下宿屋 東風荘 7

浅井 ことは

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秋の国

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山菜汁を堪能したあと、お風呂にのんびりと浸かり、明日冬弥が帰ってしまうのでと寝るまえに手紙を書いて渡す。

「栞さんに。いつも困らせてるから、手紙ぐらいいいかなって」

「喜ぶと思います。私にはないんですか?」

「え?今会ってるし……」

あからさまに肩を落としているので、今度までに光の玉を作れるようになっておくと約束し、布団に潜ってから翡翠のことを思い出す。

「忘れてた!外かな?」

「漆もいますから、影に入れてると思いますよ?」

「影の狐の影の中?入れるの?」

「漆と琥珀は出来ます。神気もかなり渡してありますし、元々彼らは強いので」

「だったら安心かな」

そう言って眠りについてどのくらい経ったのか、真夜中に漆が飛び込んできて、翡翠を「隠せ」と言って投げてくる。

「え?え?何?」

「早う隠さんか!」

「は、はい!」

翡翠も何が何だかわかっていないのか、きょとんとした顔でこちらを見てくるが、とにかく言われた通りにしようと言って影に入ってもらう。

「ゆっきー!結界です。結界をバーンとして下さい」

尻尾の毛が逆だった紫狐が結界と言ったので、部屋に仕込んでおいた結界を発動し、部屋を守ることに専念する。

「白、黒、冬弥さんに続いて。金と銀は重次さんを守って」

「雪は?」

「僕はいい。平気だよ」

みんながそれぞれの位置につき、なにが起きているのか説明して欲しいと思いながらも、歩いていくことが出来ないので、そっと車椅子に座り、車椅子の結界も発動しておく。

「雪、人形 ひとがたのやつで外見に行かせれるよ。前みたいに息ふきかけて」

「金、でも僕持ってない……」

「なんの紙でもいいから!」

それでいいのか?と思いながらも言われたとおりに書き、息を吹きかけて式を飛ばして外の様子を見る。

外には誰もおらず、厩と荷台の方を見に行くと、荷台にかなりの数の蛇がまとわりついている。

いつの間に外に出たのか、重次が狐たちと一緒に蛇を踏み潰していき、旅館の天上の蛇の中でも一番大きな蛇と冬弥が戦っている。

式を消し、意識を自分に戻すと「ダメですね、まだ二つ同時には何もできていない」と蛇から人の姿に変わった九堂に顔を近づけられ、ズボッと影の中に手を入れられ、解読した紙の束を取られる。

「最初から僕に解読させようとしてたんだ……」

「その通り。ここまで本体で来るのには苦労しました。人の荷に隠れたり、影に混じったりと。それに前の戦いでの怪我がなかなか治らずにいたので、それにも苦労しました。流石は天狐。容赦無いです」

「どうしてここが分かったの?」

「航平くんでしたっけ?彼の影に隠れて話も聞いてましたから、皆さんが雪翔君の居場所の話をしているのを聞いて、チャンスだと思ったんです」

ジュルリと大きな音を立てて舌舐りしたあとに、「安心してください。航平君には何もしてませんから」

「返してよ。その紙、みんなで暗号といたんだから!」

「助かりましたよ?では、私は君の怖いお父さんが来る前に退散します」
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