62 / 76
非日常
.
しおりを挟む
紫狐が中に入り、あらかた治療が終わったのか、ほかの狐たちも影に戻っていく。
「ひーたんも、おににぎ!」
「おにぎり欲しいの?」
うんうんと首を振り、女中が一つ小さなおむすびを渡すと、両手で上手に持ってパクパクと食べ、大根のお漬物までポリポリと食べている。
「雪ー、おににぎっ!」
「え?僕?」
そう言いながらも小さいのをひとつ作って渡すと、またパクパクっとすぐに食べ終えてしまった。
「ひーちゃん、お水飲む?」
「のむ!いちごもー」
「今?買いに行かないと無いかも……」
「むむぅー!おやつ、いちごっ!」
「分かったよ。それよりもさ、臭いって何?」
「くちゃいの!とやさんクッチャーイの!」
「多分、妖の臭いだと思います。かなり集まっていたので」
「何があったの?服もボロボロだし、那智さんもそうだったけど……」
「ちゃんと話しますから、お風呂行ってきていいですか?私の着物でいいので、玲にも一つお願いします」
祖母が用意すると出ていき、冬弥たちが出ていった入れ替わりに那智が起きてきた。
「俺も飯……なんだ?」
「那智さんが着物着てるから……」
「仕方ないだろう?借りるしかなかったから。ちょっと丈が短いけどな」
「那智が大きすぎるんですよ。私の着物でさえ短いとか文句言わないでください。この家で体格が似てるのは私しかいないんですから」
「はいはい、でも地味だよな?」
朱色の着物に黒に近いグレーの帯をしながら、地味と言える那智に、京弥も呆れたのか、それだけ文句が言えるなら体も平気だろうと背中を叩く。
ガタンと襖が勢いよく開けられ、入ってきたのは航平。
「見に行ったら居なかったんで、探したんですよ?何ほっつき歩いてんですか?」
「航平、仮でも今俺はお前の親父だぞ?」
「わ、分かってますけどっ!心配したんですから……」
「俺のことは人前では名前でいいが、それ以外なんて呼ぶんだったかな?」
「だ……」
「だ?」
「ダディ……」
その場にいたみんなが一瞬固まったあと、大笑いしたのは言うまでもないが、顔を赤らめて正座をして下を向いてる薄いブロンドのハーフが言うには結構似合っている。
「航平ちゃん、言いにくかったのわかったよ。僕なんてパパってまだ呼んでないもん。那智さんに言われて言ったことはあるけど……ダディって……あー、お腹痛い」
「だからいいたくなかったのに……辞めましょうよ人前ではっていったじゃないですか」
「ん?ここは親戚の家。お前にとっても親戚の家になり家族と一緒だ。分家ということは忘れちゃダメだが、普段はダディでいいぞ?」
「勘弁してください……」
「で?『だでー』とは何じゃ?」
「叔父上、外国ではそう呼ぶ国があるそうです。航平の母国でも子供はそう呼ぶと聞いたことがあるので、そう呼ばせようとしてるんですが……反抗期……ですかね?」
「違いますっ!ダディなんて小さい子しか言いませんよ……どこで覚えたんですか?」
「テレビ」
「那智さんでいいじゃないですか」
「嫌だ」
「那智よ、航平が困っておるぞ?まぁ、親子になるんならお前達で好きに呼び名は決めればいいが、那智が親とはのう」
「結婚する気は無いんですけど、航平ならって思ったんです。勘みたいなものですが」
「そうか。まぁ、儂等は孫が増えるのは歓迎じゃ。雪翔のいい兄であってほしいと願うだけじゃがな」
「それは勿論です」
航平の言葉に安心したのか、祖父も頷くと航平の食事も用意させて、しっかり食べろと二人に言っている。
早く何があったか聞きたいのに、なかなか話が進まないので、仕方なく冬弥たちがお風呂から戻ってくるまで足を伸ばし、壁にもたれかかる。
「ひーたんも、おににぎ!」
「おにぎり欲しいの?」
うんうんと首を振り、女中が一つ小さなおむすびを渡すと、両手で上手に持ってパクパクと食べ、大根のお漬物までポリポリと食べている。
「雪ー、おににぎっ!」
「え?僕?」
そう言いながらも小さいのをひとつ作って渡すと、またパクパクっとすぐに食べ終えてしまった。
「ひーちゃん、お水飲む?」
「のむ!いちごもー」
「今?買いに行かないと無いかも……」
「むむぅー!おやつ、いちごっ!」
「分かったよ。それよりもさ、臭いって何?」
「くちゃいの!とやさんクッチャーイの!」
「多分、妖の臭いだと思います。かなり集まっていたので」
「何があったの?服もボロボロだし、那智さんもそうだったけど……」
「ちゃんと話しますから、お風呂行ってきていいですか?私の着物でいいので、玲にも一つお願いします」
祖母が用意すると出ていき、冬弥たちが出ていった入れ替わりに那智が起きてきた。
「俺も飯……なんだ?」
「那智さんが着物着てるから……」
「仕方ないだろう?借りるしかなかったから。ちょっと丈が短いけどな」
「那智が大きすぎるんですよ。私の着物でさえ短いとか文句言わないでください。この家で体格が似てるのは私しかいないんですから」
「はいはい、でも地味だよな?」
朱色の着物に黒に近いグレーの帯をしながら、地味と言える那智に、京弥も呆れたのか、それだけ文句が言えるなら体も平気だろうと背中を叩く。
ガタンと襖が勢いよく開けられ、入ってきたのは航平。
「見に行ったら居なかったんで、探したんですよ?何ほっつき歩いてんですか?」
「航平、仮でも今俺はお前の親父だぞ?」
「わ、分かってますけどっ!心配したんですから……」
「俺のことは人前では名前でいいが、それ以外なんて呼ぶんだったかな?」
「だ……」
「だ?」
「ダディ……」
その場にいたみんなが一瞬固まったあと、大笑いしたのは言うまでもないが、顔を赤らめて正座をして下を向いてる薄いブロンドのハーフが言うには結構似合っている。
「航平ちゃん、言いにくかったのわかったよ。僕なんてパパってまだ呼んでないもん。那智さんに言われて言ったことはあるけど……ダディって……あー、お腹痛い」
「だからいいたくなかったのに……辞めましょうよ人前ではっていったじゃないですか」
「ん?ここは親戚の家。お前にとっても親戚の家になり家族と一緒だ。分家ということは忘れちゃダメだが、普段はダディでいいぞ?」
「勘弁してください……」
「で?『だでー』とは何じゃ?」
「叔父上、外国ではそう呼ぶ国があるそうです。航平の母国でも子供はそう呼ぶと聞いたことがあるので、そう呼ばせようとしてるんですが……反抗期……ですかね?」
「違いますっ!ダディなんて小さい子しか言いませんよ……どこで覚えたんですか?」
「テレビ」
「那智さんでいいじゃないですか」
「嫌だ」
「那智よ、航平が困っておるぞ?まぁ、親子になるんならお前達で好きに呼び名は決めればいいが、那智が親とはのう」
「結婚する気は無いんですけど、航平ならって思ったんです。勘みたいなものですが」
「そうか。まぁ、儂等は孫が増えるのは歓迎じゃ。雪翔のいい兄であってほしいと願うだけじゃがな」
「それは勿論です」
航平の言葉に安心したのか、祖父も頷くと航平の食事も用意させて、しっかり食べろと二人に言っている。
早く何があったか聞きたいのに、なかなか話が進まないので、仕方なく冬弥たちがお風呂から戻ってくるまで足を伸ばし、壁にもたれかかる。
0
あなたにおすすめの小説
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
課長と私のほのぼの婚
藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。
舘林陽一35歳。
仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。
ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。
※他サイトにも投稿。
※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちだというのに。
入社して配属一日目。
直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。
中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。
彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。
それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。
「俺が、悪いのか」
人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。
けれど。
「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」
あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちなのに。
星谷桐子
22歳
システム開発会社営業事務
中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手
自分の非はちゃんと認める子
頑張り屋さん
×
京塚大介
32歳
システム開発会社営業事務 主任
ツンツンあたまで目つき悪い
態度もでかくて人に恐怖を与えがち
5歳の娘にデレデレな愛妻家
いまでも亡くなった妻を愛している
私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる