下宿屋 東風荘 7

浅井 ことは

文字の大きさ
34 / 68
南中心街から秋へ

.

しおりを挟む
とにかく結界を張るのに集中しろと言われ、目を閉じてそれだけに集中しつつ、周りから聞こえてくる音にも耳を傾ける。

「話し声が聞こえるよ?」

「俺には聞こえぬ」

「この馬車の屋根に乗れないとか、近付けないとか……違う荷馬車に変更するって言ってるけど……この馬車が怪しいから境界まで付いてくるって。二人!二人だけ付いてくるって言ってる!」

「外の声が聞こえるのか?」

「檪は聞こえない?」

「ハッキリとは。でも二人ならば、俺だけで十分だ」

そう言って荷馬車から降りて行ってしまったが、今度は御者台の方でガタッと音がして慌てて張っていく。

「馬車を止めてくれ」

「檪、この人誰?」

「坊っちゃま、脇に停めます。ロープがあるので貸してください」

手元にあったロープを渡すと、相手が逃げられないようにぐるぐる巻きにし、口には手ぬぐいを巻いて口を塞いでいる。

「ここまでしなくっても……」

「坊っちゃま、結界を解いてもらっていいです。この者は旅の馬車を専門に狙っている野党の一味です。山賊とも言いますが、トンネルの前に役人がいるので、そこで引き渡します」

「分かった。その人どうなるの?」

「ちゃんと聞かれたことに答えれば、未遂ですので大した罪にはなりませんが、これまでどれだけ襲ってきたかにもよりますから、軽い刑ではないでしょう」

男の身なりは裾がボロボロになった紺色のズボンに、元々は白色であったであろうシャツ。なんの動物かはわからないが、動物の皮でできたベストのような羽織ものに素足。

その割に足の裏に傷がなく、靴が脱げただけなのかもしれないが、かなり汚れている。

「坊っちゃま、もうすぐ着きますのでそれまで少し辛抱してください」

「うん……」

「縄を解いたらダメですよ?」

「え?わ、分かった」

そうは言われても男が見てくるのでつい視線を合わせてしまい、慌てて目をそらすが、離れたところに座らせているとはいえ気にならない訳がない。

「檪、もう一人は?」

「逃げた」

「いいの?」

「すばしっこい奴だったし、こっちの方が色々と話しそうだったから連れてきた。この男、あまり良い気は出しておらん。近付くな」

「これ以上は近付かないけど、その人下っ端とか言うのじゃないの?何人も居たんならみんなもう逃げてるよきっと」

「そうかもしれませんが、この男の目は何やらまだ諦めてない目をしてますので、溜まり場がわかれば後はお役人様の仕事です」

影からは、紫狐を初めとしてみんなが顔を覗かせており、興味津々で見ているので、中に入っててよと紫狐にみんなを連れて行ってもらい、そのあとに紫狐だけが出てくる。

「ヒッ!」

紫狐の姿を見て小さな悲鳴を男がしたが、見たことがない訳では無いだろう。

「この方ー、狐がついてません!」

「お爺ちゃんが言ってたやつかな?」

「そうだと思いますー。でも、付いてない人は結構いますけど、匂いはしますー。誰か他の人についてる狐が常にこの人のそばにいたと思いますー」

「分かるの?」

「はいー。でもですね、匂いがするので、近くまで行けば指示してた人とか見つかると思いますよ?なので、お役人様にはそのことを伝えた方がいいと思いますー」

「捕まえられるかな?」

「専門の人が居たはずですよ?それにしても、この馬車を狙うなんて勇気ありますねー。紫狐なら絶対狙いませんよ?この馬車にいる狐の匂いがわからないわけないと思うんですけど……この方のご主人様はおバカさんだと思いますー」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

あやかし家族 〜五人の兄と愛され末妹〜

南 鈴紀
キャラ文芸
 妖狩りにより両親を奪われ、囚われの身となった半妖の少女・鈴音は浄化の狐火を利用するだけの道具のように扱われていた。呪いにより成長は止まり、容姿も思考も幼いまま、感情が消え失せてもなおただ生かされるままに生きていた。  しかし妖保護部隊本部第一部隊との出会いにより、鈴音の止まっていた時間が動き出す。  掴みどころはないが頼れる氏神・雅仁、兄には厳しいが弟妹には優しい狼の妖・千里、人間嫌いだが人当たりの良い振りが得意な人間・遥杜、可愛いもの好きで元気いっぱいの猫又・鴇羽、大人しいが思いやりに溢れる猫又・瑠璃。  五人の兄と過ごす時間の中で、無いものだらけだった鈴音にもやがて大切なものが増えていく。  妖×家族の心温まる和風ファンタジー。

下宿屋 東風荘 2

浅井 ことは
キャラ文芸
※※※※※ 下宿屋を営み、趣味は料理と酒と言う変わり者の主。 毎日の夕餉を楽しみに下宿屋を営むも、千年祭の祭りで無事に鳥居を飛んだ冬弥。 しかし、飛んで仙になるだけだと思っていた冬弥はさらなる試練を受けるべく、空高く舞い上がったまま消えてしまった。 下宿屋は一体どうなるのか! そして必ず戻ってくると信じて待っている、残された雪翔の高校生活は___ ※※※※※ 下宿屋東風荘 第二弾。

レオナルド先生創世記

ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!

【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式
恋愛
「おまえは前提条件が悪すぎる。皇妃になる前に、離縁してくれ。」 新婚初夜に皇太子に告げられた言葉。 1度目の人生で聖女を害した罪により皇妃となった妹が処刑された。 2度目の人生は妹の代わりに私が皇妃候補として王宮へ行く事になった。 そんな中での離縁の申し出に喜ぶテリアだったがー… 別サイトにて、コミックアラカルト漫画原作大賞最終候補28作品ノミネート

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

【完結】お父様の再婚相手は美人様

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 シャルルの父親が子連れと再婚した!  二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。  でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。

【完結】真実の愛はおいしいですか?

ゆうぎり
恋愛
とある国では初代王が妖精の女王と作り上げたのが国の成り立ちだと言い伝えられてきました。 稀に幼い貴族の娘は妖精を見ることができるといいます。 王族の婚約者には妖精たちが見えている者がなる決まりがありました。 お姉様は幼い頃妖精たちが見えていたので王子様の婚約者でした。 でも、今は大きくなったので見えません。 ―――そんな国の妖精たちと貴族の女の子と家族の物語 ※童話として書いています。 ※「婚約破棄」の内容が入るとカテゴリーエラーになってしまう為童話→恋愛に変更しています。

処理中です...