下宿屋 東風荘 7

浅井 ことは

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南中心街から秋へ

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家に入って、胡蝶が侑弥が見たいと言っていることを栞に告げ、リビングに連れてきてもらう。

「おお、元気にしておったか?赤子というのは可愛いものよのぅ」

そう言って抱っこしながら、気が緩んでいるのかいつの間にか耳が出ている。

「胡蝶さん出てる!出てるっ!」

「あぁ、妾の耳かえ?たまには良いであろ?のぅ、侑弥よ」

「胡蝶さんて、尻尾は?」

「無いがどうかしたかえ?」

「無い?」

「天狐ともなると尾はなくなるのじゃ」

「え?でも冬弥さんはあるよ?」

「そろそろなくなると思うがのぅ?確かに神格化した天狐は幾人か居るが、尾が残ったままの天狐は今まで居らなんだ」

「私も不思議なんですけどねぇ。うちの父に聞いたら、一年ほどで無くなると言ってましたが」

「力によって違うといえば違うが、そなたの力は桁外れじゃからのぅ、ま、あっても無くても困るまい?」

「そんなものなの?」

那智を見ると、分からんと言われただけなので、近くにいた重次に目でそろそろ……と合図を送る。

キャッキャッと笑ってご機嫌な侑弥をベビーベッドに胡蝶が寝かし、リビングのソファまで来ると同時に重次が大きな鞄を下げて戻ってきた。

「雪翔君!」

「ごめんね、栞さん。次の学校の日も帰ってくるから」

なにか言おうとした栞を冬弥が止め、「気をつけて行くんですよ」と手を振ってくれる。

そのあと、冬弥とは違う光に包まれ目を開けると、出てきた時と同じ宿屋に着いた。

「桔花 きっかも荷もそのままにしてますから。この荷物はどうしますか?」

「その荷の中に、解読したものは入っておるのかえ?」

鞄を見ると、紐で閉じられたワープロ用紙が入っていたのでそれを見ると、冬弥が纏めてくれたものだったので、胡蝶に渡す。

「ここじゃ何だから、部屋に……」

「ふむ、少しばかり邪魔をする」

重次がお茶を入れて胡蝶に渡し、胡蝶が読んでいる間に荷物の確認をする。

「あ、翡翠の服も入ってる」

「玄関に置いてあった毛布も入れておきました。それと、薬と鞄も」

「ありがとう。教科書とプリントもあるし、夜にやるね」

カバンの整理が終わる頃に、「これは今回見つけたと聞いたもののみの解読じゃな?」と聞かれるので、そうだと答えると、「全ての解読したものは用意できるのじゃろう?」と言われる。

「何か……前に見たのと少し中が変わってるように思えて、今見直してて。でも、地図みたいなのがあって、それもいくつかの形に変わるからどこか分からないから、こっちの地図も見ないとって思ってるところで……冬弥さん達はわかったみたいだけど」

「全部解読できるまでどのくらいかかるのじゃ?」

「一週間はいると思う……」

「ならば、出来上がったらその紐に念じて呼んでくれたら良い。昴と少し検討したいが良いか?」

「はい」

胡蝶が帰り、重次が宿の主人と話してくると出ていったので、先に学校のプリントを一枚やり、そのあと戻った重次とお風呂に入る。

「何日か留守にして大丈夫だったの?」

「はい。昴様が何か言っておいてくれたようですので、今夜までの宿泊となり、明日の朝に出発します」

「どう進むの?」

「この数日で東からの帰りの荷馬車で混雑してるようなので、中心の街道から外れます。そこから一気に南の中心と秋の境とのあいだまで行きたいと思うのですが、ちょっと問題が……」

重次のいう問題とは、やはり境目の方になると宿が少なくなるということ。それとこれからもっと寒くなり出す時期なので、山賊が荷物を狙って出やすくなるということだった。

「僕、前に攫われたことあるよ?」

「お聞きしております。なので、なるべく団体の振りをして進みたいのですが、それだと坊っちゃまが一周するまでに三ヶ月以上かかってしまいます。足止めされるのは秋と冬の境にかけてからと、冬の中心街を越えるまでですから、今は少しでも進んでおかないとと思いまして。境に入る前に多めに薪などを買っておきたいと思うのですが。木炭と携帯型の火鉢も要ります」

「明日でて、買うところある?」

「街道をそれてしまうと中々……」
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