下宿屋 東風荘 7

浅井 ことは

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南中心街から秋へ

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「し、しーちゃん……」

「だって、ゆっきーの結界を以てしても、天の使いのいっちーの気は結構すごいと思うのですー。それに、紫狐も冬弥様から天狐の気の欠片を貰ってるので、普通の狐の眷属よりは神気が出てると思います。弱いですけど……普通の一般に付いている民の狐より、位は紫狐たちの方が上ですし、そこに天狐の欠片に天の使いですよ?普通はわかると思うんですー。なのに襲ってきたからおバカさんだと言ったんですー」

「なぁ、もう出てもいい?」

金と銀に翡翠まで出てきて男を取り囲み、じーっと見ているので、流石に男も俯いてしまった。

「結界でさ、入れないのに追いかけてくるってところが変じゃない?」

「金?」

「俺たち見た目は小さいし、種も違うけど、そのくらい分かるよ?」

「見たまんまではないか!」

「いっちー、俺たちはまだ大きくなれるって言ってたじゃん!」

「すぐに大きくなるわけないだろうが!」

「チェッ。でも、こいつから変な匂いがするんだよなー」

そう言って銀が翡翠をだっこして、男の前に差し出すように脇の下に手を入れてグイッと近付けると「くっちゃー!くっちゃい!」と翡翠が暴れる。

「銀、翡翠かして」

翡翠を男に近づけたり離したりすると、「くっちゃい!」「ふぅー!」と忙しそうに翡翠がするので、「重次さん、この人お役人じゃなくて、昴さんたちのがいいかも」と言うと、すぐに分かってくれたのか手首の紐で連絡を取ってくれる。

『儂じゃ。今、あ奴らが忙しくてのぅ。何かあったか?』

『お爺ちゃん!僕、雪翔!』

『おお、どうじゃ旅は。もう秋の国に入ったか?』

『まだトンネルの手前なんだけど……』と事情を話すと、『そこからなら夏樹が一番近い。雪翔達はトンネルの前の役人の所で待っておるといい。夏樹と合流して、引き渡してくれたらあとはこちらで尋問するでのぅ』

『でも夏樹さんて文官だったよね?』

『そうじゃが、いくつかの権限は持っておるぞ?何せ城付きじゃからの。それに南の事は南にじゃ。儂の弟に任せておけば色々とわかるじゃろ』

そのあとは、トンネルの手前まで行き、祖父に言われた通り役人の人に重次が事情を説明して、夏樹が来るのを待ちながら、遅めの食事をとることにした。

「火使ってもいいの?」

「許可はもらいました。パンとスープになってしまいますが、『こんそめ』というのを入れればなんでもできると栞様が……」

「だったら僕するよ。先に野菜茹でないと」

ジャガイモと、ブロッコリーに似た野菜などを鍋に入れて沸騰させ、コンソメを入れる。
塩と胡椒で味を整えれば出来上がりなのだが、重次曰く、いつの間にかカバンに塩コショウなどの調味料が入っていたというので、冬弥が入れてくれたんだろうと、器によそいながら紫狐たちにもお疲れ様と配る。

「檪は食べられるの?」

「人形ひとがたになるのが面倒だからこのまま食べる」

と、冷めるまで待っていたようなので、パンもちぎって布の上に置いておいた。
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