

浅井 ことは
キャラ文芸
※※※※※ 下宿屋を営み、趣味は料理と酒と言う変わり者の主。 毎日の夕餉を楽しみに下宿屋を営むも、千年祭の祭りで無事に鳥居を飛んだ冬弥。 しかし、飛んで仙になるだけだと思っていた冬弥はさらなる試練を受けるべく、空高く舞い上がったまま消えてしまった。 下宿屋は一体どうなるのか! そして必ず戻ってくると信じて待っている、残された雪翔の高校生活は___ ※※※※※ 下宿屋東風荘 第二弾。

レオナルド先生創世記

ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!

【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式
恋愛
「おまえは前提条件が悪すぎる。皇妃になる前に、離縁してくれ。」 新婚初夜に皇太子に告げられた言葉。 1度目の人生で聖女を害した罪により皇妃となった妹が処刑された。 2度目の人生は妹の代わりに私が皇妃候補として王宮へ行く事になった。 そんな中での離縁の申し出に喜ぶテリアだったがー… 別サイトにて、コミックアラカルト漫画原作大賞最終候補28作品ノミネート

【完結】お父様の再婚相手は美人様

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 シャルルの父親が子連れと再婚した!  二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。  でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

多分、うちには猫がいる

灯倉日鈴(合歓鈴)
恋愛
傭兵のコウの家には、いつの間にか猫が住み着いていた。 姿は見えないけれど、多分、猫。 皿を洗ったり、洗濯をしたり、仕事を手伝ったり、ご近所さんと仲良くなったりしているけど、多分、猫。 無頓着な傭兵の青年と、謎の猫のステルス同居物語。 ※一話一話が非常に短いです。 ※不定期更新です。 ※他サイトにも投稿しています。

【完結】一番腹黒いのはだあれ?

やまぐちこはる
恋愛
■□■ 貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。 三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。 しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。 ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。

処理中です...